H2Aロケット打ち上げ成功 日本の宇宙開発再開へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC262ER0W3A820C2000000/
『三菱重工業は7日午前、大型ロケット「H2A」47号機の打ち上げに成功した。国産ロケットの打ち上げは次世代機「H3」初号機の失敗で、一時止まっていた。今回の成功は日本の宇宙開発を再開する一歩となる。
H2Aは7日午前8時42分、種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)から定刻通りに打ち上げられた。ロケットは所定の軌道まで上昇し、搭載していた天文衛星「XRISM(クリズム)」と月面着陸を目指す小型探査機「SLIM(スリム)」の分離に成功した。
H2Aは大型ロケット「H2」の後継機として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工が共同開発した。2001年から運用され、07年に打ち上げ業務をJAXAから三菱重工に移管した。打ち上げ成功率は世界最高水準の約98%で、23年1月には46号機も成功していた。
ただ、47号機の打ち上げは、当初計画の5月から延期していた。原因はJAXAが22年10月に小型ロケット「イプシロン」6号機、23年3月にH3初号機の打ち上げにそれぞれ失敗したためだ。特にH3とH2Aは共通する部品が多く、H3の失敗原因を絞り込み、H2Aに追加の安全対策をした。
打ち上げ日は8月26日に設定していたが、天候を理由に3度延期した。気象条件を慎重に判断し、万全を期して打ち上げた。
今回、宇宙空間に運んだスリムは24年1?2月ごろ、月面着陸に挑む。成功すれば日本初となる。従来の探査機の着陸誤差は数キロメートルレベルだったが、これを100メートル以内に抑えた「ピンポイント着陸」に挑戦する。
H2Aの打ち上げに成功し三菱重工やJAXAの関係者は喜びと安堵の表情を浮かべた(7日午前、種子島宇宙センター)
クリズムは地球を周回しながら、銀河やブラックホールから放たれるX線を観測する。宇宙空間の高温ガスをみることで、宇宙の構造が形成された過程や、物質が宇宙に広がる仕組みを明らかにする。
通信衛星の利用の拡大や安全保障上の観点などから、ロケットの打ち上げ需要は高まっている。22年の世界の打ち上げ回数は過去最高の178回となり、21年比で約3割増えた。
日本はH3の失敗以降、自前の宇宙輸送手段を確保できていない状況だった。今回の成功で日本の宇宙開発は再開するが、H2Aの打ち上げは残り3機で終了する。国際的な競争力を向上するには、低コスト化を目指すH3の打ち上げを早期に成功させる必要がある。
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山崎直子
一般社団法人スペースポートジャパン代表理事、元JAXA宇宙飛行士
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ひとこと解説 H-IIA47号機の打ち上げ成功、おめでとうございます。日本の宇宙開発は「自立した宇宙利用大国」を目指してきており、基幹ロケットはその骨幹をなします。2023年3月のH3ロケット初号機の失敗以来、H-IIAロケットへの影響もチェックしてきていたため、関係者の皆さんのプレッシャーは大きかったと思いますが、安定した打上げを遂行できたことで、日本のロケットの信頼回復に大きな一歩となりました。関係者の皆さんへ深く敬意を表します。
今回、XRISMを先に分離した後、2段エンジンを再着火させ、SLIMをより高い軌道まで運び分離をするという挑戦にも成功しており、ユーザーへの利便性も高まっています。
2023年9月7日 9:55いいね
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小玉祥司
日本経済新聞社 編集委員
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ひとこと解説 まずは打ち上げ成功おめでとうございます。X線で天体を観測する天文衛星は、日本が世界的にも実績を積み重ねてきた分野だけに、今後の成果が期待されます。
スリムの月着陸は年明けになりますが、JAXAとしては月を周回して観測する「かぐや」以来約15年の空白を経ての挑戦になります。空白期間の間に中国やインドに先を越されましたが、空白を埋める成果を期待したいものです。
2023年9月7日 9:46 (2023年9月7日 9:46更新) 』