韓国・尹錫悦政権3年目「政治をする大統領になる」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM256G40V20C24A4000000/
『2024年5月13日 2:00
「ここまでわずか20分ほどで着くのに、実際には700日かかった」。満面の笑みで執務室に迎え入れた大統領の尹錫悦(ユン・ソンニョル、63)に、野党「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン、59)がかけた言葉にはとげがあった。
与党が大敗した韓国総選挙から20日目の4月29日、尹と李はソウル中心部にある大統領府で円卓を囲んだ。尹が0.73ポイントの僅差で制した2年前の大統領選以来、初めてのことだっ…
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『与党が大敗した韓国総選挙から20日目の4月29日、尹と李はソウル中心部にある大統領府で円卓を囲んだ。尹が0.73ポイントの僅差で制した2年前の大統領選以来、初めてのことだった。
医療・年金改革、物価高対策――。2時間超の会談で歩み寄りはなかったが「また会おう」と確認して別れた。大統領府は笑顔で握手をする2人の写真を公開した。
2022年5月に始まった尹の5年の任期の間、行政府と立法府の「ねじれ」は続く。尹は多数勢力を率いる李をもはや無視できない。
敗戦の教訓
総選挙の後に「これからは政治をする大統領になる」と語った尹。側近の一人はその真意を「検事的な手法ではなく、政治家になるという意思だ」と解説する。
尹は就任当初から国会で過半数の議席を握る野党と対峙した。少数の側にありながら相手と融和をはかろうとはしなかった。
政権の意をくむ検察は首長時代の背任容疑などで李を捜査し、国会に逮捕同意案を出して野党の分断をもくろんだ。
国民は中間審判の総選挙で、そのような政治にノーを突きつけた。
「韓国のめざましい発展は皆様の汗と努力のおかげ。労働者の皆さん、頑張ってください」。敗戦の教訓だろうか。尹がメーデーの1日に発した言葉は、野党を支える労働組合への融和的なシグナルと受け止められた。
労組は取り締まりの対象だった。捜査機関は北朝鮮のスパイ疑惑で事務所を捜索し、幹部らを起訴した。1年前のメーデーの談話は「労使法治主義を確立し、既得権の雇用世襲を確実に根絶する」と敵意にあふれていた。
「聞く力」の重要さにも気づいたようだ。尹は大統領府の人事を自ら発表し、久しぶりに記者との質疑にも応じた。
人心一新の象徴として与党の重鎮で野党にパイプを持つ鄭鎮碩(チョン・ジンソク、63)を大統領秘書室長に起用した。韓日議員連盟の会長も務めた人物だ。
鄭には与野党の勢力差がいっそう広がった国会を円滑に切り盛りする技量が求められる。
急速に進む少子高齢化で社会保障制度の改革は待ったなしだ。法改正を伴う内政の課題は、野党の言い分を聞かずして進めることができない。
改善に向かう日韓関係は安泰とは言い切れない。日本との関係で何かが起きれば野党はすぐさま「親日政権」のレッテルを貼りにかかる。
足元では日本の総務省がLINEヤフーに韓国ネット大手ネイバーとの資本関係を見直すよう迫る。野党は「日本は韓国を敵性国家とみなすのか」といった主張で尹政権を突き上げる。
距離を置く腹心
身内も政権のアキレス腱(けん)だ。野党は夫人の金建希(キム・ゴンヒ、51)が高級ブランドバッグを知人から受けとった問題などの疑惑を執拗に迫る。
夫人をかばってきた尹に与党内からは「夫人を表舞台に出さないでほしい」との声すら漏れる。
公邸に移る前、料理の得意な尹は朝食と昼食をほぼ毎日準備していた。朝の出勤時に「あとで温めて食べてね」と夫人に声をかけていた尹の姿に、側近は夫人への深い愛情を感じ取った。
信頼する腹心は距離を置く。尹は総選挙で与党トップの非常対策委員長に検察の後輩、韓東勲(ハン・ドンフン、51)を充てた。選挙後に昼食に誘ったところ、韓は体調不良を理由に断ったという。
尹の執務室の机の上には「The buck stops here!(責任は私が取る)」と書かれた木製のプレートがある。米国のトルーマン元大統領が好んだ言葉で、米大統領バイデンが贈ったものだ。
「妥協の政治」にカジを切る尹と、政権奪還のためなら手段を選ばず足を引っ張ろうとする野党。プレートの裏側に苦境を乗り越える新たな言葉を見いだそうとする尹の道のりは険しい。
◇
尹錫悦の政権運営は3年目に入った。韓国政治の今を探る。(敬称略)
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