「無人航空機」 その目は何を…

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201031/k10012687131000.html

『いま、日本周辺をパイロットが乗っていない航空機が飛んでいるのをご存じでしょうか。長い航行時間に、機体にはカメラにレーダー、電波探知機…。いったい誰が、何のために?その目は何を捉えているのか?取材しました。
(社会部 記者 須田唯嗣)

機体はアメリカ製「シーガーディアン」
日本周辺を飛んでいる機体。それは、アメリカの防衛企業「ジェネラル・アトミクス社」が開発した「シーガーディアン」です。

一切窓がない頭部。その下には高画質のカメラ。胴体には膨らんだレーダーと、24メートルに及ぶ細長い翼。全長は12メートルで、大型バスほどの大きさです。
この機体がことし10月15日から、
▽東北の三陸沖の太平洋、
▽小笠原諸島の周辺、
▽外国漁船による違法操業が相次いでいる「大和堆」を含む西日本から北日本にかけての日本海側の沖合、
▽新潟県の佐渡市の沿岸、
▽石川県の能登半島沿岸を飛行しています。

この『無人航空機』。飛ばしているのは、海の警察、海上保安庁です。業務に活用できるか、およそ1か月間、実証実験を行っているのです。

海上自衛隊 八戸航空基地
実証実験の拠点となっているのは、自衛隊の八戸航空基地。

陸上を極力飛ばないように、海に近く、民間の航空機との接近リスクが少ない場所を探していた海上保安庁に、海上自衛隊が協力しました。
開始から2週間。海上保安庁は実証実験の状況を説明する報道公開を実施しました。

案内のとおりに八戸航空基地を訪れると、真っ白で新しい「シーガーディアン」がありました。

早速離陸をするというので、その様子を間近で見てみることに。

白い機体は、後方のプロペラ1つが動力です。

これだけで本当に飛ぶのかという記者の疑問をよそに、1キロほど滑走するとふわりと浮かび上がり、海上に向かっていきました。

海上保安庁は騒音について、120メートルの高さでも、75デシベル=街路脇の住宅街で聞こえる騒音程度だと説明していて、確かに、航空基地に所属するP3C哨戒機の離着陸と比べると静かな印象でした。

無人航空機は何ができる?

報道公開では、海上保安庁の担当者が操縦の仕組みや、実証実験の中身について説明しました。

無人航空機は、自動のプログラミングに沿って飛行するほか、地上にあるコントロール施設から衛星を介して操縦します。

そして、撮影された映像などの情報も、衛星で日本周辺海域のどんな場所であっても、情報処理センターに送られてきます。
上の写真がコントロール施設と情報処理センターです。

中はどんな様子なのか…。この目で確かめようとしましたが、何度依頼しても海上保安庁の答えはNG。機密上の問題があるというのです。

その代わりに、情報処理センター内部の映像が示されました。
外国人男性の脇にモニターが3つ。最も大きいモニターには、三陸沖が映し出されて、何やら紫色の線が航空基地から引かれています。この線が、プログラミングされた飛行経路です。

情報処理センターは、情報を受けるところであると同時に、機体のコントロールの指示を出す「指揮所」でもあるといいます。
この6つ並んだモニターが、受けた情報を映し出すものです。

公開された映像では、モニターのほとんどが切られていますが、実際は無人航空機から撮影された映像、船舶の存在を示すレーダー画面、高度や位置情報、速度などが示されます。

こうした情報をもとに、例えば不審な船が見つかった場合は、指揮所からコントロール施設に経路変更の指示を出すのです。

海上保安庁では実証実験で、▽海難救助、▽災害対応、▽犯罪取り締まり、▽海洋調査などに使えるかを確かめています。

このうち取り締まりなどに必要な、船を上空から確認する能力を検証する実験内容について、実際に撮影された映像を使って説明がありました。
撮影されたのは、長さ95メートルの巡視船「ひだ」。

無人航空機は、雲の上、上空3000メートル以上を飛んでいます。巡視船の位置をレーダーで捉え、カメラを向ける流れで撮影されました。

映像では、画面左から右に向かって船が航行していて、形が分かります。

そして、倍率を上げると、おおまかな船の構造も見てとることができます。

大きさは画面上分かりませんが、パイロットなどの経験則で補うということで、担当者は「具体的な視認精度は言えないが、富士山の頂上から車を識別できる程度の能力はあった」と評価していました。
さらにこのカメラは、赤外線を使った撮影に切り替えることもできます。

同じ巡視船を、夜間に撮影した映像です。
温度が高いところが白く映るため、船のエンジン室の場所や、人の数がはっきり分かります。映像では甲板にいる11人の船員があちこちに動き回るのを詳細に捉えていました。

こうした映像は、ほぼリアルタイムに届くといいます。

例えば船が転覆する海難事故があった場合でも、投げ出された人が救命胴衣で漂流していたとすれば、体温に反応して位置を把握できます。位置情報を救助艇に連絡する役割なども想定されます。

また、取り締まりに必要な、相手に存在を認識させない「隠密性」も検証し、音が小さいため、有人ジェット機よりも気づかれにくいことも分かったということです。

一方、視野は画面上に限られるため、複数人で周辺を見渡せる有人機と比べれば劣ります。しかし、海上保安庁の担当者は「具体的には言えないが、有人機以上の能力がある部分もある。『無人』であっても、業務に活用できる手応えを感じている」と話していました。

なぜいま、実証実験を? 1. 日本周辺海域の緊迫化

では、なぜそもそもいま、海上保安庁は無人航空機の導入を検討しているんでしょうか。

背景にあるのは、日本の周辺海域の「情勢の緊迫化」です。
政府は、沖縄県の尖閣諸島周辺で中国公船による領海侵入が繰り返されていることなどを踏まえて、平成28年に「海上保安体制強化に関する方針」を定めました。方針に基づいて、大型巡視船や航空機の増強や人員確保などを進め、今回の実証実験もその一環ですが、中国側も活動を活発化させています。

ことしもこの原稿を書いている10月30日までに領海侵入は19件。領海のすぐ外側にある「接続水域」を航行した日数で見ると280日で、年間の過去最多の282日にすでに迫っています。

尖閣諸島だけではありません。能登半島沖の大和堆周辺では、近年、北朝鮮や中国の漁船が違法操業を繰り返しています。

  1. 航空部門の負担軽減

救助訓練をする海上保安庁のヘリコプター(2017年)
さらに相次ぐ大規模な災害でも、海上保安庁は頻繁に出動しています。白と青のヘリコプターに孤立した住民がつり上げられて救助される映像を見た人もいるのではないでしょうか。

しかし、「空」を担う航空業務に携わる職員は、実は海上保安庁全体の1割にも満たないおよそ1000人。特にパイロットは常に緊張感がある中での操縦を担い、負担が大きいといいます。

そこで、検討のもう1つの背景となるのが「負担の軽減」です。

遠方海域の監視を行うジェット機では最低でも5人が同乗して警戒にあたる必要がありますが、無人航空機はコントロール施設などで操作にあたる2人の要員で足ります。

さらに、この機体、連続航行時間は35時間。有人機の場合はパイロットの負担から、1度の飛行は8時間までと制限があるので、4倍以上です。

有人機は活動の海域が遠方だと十分な活動時間が確保できない場合もありますが、無人航空機は要員の交代に合わせた離着陸を必要としないため、業務の効率性も高まるとされています。
メリットばかりのようだけど
無人航空機は、海外ではすでに導入が進み、アメリカでは国境の警備などに活用されています。

気になるのは安全性ですが、メーカーは、対策として民間機との衝突回避装置があるとしていて、実証実験でも今後、無人航空機の近くをプロペラ機に飛行させ、実際に回避ができるのか試すことにしています。

また、無線通信が途絶えると、自動で離陸地点近くに戻り、衛星を介さない通信ができるようになる機能もあるうえ、万が一通信ができない場合は、周辺の船を待避させたうえで海に着水させる仕組みになっています。

しかし、実際に実証実験の離着陸が行われている八戸市で住民に聞くと、期待の一方で「パイロットがいないのは不安」という声も聞かれました。

無線通信がほかの帯域に影響を与えたり、通信が妨害を受けたりするリスクもないとは言えません。

航空工学が専門で、東京大学未来ビジョン研究センターの鈴木真二特任教授は、徹底した安全の確認のほかに、ルール作りも同時に行っていく必要があると指摘します。

東京大学未来ビジョン研究センター 鈴木真二特任教授
鈴木特任教授
「実際の運航の中で衝突防止装置がどのように機能するのか、どのような安全上の注意が必要か、きちんと確認する必要がある」
「大型の無人機に関しては制度上の整備が進んでいない。電波に関しても新しいルールを作っていく必要がある。環境の整備というのを並行してやっていかないといけない」

関心が高い、だからこそ

最新の技術が詰まった無人航空機。
その目は上空から海上の船や甲板にいる船員の姿まで鮮明に捉えていました。

その驚くべき能力を試す実験は、国内ではどの機関も導入していないだけに、多くの関係者の関心を集めています。

ただ、新たな技術の導入にあたっては、安全性、有効性、目的、コスト、安全保障上の問題…さまざまな観点での議論が不可欠です。

無人航空機は軍事目的で作られた機体も多く、その点でも丁寧な説明が求められます。

今回の実証実験に、海上保安庁は9億円余りをかけています。実証実験で得た情報はできるかぎり公開し、オープンな議論を導いてほしいと思います。』

新型コロナIT対応でトラブル多発、菅首相の行政DXに立ちはだかる5つの課題

新型コロナIT対応でトラブル多発、菅首相の行政DXに立ちはだかる5つの課題
玄 忠雄 日経クロステック/日経コンピュータ
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01452/102300002/

 ※『日本政府は2000年から足かけ20年、行政の制度や手続きのデジタル化に取り組んだが、成果は芳しくない。』

 ※ 何故なんだ…、どこに問題があるんだ…。

 ※ 挙げられている「原因」分析としては、

 1、平時からの「デジタル化を怠る」
 2、「同じようなシステムを緊急でつくり、同じように失敗してきた」
 3、「IT人材が不足」している課題
 4、「システムが利用現場のニーズに合わない」課題
 5、「ベンダー丸投げが常態化」した課題
 6、「(省庁間の)縦割り・(国と自治体の)横割りがデジタルの効果を弱める」という課題
 …、と言ったものだ…。

 ※ どれも、「長年の課題」「長年の懸案事項」という感じで、一朝一夕で問題解決できるものでは無さそうだ…。

 ※ その問題解決の渦中に、身を置いているわけでは無いんで、本当のところは、よく分からない…。

 ※ ごくごく一般論を言えば、「デジタル化するメリット」よりも、「デジタル化しないメリット」の方が、大きいということか…。

 ※ おそらく、日常の業務が「クソ忙しい」んだろう…。日常の業務を回すことで手一杯で、「この上「デジタル化」とか、一体上は何を考えているんだ!テメーで、やれるもんならやってみろ、ってんだ!(怒)大体、未だにハンコと紙問題が、解決されていないだろ!(怒)」…、という感じなのか…。

 ※ あと考えられることは、「プライオリティ」が、上手くつけられないことか…。
 
 ※ 一口に「個人情報」の保護と言うが、その保護すべき「個人情報」も、基本的なところでは、「氏名、住所」が挙げられる…。これくらいなら、「流出」しても問題はない…、と思う人が殆んどだと思うだろうが、そうでも無い…。B差別の問題が、絡むからだ…。地域によっては、「住所」情報が、重大問題となる可能性がある…。

 ※ これに、「電話番号」、「本籍」なんかが付加されてくる…。さらに、昨今では「マイナンバー」も付加された…。将来的には、「健康保険」の使用・支払情報、「保険料の納付」「納税」情報、「銀行口座」情報なんかも付加されることになるかもしれない…。

 ※ そういう「個人情報」の保護を、どの行政手続において、どこまでの「保護」を図るのか、「流出対策」は、どこまでやるべきなのか…。そこら辺の、「プライオリティ」のつけ方を、一元的にコントロールする「司令塔」が、未だに決められないんだろう…。

 ※ たぶん、そういう問題もあるんだと思う…。

『首相肝煎りの行政DX
 日経コンピュータは新型コロナで露見したデジタル施策の失敗を取材した。そこから見えたのは5つの課題だ。

特別定額給付金のオンライン申請の事務処理に追われる東京都品川区の職員
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図 新型コロナウイルス対策のデジタル活用で生じたトラブルや課題

浮かび上がる5つの課題
 HER-SYSの失敗はそもそも平時からの「デジタル化を怠る」、これまでの政府の稚拙なIT活用の代償とも言える。実は同じようなシステムを緊急でつくり、同じように失敗してきた過去があった。加えて、「IT人材が不足」している課題や「システムが利用現場のニーズに合わない」課題も失敗との関係が深い。

 不具合で2カ月近く稼働が止まった雇用調整助成金のオンライン申請システムを巡っては「ベンダー丸投げが常態化」した課題が原因の1つになった。10万円給付のオンライン申請システムの混乱は「(省庁間の)縦割り・(国と自治体の)横割りがデジタルの効果を弱める」という課題に帰結する。

 政府デジタル活用は課題山積――。それを肌身で感じた菅氏は2020年9月の首相就任直後、真っ先に取り組む政策にデジタル庁創設などを中核とする行政のデジタル改革(DX)を据えた。

図 菅政権がデジタル庁設置で掲げる改革テーマと焦点

行政改革・規制改革と一体の「デジタル改革」
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 具体的なテーマには「行政手続きのデジタル化の加速」や「国と地方を通じたシステムの標準化・共有化」など4項目を掲げた。平井卓也デジタル改革相は「政府から国民に下ろす構造を、国民起点からに改める」と決意を語る。

 日本政府は2000年から足かけ20年、行政の制度や手続きのデジタル化に取り組んだが、成果は芳しくない。新型コロナという世界的な危機に直面し、首相自らが最優先事項として挑む行政DX。「敗戦」から復興するには足元のほころびを直視する必要がある。

