〈ドイツと日本が直面する核兵器への懸念〉注意すべき欧州との3つの共通点と相違点
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33469
『2024年4月11日
ドイツの核問題専門家のウルリッヒ・クーンが、2024年3月15日付のBulletin of the Atomic Scientists誌(Web版)に、ドイツにおいて、米国の核抑止への不安から、これに代わる核抑止の議論が活発化していることについての論説を寄稿している。
(Oleksii Liskonih/Anastasi17/gettyimages)
ドイツで再び核抑止が議論されている。今や、米国の共和党大統領候補となったトランプが、北大西洋条約機構(NATO)同盟国が攻撃を受けても防衛しないといった脅しを気軽に口にする中、ドイツとしては、核兵器を含めて抑止の代替案を考えなければならない状況である。
ロシアの侵略の際、もし米国が欧州を見捨てたらどうするのか。この問いに対して、三つの答えが提起されている。
一番目は仏英の核戦力に基づく欧州版の抑止。
二番目は安全保障面でフランスから強い保証を得る見返りとしてドイツがフランスの核打撃力に対して資金供与を行うこと。
三番目はドイツが核爆弾を保有することである。
現在ドイツで起こっている核についての議論は、過去のものと幾つかの点で異なっている。
第一に、欧州の安全保障環境が、米国から見捨てられ、ロシアに攻められるという状況に近いものとなっているところで起こっていることである。懸念はドイツだけのものではない。
第二に、以前のドイツの核議論は、専門家、ジャーナリスト、主流以外の政治家によるものであったが、今は、キリスト教民主同盟(CDU)、社民党、緑の党、自由民主党といった各党の大物政治家が抑止の代替案の議論に加わっている。
第三に、冷戦後のドイツの外交・安全保障政策の中心軸であった核軍縮は今やあまり議論の対象となっていない。
第四に、ドイツのメディアの議論を支配しているのは、タカ派の言説である。抑制的な対応を唱えると、恐露派の弱腰と見なされてしまう。
こうした新たな状況の背景にあるのは、世論の変化である。22年に行われた世論調査では、数十年で初めてドイツ領内に米国の核兵器が置かれていることを歓迎するという者が過半数を占めた。』
『今のところ、ドイツ政府が抑止の取り決めを目に見える形で変更する状況にはない。重要なことは、ドイツ国民の90%がドイツ自身の核を保有するとの考えを否定していることである。
70年近く、ドイツは安全保障を米国の核抑止の供与に依存してきた。
トランプが欧州から米国の核兵器を引き上げた場合、その伝統から断絶し、核抑止を除いてしまうというのは現実的とは言いがたい。
むしろ、ドイツはフランスと英国が欧州の安全保障に資するように核のコミットメントを増大するように探っていくだろう。
一方、もしも、それが効を奏さない場合、ドイツは自らの安全保障を確保するために難しい選択に直面する。近年のドイツにおける核兵器議論は、ドイツ政治における限界線を動かし、徐々に核に接近してきている。
* * *
東アジアと欧州の対比
この論説の筆者であるクーンは、核軍縮・軍備管理、核の抑制の重要性を論じてきたドイツの専門家である。
米国の核抑止への不安から、これに代わる代替的な核抑止を考えるべきかという問題設定から欧州と東アジアを対比すると、両者には多くの共通点がある。
①大国間競争の時代となって、安全保障環境が悪化し、核兵器が果たす役割が大きくなってきていること、
②戦後の国際秩序を支えてきた米国が国力の衰えや国論の分裂によって、国際的な責任を担っていく意思にも能力にも衰えが見え、拡大抑止のコミットメントに不安が生じていること、
③ロシア、中国、イラン、北朝鮮といった国家が現状変更勢力として互いの連携を強めていること等である。
こうした諸点は、欧州にしても東アジアについても共通して言えることである。
他方、欧州と東アジアでは相違点もある。
最大の相違は、欧州においてはロシア・ウクライナ戦争という第二次世界大戦以来の戦争がすでに勃発していることである。
東アジアは、台湾海峡、朝鮮半島、南シナ海、東シナ海と発火点は多いが、現時点ではまだ戦争の勃発という発火には至っていない。
地理的な条件も異なっている。
欧州はロシアと地続きであり、しかも、平坦な平原で繋がっている。
だからこそ、第二次世界大戦の独ソ戦は空前の戦車戦となった。
ロシアと戦争となれば、地上戦を戦わなければならない。
一方、東アジアは、朝鮮半島は地続きであるが、台湾海峡にしても、南シナ海や東シナ海にしても、さらに日本有事を考えても、いずれも海と空の戦いが主軸となる。』
『相違点の中でも、東アジアの方が事情が複雑な点としては、欧州においては、脅威の源としてロシアだけを考えれば良いが、東アジアはそうではない。
東アジアでは、中国も、北朝鮮も、ロシアも念頭に置く必要がある。
米国の力も限られている
もう一つ別の視角から欧州と東アジアを見ると、米国との関係で両者は競合してしまう場合があるということだ。
世界中で紛争や懸案は増大している一方、米国が動員できる安全保障上の資源には限界がある。
こうした状況で、米国には異なった立場が存在する。
国際的なコミットメントから手を引き国内回帰を進めるべきとの孤立主義の立場もあれば、主敵を中国と定めて東アジアに資源を集中させるべきとの論者もいる。
今後、米国の対外政策がどのような政治指導者により展開されることになるか、それをどのようなスタッフがサポートするのかは分からないが、資源の制約の中、欧州、東アジア、中東など複数の地域にどのように資源を分配するのが良いのかの競合関係は、どのような政権であっても、直面することとなる問題である。
欧州における代替的な核抑止の議論は、簡単には決着せず、長く続く議論になると思われる。
クーンの論説が指摘する通り、代替策を考えるとしても、当面、検討の俎上に上がるのは、仏英の核戦力に基づく欧州版の抑止の活用であろう。
NATOの核共有の仕組みで米国の核が配置されていることについてのドイツ国民の見方は肯定的なものに変化しているものの、ドイツ国民の90%がドイツ自身の核を保有するとの考えを否定している状況とのことである。
一方、仏英の核戦力に基づく欧州版の抑止がうまく構築されない時のことは見通せない。
日本としては、上記のさまざまな観点を踏まえて、欧州の議論の展開を注視するとともに、日本としての最善の方策を考えていくことが必要である。』








