海洋エネルギー・鉱物資源開発計画
令和6年3月2 2日 経済産業省
https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/strategy/pdf/report2403.pdf
『総論
陸域のエネルギー・鉱物資源に乏しい我が国は、その需要量のほぼ全てを海外から
の輸入に頼ってきた。また我が国は常に、資源国やシーレーンにおける情勢変化等を
背景とした供給不安に直面するリスクを抱えており、エネルギー•鉱物資源の安定供
給確保は、我が国が抱える大きな課題であり続けている。
こうした課題を克服するためには、我が国の領海・排他的経済水域の海底及びその
下並びに延長大陸棚(注D (以下、「我が国周辺海域」という。)に広がる海洋エネルギ
一 ・鉱物資源(注のを活用していくための中長期的な取組を継続していくことが重要で
ある。
我が国周辺海域には、石油・天然ガスに加え、メタンハイドレートや海底熱水鉱床
などの海洋エネルギー ・鉱物資源の賦存が確認されている。これらの資源は、商業化
がなされれば、国際情勢や地政学リスクに左右されず我が国の自給率の向上に資する
貴重な国産資源である。しかしながら、これら海洋エネルギー・鉱物資源を開発して
いくためには、賦存量・賦存状況の把握、生産技術の開発とそれに伴う環境への影響
の把握等の取組を一つ一つ着実に、かつ中長期的な視点から計画的に推進していく必
要がある。
2007年7月に新たに海洋立国日本の実現を目指して、「海洋基本法」が制定され
た。同法に基づき2008年3月に策定された「海洋基本計画」(以下、「基本計画」と
いう。)においては、海洋エネルギー ・鉱物資源の開発を計画的に推進するため、「海
洋エネルギー ・鉱物資源開発計画」(以下、「開発計画」という。)を策定することが
定められた。
これを受け、総合資源エネルギー調査会の審議を経て、2009年3月に、
10年間の中長期計画となる開発計画を策定した。開発計画では、海洋エネルギー ・鉱
物資源の種類ごとに、開発の目標と達成に至る道筋、必要となる技術開発、官民の役
割分担等を定めた。
その後、我が国周辺海域を取り巻く情勢の変化、海洋エネルギー・鉱物資源開発・
利用への期待の高まり、探査や技術開発といった開発計画の進按状況等を踏まえ、5
年ごとに計画の見直しを行い改定が行われている。
近年、気候変動問題が人類共通の課題として認識される中、2020年10月日本でも
「2050年カーボンニュートラル」を表明し、2021年4月には、2030年度までに2013
年度比C02排出量46%削減さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの方針が示され
た。2021年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画においても、2050年カーボ
ンニュートラル目標や2030年46%削減目標の実現に向けたエネルギー政策の道筋
が示された。
エネルギー基本計画においては、脱炭素化の取り組みが重要視される
中、安全性の確保を大前提にした安定供給の確保やエネルギーコストの低減、環境へ
の適合いわゆる「S + 3E」の取り組みを進めることとしている。
また、2050年カーボ
ンニュートラル等の国際公約と産業競争力の強化を通じた経済成長を同時に実現する
いわゆる「GX実現」に対応するため、蓄電池、モーター、半導体などの材料としての
鉱物資源の重要性が指摘されている。
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新たな開発計画は、このような資源・エネルギー政策を取り巻く環境変化を踏ま
え、国内に存在する資源については商業化がなされれば、国際情勢や地政学リスクに
左右されない我が国の貴重な国産資源であるとの認識のもと、国主体の事業を通じて
探査や技術開発に取り組むことに加え、カーボンニュートラルにむけては、CCS(注3)に
も取り組んでいく。
具体的には、海洋エネルギー ・鉱物資源(メタンハイドレート、
石油・天然ガス、海底熱水鉱床、コバノレトリッチクラスト、マンガン団塊、レアアー
ス泥)に加えて、CCSを新たな分野とし、国内における商業化に向けた資源の探鉱・
開発を進めていくこととしている。
なお、海洋エネルギー・鉱物資源開発は、世界的にも例が少なく先端的であると同