出典:日経コンピュータ、2020年10月29日号 pp.34-35 「コロナであらわ 課題山積の行政IT」を改題

記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。』

「厚労省のIT人材は片手ほどだった」、橋本前厚労副大臣がデジタル敗戦に反省の弁

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01451/102800004/?P=2

 ※ ヤレヤレな話しが、語られている…。

 ※ しかし、そういうところに、問題の本質があるんじゃ無い…、と思うぞ…。

 ※ 多くの人が、デジタルとか、ITとか、よく口にする…。

 ※ 結局は、「電子計算機」で処理しようとすれば、そういう「機械(電子仕掛けの機械)」が処理できる形にしてやる他は無い…。

 ※「電子計算機」ってのは、たかだか「四則演算(加算、減算、乗算、除算)」と、「論理演算」(「AND演算」,「OR演算」,「XOR演算」,「NOT演算」)のたった8つの「計算(演算)」しかできないシロモノなんだぞ…。

 ※ そりゃそうだ…。「回路」の「原理」からして、そうなっているからな…。それが、ある意味「電子計算機」の「実存」だ…。

 ※ 実存主義じゃ無いが、「本質」は、「実存」を超えられないんだよ…。そういう「実存」を超えた「仕事」をさせようとしたところで、ダメの皮に決まっている…。

 ※ かつて、オレが、やっとこNECのPC-98なんかで、DOSからPCを使い始めた頃の話しだ…。

 ※ 当時のそっち方面の師匠だと思っていた人から、「コンピューターってのは、たかだか「計算機」ですから…。」という発言を聞いて、衝撃を受けたことがあった(今※先生、あんたのことだよ。あんた自身は、もう忘れてしまったかも知れんがな…。時々、このブログも見てくれているようだな…。オレは、あの時の衝撃と、あんたの言葉を、ずっと覚えているよ…。今でも、「至言」だったと思っている…。事の本質を、「抉った(えぐった)」言葉だったと思っている…。)

 ※ だから、「電子計算機」に喰わせるためには、そいつが「喰える(処理できる)」形にしてやる必要がある…。

 ※ プログラムとか、ノーコードとか、シェルとか、どういう風に「皮をかぶせて」、見かけを取り繕ったところで、事の「本質」は、変わることはない…。

CPUを作ろう ~計算機教材とマイコンと電子工作~ – 楽天ブログ
https://plaza.rakuten.co.jp/cpu4edu/

『新型コロナウイルス対策の司令塔の1つである厚生労働大臣室はコロナ感染者の正確なデータをリアルタイムで把握できておらず、厚労省職員は医療機関や保健所に片っ端から電話をかけていた――。橋本岳前厚労副大臣は2020年3月の厚労省内部をこう振り返る。「IT人材は片手で数えられるほどしかいなかった」。厚労省の対策推進本部CIO(最高情報責任者)を務めた橋本氏が「デジタル敗戦」の軌跡を語る(2020年10月5日にインタビューを実施)。

(聞き手は外薗祐理子=日経クロステック/日経コンピュータ)

厚労省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部でCIOを務めました。

 はい、そのポストを自分でつくったんです。そういう役割を果たす人がいなかったので。

 感染者情報を集約する「HER-SYS」や医療機関と情報共有する「G-MIS」といった新システムは、当時厚労政務官だった自見英子参院議員と私との発案です。

新型コロナ対策にIT活用が重要だと思ったのはなぜですか。

 2020年1月下旬から日本でも新型コロナ感染者が報告され始め、大臣室で対策会議を毎日開いていました。そこでは加藤勝信厚労相(現官房長官)が「濃厚接触者は何人か」などと聞くと、事務方の偉い人が後ろに座る若い官僚に尋ね、その官僚が調査のために走って出て行く風景が繰り返されていました。大臣が意思決定するのにどんな情報が必要なのかを事務方がまだよく分かっていなかったので、この時期にそうだったのは仕方なかったと思うんです。

 私は2020年2月11日から新型コロナの集団感染が発生した大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に常駐し、3月半ばに厚労省に復帰しました。欧米では感染爆発が起こっていた時期と重なりますが、大臣室での会議は1月下旬と全く同じでした。

 ここに至っても、新型コロナ対策の司令塔の1つである厚労大臣室が正確なデータをリアルタイムで把握できておらず、非常にまずいと思いました。都道府県の報告と保健所の報告とで数字が頻繁に食い違ってもいました。

新型コロナ対策推進本部の中にも「縦割り」
 厚労省の新型コロナ対策推進本部では、職員が必要な情報を得るために全国の医療機関や保健所に片っ端から電話をかけていました。対策推進本部の中も、サーベイランス班や医療体制班、検査班などの「縦割り」が生じていたのです。しかし電話を受けるほうからすれば「厚労省として聞きたいことをまとめてから電話してほしい」と思うでしょう。

 厚労省の情報ツールは電話とファクスとせいぜい電子メールでした。様々なシステムの必要性を感じました。そこで、新型コロナ対策推進本部のCIOとして、HER-SYSやG-MISなどの開発について進捗を管理し、部署間やシステム間で連携できるようにする体制を設けました。

HER-SYSを新たにつくろうと考えたのはなぜですか。感染者情報を集計するシステムにはもともと「感染症サーベイランスシステム(NESID)」があります。

 NESIDには2つの課題がありました。1つは集計や報告のミスが生じがちだったことです。医療機関は感染症法に基づく発生届を手書きとファクスで保健所に送り、保健所や自治体がそれをNESIDに入力していましたが、医療機関にも保健所にも入力の負担が重く、ミスにつながりがちでした。

 もう1つは感染者や濃厚接触者が自らスマホアプリやWebサイトで入力するようにしたかったのですが、その機能がNESIDにはなかった。保健所は自宅療養をしている感染者や濃厚接触者を健康観察しています。そのために保健所職員が電話をかけていたので、これもかなりの負担でした。

そのため、発生届の入力から健康観察のフォローアップまでをクラウドベースで一貫して管理できるシステムをつくりたかったのです。じゃあ今、これらをHER-SYSでうまくできるようになったかと言われると、全部はできるようになっていないのですが。

ITベンダーとの付き合いが少なく、IT人材にも乏しい
原課ではなくて、橋本さんたちが積極的に提案して動いた案件だったということですか。

 新型コロナ対策推進本部にいる厚労省職員は目の前の仕事をやるので一生懸命でした。私や自見議員の役割は全体を見渡すことです。

 例えばHER-SYSは健康局結核感染症課、G-MISは医政局の所管になります。しかし、各原課は忙しいうえに、普段からITベンダーとの付き合いは少なく、IT人材にも乏しい。厚労省は今後この点を改善すべきだと思います。

 システムの提案を広く募集して、それを評価し、構築していく能力は原課にはありませんでした。そこでG-MISは内閣官房IT総合戦略室に、HER-SYSは厚労省情報化担当参事官室にそれぞれ私から頼んで手伝ってもらったのです。

政府内の他の部局と連携しながら、システム開発がどのくらい進捗しているかをチェックする。それが厚労省の新型コロナ対策推進本部CIOとしての橋本さんの役割だったわけですね。

 そうです。(例外的に)原課任せにしたのが雇用調整助成金(雇調金)のオンライン申請システムでした。

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 原課から「付き合いのあるベンダーと相談してやります」という報告はありました。私は他の仕事で忙しかったものだから「じゃあそうしたらいい」と、それ以上何もコミットせずに放っておいた。結果的に(2020年5月20日に稼働を開始したが、2度不具合が発生し、2020年8月25日に稼働を再開した)トラブルにつながったので個人的にはそれが敗因だったと思っています。

 何でも私に相談しないと組織が動かないのはよくないけれど、たまたまそういう扱いをしたものが、ああいう結果になってしまったことを遺憾に思っています。これまでの政府システムと同じ発注方法を取ってしまったという反省事例です。

職員全員にプログラミング研修を
新型コロナで得た教訓を教えてください。

 一言で言うのは難しいですね。原課が普段から仕事をシステム的にやろうという発想を持って、自分たちでシステムの発案や企画ができると、今回のような不測の事態にも対応しやすかったのではないでしょうか。片っ端から電話するのではなく、クラウド上に調査システムをつくったほうがいいと誰も考えず、新型コロナとの戦いに臨んでいました。

 厚労省の職員は全員簡単なプログラムを書けるように研修すべきです。新しい制度や行政サービスにどうITを絡ませるかという発想には、ITの原理を知っていることが欠かせません。厚労省でそうした発想をできるIT人材は当時、片手で数えられるほどしかいませんでした。

平井卓也デジタル改革相は、ITを使った新型コロナ対策がもたらした混乱を「デジタル敗戦」と呼んでいます。

 2000年のIT基本法制定から20年。これではデジタル敗戦と言われても仕方ないですよね。とはいえ敗戦と気付いたのは大きいです。次はどうすれば「勝てる」のかを考えるフェーズだと思います。』

欧州コロナ再拡大、バカンス一因か 夏以降変異型広がる

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65644650Q0A031C2EAF000/

※ これじゃあな…。「三密」どころの、話しじゃ無いようだ…。「ソーシャル・ディスタンス」は、どこ行った…。いくら「屋外」とは言え、たまったもんじゃないだろう…。

※ ちなみに、今見たら、画像は「削除」されていた…。しかし、ネットには「魚拓」というものがある…。

※ まあ、欧州の「観光産業」の関係者にとっては、拡散されたくは無い画像だろうよ…。

フランス、全土で1カ月外出制限 コロナ拡大で2度目
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65589500Z21C20A0MM0000/

ドイツ、飲食店・娯楽施設を閉鎖 コロナ対策で企業に補償も
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65589380Z21C20A0MM0000/

イタリア、屋外でマスク着用義務化 非常事態宣言も延長
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64754870Y0A001C2000000/

ロシア、追加コロナ対策 混雑する場所でのマスク義務に
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65589350Z21C20A0000000/

朴槿恵被告、リッチな獄中生活と他の受刑者との待遇差

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180417/soc1804170011-n1.html

 ※ どうも、日本の事情とは、大分違っているようだ…。

 ※ 興味深いんで、紹介しておく…。

『“青瓦台のプリンセス”を待つのは、約18億円の罰金と24年におよぶ獄中生活だ。在韓ジャーナリストの藤原修平氏が、その一端を明かす。

 「現在、朴氏が暮らしているのは、四畳半に満たないソウル拘置所の独房です。中には便器と洗面台、小さな座卓、据え付けテレビと荷物棚だけ。布団はなく、折り畳み式のマットレスと毛布が支給されます。拘置所での最初の食事は、食パンとチーズだったそうです」

 一審判決を受けた朴槿恵の次の移送先として有力視されるのが、清州女子矯導所だ。地下1階、地上4階建ての韓国唯一の女性専用刑務所である。

 「清州の独房を覗いたことがありますが、狭くて暗く、話し相手がいないとキツそうでした」

 かつて、麻薬密輸の罪で同刑務所に約2年間服役し、その経験を『韓国女子刑務所ギャル日記』(辰巳出版)という本にまとめた仲河亜輝さんはそう振り返る。彼女は外国人8~9人用の雑居房に収監されていた。

「床暖房があるので、冬は大丈夫なんですけど、夏は冷房がないから辛い。それなのに、お風呂は夏でも週に2回だけ。看守の目を盗んで、洗面台からバケツに水を汲んで、部屋のトイレでこっそり水浴びしたり、濡らしたタオルで身体を拭いたりしていました」

 清州女子矯導所では、多くの囚人が刑務作業に従事する。

 「刑務所内にはいくつかの工場があって、私は縫製係でした。毎日、朝の8時から夕方5時まで、週5日間働いて、月給(作業報奨金)が1万円ぐらいにしかなりません」

 これまで“セレブ生活”を謳歌してきた朴槿恵が、こんな獄中生活に身をやつすことになるのか……。』
『ところがそんな心配は、朴槿恵には当てはまらないらしい。今までの話は庶民の場合で、実は韓国では、塀の中でも“沙汰はカネ次第”という。

 一般に刑務所では、受刑者の資産を「領置金」という形で施設が預かる。日本では「嗜好品は購入不可」など厳しい制限が課されるが、韓国では1日の使用金額に上限があるだけで、菓子や化粧品も購入できる。刑務作業も義務ではない。「領置金」に余裕があれば、コーヒー片手に本や雑誌を読みふけりながら過ごすこともできるのである。

費用は自己負担だが、パーマは3か月に1回、染髪は2か月に1回、刑務所を訪問する美容師にやってもらえるという。

 朴政権で文化体育観光部長官を務め、後に職権濫用で逮捕された趙允旋は、刑務所内で毎日、領置金の上限額(1日約4000円)を使い切り、拘置所での1か月で、約11万円も散財したという。朴槿恵にとって11万円など、小遣いの足しにもならない額だろうが、日本では考えられない“リッチな獄中生活”を送ることができる。

 加えて、朴槿恵にはこんな特別待遇も約束されている。

 「韓国では、これまでも全斗煥や盧泰愚といった大統領経験者が収監される際、あからさまな特別扱いがなされてきました。たとえば、広い雑居房を改造して独房にしたり、房に応接室や接見室をつけたり。一般の囚人は“煎餅布団”で寝ているのに、彼らには特別なベッドが支給されていました。

 朴氏が清州に移送されたら特別な独房が新しく設置され、優雅に暮らせるような環境が整えられるという話も出ています。朴氏はさっそく腰の状態が良くないと主張して、“特別ベッド”を要求するとみられています」(韓国紙記者)

 ※週刊ポスト2018年4月27日号』

韓国、繰り返される「政治報復」 李元大統領に懲役
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65611400Z21C20A0FF2000/

