https://www.keio.ac.jp/fixed-files/20260619-press-02-k6goorpx.pdf
『日本人リモート労働者を対象とした研究により、
1 日の歩数が多いことは、ストレス軽減を介して、労働
生産性の向上と関連することが示されました。
本研究結果は、歩行や身体活動を増やすことが、リモート
労働者のストレス軽減とパフォーマンス向上に寄与する実践的方策となる可能性を示しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、リモートワークやハイブリッドワークは一般
的な勤務形態として定着してきました。
このことは、通勤時間を減らし、働き方の柔軟性を高める一方
で、日常生活の中で身体を動かす機会が減り、座位時間が長くなりやすいという課題も指摘されており、
労働者のストレス反応や仕事のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。
本研究では、週に 1 日以上リモートワークを行う日本人労働者 100 名を対象に、身体活動、座位時間、
ストレス反応、および仕事のパフォーマンスの関連を調査しました。
その結果、1 日の歩数が多いほどス
トレス反応が低く、ストレス反応が高いほど仕事のパフォーマンスが低いことが示されました。
これらの
知見に関して媒介分析(因果関係を媒介する因子の影響評価)を行ったところ、1 日の歩数はストレス反
応を介して仕事のパフォーマンスと間接的に関連していました。
一方、低強度身体活動、中高強度身体活
動、および座位時間については、ストレス反応を介した仕事のパフォーマンスとの間接的な関連は認めら
れませんでした。
このことは、単に身体活動の強度別の活動時間を増やすことよりも、日常生活の中で歩
行を含む移動量を確保することが、リモート労働者のストレス反応や仕事のパフォーマンスと関連して
いる可能性を示しています。
これらの結果は、リモートワークやハイブリッドワークにおいて、歩数の確保がストレス反応や仕事の
パフォーマンスと関連する可能性を示しています。
身体活動を取り入れることで、リモート労働者のスト
レス反応の軽減と労働生産性の向上につながると考えられます。
研究代表者
筑波大学体育系
中田 由夫 教授
筑波大学人間総合科学学術院 スポーツ医学学位プログラム
ZOU CHANG 博士課程 3 年
慶應義塾大学総合政策学部
島津 明人 教授
研究の背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックを機に、リモートワークやハイブリッドワーク
といった新しい働き方が定着してきました。
リモートワークは、勤務形態の柔軟性や通勤負担の軽減とい
った利点がある一方で、身体活動注 1)の減少、座位時間の増加、社会的孤立、仕事と生活の境界の曖昧化
をもたらす可能性が指摘されています。
これらは、ストレス反応注 2)の一因となり、仕事のパフォーマン
スに影響を及ぼす恐れがあります。
これまでの研究により、身体活動や座位時間がストレス反応や仕事の
パフォーマンスと関連する可能性が示唆されていますが、リモートワークに対して、同様の関連を調査し
た研究は限られています。
そこで本研究では、リモートワークを行う日本人労働者を対象に、身体活動や
座位時間と仕事のパフォーマンスとの関連において、ストレス反応が媒介変数注 3)となるのかを検証する
ことを目的としました。
研究内容と成果
今回、本研究グループが過去に実施した、日本のオフィス労働者を対象とする2つの身体活動促進介入
研究(Kim et al., 2022; 2024)のベースラインデータを用いて分析を行いました。
これらの先行研究で
は、7 日間連続して腰部に装着した 3 軸加速度計により身体活動を計測し、ストレス反応は「職業性スト
レス簡易質問票(Brief Job Stress Questionnaire; BJSQ)」を、仕事のパフォーマンスは「WHO 健康と
仕事のパフォーマンスに関する質問票(WHO Health and Work Performance Questionnaire; HPQ)」の
絶対的プレゼンティーイズム注 4)項目を用いて測定しています。
このベースラインデータのうち、1 週間あたり少なくとも 1 日はリモートワークを行い、有効な加速度
計データと質問票データを有する 100 人を本研究の分析対象としました。
対象者の平均年齢は 44.3 歳、
女性が 28%であり、1週間あたり平均 3.1 日、リモートワークを行っていました。
また、1 日あたりの平
均歩数は 5,574 歩、平均座位時間は 1 日あたり 630.5 分(加速度計を少なくとも 3 日間、1 日あたり 10
時間以上装着したデータのみ採用)でした。
統計解析として多重線形回帰分析(結果に影響すると思われ
る複数の要因の関係をモデル化する)および媒介分析(因果関係を媒介する因子の影響を評価する)を実
施し、解析のモデルには、年齢、性別、BMI、所属企業、勤続年数、週あたりのリモートワーク日数、居