時に、不確実性が高く極めて難度の高い技術開発という特性がある。
こうした特性を
踏まえ、開発計画は、実証実験を実施する等科学技術力の着実な進展にも注力した上
で、商業化に向けた見直しが可能な柔軟!’生を持たせることとしている。』
『第1章メタンハイドレート
1.1背景
メタンハイドレートとは、低温高圧の条件下で、水分子にメタン分子(天然ガス)
が取り込まれ、氷状になっている物質(包接化合物)である。
メタンハイドレート
は、「燃える氷」と称されているが、温度を上げる、ないしは圧力を下げるなどの変
化を与えると、水分子と気体のメタン分子に分離する。
分離されたメタン分子は天
然ガスの主成分と同じものであり、メタンハイドレートは、近年北米で生産が拡大
しているシェールガスと同様に非在来型資源として位置づけられる。
また、メタン
ハイドレートは、世界でも、水深の深い海底面下や極地の凍土地帯の地層に広く分
布している。
我が国周辺海域に賦存するメタンハイドレートは、主に2つの賦存形態が確認さ
れている。
砂層型メタンハイドレートは、水深500m以深の海底面下数百mの砂質層
内の砂の隙間を埋める状態で存在し、主に東部南海トラフ海域を中心に賦存が確認
されている。
表層型メタンハイドレートは、水深500m以深の海底面及び比較的浅い
深度の泥層内に塊状、粒状、板状及び脈状で存在し、主に日本海側を中心に賦存が
確認されている。これらメタンハイドレートは、我が国周辺海域に相当量の賦存が
期待されており、我が国のエネルギー安定供給に資する重要なエネルギー資源とし
て、商業化に向けた技術開発に取り組んでいる。
1.2 これまでの取組み
(1)砂層型メタンハイドレート
a)次回海洋産出試験等に向けた取組
イ)これまでの技術開発成果の総合的な検証
第1回及び第2回の海洋産出試験を実施し、数週間程度の連続生産を実
現した。しかしながら、商業化のためには、長期かつ安定的に生産可能
な技術の確立が不可欠であることから、今後の長期生産試験に向け、こ
れまでの結果の総合的な解析•評価を実施し、安定生産阻害要因として
水理的要因(水供給の過剰による減圧の妨げ、坑井周辺の圧力損失によ
る減圧の伝達の妨げ)と熱的要因(メタンハイドレートの分解に必要な
熱が周囲の地層から十分に早く供給されない)の2つに絞り込んだ。
水理的要因については、水供給過剰や坑井周辺の圧力損失の観点で目
標•解決すべき課題•解決策を整理し、新たな技術も導入することで課
題解決に向けて取り組んでいる。熱的要因については、水理的要因とと
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もに長期陸上産出試験により確認すべき課題と位置づけ、同試験で取得
される温度データ等に基づき評価する計画である。
ロ)生産技術の開発
生産技術を開発する上で、メタンハイドレートが賦存する砂質層であ
る貯留層の温度や浸透率等を把握・評価(貯留層評価)し、これらの情
報を踏まえて、生産性及び生産挙動を予測するための高精度な生産シミ
ュレーションを構築することが不可欠である。
そのため、貯留層評価に
関しては、地震探査データ、物理検層データの解析結果、コア分析デー
タ、海洋産出試験時及び試験前後のモニタリングデータ等との統合的な
解析を実施し、その結果も踏まえ地質・貯留層モデルの更新を行った。
また、貯留層シミュレーション(ヒストリーマッチング)により、予測
と実際の生産量等のかい離の要因を推定した。
また、これまで検討してきた技術的課題の解決策の検証を行うととも
に、長期的な生産データを取得し、長期生産に伴う課題を抽出すること
などを目的とした長期陸上産出試験に向けては、層序試錐井で得られた
データ、地震探査データ、物理検層データ、コア分析データ、並びに層
序試錐井の坑井内地震探査データ等に基づき、二次元及び三次元の地
質・貯留層モデルを構築の上、生産挙動予測を実施し、坑内機器などの
生産設備の仕様に反映するとともに、長期陸上産出試験に向けたデータ
取得井及び生産井の掘削・仕上げ作業の実施並びに地上試験設備の設
置・試運転作業等を行い、2023年9月から試験を実施している。
また、坑
井内に設置したセンサーを用いた地層温度等の測定や、生産に伴う地表
面変位を把握するためのベースラインデータ(標高データ)の取得を継
続的に実施している。