 ※ この、「高位公職者犯罪捜査処」(高官不正捜査庁)というものにも、注目しておいた方がいい…。

 ※「この新たな捜査機関が近く発足すれば、現行検察の権限は大幅に縮小され、大統領経験者への捜査は新組織の仕事になる。ただ、政治的中立な捜査の実現は難しいとの見方は強い。

トップは国会の推薦委員会を通じて大統領が指名する仕組みで、弁護士や判事出身者も捜査を担う。トップを選ぶ方法を巡って与野党が足元で攻防を繰り広げているが、時の政権や与党の意向に左右される組織なら、捜査も保革対決の影響と無縁ではいられなくなる。」…、というようなものだ…。

 ※ 実は、「検察」という国家権力は、なかなかに位置づけが難しい…。

 ※ 教科書的には、立法・行政・司法の三権が国家権力で、互いに「牽制・抑制」し合って、国家の権力を減殺し、もって、国民の「人権」を最大限確保する…、という制度趣旨になっているわけだ…。

 ※ しかし、刑事司法の一翼を担う「検察」は、「行政権」に属することになっている…。「検察官」のトップは、「検事総長」だ…。しかし、「法務大臣」の下に置かれ、時には法務大臣の「指揮権発動」もあり得る…、という制度構成にしてある…。

 ※ それは、「検察権力の暴走」を危惧するからだ…。人を、逮捕・拘留・取り調べ・起訴する…、という「剥き出しの権力」を振るう「検察権力」に関しては、それが「暴走する危険性」が常に存在する…。そして、一旦それが「暴走」した場合に発生する「害悪」は、甚大なものがある…。

 ※ そういう場合には、「国民主権」を背景にした、「法務大臣」がその暴走にストップをかける…。

 ※ また、大所高所からの「高度の政治的な判断」が、必要な場合もあるだろう…。外国の要人に対し、重大な犯罪を犯したとする…。その場合、「通常時」「平時」ならば、「法に従って、処理する」ことが、「法の支配」「正義」であろう…。 しかし、どうだ?そうすることが、その外国との「戦争」を引き起こす危険性が極めて高いような場合は? 通常通りの「法に従った処理」が、「最善策」とは、必ずしも言えんだろ…。

 ※ そういう事態の可能性も勘案して、「法務大臣による指揮権発動」が可能な制度設計に、しているわけだよ…。

 ※ そういう風に、「権力」とか、「権力の分配」とか、「国家機構の制度設計」とかは、「両立し難い価値の対立」「各権力間の極度の緊張状態」「各権力間の危うい均衡」の上に、成り立っているものなんだ…。

 ※ 上記の「高位公職者犯罪捜査処」なるものは、
 ・トップは国会の推薦委員会を通じて大統領が指名する仕組み→現職大統領に対する捜査に、怯む(ひるむ)危険性は無いのか
 ・弁護士や判事出身者も捜査を担う→そういう「非専門職」が担当することで、肝心かなめの「権力の追及・訴追」の機能性が、損なわれる危険性は無いのか

 そして、何よりも、そういう「屋上屋を重ねる」制度設計に、「根本的な欠陥」は無いのか…、なんてことが問題になるだろう…。

『【ソウル=恩地洋介】韓国大法院(最高裁)は29日、巨額収賄罪に問われた李明博(イ・ミョンバク)元大統領に懲役17年の実刑判決を下した。韓国で実刑となった4人目の大統領経験者だ。大統領への権限集中と、時の政権に寄り添い強力な捜査権を行使する韓国検察の存在が「政治報復」の連鎖を生んでいる。

韓国の李明博元大統領は近く収監される=AP
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李元大統領は近く収監される。李氏は判決後に「法治が崩れた。国の未来が心配だ」とのコメントを公表した。公職選挙法違反の罪で2年の実刑判決を受けた朴槿恵(パク・クネ)前大統領とともに、直近2人の保守系元大統領が収監される異例の事態だ。

判決は李元大統領がサムスン電子から賄賂を受け取った見返りに、有罪判決を受けた同社の李健熙(イ・ゴンヒ)会長に特赦を与えたと認定した。李氏が実質的に保有する自動車部品メーカーの訴訟費用を、サムスンに肩代わりさせたことが89億ウォン(約8億円)の収賄だったと判断した。

大統領の犯罪が繰り返される背景には、国軍の統帥権や行政府の人事権を含む強大な権力の集中があると指摘される。保守と革新が激しく対立する政治風土のもと、政権交代後には前政権への厳しい追及の手が伸びる。

犯罪捜査権を独占する検察は、政権と足並みをそろえる傾向がある。李政権下では、前代の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が不正資金疑惑の捜査を受けて自殺した。盧氏を師と仰ぐ文在寅(ムン・ジェイン)大統領が政権基盤を固めつつあった2018年3月に、李氏は検察に逮捕された。

文大統領は重要政策の一つに検察改革を掲げる。2019年には側近の曺国(チョ・グク)氏を法相に据え、検察権力にメスを入れようとした。攻防の末、曺氏はスキャンダルで起訴されたが、検察に代わって上級公務員を捜査する「高位公職者犯罪捜査処」(高官不正捜査庁)を新設する法案が成立した。

この新たな捜査機関が近く発足すれば、現行検察の権限は大幅に縮小され、大統領経験者への捜査は新組織の仕事になる。ただ、政治的中立な捜査の実現は難しいとの見方は強い。

トップは国会の推薦委員会を通じて大統領が指名する仕組みで、弁護士や判事出身者も捜査を担う。トップを選ぶ方法を巡って与野党が足元で攻防を繰り広げているが、時の政権や与党の意向に左右される組織なら、捜査も保革対決の影響と無縁ではいられなくなる。』

文在寅排除を狙い、米国がお墨付き? 韓国軍はクーデターに動くか(週刊新潮WEB取材班編集)

https://www.dailyshincho.jp/article/2020/10271601/?all=1

※ 物騒な話しでは、ある…。しかし、隣国のことでもあり、日本国の安全保障のためには、その動向には十分に注意を払っておく必要があるだろう…。

※ 朴正煕氏は、言わずと知れた、朴槿恵氏の親父さんだ…。

『「離米従中」が止まらない韓国。軍はクーデターを起こさないのか――。韓国観察者の鈴置高史氏がその可能性を読み解く。

欧州からも「韓国は大丈夫か」
鈴置:「韓国軍はクーデターで文在寅(ムン・ジェイン)政権を倒すのか」――。こんな質問をあちこちから受けています。

 デイリー新潮の「文在寅が国連で『同盟破棄』を匂わせ 激怒した米政府は『最後通牒』を突きつける」で紹介したように、米国の安保専門家、G・ニューシャム(Grant Newsham)退役海兵隊大佐が9月24日、『Center for Security Policy』に「Fraud in South Korea’s April 2020 Elections」という論文を書いたからです。

 ニューシャム大佐はクーデターなどとは一言も書いていません。しかし、「文在寅政権は離米従中政権」と断じたうえ、与党が勝った2020年4月の国会議員選挙に関し「不正選挙の疑いがある」と指摘したのです。

 ニューシャム大佐は知る人ぞ知る、ペンタゴン(国防総省)を背に北東アジアの安全保障を論じる専門家。ことに、トランプ(Donald Trump)政権下ではホワイトハウスに極めて近い人と見られています。

 そんな人が文在寅政権の正統性に堂々と疑問符を付けたのですから、米国が韓国軍に対し「クーデターで政権を倒しても支持する」とサインを送ったのではないか――との見方が広がったのです。

 韓国、日本などアジアだけではありません。欧州の専門家からも「韓国は今後、要注意だね」と連絡が来ました。

トルコもイランもベネズエラも
 ニューシャム大佐は10月8日にも「he United States and South Korea: Best friends Forever?-Some Troubling Revelations & AnalysisT」を発表、追い打ちをかけました。

 見出しの「韓国は永遠の親友か?――いくつかの厄介な兆候と分析」で分かる通り、このままでは米韓同盟は持たない、との悲痛な警告です。要約します。

・血を流して(同じ側で)戦争を戦った2つの国の間には確かな絆が生まれる。とはいえ、米国人が望むほどに長続きするとは限らない。絆が崩れ、米国人が「こうなるとは思ってもいなかった」とこぼすこともしばしばある。
・文在寅とその側近は朝鮮半島の分割の張本人は北朝鮮ではなく、米国と見ている。彼らは(北朝鮮の)金一家の主体思想を崇め、韓国は米国とではなく、中国と手を結ぶべきだと考えている。
・文は米国との大規模な合同演習を拒んできた。さらに、北朝鮮の体制に批判的な韓国市民を弾圧している。
・新型コロナが流行した際、韓国は中国とともに痛みを分かつ、と文は語った。2017年には文は中国に対し「3NO」――(1)米国にはこれ以上THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を認めない(2)米国のミサイル防衛網に参加しない(3)米・日との三角同盟は結ばない――を申し出た。
・米韓同盟の解体は、世界に多大の悪影響を及ぼす災いである。トルコ、イラン、ベネズエラ、フィリピンなどで同盟が解体した時、米政府の当局者は「こうなるとは思ってもいなかった」と驚き慌てた。その日が再び来ないことを望む。

 そして、この記事でも4月の総選挙は中国により集計を操作された疑いがある、と書いています。

韓国の民主主義は壊れ始めた

――本当に不正があったのでしょうか。

鈴置:分かりません。韓国の保守の中でも意見が割れています。最大手紙で保守系の朝鮮日報の崔普植(チェ・ボシク)先任記者は疑惑を提議した統計学者にインタビューしました。

「“期日前投票の結果は理解不能…選挙管理委員会は疑いを晴らす必要がある”」(5月4日、韓国語版)です。しかし、この記事では統計学者の主張を紹介すると同時に、それに対する反論も試み、結論は出していません。

 行動保守の指導的立場にある、趙甲済(チョ・カプチェ)氏は「不正はなかった」と考え、「負けた原因を直視しない保守」を批判しました。

――韓国では「不正選挙」が大問題にならなかったのですね。

鈴置:しかし、不正だったと主張する人もまだいます。それに焦点は「不正かどうか」を超え「米国から疑いの声が上がった」――つまり「米国がクーデターをそそのかしているかどうか」に移っています。

 不正であろうがなかろうが、文在寅政権の正統性に疑問符を付ける声が米国で出てきたことがポイントなのです。ニューシャム大佐は2本目の記事で「言論の自由が侵されている」とも訴えました。以下です。

・韓国メディアは文政権から名誉棄損法によって脅され、批判する者は沈黙を余儀なくされるか投獄される(韓国では語ったことが真実だからといって身を守れない)。

 米国では、韓国は民主化したことになっている。いくら「離米従中」するからといって、民主国家でクーデターを起こすなんてとんでもない、と普通の米国人は考えるでしょう。

 しかし、韓国の民主主義は壊れている、と米国のアジア専門家が言い出したのです。この見方が米国で広まれば、クーデターへの嫌悪感もぐんと弱まるだろう――と韓国人なら考えます。

1952年、米国がクーデターを指示

――民主主義が衰えたからといって、米国が韓国軍にクーデターをそそのかすとは考えにくい。

鈴置:米国にはその実績があります。朝鮮戦争のさなかの1952年のことです。先ほど言及した趙甲済氏は著名なジャーナリストでして、『朴正煕伝記 私の墓に唾を吐け』第1巻で、結局は実行されなかった「米国主導のクーデター計画」を記録しています。

 1985年から1990年まで毎日新聞ソウル特派員だった永守良孝氏が『朴正煕 韓国近代革命家の実像』というタイトルで日本語に翻訳しました。第IV章を参考にして説明します。

 李承晩(イ・スンマン)大統領は1952年7月の選挙で、再選される自信を失っていました。当時は国会議員による間接選挙制だったのですが、1950年5月の総選挙で大敗を喫していたからです。

 李承晩大統領は大衆からの人気に期待し、直接選挙制への改憲を図ったのですが、国会で否決されました。そこで一部地域に戒厳令を敷いたうえ、憲兵隊を動員して反対派の国会議員を連行しました。

 これを見た米国は韓国軍にクーデター計画を立案させました。当時は朝鮮戦争のまっさなか。韓国の政治が混乱すれば、戦争の帰趨を左右しかねなかったからです。

 結局、このクーデター計画は実行に移されませんでした。政権側が「政局の混乱が続くと米軍は大統領を監禁して軍政を実施する。それよりは改憲がましだろう」と国会議員を懐柔。反対派の顔も一応は立てる改憲案に仕立て直して通過することに成功したからです。

国益なら韓国の民主主義を犠牲に
――民主主義を破壊する政権を倒すためにクーデターを敢行する、というのも変な気がします。

鈴置:米国は民主主義よりも、円滑な戦争遂行を優先したのです。それにクーデターの成功後は軍ではなく、親米派の政治家に政権を握らせる方針だったようです。軍事独裁政権を作るつもりはなかった。

 クーデター計画の立案者の1人が朴正煕(パク・チョンヒ)大佐(当時)でした。9年後の1961年にクーデターを敢行、政権を握った朴正煕氏です。

 趙甲済氏は著書『朴正煕 韓国近代革命家の実像』(216頁)で、朴大佐が1952年の未完のクーデターから学んだことは大きかった、と書いています。学んだ内容が以下です。

・米国が自国の利益のためには民主主義の原則も犠牲にする、と言うこと、韓国に権力の実態が確立されている限り米国もこれを認めざるを得ず、武力で既存の体制をひっくり返す意思はない、と言う点…(後略)…。

――なにやら「今」に似ていますね。

鈴置:そうなのです。中国との戦争に全力をあげたい米国と、民主主義の衰微が目立つ韓国。その韓国が米国の戦争を邪魔する――という構図はそっくりです。だから、ニューシャム大佐の記事を読んだ人が――ことに、1952年の未完のクーデターを覚えている韓国人がぎょっとしたのです。

米国防相「盧武鉉は頭がおかしい」
――しかし民主化後の韓国で、軍がクーデターを実行するでしょうか?

