中印、雪解け遠い国境対立 ブラーマ・チェラニー氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD081600Y4A400C2000000/
『2024年4月13日 2:00
ヒマラヤの国境地帯での中国とインドの対立は、世界の他の地域で激しい戦闘が繰り広げられていることを踏まえれば、最近は国際的な注目を集めることはあまりないかもしれない。だが、にらみ合いが再び武力衝突に発展する恐れを軽視することはできない。
インドのジャイシャンカル外相は3月、中国との係争地域について「非常に緊迫して危険な状況だ」と述べた。双方とも兵力と武器の配備を大幅に強化し、戦争が起きる可能性に備…
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『双方とも兵力と武器の配備を大幅に強化し、戦争が起きる可能性に備えている。5年目を迎えた国境での対立は、2020年4月に中国がインド北部のラダック地方に侵入したことが引き金となった。平年であれば厳しい冬が終わり、氷が解けてヒマラヤへのアクセスルートが再開される直前のことだった。
今年の春の雪解けと中国の新たな挑発の可能性を前に、インドはさらに1万人の部隊を係争地域に移動させた。インドのアラマネ国防次官は2月、「20年と同じような状況が繰り返される可能性があるため我々は常に注視している」と語った。
中国も兵力を拡大し、辺境地帯に戦争関連のインフラを猛烈な勢いで建設している。中国は新たに軍事化した国境地帯の村に入植者を送り込み、これらの場所は南シナ海に建設した人工島と同じ役割を果たしつつある。
ラダック地方では約10万人の兵士がにらみ合いを続ける。ヒマラヤ東部では、チベットとインドのアルナチャルプラデシュ州との国境沿いでも軍隊が対峙している。
国境対立の緊張緩和に向けた話し合いはほとんど進んでいない。
インド軍は中国がラダック地方から撤退するまで、にらみ合いは続くと言及している。モディ政権は多くの中国製アプリを禁止し、特定の中国企業による投資も阻止しているが、中国への広範な制裁を科すには至っていない。その結果、国境での対立が続くにもかかわらず、中国の対印年間貿易黒字は増加の一途をたどり、足元ではインドの年間国防予算を上回る。
モディ氏は、22年11月と23年8月に多国間首脳会談の場を利用し、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と国境対立について短い話し合いを行った。ただ進展はなく、ジャイシャンカル氏は公正な合意が両国間に欠かせないと言及している。
現在、習氏はメンツを失うことなく、ヒマラヤの軍事危機を解決するという難題に直面している。にらみ合いが長引くほど、中国がインドを永続的な敵国とみなすリスクが高まる。
習氏がインドの軍事的な対応を予測できなかったのは失敗だ。
中国との対立によってインドは米国に接近した。インドは大規模な軍事増強に乗り出し、3月に複数の弾頭を搭載して別々の目標を攻撃できる大陸間弾道ミサイルの発射実験に成功したと発表した。
インドは米国やフランスなどから主要な兵器システムも輸入している。
シン国防相は昨年11月、米政府に対して「中国の侵略に対抗することを含め、戦略的な問題で意見が一致している」と述べた。インドが米国との連携を強めている状況を習氏が懸念していることは間違いない。
中印は世界で最も古いとされる文明を持つ国である。隣国同士が平和的に共存し、共通の目標を定めて協力する道筋を見つけなければならない。
しかし、習氏と中国共産党が権力を握る間は、世界で最も人口の多い2つの国が和解にむかって進めるかどうかはわからない。
関連英文はNikkei Asiaサイト(https://asia.nikkei.com)に。原文は3月22日付。
チベット併合、問題の根源
20世紀半ばまでインドと中国に国境問題は存在しなかった。両国の間にはチベットという広大な緩衝地帯があったからだ。
中華人民共和国が建国後、力で一方的にチベットを併合した結果、約3500キロメートルに及ぶ中印国境線がにわかに存在し始めた。
つまり、インドからみると中印国境問題とは完全に中国の侵略行為が根源だ。
北部のラダック地方や東北部のアルナチャルプラデシュ州などインドが実効支配する地域に領有権を主張する中国の言い分は受け入れがたい。
国際社会はチベットに対する中国の侵略とその後の圧政を放置してきた。
ダライ・ラマ14世の亡命を受け入れ、軍事衝突も辞さず国境で中国と対峙するインドは、いわばその代償を負っている。中印国境問題に世界はもっと関与してもよい。
(編集委員 小柳建彦)』