メタンハイドレートからのガス生産の一連の設備・施設を含めた生産
システムに関しては、次回海洋産出試験において実現性の高い候補案の
関連技術情報収集を継続するとともに、安定生産阻害要因の対策や生産
量増加策の検討、次回海洋産出試験に向けた工程検討、関連法規・基準
の整理等を実施している。
ハ)有望濃集帯の抽出に向けた海洋調査
次回海洋産出試験の候補地選定のため、有望濃集帯候補海域のうち三
次元地震探査データが存在しない2海域において、基礎物理探査事業での
データ取得及び当該データを用いた濃集帯解釈作業を行うとともに、有
望濃集帯候補海域において地質データを取得した。
その結果を踏まえて
原始資源量を推定するとともに、志摩半島沖の100億m3以上の原始資源量
が期待される2つの有望濃集帯候補において、メタンハイドレートの分
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解・ガス生産特性把握に資するより詳細な地質データを取得するための
試掘•簡易生産実験を実施した。
-)環境影響評価
過去の海洋産出試験の掘削•廃坑等の環境影響に関するデータを取得
するとともに、自然環境の変動を把握するために、黒潮大蛇行時の黒潮
の流入状況及びそれに伴う水質やプランクトン類の組成等への変化を把
握するためのデータを取得した。
また、有望濃集帯候補海域において既
存の環境データを収集し、各海域の環境面での特徴や留意事項、新たに
取得が必要な環境データ等を整理するとともに、試掘対象海域での海底
環境調査により、流況、底質及び底生生物に関する新規データを取得し
た。さらに、取得した環境データを活用し、環境影響評価のためのシミ
ュレーション検討を実施した。
b)長期的な取組
イ)生産量向上・コスト低減などの個別技術における新しい技術の取り込み
(オープンイノベーション)
安定生産•生産量向上・コスト低減などの個別技術課題について、民
間企業・研究機関等の持つ技術とそれらの適用性を調査し、例えば、出
砂対策等としての適用も期待される地層固化技術に、天然に存在する微
生物を利用する新たなコンセプトを導入し、日米にて特許を取得した。
ロ)我が国周辺海域の資源量評価
我が国周辺海域におけるメタンハイドレートの賦存ポテンシャルを把
握する観点から、新たにデータ公開された海域等の物理探査データを用
いて、BSR (注のマップを改定した。また、有望濃集帯候補を抽出し、原
始資源量を推定した。
注 4) BSR :
反射法地震探査で観測される海底疑似反射面(Bottom Simulating Reflector)
の略で、メタンハイドレートの安定領域下限の指標として用いられる。
ハ)経済性の確保や環境保全など、商業化に必要な条件の検討
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商業化に必要な要件や商業開発に関わるステークホルダーを抽出・整
理し、ヒアリングを実施した。
また、多様な濃集帯条件における商業開
発プロジェクトの実現可能性や経済性の評価ツールを構築した。
更に、
2020年のカーボンニュートラル宣言を踏まえ、水素・アンモニア製造
及び CCUS (Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage) を考
慮した販売ビジネスモデルの検討と、それに合わせた開発システムの候
補を抽出し、その実現可能性について技術面や経済面からの評価を実施
している。
c)その他
砂層型メタンハイドレートに関する研究活動を分かりやすく伝え、効果
的な理解増進に資することを目的として、成果の普及・情報公開を推進して
いる。
(2)表層型メタンハイドレート
a)海洋産出試験等に向けた取組
イ)生産技術の開発
日本海を中心としたio海域における資源量把握に向けた調査結果に関
する外部有識者による検証を行った。
その結果、不均質である等の存在形
態も踏まえた生産手法を新たに検討する必要性が改めて認識され、技術を
広く公募することとし、2016年度より提案公募型による回収技術の調査
研究を実施した。
本調査研究には6つの技術提案があり、2019年度に
は、6つの技術提案に関して、外部有識者による評価及び回収•生産に係
る要素技術ごとに有望技術の特定を行い、有望技術に関して、2020年度
から各要素技術の開発を開始した。