鈴置:民主化は1987年。でもその後の盧武鉉(ノ・ムヒョン)時代(2003年2月―2008年2月)にも韓国軍はクーデターを計画した模様です。

 厳密に言えば、「クーデターを実施したら支持してくれるか」と米軍幹部に持ちかけた韓国軍の高級将校がいたのです。米軍から自衛隊に非公式な通報があって、日本の関係者にもその話が広まりました。

 盧武鉉氏は「反米」を掲げ当選しました。2007年11月、米国のR・ゲーツ(Robert Gates)国防長官とソウルで会談した際「アジアの安全保障上の最大の脅威は米国と日本である」と語りもしました。

「米帝国主義が諸悪の根源」と考える人たちにとって、当然の発想ではありますが、普通の米国人は驚愕します。ゲーツ長官は著書『Duty』の416ページで「盧武鉉大統領は反米主義者であり、たぶん少し頭がおかしい(a little crazy)と私は判断した」と書いています

 米国にとっても困った存在だから、クーデターに賛成するだろう、と考える人が韓国軍の中に出たのです。

――米軍幹部は何と答えたのでしょうか?

鈴置:「前の2回は追認せざるを得なかったが今度はもう、許さない」と韓国軍将校に返答したと自衛隊には説明したそうです。「前の2回」とは1961年の朴正煕少将の「5・16軍事クーデター」と、1979年の全斗煥(チョン・ドファン)少将らによる「12・12粛軍クーデター」を指します。

「言うだけ番長」はどやしつける

――この時、米国がクーデターを許さなかったのはなぜでしょうか?

鈴置:盧武鉉氏は「言うだけ番長」でした。大声で反米を唱えても米国から圧力をかけられれば容易に屈しました。米韓FTAを締結しましたし、イラクに韓国軍も派兵しました。いずれも支持層の左派から強い反対のあった案件です。「言うだけ番長」を見切った米国に、クーデターは不要だったのです。

「韓国軍のクーデター相談説」も、圧力の一端だったかもしれません。日本にまで広めることで盧武鉉政権の耳に入るように仕向けた。つまり、「米国が計画の発動を抑えた」ことにしつつ「言うことを聞かないと、韓国軍の手綱を放すぞ」と脅しもしたわけです。

 1952年も同じ構図だったのかもしれません。韓国の政界に「米軍主導のクーデター説」を流す。すると李承晩政権も米国の顔色を見ざるを得なくなり強権ぶりにブレーキがかかる、という筋書きです。

――それなら、ニューシャム大佐の論文も「威嚇」に過ぎない?

鈴置:そうかもしれません。ただ15年前と比べ、現在の米国の懸念が比べものにならないほど大きいことを見落としてはなりません。

 当時は中国が今ほど台頭しておらず、盧武鉉政権が中国側に鞍替えするなど想像もできなかった。それに今や、米中は本格的な覇権争いに突入しました。韓国の裏切りは絶対に許せません。

キーセンもデモした1960年
――だんだん、クーデター使嗾(しそう)説が本当に見えてきました。

鈴置:ただ、それと韓国軍が実行するかは別問題です。武力で政権を倒しても、国民の支持を集めないとクーデター政権は長続きしません。

 朴正煕氏のクーデターはそれなりに支持を集めました。1960年、不正選挙が原因で李承晩政権が崩壊した後、韓国は政治的にも社会的にも混乱に陥った。

 混乱を収拾できない政党政治に人々が嫌気した瞬間、朴正煕少将はクーデターを起こしたのです。もちろん、知識人からは批判されました。しかし、普通の人は必ずしもそうでもなかった。

 当時を知る人から「あらゆる階層の要求が噴出し、街は毎日デモであふれかえった。キーセンまでがデモをした」と聞かされたことがあります。あまりの混乱に多くの人が困惑していたというのです。

 朴正煕氏が1963年、1967年、1971年の大統領選挙で――直接選挙でしたが――野党候補を破ったのも、普通の人々の支持がなければ不可能だったでしょう。

 半面、全斗煥少将らの「粛軍クーデター」は不人気でした。1979年に朴正煕大統領が暗殺された後の混乱を収拾するとの名分を掲げましたが、多くの国民からは「権力の簒奪(さんだつ)」と見なされました。

 全斗煥氏は1980年に大統領に選ばれました。が、立候補者は1人で、自分の子飼いが選挙人を務める間接選挙でした。直接選挙を実施する自信がなかったのです。

 1987年には国民の間から直接選挙を求める声が噴出。全土で大規模なデモが発生し、警察の弾圧による死者も出ました。結局、6月29日、政権側はいわゆる「民主化宣言」を発表して直接選挙制を受け入れたのです。

「米軍撤収」がクーデターの導火線

――現在は、国民の間にそこまでの不満はない……。

鈴置:ええ、クーデターを支持するほどに不満は高まっていません。文在寅大統領に対する支持率は40%台を保っています。韓国の世論調査の結果は政権にかなり甘く出るので、そのまま信じるわけにはいきませんが「クーデターに拍手喝采」とのムードにはありません。

 ただ、米国には文在寅政権を追い詰める手があります。在韓米軍の撤収に動けば、政権への不信感をかきたてるからです。

 反米で親北・従中の文在寅政権には歓迎すべき動きです。が、7―8割の韓国人は米韓同盟を支持しています。同盟解体につながる米軍撤収を、大いなる不安感を持って見るのは間違いありません。

 そんな恐れ、不安が社会に広まった時、軍が決起して文在寅政権を倒しても、決定的な反発は買わないと思います。クーデターの後、すぐに選挙を実施するなど民政維持の姿勢を示せば、ですが。

 注目すべき動きがありました。10月14日、米韓両国の国防相がペンタゴンで定例安保協議(SCM)を開きました。その際の共同声明から、2008年以降ずうっと盛り込まれてきた「在韓米軍の現行の兵力水準を維持する」とのくだりが消えたのです。

 保守系紙の朝鮮日報はさっそく「米、12年ぶりに『在韓米軍維持』の文言を落とした」(10月16日、韓国語版)と報じました。

 ある読者はこの記事のコメント欄に「2つに1つを選べ、ということだ。数万の自国民を犠牲にして韓国を守った国か、統一を阻害した国か、と」と書き込みました。米国か中国かの踏み絵を突き付けられたことを韓国人も理解したのです。

「トランプ退任」待ちの文在寅

――文在寅政権はどう考えたのでしょうか?

鈴置:さすがに「反米を続けると、米国から何をされるか分からない」と思ったようです。異例の共同声明の8日後、10月22日に韓国は在韓米軍のTHAADに関し譲歩しました。

 譲歩と言っても同盟国として当然の義務の一部を果たしたに過ぎませんが、慶尚北道・星州(ソンジュ)のTHAAD基地を取り巻いて封鎖してきた反米団体を警察が排除したのです。

 米軍がTHAADのレーダーや発射台、管制装置を基地に設置したのは2017年4月。その後、韓国の警察は封鎖中の反米団体を放置してきました。もちろん、THAAD配備に憤った中国にゴマをするためです。

 反米団体は米軍の機材・燃料・食糧の搬入を阻止し続けたため、米軍はヘリコプターで空輸してきましたが、それにも限界があり、兵士の日常生活にも支障をきたしていたといいます。

――文在寅政権は反米を軌道修正するのでしょうか?

鈴置:単に、目先を誤魔化す作戦でしょう。反米路線を本当に放擲(ほうてき)したら政権の存在意味を失います。

 米大統領選挙は11月3日。トランプ大統領が落選すれば、米中対立も和らいで、米国からの圧力も減るかもしれない――。そう読んでの時間稼ぎと思われます。

 もっとも、北朝鮮はクギを刺しておく必要があると判断したようです。10月26日、宣伝媒体「メアリ」で「ご主人さまの怒りを解くために、南の当局が外交・安保関係者を米国に送っている」「米国はさらに南を見下し、THAAD基地の永久化など重い負担を課すだろう」と揶揄しました。

 朝鮮日報の「終戦宣言を議論しようと米国に行ったら…北『外勢に仕える卑屈な行い』」(10月26日、韓国語版)で読めます。

韓国国防相を唐突に招待した中国

――中国はどう反応したのですか?

鈴置: 10月21日、中国は突然に韓国の国防相を招待しました。聯合ニュースの「韓中の国防相が電話会談 協力継続で一致」(10月21日、日本語版)によると、中国側の要請で実施した電話協議で魏鳳和・国防相は徐旭(ソ・ウク)国防部長官に訪中を呼びかけたのです。

 THAAD配備問題もあって、韓国の国防相の訪中は2011年7月以降、途絶えていました。そこに、この唐突な訪中要請。米韓関係の改善に歯止めをかけるのが中国の狙いでしょう。

 韓国軍が文在寅政権をどう見ているのかも、国防相に直接に会って探りたいところです。軍はひと昔前は完全な親米でしたからね。

――韓国軍がクーデターを起こしたら、中国とすれば元も子もなくなりますね。

鈴置:そうとは限りません。軍が親米クーデターを起こしても、反中にはなりません。むしろ「親米で従中」政権が誕生する可能性が大きい。

 韓国軍だって、米国だけを頼りにするよりは、中国も後ろ盾にした方がいい。軍が本当の敵と考える北朝鮮と対するのにも、それは不可欠です。

 それに軍人も韓国人。従中のDNAは持っているのです。韓国軍がクーデターを起こすというなら、中国はそのスポンサーになる手があります。

「李氏朝鮮」のデジャブ
――クーデター政権が中国側に寝返るとは!

鈴置:歴史的に前例があります。李氏朝鮮を建てた李成桂(イ・ソンゲ)は、その前の王朝、高麗の武将でした。おりしも中国大陸は元明交代期。新たに興った明は高麗に領土の割譲を要求。怒った高麗王は李成桂を明との戦いに送り出しました。

 李成桂は現在の中朝国境である鴨緑江まで進軍しましたが、勝ち目がないと悟ると軍を翻し、高麗王朝を倒したのです。1388年のことでした。軍事クーデターに成功したのです。

 明は李成桂に「朝鮮」という国号を名乗るよう、申し渡しました。冊封体制に組み込んだわけです。李成桂がクーデターを敢行した際、明に了解を取り付けていたことを示す資料はないようです。が、地政学的に見て、政権奪取後に明に仕えるのは自明のことでした。

 今後、朝鮮半島や中国大陸で何が起きるかは予測がつきません。盤石と信じていた国際政治の地殻構造がひっくり返ってしまうことも覚悟すべきと思います。

 ニューシャム大佐の言葉を借りれば、日本人も「こうなるとは思ってもいなかった」と驚き慌ててはならないのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集』

文系記者がAI作ってみた クリックだけで制作時間15分

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65523280X21C20A0X11000/

『人工知能(AI)が産業や生活を変え始めている。難解な計算モデルを作り上げ、データ解析をしてくれるAIは専門のエンジニアが欠かせなかったが、昨今は事情が違うらしい。素人でもクリック操作だけで作れるサービスが広がっているという。にわかに信じがたいが、AI担当記者として確かめずにはいられない。文系出身の私でもできるのか、トライしてみた。

「誰でもすぐにAIを作れますよ」。aiforce solutions(エーアイフォースソリューションズ、東京・千代田)の西川智章代表の一言に当初、記者は半信半疑だった。

ビッグデータから最適解を導くための複雑な数理モデルを考え、プログラミングしないといけないAI。技術は難解極まりなく、自分で計算式を書くなどもってのほかだが、触ってみないことには始まらない。同社を訪れた。

■予測の誤差は0・5%

今回、同社のサービス「AMATERAS RAY(アマテラス・レイ)」を使って作るのは、翌日の日経平均株価を予測するAIだ。株価の過去データと影響を与えそうなデータを集めて入力。すると、データの相関関係やデータの変動傾向から自動で株価を予測するモデルを構築してくれるという。プログラミングが一切要らない「ノーコード」サービスだ。

まずはデータの準備から。過去の日経平均の値に加え、米ダウ工業株30種平均やドル円の為替相場、トランプ大統領に関するグーグルの検索データなど、公開されている約35のデータを集めた。

データはエクセルのような表計算シートにアップロードする。次に操作画面から予測する対象に日経平均株価、データを整理するインデックスに日付の列を選ぶ。為替など他の列のデータは株価との関係性を分析、予測に役立てる。

次のステップはデータの計算手法である「アルゴリズム」の選択だ。アルゴリズムをもとに、株価を予測するモデルを構築するとあって重要な作業。といってもここでも操作はクリックだけだ。

アマテラスは14種類のアルゴリズムを用意している。画面上ではそれぞれの特徴について解説している。計算手法の細かな解説がないのがかえって入りやすい。すべてのアルゴリズムを使って計算し、その結果から一番優れたものを選ぶこともできるが、今回はよく利用される代表的な2種類をクリックして選んだ。

待つこと数分。2種類のAIモデルができあがった。実際に予測に使うアルゴリズムは、2つから優れた方をアマテラスが選んでくれる。今回は、過去の日経平均株価の値とモデルが導き出した数値の差がより少なかった「Light GBM」というモデルが最適との結論を出した。

素人の私だとアルゴリズムを勉強するのに数カ月はかかるはず。なのに、自動推奨までしてくれてこんな楽ちんでいいのかと思ってしまう。

最後の工程は選んだモデルの動作確認だ。モデル構築に使った時と同じ種類のデータをアップロードして計算、狙い通り株価予測ができるか検証した。作ったモデルは問題なく動いた。

予測結果はどうか。何と、実際の株価との誤差は0.5%の118円。気分はもうマーケットアナリストだ。

同社のエンジニアに教えてもらいながら操作しても、かかった時間は15分ほど。一度覚えればもっと短縮できそうだ。触れ込み通り、操作は本当にクリックのみだった。アルゴリズム名など見聞きしない専門用語はちらつくが、すべて分からなくても使いこなせた。