住形態、および加速度計の装着時間を調整変数として考慮しました。
分析の結果、1 日の歩数が多いほどストレス反応が低い(1 日あたりの歩数が 1,000 歩多いごとに、ス
トレス反応スコアは 1.03 ポイント低い)こと、ストレス反応が高いほど仕事のパフォーマンスが低い(ス
トレス反応スコアが 1 ポイント高いごとに、仕事のパフォーマンススコアは 0.47 ポイント低い)ことが
分かりました。
これらの知見に対して媒介分析を行ったところ、1 日の歩数はストレス反応を介して間接
的に仕事のパフォーマンスと関連していることが示されました(図 1)。
これは、リモートワークにおい
ても、1 日の歩数が多い労働者ほどストレス反応が低い傾向にあり、それが結果として仕事のパフォーマ
ンスの向上につながっている可能性を示唆しています。
今後の展望
本研究結果は、リモート労働者やハイブリッド労働者を対象とした職場の身体活動戦略として、心理的
要因、特にストレス反応を考慮することの重要性を示しています。
雇用主には、アクティブブレイク注 5)
の導入や、日々の身体活動の促進を支援する業務ルーティンの構築などの実践的な対策が求められます。
今後さらに、縦断研究や介入研究のデザインを用いて、身体活動とストレス反応および仕事のパフォー
マンスの因果関係を明らかにしていきます。
また、より多様な職種や職場環境を対象とした研究も進め、
これらの知見がさまざまな勤務形態に広く適用されるかどうかを検証していく予定です。
対象者の年齢、性別、BMI、所属企業、勤続年数、週あたりのリモートワーク日数、居住形態、および加
速度計の装着時間を調整の上、分析した(n = 93)。B は統計解析により推定された回帰係数(原因が結
果に与える影響の程度)、SE は標準誤差、BootSE はブートストラップ法(限られたデータを繰り返し抽
出してばらつきを推測する統計手法)による標準誤差、95% CI は 95%信頼区間を示す。1 日あたりの歩
数が 1,000 歩多いほどストレス反応は低く(B = -1.01)、ストレス反応が高いほど仕事のパフォーマンス
は低い(B = -0.45)ことが示された。また、歩数と仕事のパフォーマンスとの間には、ストレス反応を
介した正の間接効果が認められた(B = 0.46、95% CI [0.08, 1.03])。
用語解説
注1) 身体活動
安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する、骨格筋の収縮を伴うすべての活動。
注2) ストレス反応
不安、疲労感、抑うつ感、身体的な不調など、仕事や生活上の負担に対して生じる心身の反応。
注3) 媒介変数
ある要因と結果との関係において、その関係に間接的に影響を及ぼす変数。
注4) プレゼンティーイズム
出勤しているものの、心身の不調などにより本来の仕事のパフォーマンスを十分に発揮できない状態。
注5) アクティブブレイク
長時間の座位行動を中断し、短時間の身体活動を取り入れること。
研究資金
本研究は、筑波大学体育系と MS&AD インターリスク総研株式会社との共同研究契約に基づき実施さ
れました。また、JST SPRING、日本学術振興会(JSPS)科研費、および筑波大学体育系「ヒューマ
ン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター」(ARIHHP)から一部助成を受けました。
掲載論文
【題 名】 Movement behaviors and work performance among Japanese workers with remote work
arrangements: the mediating role of stress responses
(リモートワークをしている日本人労働者における身体活動・座位時間と仕事のパフォーマ
ンス:ストレス反応の媒介的役割)
【著者名】 Chang Zou, Jihoon Kim, Yutong Shi, Masahiro Morimoto, Akihito Shimazu, Yoshio Nakata
【掲載誌】 American Journal of Health Promotion
【公開日】 2026 年 6 月 3 日(オンライン先行公開)
【DOI】 10.1177/08901171261454088
問合わせ先
【研究に関すること】
中田 由夫(なかた よしお)
筑波大学体育系 教授
TEL: 029-853-3957
E-mail: nakata.yoshio.gn@u.tsukuba.ac.jp
URL: https://sportsmed.taiiku.tsukuba.ac.jp/nakata-yoshio/
【取材・報道に関すること】
筑波大学 広報局
TEL: 029-853-2040
E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp
慶應義塾大学 広報室
TEL: 03-5427-1541
E-mail: m-pr@adst.keio.ac.jp』