また、これら要素技術の組合せや生産
システムとしての検討を行う上で必要となる共通基盤技術に関する検討も
併せて開始した。
2021年度には、要素技術開発の進抜に併せて外部有識者による評価委
員会にて評価を行い、大口径ドリルを用いた広範囲鉛直採掘方式をベース
として、他の要素技術(分離/揚収)の組み合わせを考慮し、生産システム
として最も優れた組み合わせの検討を進めている。
また大口径ドリルの掘
削機能(掘削刃ごとの掘削物形状、掘削速度、掘削物の吸引能力等)の確
認のために、メタンハイドレートを模擬した大型氷や模擬地盤などを用い
た掘削実験を行い、掘削刃及び機器選定に必要となる基礎データの取得を
行った。
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ロ)海洋産出試験の実施場所の特定に向けた海洋調査
表層型メタンハイドレートの回収•生産技術の開発に資するためには表
層型メタンハイドレートの賦存状況や海底の現場状況等を十分に把握する
ことが必要である。
そこで、将来の表層型メタンハイドレートに係る海洋
産出試験を見据え、2013年度から3年間実施された資源量把握に向けた調
査の結果を踏まえ、日本海を中心とした10海域から地質構造が異なり様々
な調査データが揃っている3海域(酒田沖海域、上越沖海域及び丹後半島北
方海域)をモデル調査海域として選定し、これまでの調査ではまだ十分な情
報が得られていない海底下の表層型メタンハイドレートの賦存状況やメタ
ンハイドレート賦存海域の海底の状況等を把握するための海洋調査を実施
した。
ハ)環境影響評価
2019年度に実施した、国内外で先行する大規模な海洋開発事業•技術
とそれらの環境影響評価の進め方、法的な位置づけ等に関する調査結果を
受けて、生産技術の違いによって環境影響が大きく異なることが予測され
るため、開発の対象となる海域の事前の環境ベースラインデータを適切に
収集することの重要性が確認された。
そこで、2020年度より、表層型メ
タンハイドレートが賦存する海域における環境評価手法、環境モニタリン
グ手法及び種々の分析技術の導入と検討を行い、酒田沖や上越沖などのモ
デル調査海域における物理•化学及び生物学的特性などの把握に必要な海
域環境調査を実施した。
海洋調査船及び遠隔操作型無人潜水機(ROV)
による海洋観測、海底観察、環境試料(海水・生物・堆積物・岩石試料)
の採取を行い、最新の手法を含む様々な分析、解析を実施する筋道を立て
ることができた。
また、最新の遺伝子解析技術を用いた評価手法の検討、
開発に伴う生物影響のための暴露試験法の検討や、注視すべき水産有用種
に係る情報収集を進めた。さらに地盤強度調査時には、掘削に伴う環境擾
乱を対象とした事前、事後及び長期的な環境調査を実施した。
b)長期的な取組
イ)経済性の確保や環境保全など、商業化に必要な条件の検討
商業化に必要な様々な条件の検討を行うために、パプアニューギニアで
商業生産を目指して進めていた海底熱水鉱床開発プロジェクトの採鉱シス
テムを参考に、表層型メタンハイドレートの開発に関する基礎的な経済性
評価モデルを構築して、検討に着手した。
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1■ 3課題
(1)砂層型メタンハイドレート
①次回海洋産出試験等に向けて解決すべき技術課題
a) 生産挙動予測と可採量評価
生産挙動予測や可採量評価に係る技術は、生産システムの設計や経済性評
価を行う上で必要不可欠なものである。
一方、これまで実施された陸上・海
洋の産出試験においては、数値シミュレーションによる事前の予測と実際の
結果にかい離が生じており、その要因については、検討の結果、生産に伴う
坑井周辺の圧力損失の増加等の可能性が挙げられたものの、その理由は依然
として十分には明らかになっていない。
このため、2023年夏に実施した志摩
半島沖での試掘•簡易生産実験データや現在実施中の長期陸上産出試験の結
果も踏まえた評価作業を通じて、本技術の信頼性向上を図る必要がある。
b) 長期生産挙動の把握
これまでに実施された海洋産出試験では1坑井当たりの生産期間は最長で
も数週間であり、長期安定生産等に関する十分なデータが得られておらず、
また、長期安定生産等に関する技術も実証されていない。
そのため、商業化