どうして分からなくても使えるのか。西川代表は「AIが次々と実用化されていくなか、研究開発が進み、分野によっては計算手法が確立されてきたため」と話す。

アマテラスのアルゴリズムには、これまでAI業界が積み重ねてきた知見が詰め込まれている。作ったモデルは、多くのエンジニアが参加してAIの性能を競うコンテストで上位数%に入ることも。必ずしもエンジニアが一から計算式を組み立てる必要はなくなりつつあるという。

エーアイフォースソリューションズの西川代表

■AI開発費用を大幅に減らす

「アマチュアAI」のインパクトは大きい。エンジニアに委託する場合、1回あたり数カ月の時間と数百万円から、ときには数千万円の費用がかかる。アマテラスは年間数百万円で使える。適切なデータの選び方などエンジニアにサポートしてもらった後は、データさえあれば誰でも30分ほどで制作できるという。

アイスクリーム店を運営するB-Rサーティワン アイスクリーム(東京・品川)。店の実務担当者はアマテラスを使って自らAIを作り、売れ行きを予測しながら生産や在庫管理を効率化している。従来は3カ月に1回、AIを活用した社外のデータ分析サービスを使い、過去の出荷実績などのデータからシーズンごとに変わる商品の出荷量を予測していた。

だが、エンジニアはAIには詳しくても31種類ものアイスクリームには門外漢。消費トレンドなど予測のためにどんなデータが必要なのか、どんなデータをひも付ければよいのかなどの検討に時間がかかり、費用が膨らむことも課題だった。

そこで店舗のパソコンから使えるアマテラスを導入。現場担当者が必要だと判断した時に”専門家”となって予測できるようにした。かかる費用は月数十万円と大幅に削減できたという。

定型化したアルゴリズムを組み込んだソフトを使うことで、素人でもAIを作れるシステムは他にも。19年にニコンから独立したエンジニアが設立したMENOU(東京・中央)は、製造業の検品に使える画像解析AI作成ソフトを開発する。「技術はすでに実用レベルを上回っている。これからは使い勝手の改善に注力したい」(西本励照代表)という。9月にグーグルが発表したプログラミングなしでアプリを作れる新サービスでも、AIが作れる機能が実装される見通しだ。

もちろん簡易AIは万能ではない。AIには画像処理や言語処理用などデータのタイプによって様々な種類がある。簡易AIが扱えるのは数値データと一部の画像データに限られており、その分野以外のアルゴリズムは十分確立されていない。

また、どういうデータを読み込ませるかによってAIが導き出す結果は違ってくる。高精度にはじき出そうと思えば、計算技術にたけたエンジニアの力がものをいう。専門家はこれからも欠かせない存在といえる。

作り終えての感想は「AIの民主化」に向けた扉がいよいよ開かれたということだ。AIが専門領域ではなく、データさえあれば誰でも”開発”できる時代は意外に早く訪れるかもしれない。動作の仕組みは分からずとも誰もが使いこなしているスマートフォンのように。

(企業報道部 山田彩未)』

李明博元大統領、収賄で懲役17年確定 韓国最高裁

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65591430Z21C20A0MM0000/

『【ソウル=恩地洋介】韓国大法院(最高裁)は29日、収賄罪に問われ二審で懲役17年などの判決を受けた李明博(イ・ミョンバク)元大統領と検察の上告を棄却し、実刑判決が確定した。罰金130億ウォン(約12億円)と、追徴金57億ウォンも科される。保釈中の李氏は収監される。

韓国では退任後に刑事事件で起訴される大統領経験者が少なくない。実刑判決が確定した元大統領は全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)、朴槿恵(パク・クネ)の3氏に次ぎ、李氏が4人目となる。

韓国検察は文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2018年3月に李氏を逮捕、その後起訴した。起訴状によると、李元大統領は07年から11年にかけサムスン電子から賄賂を受け取り、その見返りとして、有罪判決を受けていた同社の李健熙(イ・ゴンヒ)会長に特赦を与えた。

判決は、李氏が実質的に保有する自動車部品メーカーが米国で起こした訴訟費用を、サムスンに肩代わりさせたことが89億ウォンの収賄にあたると認定した。同メーカーに裏金づくりを指示し252億ウォンを横領した罪も認めた。

李元大統領は08~13年に大統領を務めた。経営者出身で経済成長や実利外交を追求したが、終盤の12年に現職大統領として初めて島根県の竹島(韓国名・独島)に上陸し、日韓関係が長期間にわたり悪化した。

李氏の後に政権を担った朴前大統領も、財閥や情報機関から賄賂を受け取った収賄などの罪に問われている。7月の差し戻し控訴審判決では懲役20年、罰金180億ウォンなどの実刑が言い渡され、検察が上告した。これとは別に、18年11月には公職選挙法違反罪で懲役2年の実刑が確定している。』

李明博
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%8E%E6%98%8E%E5%8D%9A

 ※ 1941年生まれだから、2020年現在79才だ…。単純に17年後(恩赦などで、刑期が短縮しなかった場合)は、96才となる…。

 ※ 気の毒な話しだ…。「懲役」だから、日本だったら、毎日何らかの「役(仕事、作業)」が課せられる…。韓国での実態は、よく知らない…。

朴槿恵前大統領に懲役20年 高裁差し戻し審判決=韓国
7/10(金) 14:59配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/1c64b9cca5ae81571c0815f4a5001908ebb969e2

『【ソウル聯合ニュース】韓国のソウル高裁は10日、大統領在任中に長年の知人と共謀してサムスングループなどから多額の賄賂を受け取った事件と、情報機関・国家情報院から巨額の裏金を受け取った事件で、収賄罪や職権乱用罪などに問われた前大統領の朴槿恵(パク・クネ)被告(68)に対する差し戻し審の判決公判を開き、同被告に懲役20年(求刑同35年)を言い渡した。

 大法院(最高裁)は昨年8月の上告審で、サムスンなどからの収賄罪などについて一審、二審の担当裁判所がほかの罪と区別して判決を出すべき収賄罪を分離せず、法に違反したと判断。懲役25年などとした二審判決を破棄し高裁に審理を差し戻した。裁判は朴政権時代に国家情報院が特殊活動費を裏金として青瓦台(大統領府)に上納していた事件の差し戻し審と併合され、審理が行われてきた。

 検察側は今年5月の論告求刑公判で、収賄罪に対して懲役25年、裏金上納事件の職権乱用権利行使妨害などほかの罪に対して懲役10年をそれぞれ求刑。求刑の合計は懲役35年だった。

 朴被告は2017年10月以降、裁判をボイコットしており、この日の判決公判にも出廷しなかった。』

 ※ 朴槿恵氏については、こういう状況だ…。Wikiによれば、1952年生まれだから、2020年で68才…。単純に、20年後は88才だ…。

 ※ こういうものが、「ロウソク革命」というものなんだろう…。気の毒な話しだ…、というのは、日本人的な感覚なんだろう…。

朴槿恵
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%B4%E6%A7%BF%E6%81%B5

技術は「鋭すぎる利器」か 情報氾濫、深まる分断 パクスなき世界 自由のパラドックス(5)

『テクノロジー(技術)は民主主義を守ると思いますか――。

ブラジルが11月の統一地方選を控え、表現の自由の抑制に動いた。高等選挙裁判所のバホゾ長官が9月末、米フェイスブックなどSNS(交流サイト)運営会社と「フェイクニュース」を防ぐ協定を結んだ。デマの発信元を調べ利用者のアカウントを止めるためだ。

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背景にはフェイクニュースによる民意の分断がある。「新型コロナウイルスによる医療崩壊は起きていない」。6月、ボルソナロ大統領を支持する国会議員らが患者のいない開業前の病院内の動画をSNSで広め、経済活動の再開を訴え批判を受けた。COPPEADビジネススクールのアリアネ・ローデル教授は「フェイクニュース製造・拡散への罰則は真実の情報に基づく民主主義を守るためのものだ」と語る。

1990年代、民主主義を巡る高揚感と楽観論があった。冷戦終結で旧共産圏に民主化の波が押し寄せ、インターネットで世界中の個人がつながり始めた。誰もが自由に意見を交わし、民主主義は深化するはずだった。

今や世界人口の半分がSNSを使う。米シスコシステムズによると2020年の世界のデータ量は月間254エクサ(エクサは100京)バイトと90年の2億倍以上にのぼる。デジタル技術は誤った情報も増幅させる。世界中のコロナ関連のツイートを収集するイタリアの研究機関は3割が信頼性を欠く内容だと分析する。

米国では16年の大統領選でロシアの介入疑惑などがあり、民主主義を守るためSNSの検閲の動きが強まった。だが、偽情報の規制は表現の自由の後退と裏表の関係にある。SNS運営会社が民主党の大統領候補バイデン氏の次男らの不正疑惑を報じた米紙記事の閲覧を制限すると、共和党議員が批判した。「自由と規制の線引きが混沌としている」(上智大の前嶋和弘教授)状況だ。

東京工業大の笹原和俊准教授が、大統領選を争うトランプ氏とバイデン氏を支持するそれぞれ数万人のツイッター利用者のリツイートの流れを調べたところ、考えの近い人同士がリツイートし、支持が異なる人とのやりとりは少なかった。

SNSは考えの近い人だけの閉じた世界で広がりやすく、その傾向が強いとされるのは保守派だ。米ピュー・リサーチ・センターが大統領選前のフェイスブックの投稿や反応を分析すると、16年より共和党議員への反響が増えた。民主党議員は「フェイスブックは右翼のエコーチェンバー(反響室)」と非難する。

ファシズムが台頭し左右対立が激化していた約90年前の欧州。スペインの哲学者オルテガは「異なる他者への寛容」を訴えたが、溝は埋まらず世界が戦禍に見舞われた。

多様な情報に接した人々が熟慮や熟議を経て民主主義は守られる。15世紀のドイツのグーテンベルクによる活版印刷の発明は特権階級の情報の独占を崩し、新しい技術が市民革命につながった。

現代でも模索は続く。ネットで誰でも自由に政策を議論できる台湾の「v台湾」。市民らが話し合いで選んだ議題に参加者が意見を投稿し、他の参加者が同意、不同意などを示す熟議の場だ。

人工知能(AI)などを使い意見の近い集団ごとに分類。考えの違いなどを視覚的に示し、全員が納得できる案を導き出す。米ウーバーテクノロジーズの参入時のタクシー業界との共存策などの合意形成に役立った。

技術は民主主義を危うくすることも磨くこともできる。利器の使い方が問われている。

キーワード「デジタル・レーニン主義」

 民主主義の前提となるのが個人の表現や移動の自由だ。スマートフォンや監視カメラなどのデジタル技術は表現の幅を広げたり、治安を守ったりできる利便性がある半面、個人の情報を効率的に集めやすい。使い方次第で国家が監視を強めるリスクと隣り合わせだ。

 「デジタル・レーニン主義」。ドイツの政治学者セバスチャン・ハイルマン氏はデジタル技術による監視社会やそれを支える思想をこう表現した。ロシア革命の指導者レーニンが建国した旧ソ連の全体主義の再来に警鐘を鳴らしたものだ。

 実際にデジタル・レーニン主義が広がる可能性はあるのだろうか。各国の姿勢を測る物差しになるのが、新型コロナウイルスの感染予防対策として多くの国が導入したスマホを使う「接触追跡」の技術の運用法だ。

 米MITテクノロジーレビューがデータの用途制限など個人情報への配慮度合いを5項目で評価したところ、中国やカタールなど少なくとも6カ国のアプリは一つも基準を満たしていなかった。欧州は配慮する国が多い。日本は個人情報を取得しない仕組みにした。

 中国は位置情報などから個人の移動に関するデータを感染対策に役立てる。感染リスクが高いと判断された人の行動は制限される。中国は以前から街中にカメラを張り巡らせるなど国家の監視を強めていた。リスク分析会社ベリスク・メープルクロフトは「アジアが監視のホットスポットに浮上している」と指摘する。

 コロナ禍で中国方式の監視は成果を上げたとされる。だが民主主義のチェック機能がなく、個人の自由が脅かされたり社会が極端な方向に振れたりする脅威はある。中央大の宮下絋准教授は「国家は技術的にいくらでも人の移動などを監視できる。歯止めをかけられるかは、各国の民主主義の水準にかかっている」と説く。

 「パクスなき世界」取材班 大越匡洋、加藤貴行、上杉素直、島田学、押野真也、鳳山太成、石川潤、生川暁、高橋元気、大島有美子、奥田宏二、江渕智弘、竹内弘文、松浦奈美、佐伯遼、清水孝輔、北川開、原田逸策、前田尚歩、熊田明彦、天野由衣、榎本敦、塩山賢、森田英幸で構成しました。

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国民守る国家の姿 コロナに揺れる「安心網」パクスなき世界 自由のパラドックス(4)

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO65302830S0A021C2SHA000?s=5

『自由な国家は国民を守れると信じますか――。

「中国型の社会統制と監視のモデルには大きな需要がある」。カーネギー財団モスクワセンターのアレクサンドル・ガブエフ上席研究員はこう指摘する。

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いま、中国国内を移動するには、スマートフォンが手放せない。行動履歴で新型コロナウイルスに感染していないという証明をスマホのアプリで示さない限り、公共交通機関や商業施設、飲食店などを利用することはできない。

街中に張り巡らす監視カメラや個人データの収集、人口1千万人を超える武漢市の封鎖。中国は国民の自由を顧みず、コロナウイルスの封じ込めに突き進んだ。こうした中国の技術や手法に魅力を感じる強権国家は多く、ロシアや中央アジアなどで監視技術の導入が進む。

「我々は感染第2波のまっただ中にいる」。フランスのマクロン大統領は危機感をあらわにする。中国がコロナ封じ込めに成功する一方で、欧州や米国では新規の感染者数が急増している。

ニッセイ基礎研究所の高山武士氏が50カ国・地域を対象にコロナの人的被害と経済損失を分析し、総合評価を算出したところ、欧州諸国が軒並み下位に沈んだ。世論に配慮し、行動規制の緩和を急いだことが感染再拡大の背景にある。

米国では自由主義的な価値観を重視し、規制に慎重な共和党系が優勢な州で感染者が多い。「国民が同じ方向を向かないと封じ込め政策の効果は薄い」(高山氏)

国家の意志で国民に同じ方向を向かせることができる強権国家と異なり、民主主義国家は違う方向を向く自由も尊重せざるを得ない。民主主義の劣勢にもみえるが、民意を反映しない強権体制は危うさも抱える。

民意より経済成長と国力の向上を優先してきた結果、国民生活の安定に必要な社会保障制度などの「安心網」にはひずみも目立つ。

2018年に中国で大ヒットした映画「我不是薬神」(邦題「薬の神じゃない!」)。中国の医療や社会保障制度の不備をリアルに描いた作品として注目された。中国では診療を受けるために早朝から長蛇の列を作ることは日常的な光景だ。医療への不満から医師への暴力事件が後を絶たず、社会問題化している。

病気や貧困から国民を守る社会保障制度は、19世紀後半に「鉄血宰相」と称されたドイツのビスマルクが礎を築いた。当初は労働者の過激化を防ぐ目的で導入した制度だが、参政権を求める運動が拡大し、民主化が進むとともに発展してきた。

長い目でみた安心をどこまで国民に提供できるか。その差は鮮明だ。

世界銀行によると、中国の国内総生産(GDP)に占める医療支出の割合は5%。米国(17%)や日本(11%)、世界平均(10%)と比べて低い水準にある。高齢化も進む中、年金制度などの整備も遅れている。

急速に進化するデジタル技術を総動員して国民の監視体制を構築し、国家権力の維持に努める強権国家。だが、社会に渦巻く不満を抑え込むほど、将来のリスクも膨らんでいく。

コロナに揺さぶられる「安心網」をどう立て直すか。その行方がコロナ後の国家の興亡を左右する。

キーワード「社会保障」

 病気や労働災害などの際の「安心網」となる社会保障制度を国家が初めて整備したのは「鉄血宰相」として知られるドイツのビスマルクだ。1880年代に疾病・労災・年金保険を相次ぎ制定する。

 社会保障の登場は資本主義の発展と連動する。18世紀の英国で起きた産業革命によって都市への移動が起き、人は新たな自由を得た一方で病気などで働けなくなった時のリスクを背負い込んだ。

 旧ドイツ帝国のビスマルクは中央集権体制を目指すなか、国と個人が直接結びつく手段としての社会保障を構想した。帝国と相対する社会主義運動の拡大防止と兵士の健康状態管理という国家体制の維持に主眼を置いた改革だった。

 第2次大戦のさなか、英国の経済学者ベバレッジは貧困者を減らすために社会保障網を全国民に行き渡らせるべきだとの報告を英政府に提出する。ベバレッジ報告と呼ばれ、国が「ゆりかごから墓場まで」面倒を見る福祉国家の基礎となった。

 先進国では社会保障が拡充された一方、給付が次第に国家の重荷となっていく。1975年には経済協力開発機構(OECD)の平均で社会支出が国内総生産(GDP)比14.4%と15年間で6ポイント上がった。

 福祉国家を世界に広めた英国では、給付に過度に依存した人が増えて競争力の低下が問題となった。「英国病」と呼ばれた危機だ。79年に登場したサッチャー首相は小さな政府を掲げ、社会保障を見直していった。同時期に米国でもレーガン大統領が誕生し、政府の関与を減らして市場原理を重視する新自由主義が潮流となる。

 新自由主義は格差拡大をもたらしたとして、2008年の世界金融危機後に揺り戻しが起きた。ただ、社会保障の支え手である若者が減り、支えられる高齢者が増える現象は各国で共通する。持続可能な社会保障づくりが急務だ。』

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『何を物差しに、政府の政策が適切かどうかを判断しますか――。

「小切手1枚では足りない」。米ニューヨークで9月、失業した若者らが所得保障を政府に求めた。米国は新型コロナウイルス対策で1人に最大1200ドル(約13万円)を配った。仮に同額を12カ月配ると、過去最大だった2020会計年度の財政赤字(330兆円)と同規模の財源が要る。

米国で生活費の保障を求めて声を上げる若者ら(9月、ニューヨーク)
危機に救いを求める声が政府の借金を異次元の領域に押し上げる。国際通貨基金(IMF)によると米政府債務の国内総生産(GDP)比は20年に過去最高の131%。世界全体では99%とGDP規模に並ぶ。前例のない非常事態なのに、市場は沈黙したままだ。

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第2次世界大戦後、手厚い福祉に傾いた米英など先進国の多くは財政悪化と物価高騰に苦しみ、1980年代から政府の関与を減らす「小さな政府」を志向した。福祉国家の代表格であるスウェーデンも90年代に財政悪化から長期金利が2桁の水準に上昇し、増税と歳出削減を迫られた。

民主主義が野放図にばらまけば市場が歯止めをかける――。自由という価値を頂き、互いに補いつつ繁栄した2つの歯車がかみ合わない。イタリア国債の格付けは投資適格で最低水準のトリプルBなのに長期金利は10月に一時0.7%を下回った。8月に日本の投資家はイタリア国債を過去最大の約5千億円買い越した。原因はカネ余りだ。

2008年の世界金融危機を経て中央銀行の超低金利政策が定着し、10年代の米短期金利は0.6%と1980年代の1割未満の水準にある。経済のデジタル化で設備投資が鈍り、80年代に通算7兆ドルの資金不足だった日米企業は2010年代、同規模の余剰に転じた。米ピュー・リサーチ・センターによると米国民の「大きな政府」への支持率は19年に47%と30年ぶりの高水準にある。世界は反転した。

「金利と経済成長の常識は一変した」。慶大の桜川昌哉教授は語る。過去70年間、米国の金利は成長率を平均1%上回った。10年代に入ると逆に1%下回るようになった。低成長でも金利がさらに低ければ「政府は債務返済を上回る税収を期待できる」(桜川氏)。借金の痛みも消えた。

中国など強権国家の台頭にコロナ禍。自由を脅かす危機が広がる。経済学者フリードリヒ・ハイエクは中央集権的な体制は自由市場に比べて資源を効率的に配分できないと論じた。だが中国に追われる米国のトランプ大統領は自ら貿易戦争を仕掛けて自由主義経済の土台を壊す。よりよい社会をめざす道はないか。

「パンとサーカス」は民衆の歓心を買おうと権力者が食料と娯楽を振る舞い、没落したローマ帝国の象徴だ。21世紀に広がるポピュリズム(大衆迎合主義)は、社会の不満や不安をあおり、権力の膨張にひた走る為政者が民主主義をむしばむ。

本来、金利上昇やインフレといった信号で権力の暴走に歯止めをかけるはずの市場はカネ余りにまひした。ブレーキ役を果たせない市場と民主主義の衰えは無関係ではなく、互いにつながり、世界に矛盾を広げる悪循環を生み出している。

「非常時だから」と思考を止めず、市場の健全な機能を取り戻す歩みを続ける。その先に民主主義の再生もあるはずだ。

キーワード「長期停滞論」

 自由を渇望した国で民主主義が不安定になるのはなぜか。政治学者のヤシャ・モンク氏は「人々が親より豊かになっていると感じられないから」という。ではなぜ豊かになれなくなったのか。

 元米財務長官のローレンス・サマーズ氏の答えは「長期停滞論」。08年の金融危機以降、経済の回復が遅れた理由として13年に唱え始めた。国際通貨基金(IMF)によると先進国の経済成長率は21世紀の20年間が平均1.5%。20世紀の最後の20年間が3%だったので、ちょうど半分だ。

 サマーズ氏は停滞の理由を「貯蓄過剰」に求めた。20世紀までの経済は企業が工場や設備に投資をつぎ込み、人々の貯蓄が使われた。21世紀に入ると投資が細り、貯蓄が余り始めたというのだ。

 IMFによると世界の貯蓄額は04年に初めて投資額を上回った。金融危機後は当たり前となり、20年も貯蓄額は投資額を1000億ドル(約10兆円)ほど上回る。東大の青木浩介教授は「家計がためたお金を企業が使う従来モデルは機能しなくなった」と話す。投資が足りないので経済は冷え込み、お金の借り手がいないので金利も下がる。

 誰のお金がたまっているのかも問題だ。米プリンストン大のアティフ・ミアン教授らによると、米国では収入が最上位1%の富裕層が年間約60兆円ずつ貯蓄を増やしている。スウェーデンの経済規模に相当する。

 政府が税を通じ、豊かな層から貧しい層へお金を流す再分配も目詰まりを起こした。米経済学者のエマニュエル・サエズ氏らが運営する団体によると所得上位400人にかかる税率は18年に23%と、過去100年間で初めて下位50%層の税率を下回ったという。

 11月3日に迫る米大統領選では民主党のバイデン候補が富裕層への課税強化を訴えている。実現すれば低税率の国に富が逃げる懸念もある。富が偏る副作用は経済にも民主主義にもおよぶ。』

民主主義、少数派に 豊かさ描けず危機増幅 パクスなき世界 自由のパラドックス(1)

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO65301650S0A021C2SHA000?s=4

『民主主義が衰えている。約30年前、旧ソ連との冷戦に勝利した米国は自国第一に傾き、自由と民主主義の旗手の座を退いた。かつて自由を希求した国が強権体制に転じる矛盾も広がる。古代ローマで「パクス」と呼ばれた平和と秩序の女神は消えた。人類が多くの犠牲を払って得た価値は色あせるのか。あなたにとって民主主義は守るに値しませんか――。

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不連続の未来へ 「パクスなき世界」第1部まとめ読み

「一部の加盟国で司法の独立に深刻な懸念が生じている」。欧州連合(EU)欧州委員会は9月末にまとめた「法の支配」に関する初の報告書で、ハンガリーにとりわけ厳しい視線を向けた。

同国のビクトル・オルバン首相は「民主主義は自由主義でなければならないという教義は崩れた」と公言する。2010年の政権発足以来、憲法など重要法の改正を重ね、政権寄りの裁判官を増やして権力をけん制する司法の役割を封じた。

力の源は議会の3分の2を握る政権与党の議席にある。冷戦時の共産主義から民主主義に転換し04年にEUに加盟したが、今もハンガリーの賃金水準はEU平均の3分の1。人口は30年間で7%減った。「民主化すれば豊かになれる」という夢はかなっていない。

民主主義を揺らすのは低成長と富の集中だ。1980年代に3%を超えた世界経済の平均成長率は2010~20年に2%台前半に沈み、トップ1%の所得シェアは80年代の16%から21%に高まった。難民、EU本部、自由主義。オルバン氏は次々と「敵」を攻撃し、行き場のない不満をためこむ人々の支持を集めた。

より自由になった市民が無力を味わう自由民主主義のパラドックス(矛盾)――。ブルガリア出身の政治学者イワン・クラステフ氏は中欧の難局を著書でこう表現した。冷戦時に民主化を求めたポーランドも強硬右派政権が2月、裁判官が政府の改革に異を唱えるのを禁じる法律を作った。

危機は世界を覆う。スウェーデンの調査機関V-Demによると、19年に民主主義国・地域は世界に87。非民主主義は92で、民主主義が18年ぶりに非民主主義の勢力を下回った。18年にハンガリーやアルバニア、19年にフィリピンなどが非民主主義に逆戻りした。20年に民主国家に暮らす人は世界の46%と、旧ソ連が崩壊した1991年以来の水準に沈む。非民主国家が世界の多数派だ。

選挙で選ばれた政権が民主主義を壊す悪夢は約90年前も見た。当時最も進んだ民主憲法を擁したドイツは第1次大戦の賠償や世界恐慌で疲弊し、ヒトラー率いるナチスの全体主義を選んだ。民主主義と自由主義経済の繁栄。20世紀の共通の価値軸「パクス」を守るべき大国も土台がぐらつく。

11月3日、建国以来59回目の大統領選挙に臨む米国。大票田テキサス州で与党・共和党のアボット知事は10月上旬、唐突に不在者投票の受付場所を自治体ごとに1つに集約するよう命じた。野党・民主党は高齢者らが投票しにくくなると反発し、法廷闘争が続く。

新型コロナウイルスを理由とした選挙規則の変更を巡る訴訟は全米で350件を超える。トランプ大統領は民主党候補のバイデン前副大統領に敗れた場合の平和的な政権移行すら確約しない。

民主主義の動揺を強権国家は見逃さない。中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は新疆ウイグル自治区などで少数民族の同化政策を強力に進める。香港政府は3月に5人以上の集会を禁じ、コロナを理由に抗議活動を禁止した。9月に予定していた立法会(議会)選挙も1年延期した。

ベラルーシのルカシェンコ大統領は9月、予告なしに6期目の就任式を強行した。夏の大統領選での不正への抗議デモが続くが、欧米の関心の低さを見透かす。ロシアは15億ドル(約1600億円)の支援融資を申し入れ、影響力拡大を狙う。

社会学者ラルフ・ダーレンドルフは23年前、「21世紀が権威(強権)主義の世紀にならないと言い切れない」と記した。希望はないのか。

政権の意向に縛られない新たなメディアの創設を決意したハンガリーのベロニカ・ムンクさん(撮影=Janos Bodey)
再びハンガリー。ベロニカ・ムンクさんは10月、仲間とニュースサイト「テレックス」を開設した。同国最大手ネットメディアの副編集長を7月に辞めた。政権に近い実業家が経営に介入し、編集長を解任したからだ。「独立は自らの足で立つことでしか得られない」。新サイトは主に寄付金と購読料で運営する。