を目指す上で不可欠である長期的なガスの生産挙動を確認し、長期的に安定
生産が可能な技術を確立するためには、より長期の産出試験が必要である。
c) 海洋産出試験の対象となる有望濃集帯の選定
試掘・簡易生産実験の結果、出砂対策装置や貯留層不均質性に起因する課
題が認められ、次回海洋産出試験の実施候補地点を抽出するためには、メタ
ンハイドレートの分解^ ・ガス生産特性把握に資する更なる地質データが必要
であることから、地質データ取得作業(簡易生産実験を含む)を行う必要が
ある。
d) 環境影響評価
過去の海洋産出試験等での海底面観察結果等をもとに、掘削・廃坑等の作
業に伴う海底環境への影響をより詳細に把握するためのシミュレーション検
討を実施するとともに、有望濃集帯として絞り込まれた海域の環境データを
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継続取得し、次回海洋産出試験の環境影響の予測•評価のためのベースライ
ンデータを整理する必要がある。
②長期的に取り組むべき課題
a)我が国周辺海域の資源量評価
我が国周辺海域のメタンハイドレート資源量の詳細を継続的に評価する
必要があるため、新たな地震探査データが入手された海域においては、デー
タ取得される都度、分析・評価を行い、BSRの解釈を実施し、BSRマップの
改定を続け、有望濃集帯候補が確認されたならば、その資源量評価を実施す
る必要がある。
また、必要に応じ、資源量評価の不確実性低減のための地震
探査データ再処理や、高精度・高分解能の地震探査データの新規取得検討を
実施する。
新たな調査データが取得される都度、分析・評価を行い、我が国
周辺海域の資源量を継続的かつ信頼性を向上させた評価を行う必要がある。
b)経済性の確保や環境保全など、商業化に必要な条件の検討
将来の商業化に向けたプロジェクトで想定される開発システムは、需要家
が求める条件や、経済性の確保、環境保全など、商業化に必要な条件を踏ま
える必要があることから、商業化に必要な要件に関する詳細検討、ステーク
ホルダーへのヒアリング、及び評価精度を上げるための情報収集を行い、そ
れらの結果をもとに事業化シナリオ案を改定する必要がある。
(2)表層型メタンハイドレート
①海洋産出試験等に向けて解決すべき技術課題
a)生産技術の開発
2022年度に実施した掘削実験にて、大口径ドリル方式によって回収され
るメタンハイドレートや泥などの回収物の様態に関する知見が得られたの
で、これらの流体を対象とした分離/揚収技術に関する技術開発を進める必要
がある。
また、各要素技術との組合せや生産システムとしての検討を行うた
めに実施していた共通基盤技術の取りまとめを行い、表層型メタンハイドレ
ートを回収・生産するための各要素技術に関する技術整備を進める必要があ
る。
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b) 海洋産出試験の実施場所の特定に向けた海洋調査
2023年度までに実施した海洋調査において表層型メタンハイドレートの
賦存状況や海底状況等を把握するためのデータを取得したが、試験候補地の
絞り込みに必要なデータが十分ではなかった。そこで、試験候補地の絞り込
みに必要なデータ取得のための海洋調査を引き続き実施するとともに、回
収・生産技術開発及び環境調査の進按状況を踏まえ、試験の実施場所を検討
していく必要がある。
c) 環境影響評価
これまでの調査航海などの結果より、環境影響評価に関する基盤的な技術、
特に環境ベースラインデータの取得に係る観測手法について進展があったが、
観測精度の向上や自然変動の把握のためにはメタンハイドレート賦存域を含
む広い海域での長期的かつ繰り返しによるデータの集積が必要である。
また生産技術として、大口径ドリル方式において海底表面を直接掘削
し、掘削泥を海底に再配置する方式が想定されているが、これらの技術の実
用化における海底環境への影響評価が重要であり、そのための影響予測シナ
リオの精緻化、影響の監視(モニタリング)技術の高度化、影響の最小化に
資する対策技術の検討が必要である。
②長期的に取り組むべき課題
a)経済性の確保や環境保全など、商業化に必要な条件の検討
経済性を検討するための参考となる具体的なデータが少なかったが、大口
径ドリル方式による掘削機器の基礎的データの取得などが出来たので、これ
らのデータなどを参考に、経済性や環境影響評価を進める必要がある。
1.4今後の取組み
(1)砂層型メタンハイドレート
① 目標
2030年度までに民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトが開始される
ことを目指して、国は産業化のための取組として、民間企業が事業化する際に必
要となる技術、知見、制度等を確立するための技術開発を行う。
② 計画
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a) 次回海洋産出試験等に向けた取組
イ)生産技術の開発
長期生産挙動のデータを得るため、比較的単純な条件で、かつ海洋と
比べて相対的に低コストで実証可能な陸上での長期産出試験を継続して実
施する。陸上産出試験の実施に当たっては、長期生産技術の実証を行うと
ともに、ガスの有効利用等を図る。
生産挙動予測や可採量評価に係る技術の信頼性を向上させるための研
究開発を実施する。その取組の一っとして、多くの技術分野で活用されて
いるデータ同化技術など、モデリングやシミュレーションによる生産挙動
予測の評価や改善に資する可能性のある技術の適用性検討を進めると同時
に、それに必要な高精度のモニタリングデータの取得についても検討を進
める。
海洋における長期生産技術の確立に向けて、生産阻害要因改善や経済
性改善等に関する技術開発、生産システムの改良を実施するとともに、次
回海洋産出試験の準備を進める。
ロ)海洋産出試験の対象となる有望濃集帯の選定
これまでの海洋調査で絞り込んだ有望濃集帯における試掘・簡易生産実
験の結果を踏まえ、追加取得すべき地質調査内容を精査した上で、改めて
改善された実験手法を用いた簡易生産実験を含む調査に取り組む。
b) 方向性の確認・見直し
「a)イ)生産技術の開発」における陸上での長期産出試験の結果分析・
解析の終了時を目途に、生産技術の開発や有望濃集帯の選定、技術開発の進
按状況等を検証するとともに方向性を確認し、必要に応じて、その後の具体
的な目標やスケジュール等の見直しを行う。
c) 環境影響評価
過去、海洋産出試験や試掘•簡易生産実験等を実施した海域において環境
調査を継続的に実施するとともに、次回の海洋産出試験の候補地点が決まっ
た場合には、その地点における事前の海域環境調査も実施する。さらに、取
得したデータを活用し、環境影響評価のためのシミュレーション検討等を実
施する。
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d) 方向性の確認・見直しの結果を踏まえた海洋産出試験等
「b)方向性の確認・見直し」の結果を踏まえ、選定された有望濃集帯の
生産挙動予測や詳細資源量評価を行い、我が国周辺海域の有望濃集帯におけ
る長期生産挙動の確認と生産技術の実証を目的とした海洋産出試験等を実施
する。
e) 長期的な取組
イ)我が国周辺海域の資源量評価
我が国周辺海域におけるメタンハイドレートの賦存ポテンシャルを把
握する観点から、物理探査データを用いて、BSRマップの改定を継続して
実施し、有望濃集帯候補の抽出と資源量の推定を実施する。有望濃集帯候
補を抽出した際は、より詳細な地質データを取得するための探査•試掘等
の調査について検討する。
ロ)経済性の確保や環境保全など、商業化に必要な条件の検討
経済性の確保や環境保全など、メタンハイドレートの商業化に必要な
条件を、我が国のエネルギー安全保障に最大限資するという観点を失する
ことなく、継続的に検討する。また、今後の研究開発上で必要となるカー
ボンニュートラルに関する検討なども行う。それらの条件を踏まえ、技術
開発の内容や将来の商業化に向けたプロジェクトで想定される開発システ
ムを柔軟に見直す。
f )その他
技術開発を効率的に進めるため、組織•分野横断的なチームの設置や、民
間企業・大学・研究機関の知見を取り込むための専門家の配置など、研究体
制を工夫するとともに、他の研究分野との連携を図る。また、砂層型メタン
ハイドレートに関する研究活動を分かりやすく伝え、効果的な理解増進に資
することを目的として、成果の普及・情報公開を推進する。さらに、次のス
テージに移行する条件を明確にし、その移行期には進按や成果を検証して、
方向性の確認・見直しを行う。