法の支配や言論の自由を常に磨く。誰にも縛られない発想を育む礎は誰かが守ってくれるわけではない。米フーバー研究所シニア・フェローのラリー・ダイアモンド氏は「民主主義を改革する新たな時代を」と訴える。未来を守るカギは私たち一人ひとりの手にある。

キーワード「米中新冷戦」

 貿易、金融、技術、軍事――。米国と中国はあらゆる分野で覇権を競い、対立している。中国が一党独裁の強権体制に一段と傾くにつれ、米国とソ連の冷戦になぞらえて「新冷戦」と呼ぶことが増えた。では世界がこのまま民主主義と自由という価値観を巡って二分されるのかといえば、冷戦時と異なる点も多い。

 トランプ米政権が中国共産党を「全体主義」(ポンペオ国務長官)と非難し、米中対立は価値観闘争の色彩も帯びる。ただ米国の資本主義とソ連の共産主義のイデオロギー対立が世界を分断した冷戦と違い、世界1、2位の経済大国である米中の相互依存は深い。

 戦後世界を東西に分断した冷戦時代、米ソ間の経済交流はほぼなかった。2019年の米国の貿易額のうち中国向けは13%を占める。中国は共産党の一党支配でありながら経済は実質的に資本主義だ。01年に世界貿易機関(WTO)に加盟し、グローバル化の恩恵を受けて経済発展した。米中の経済関係や国際供給網は深く複雑に結びつく。

 米中対立を「冷戦」と呼ぶことに疑問の声もある。それでも超大国・米国に迫り、米主導の国際秩序に挑む中国という構図が「新冷戦」のイメージとなっている。12年に発足した習近平(シー・ジンピン)指導部は広域経済圏構想「一帯一路」や「中国製造2025」といった長期戦略を打ち出し、米国の中国への警戒感を一気に高めた。

 中国による高度な市民監視システムの輸出も「世界に自由で民主的な社会が根付くことを望んできた米国外交の基本と衝突した」(佐橋亮東大准教授)。米国は通信網など機微に触れる分野から中国企業の締め出しに動く。

 多くの専門家は、中国には米国に代わって世界の覇権国になる意図も能力も今のところないとみる。米国からみれば自国の利益を中国に日々削り取られているのが現状だ。相互不信が高まり、偶発的な軍事衝突が起きる恐れもくすぶる。

 中国は一党支配体制を守るために欧米中心の自由や民主主義という価値観とは一線を画し、香港などで統制を強めている。一方の米国は大統領選を控えて国内各地で暴力衝突が起き、国際社会を主導する力は衰えた。

 冷戦研究の第一人者である米エール大のオッド・アルネ・ウェスタッド教授は覇権を争う2国が長く併存した例に古代ギリシャのアテネとスパルタ、16世紀のイングランドとスペインなどを挙げ、米ソ冷戦以外は最終的に全面戦争に至ったという。米中の争覇は21世紀の世界だけでなく、自由と民主主義の未来にも大きな影響をおよぼす。』

印米、軍事協力を強化 衛星情報の共有で合意へ

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65511140X21C20A0910M00/

『インドと米国は軍事協力を強化する。両政府は27日、インドの首都ニューデリーで外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、衛星情報の共有などで合意する見通しだ。インドと国境沿いの係争地域で対立する中国へのけん制が念頭にある。日本とオーストラリアも加わる「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進に弾みを付ける。

印米は27日の外務・防衛担当閣僚協議で軍事協力の強化を確認=AP
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両政府の2プラス2は2018年から定例化し今回で3回目にあたる。印側はジャイシャンカル外相、シン国防相、米側はポンペオ国務長官、エスパー国防長官が参加した。シン氏とエスパー氏は26日、協議に先立って重要事項について意見を交わした。印国防省はその後に「今回の訪問で地理空間情報の交換に関する協定に署名するだろう」との声明を出した。

この協定は、米国が強みとする衛星情報などを活用し、相手の兵士の位置や軍事施設に関する正確なデータを瞬時に共有することを狙いとする。両政府が意識しているのはインドとの国境沿いで兵士や軍事施設を増強する中国の存在だ。

インドと中国はヒマラヤ山脈などで国境が3千キロメートルほど画定していない。印中は5月から印北部ラダック地方の係争地域でにらみ合いを始め、6月半ばには両軍の衝突によって45年ぶりに死者を出した。印中は閣僚や軍司令官の対話を重ねているが、いまも解決策を見いだせていない。

対立が長引く一因には国境沿いの地形が複雑だという事情もある。対立する地域は一部で標高4千メートルを越え、湖、渓谷、温泉がある。両国の実効支配線がわかりにくいため、現場では偶発的な衝突が起こるリスクがつきまとう。印メディアによると、印中両軍は係争地域に総勢10万人ほどの兵士を配置している。

インドは今回の協定の締結によって、これまで難しかった中国の軍事情報を把握しやすくなる。中国がどこに重点的に兵士を配置しているかがわかりやすくなり、新しく設ける軍事施設も見つけやすくなるとみられる。航空や航海の地理情報をいかし、兵器を搭載したドローンなども活用できる。米国にとっては印側に最新鋭の兵器を供給する道が開けそうだ。

米国は11月にインド洋で日本やインドと実施する海軍の共同訓練に、豪州も参加することに「歓迎する」との意向を示した。日米豪印が参加する共同訓練は13年ぶりで、自由で開かれたインド太平洋構想に基づく連携を深める好機になる。

4カ国は10月上旬に東京で開いた外相会談でも年1回の会合を定例化することで合意した。南シナ海などで軍事行動を活発にする中国を念頭に、4カ国は相次ぎ協調する姿勢を打ちだしている。インドは国境対立をきっかけに中国への経済制裁も発動し、従来の各国との等距離外交から4カ国での連携に傾斜し始めたとの見方が出ている。

(馬場燃)』

コロナ関連破綻、650件を突破 最多業種は飲食業

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2010/26/news131.html

『東京商工リサーチは、新型コロナウイルス関連の経営破綻(負債1000万円以上)が、2月から10月26日午後4時時点までに累計619件に達したと発表した。また、負債1000万未満の小規模倒産は累計32件と判明し、小規模倒産を含めた新型コロナ関連破綻は合計で651件に到達したことが分かった。

負債額1000万円以上の企業の都道府県別破綻状況(以下リリースより)

 月別に見ると、単月最多は6月の103件で、9月は3カ月ぶりに前月を上回る100件に達した。7月は80件、8月は67件だった。10月は26日時点で78件となっており、9月に続いて月間100件ペースで推移している。

 都道府県別では、東京都が142件と最多で、全体の22.9%を占めた。以下、大阪府(64件)、北海道(31件)、兵庫県(27件)、愛知県、神奈川県(26件)と続く。

突出する飲食業

 業種別では飲食業が103件と突出していて、ついでアパレル関連が64件、宿泊業が53件、工事計画の見直しなどの影響を受けた建設業が37件となっている。さらに、飲食料品卸売業は32件、食品製造業も27件に達し、飲食業界の需要減が関連業種にも影響する結果となった。

「コロナ破綻」した企業名

 新型コロナ関連破綻のうち、正社員の従業員数が判明した570件の従業員合計は1万1079人となり、1万人を突破。従業員5人未満が255件で4割以上を占めた一方、従業員50人以上の事業者は月間1件にとどまっていて、小規模事業者ほど新型コロナの打撃を大きく受けていることが鮮明となった。

 また、約9割が消滅型の「破産」(500件)を占め、再建型の民事再生法は1割未満だった。このことから、新型コロナによる倒産企業の多くは、業績不振状態で新型コロナが拡大し、とどめを刺された形となっている。』

香港に続く「台湾有事」は「日本有事」になる

香港に続く「台湾有事」は「日本有事」になる――香田洋二(元海上自衛隊自衛艦隊司令官)【佐藤優の頂上対決】
ビジネス 週刊新潮 2020年10月22日号掲載

https://www.dailyshincho.jp/article/2020/10270555/?all=1

『国際的な批判をものともせず、国家安全維持法を成立させて一国二制度の「香港」を自国に組み込んだ中国。その次なる狙いは「台湾」である。建国100年を迎える2049年までに、台湾への侵攻に踏み切る可能性が高い。その時、アメリカはどう動くのか、そして東アジアはどうなるのか。

 ***

佐藤 9月の国連総会で、トランプ大統領は中国に対して新型コロナ感染拡大の責任を追及し、改めて対決姿勢を印象づけました。この非常時にあっても米中の対立はますます激化しています。

香田 コロナ禍の中で、中国は香港での国家安全維持法を成立させて施行するとともに、南シナ海でも領土・領海拡大の活動をやめようとしていません。中国の冒険主義にも拍車がかかっているように見えますね。

佐藤 アメリカは、スパイの拠点だとしてヒューストンの中国総領事館を閉鎖させました。これに対抗して中国は成都の米国総領事館を閉鎖しています。関税問題からのこうした一連の流れを、ほとんどの日本の有識者たちは「新冷戦」と言いますが、私はちょっと違うのではないかと思っています。

香田 かつてのソ連との冷戦とはまったく違いますね。

佐藤 あの時は米ソが数千発の核兵器を持ち、両者の力が均衡していたからこそ武力行使ができない状況が生まれました。しかしいま、米中の力の不均衡は明らかで、まだまだアメリカが優位にあります。その中で、アメリカに追いつこうとしている中国が、状況打開に向け、局地的に「熱戦」を仕掛ける可能性は排除できないと思います。

香田 オバマ政権時代に中国は、領土紛争のある南シナ海の西沙(パラセル)諸島や南沙(スプラトリー)諸島で人工島造成を行い、滑走路を作って軍事基地化しました。それまでアメリカは、中国と現在の国際秩序の中で共存できると考えていました。共産体制でもいつかは民主主義を理解し、貿易のルールを守るようになって、自由主義陣営と協調してやっていけると。オバマ大統領は軍事拠点化を黙認してしまいましたが、中国への認識が誤りだとはっきり自覚し、トランプ大統領は2018年7月、関税の引き上げという形で中国への態度を豹変させました。アメリカは軍事力を使いたがる国ですが、ここでの軍事的手段の行使はお互いの被害が大きすぎる。だから経済とハイテク分野に対し関税と圧力をかけていく形で、中国を抑え込もうとしたわけです。

佐藤 しかし中国も力をつけてきています。しかもそれまで何も言われなかったわけですから、当然反発します。

香田 やはり2010年にGDPが日本を超えて世界第2位になったことが大きい。あれから国民の意識が大きく変わったと思います。当時、私はハーバード大学の研究員だったのですが、アメリカの中国人たちはお祭り騒ぎでした。これからはアメリカと中国のG2で世界を二分する、という意識が生まれました。

佐藤 ただ人口は日本の10倍以上ありますから、1人当たりのGDPだとまだまだ低い。

香田 だから中国は、自分たちはまだ経済的に発展途上国であるとして、WTO(世界貿易機関)では途上国としてのさまざまな優遇措置を受けています。

佐藤 かなり歪な形の発展です。

香田 もう意識としては大国ですから、トランプ政権の関税措置に対し、受けて立とう、ということになります。さらには国際的なルールを無視して、領土拡大を狙い、一帯一路という対外政策も推し進めています。もうこれからは自分たちのやり方でやる、と言っているに等しい。ここで起きている対立は、我々が理解している「冷戦」とは違うものです。

佐藤 アメリカはウイグルの人権問題を持ち出すなど、さらに価値観の対立軸を作り出そうとしています。

香田 人道とか人権、自由といったものは、支持党派の別なくアメリカ人にアピールしやすいものです。

佐藤 そもそもアメリカはそうした理念によって移民が集まってできた国です。

香田 トランプ大統領としても、そこは大統領選にも効いてくると考えていますから、ますます人権問題を突いてくるでしょう。

佐藤優
佐藤優氏(他の写真を見る)

知られざる危機

佐藤 アメリカやアジア各国との軋轢を生みながらも、冒険主義とも戦狼外交とも呼ばれる政策を取り続ける中国は、どこを目指しているのでしょうか。

香田 当然、アメリカに負けないということですが、具体的には台湾の統一でしょう。中国は2049年に建国100年を迎えます。それまでに何とか国家統一を成したい。特に人民解放軍はそれを最大の任務だと心得ていますし、それが国民との絶対的な約束であるという心理的な負荷もかかっています。

佐藤 台湾統一は、共産党統治の正統性を守るためにも譲れない。

香田 そうです。共産党政権の正統性、主権、領土保全は最重要国益と位置づけられます。そして中国が主張する「核心的利益」は、もともと台湾とチベットのことでした。

佐藤 いまは尖閣諸島も入っていますが、広げすぎです。

香田 もちろん冷静に分析すれば、2049年までにアメリカと互角に戦えるようになることは難しい。それは中国もよくわかっています。ただ一方で、チャンスはあるとも思っている。おそらく今回のコロナ禍はその一つになると中国は期待していた節があります。

佐藤 アメリカは想像以上にコロナで混乱が深まっていますからね。

香田 3月に、太平洋に展開する原子力空母「セオドア・ルーズベルト」でコロナの感染が広がりました。同船には約4800人の乗組員がいますが、千人以上が罹患した。

佐藤 ニュースでも大きく取り上げられましたね。しかもその対応を巡って艦長が解任された。

香田 おそらく中国は、コロナが米軍全体、陸、空、海、海兵隊に蔓延するだろうと思ったでしょう。そしてこのチャンスを生かせないかと考えたはずです。

佐藤 何か兆候はあったのですか。

香田 南シナ海での活動を活発化させました。西沙諸島周辺では、日本の海上保安庁にあたる中国の海警局がベトナムの漁船に体当たりをして沈没させていますし、ベトナムがアメリカと契約している石油会社の探査船も妨害しました。また中国の海洋調査船がベトナムのEEZ(排他的経済水域)に侵入し、さらにマレーシア、ブルネイの近海にも入りました。