(2)表層型メタンハイドレート
①目標
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2030年度までに民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトが開始され
ることを目指して、国は産業化のための取組として、民間企業が事業化する際に
必要となる技術、知見、制度等を確立するための技術開発を行う。
②計画
a)海洋産出試験等に向けた取組
イ)生産技術の開発
2023年度中に実施する要素技術•共通基盤技術に関する技術評価の結
果を踏まえ、回収・生産技術の確立に必要な掘削•揚収・分離技術に係る
要素技術開発を進める。掘削技術では、安全で効率的に掘削していく技
術、揚収技術では、深海底から安定的な生産を可能とする技術、及び分離
技術では、掘削されたメタンハイドレートと泥などを分離して、泥などを
安全かつ効率的に処理する技術の確立を目指し、技術開発を進めていく。
具体的には、大口径ドリル方式に関する設計検討や、メタンハイドレー
卜を含む三相流動場の検討に資するデータ取得等を実施し、海洋での技術
検証を目指した要素技術開発を進めていく。また、技術開発の進按等も踏
まえて、生産システムの具現化についても検討を進めていく。
なお、要素技術の開発の進按状況によっては技術検証試験などの計画見
直しも含め、柔軟な対応を行う。
ロ)海洋産出試験に向けた海洋調査
試験候補地の絞り込みに必要なデータ(表層型メタンハイドレートの賦
存状況及び賦存域周辺の海底状況(地盤、底層流、メタンプルーム等))
取得のため、モデル調査海域等における詳細地質調査や高分解能三次元地
震探査等を実施する。そして既存データと併せたデータ解析及び評価を行
い、試験候補地の絞り込みに向けた検討を行うとともに、海洋での技術検
証試験に向けて必要な海洋調査を実施する。
なお、実施場所の絞り込みの状況や生産技術開発及び環境影響評価の進
按状況によっては、海洋調査の計画見直しなど、柔軟な対応を行う。
ハ)環境影響評価
表層型メタンハイドレート開発に適した環境影響評価手法の構築及び回
収•生産技術の開発の高度化のために、海洋調査船、R〇V、AUV (自律型潜
水調査機器)などを用いた実海域での水質•底質•生物相に係る環境ベー
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スラインデータの収集と地盤や底層の物理環境など海底の状況把握のため
の海洋調査を実施するとともに、遺伝子分析や元素分析に係る高性能な装
置を導入し高感度な生態影響評価手法の確立に取り組む。
さらに海洋での
技術検証試験を想定したモニタリング手法の設計と高度化を進める。
なお、海洋での技術検証試験の検討結果によっては、環境影響評価に係
る計画見直しも含め、柔軟な対応を行う。
b) 方向性の確認・見直し
「海洋での技術検証試験」の取りまとめを目途に、回収・生産技術の研究
開発や海洋産出試験の実施場所の絞り込みに向けた海洋調査、環境影響評価
の進按状況を確認し、将来の海洋産出試験への移行の可否など、今後の具体
的な目標やスケジュール等の確認•見直しを行う。
c) 方向性の確認・見直しの結果を踏まえた海洋産出試験等
「b)方向性の確認・見直し」の結果を踏まえ、我が国周辺海域の表層型
メタンハイドレートを対象とした回収・生産技術の実証を行うことを目的と
した海洋産出試験等を実施する。あわせて、海洋産出試験前後における環境
影響評価を行う。
d) 長期的な取組
イ)経済性の確保や環境保全など、商業化に必要な条件の検討
経済性の確保や環境保全など、表層型メタンハイドレートの商業化に必
要な様々な条件を、我が国のエネルギー安全保障に最大限資するという観
点を失することなく、継続的に検討する。それらの条件を踏まえ、技術開
発の内容や将来の商業化に向けたプロジェクトで想定される開発システム
を柔軟に見直す。また、今後、技術開発する上で必要となるカーボンニュ
ートラルに関する検討や技術検証、海洋産出試験のための事前検討なども
行う。
e) その他
回収・生産技術の開発体制や海洋調査データの共有のあり方等について
検討する。また、表層型メタンハイドレートに関する研究活動を国民に分
かりやすく伝え、効果的な理解増進に資することを目的として、成果の普
及・情報公開を推進する。 』