佐藤 尖閣諸島の接続水域にも、4月から8月まで連続111日間、海警が入ってきましたね。

香田 ええ。ここでも動きが活発化しましたね。ベトナム沖には、佐世保に展開している「アメリカ」という大型の強襲揚陸艦が急遽出動しました。中国もアメリカにそこまで出てこられると引かざるを得ない。

佐藤 空母はどうなりましたか。

香田 ペンタゴンはすぐ手を打ちました。通常、アメリカはペルシャ湾と太平洋の二つの地域で空母駆動隊を展開しています。「ルーズベルト」がコロナ禍に見舞われグアムで立ち往生した時、もう1隻の「ハリー・S・トルーマン」は、ペルシャ湾での7カ月の展開を終え、母港であるバージニア州のノーフォーク港に帰港直前でした。それを大西洋上で待機させたのです。

佐藤 それはコロナ対策というより、中国を睨んでのことなのですね。

香田 大西洋では台湾から遠いのですが、台湾で何か悪さをやろうと思ったら中国にもそれなりの時間が必要です。「トルーマン」がその兆候を察知して駆けつけるなら、間に合いはしないけれども、少し遅れて着くことはできる。このように中国にメッセージを発したのです。

佐藤 なるほど。

香田 同時に、次に展開することになっていた「ニミッツ」では、乗組員と搭載する70機の航空部隊合わせて約5千人を1カ月間隔離しました。発病リスクのある2週間を優に超える期間、徹底的に管理して万全な態勢で洋上に出したのです。横須賀の「ロナルド・レーガン」でも感染者が出ましたが、これもたちまち態勢を整え、出港させました。

佐藤 アメリカはこれまでに750万人近い世界最大の感染者数を出し、死者も20万人以上ですが、軍隊はまったく対応が違いますね。

香田 トランプ大統領の方針とは関係なく、軍は軍で情報収集を行い、冷静に情勢判断して対応しています。もちろん中国の動きを睨みながらです。その結果、6月には「レーガン」「ニミッツ」とコロナから回復した「ルーズベルト」の原子力空母3隻が太平洋に同時展開しました。これは北朝鮮情勢が緊迫した2017年11月以来のことです。8月に米軍全体の機能が正常に戻るまで、アメリカは4カ月間、踏ん張ったのです。

佐藤 4月から7月くらいまでが、知られざる危機だったのですね。

香田 一番危ない時期でした。

台湾有事で沖縄侵攻も
佐藤 中国はアメリカが混乱する機を常にうかがっている。

香田 これから行われる大統領選もそうです。4年ごとに訪れる大統領選は、アメリカの分裂、混乱を招くきっかけともなりますから、そこを注視している。

佐藤 そうした混乱期をとらえるにしても、軍事力の差がある中で、中国には台湾統一に向け、どんなプランがあるのでしょうか。

香田 アメリカに十分な軍事力を発揮させない前提で、三つの道があると考えられています。一つは、台湾の社会や経済活動に香港以上の自由度を保証すると宣伝して大多数の賛同を集める。そして反対する人たちだけを特殊部隊で一気に制圧して統一する方法です。これは台湾人の同意のもとに中国が併合する形ですから、流血は極めて少なく済みます。また国際社会には内政問題とアピールできますから、アメリカとしても手を出しにくい。ただ、香港が強引に中国に飲み込まれてしまったいま、このプランは難しいでしょうね。

佐藤 一国二制度の実質破棄は、台湾に強烈な印象を残したでしょう。

香田 二つ目は、経済的に立ち行かなくさせて占領する。実は台湾の石油の備蓄量は、ものすごく少ないのです。石油危機を経験した日本は、200日分はありますが、台湾は約10日分と言われています。しかも脱原発を進めています。だから海上封鎖で10日ほど干上がらせてしまえば、電気がなくなり、台湾が息切れします。そこに攻め込む。

佐藤 アメリカは動きますよね。

香田 10日もあれば、ホワイトハウスも腹を決めるには十分です。

佐藤 あくどいやり口ですが、台湾の政府も抵抗しているとなれば、アメリカとしても軍事介入の名目が立つ。

香田 そして三つ目のシナリオが武力統一です。

佐藤 普通なら正面切って切り込まないでしょう。

香田 もちろん台湾を懐柔して入る第一のプランが一番いいわけで、最初から大きな損害を覚悟してというのは、なかなか考えにくい。ただ混乱に乗じるなど、アメリカがすぐに対応できない状況なら、可能性はあります。この時、問題なのは台湾有事が「日本有事」にもなることです。

佐藤 どのような形で日本が巻き込まれるのですか。

香田 人民解放軍は陸、海、空、海兵隊などを合わせ、約200万人です。うち陸軍が100万人です。それが5軍区に分かれていて、例えば西部軍区は、チベットを睨みつつ、インド、パキスタンを担当していますし、北部軍区は日本と朝鮮半島を見ている。台湾侵攻の最大の問題は、130キロの台湾海峡を越えて行かなければならないことです。数十万人の地上軍を集めて送るには、一定期間、米軍の干渉を排除し、制海権、制空権を握らなければならない。

佐藤 米軍が来る前に台湾へ渡りきらないといけないわけですね。

香田 そこが難問で、いざ中国が兵力を集め始めたら、アメリカは1990年にサダム・フセインがクウェートに侵攻した時と同じように、短期間で空母機動部隊5隊を集めます。米空軍も同じです。すると海峡を横断中にやられてしまう。その際、米軍は日本政府と交渉していくつかの基地を使うでしょう。そして台湾海峡だけでなく、人民解放軍の出撃基地、ミサイル発射基地も叩きます。8月に中国がミサイルDF26と21Dを南シナ海に撃ちこんだ基地です。

佐藤 軍事作戦としては当然でしょうね。

香田 だから中国にすれば、台湾だけを考えていたらダメなのです。米空軍を擁する沖縄の嘉手納基地が脅威になるし、与那国、石垣、宮古の各島にも2千メートルの滑走路があり、F15戦闘機がギリギリ発着できる。そんな物騒なものがあったら、台湾侵攻の脇腹をやられるだけでは済まない。だからそれらが米軍に使われないように、取りにきます。一方で台湾が実効支配している東沙(プラタス)諸島にも侵攻する。いまは1200メートルの飛行場しかありませんが、南沙諸島で中国が使った工法によれば、3千メートルの滑走路を造成できます。

佐藤 台湾の北も南も基地になりそうな場所は同時に取りにくるわけですね。

計画も作れない自衛隊
香田 やるとなったら、中国軍は台湾の両側をきちんと押さえ、まなじりを決してやります。そんな時に、話せばわかると言ったって意味がない。だからそうなる前に政治と外交で全力を尽くさなければなりませんが、三つ目の事態、すなわち武力侵攻になった時に、日本は何をするか準備しておくことが必要です。そこで問題なのは、台湾で有事でも先島は有事ではないとして、政府が自衛隊に作戦計画を作るのを許さないことです。

佐藤 だいたい、日本には仮想敵も想定されていません。

香田 さらに言えば、日本人が犯す多くの間違いの根幹にあるのは、自衛隊を見る目で各国の軍隊を見てしまうことです。

佐藤 確かに自衛隊と軍隊は似て非なるものですからね。

香田 自衛隊は、世界の軍事力ランキングでは、米露中印日韓仏英の順番で、けっこう強い軍事力を持っています。けれども憲法と政治の制約があって、軍隊としての機能は著しく制限されます。例えば、尖閣諸島のどこかに正体不明の人間が上陸して五星紅旗(中国国旗)を振っているとしましょう。これにどう対応するかといえば――。

佐藤 沖縄県警ですね。

香田 はい。それが一般市民なのか、武装漁民なのか、あるいは特殊部隊なのか、まず見にいくのは、沖縄県警と海上保安庁です。でも中国が本気で仕掛けてきたのなら、ただのチンピラが来るわけがない。県警と海上保安庁の部隊が重火器でやられて屍の山を築くことになります。それで初めて自衛隊の偵察だということです。自衛隊が出るにしても自衛隊法で縛られている。そこで防衛省設置法第4条の「調査・研究」で出動しますが、その任務だと丸腰です。それがやられてしまう頃には、相手は周りを固めているでしょう。

佐藤 散々な展開ですね。

香田 これがアメリカなら、自国の島を占領して中国国旗を振っているなら、それを国家意思による活動と見なして警告を発した上で、降伏、投降しない場合には蜂の巣にして対処終了です。米軍も人民解放軍もそうした組織です。だから自衛隊が外国の軍隊と軍事交流をするのは、本来の軍隊はどんなところかを見るためでもあるのです。

佐藤 国際的な紛争を考える際に、日本の自衛隊の尺度で対応策を立てると大きく間違えてしまうわけですね。

香田 米ソ冷戦の時代は、ソ連に対してそうした事態を考えなくてもよかった。全面核戦争につながる恐れがありましたから、抑止が主目的でした。つまり、ソ連が実際に動く公算は極めて小さかったのです。でも中国は違います。こと台湾の場合、国内事項と言っていますから、国際社会が何を言おうと、アメリカが刀を抜かないと判断したら、取りにいきます。その際、人民解放軍を自衛隊の延長だと考えると、大きな被害を出すことになる。

佐藤 政治家はわかっているでしょうか。

香田 2015年に第3次安倍内閣で平和安保法制が成立しましたが、その後、政府と官僚はこうした残された問題に取り組まず、寝てしまっています。台湾や朝鮮半島の有事の際に、自衛隊がどういう警戒監視体制を敷いて、日米がどのような協力体制を作るかなど、法案が通ったすぐ後から始めなければなりませんでした。

佐藤 それができないのは、ある意味、当然です。公明党が連立政権に入っている以上は難しい。代表の山口那津男氏は、平和安保法制で認められた集団的自衛権について、あれは個別的自衛権の範囲だと言っています。自公で齟齬があれば、政治的にこの問題を寝かさざるを得ない。

香田 自衛隊は訓練していないことはできません。それは他の国の軍隊でも同じです。そしてその元となるプランニングがなければ、有事に対応しようがない。

佐藤 相手はプランニングがあって訓練もしているわけですからね。軍事的合理性から考えたら、あらゆる事態に備えて、どう準備しておくか考えるのは当たり前です。

香田 唯一の救いは、台湾有事とは関係なく始めた「南西諸島防衛構想」が政府のオーソライズされた政策になったことです。私から見れば、微々たる進歩ですが、与那国島に続き2019年から自衛隊が宮古島や奄美大島に駐留、駐屯を始めました。ただ中国の先制攻撃の際に、増援兵力が来るまで、少なくとも数週間は持ちこたえる必要があります。さらにその時の日米の作戦計画も必要です。でも私の知る限り、そうしたものはありません。

佐藤 そこは政治のリーダーシップの問題になってきます。

香田 今回、香港での一国二制度という国際的な約束が反故にされました。中国が、約束があっても自分の都合であんなものはなかったと、意味がないんだと、平気で言う国であることが改めてわかった。だからアメリカだけでなく、一時は中国に目がくらんでいたイギリスもオーストラリアも大きく対中政策を転換させています。日本も、いまこそ一から対中政策全般を練り直さなければならないと思います。

香田洋二(こうだようじ) 元海上自衛隊自衛艦隊司令官
1949年徳島県生まれ。72年防衛大学校卒業(第16期)、海上自衛隊入隊。92年米海軍大学指揮課程修了。2003年護衛艦隊司令官、05年佐世保地方総監、07年自衛艦隊司令官などを歴任して、08年に退官。09~11年ハーバード大学アジアセンター上席客員研究員。現在は、ジャパン マリンユナイテッド顧問。』

米上院、最高裁判事にバレット氏承認へ 保守派女性

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65489650X21C20A0MM0000/

『【ワシントン=中村亮】米議会上院は26日夜の本会議で、トランプ大統領が連邦最高裁判所判事に指名した保守派エイミー・バレット氏(48)の承認について採決する。与党・共和党の賛成多数で承認する見通しだ。トランプ氏は保守派有権者の価値観に近い判事の承認を通じ、来週に迫った大統領選へ巻き返しを目指す。

判事承認には上院(定数100)で過半数の賛成が必要だ。共和党は53議席を握る。大統領選の直前に採決することに反対してきた共和党のリサ・マカウスキ上院議員は24日、賛成票を投じる立場に転じた。これにより共和党からの反対は1人にとどまり、52人が賛成するとみられる。民主党議員47人(無所属含む)は反対に回る見込みだ。

トランプ氏は9月下旬、膵臓(すいぞう)がんのため亡くなったリベラル派のルース・ギンズバーグ判事の後任にバレット氏を指名した。承認されると女性として5人目の最高裁判事となる。バレット氏は保守派として知られ、中西部のインディアナやウィスコンシン、イリノイの各州を管轄する連邦控訴裁の判事を務めてきた。

バレット氏が承認されれば、最高裁は長期にわたって保守寄りの判断を下す可能性が高まる。最高裁判事9人のうち少なくても5人が保守派になるからだ。保守派は人工妊娠中絶やLGBT(性的少数者)の権利に否定的で、個人の銃保有に賛成する傾向が強い。低所得者に医療保険加入を促す制度にも批判的だ。判事は終身制のため死亡するか、辞任しない限り職務を続けられる。

最高裁は米社会に大きな影響を及ぼすため国民の関心が高い。1954年に公立学校での黒人隔離を違憲と判断し、人種差別是正に向けた画期的な判決となった。妊娠中絶については73年に女性の権利とする歴史的判決を下した。2000年には大統領選の決着にも関わった。

トランプ氏は支持基盤の保守派有権者に対し、最高裁を保守寄りにした成果をアピールする。採決に先立ち、26日の東部ペンシルベニア州での選挙集会で「神に与えられた自由を守るため私はバレット氏を指名した」と語ると、支持者から大歓声があがった。「彼女はすばらしい。(最高裁に)長くいることになるだろう」とも強調した。』