AI導入のリアル
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC195F30Z10C26A5000000
『アパレル大手のワールドが異例の新ブランド「OO(オーオー)」を立ち上げた。人間のセンスの産物である服飾デザインに生成AI(人工知能)を全面的に起用し、完売する商品も生んだ。
当初は「センスゼロ」と酷評されたAIデザイナーを、いかに変身させたのか。
ビジネスへのAI活用には様々なハードルがあります。企業が試行錯誤する現場を取材し、随時掲載します。
ワールドがグループ会社で開発した、ファッションビジネス向けの生成AIツール「Maison AI(メゾンAI)」の利用を始めたのは2024年のことだった。
商品企画から着用モデルの画像、商品説明文まで生成できる。さらにアパレルの「本丸」であるデザインも担わせられないか。欧州企業のバーチャル試着AIなどを搭載した。
「全然売り物にならない」
「えっ、古っ!」「コテコテのAI画像じゃん」
1年前にオーオーの準備に加わったデザイナーの常盤和樹さん(39)は試しに売れ筋トップ10の商品をAIに見せ、「最近のトレンドを取り入れて」と指示してみた。
結果は「全然売り物になるデザインじゃなかった」。
どこかで見たようなデザインで、モデルのポージングも腰に手を当てるベタな姿だった。「欧米企業のAIだからか、西洋風ばっかり。これじゃAIに伝わらないんだと分かった」(常盤さん)。
そこでAIにワールドのブランドの概念を教え込もうとしたが、壁にぶつかった。
暗黙知の「ブランド観」を言葉に
AI・イニシアティブ長の上條千恵さんは「デザイナー同士は『洗練されたイメージ』みたいにポエティック(詩的)にやり取りする。
暗黙知であるブランド観を分かりやすい言葉にするのが大変だった」と話す。
例えばデザイナーに対しては「もう少し抜け感を」で通じるが、AIには伝わらない。
デザイナーが言語化していないものをどう共有するか。
上條さんらは悩んだ末に、ファッションは素人のAIに、ブランドの説明文を生成してもらうという「逆転の発想」に至った。
上條さんらは自社ブランドのコレクションの写真数十枚をAIに読み込ませ、その特徴を解析させた
ある自社ブランドのコレクションの写真数十枚をAIに読み込ませ、その特徴を解析させた。
すると「抜け感」のことを、AIは「ごく薄い透明な生地で、肩の力が抜けた上品な質感」などと詳細に説明した。
ターゲットとする客層などの情報も追加入力し、ブランドの特徴について数十ページもの文章を作り上げた。
ワールドは自作の「スタイルブック」でセンスを磨いたAIをデザイナーに起用することを決め、25年10月に新ブランドとしてオーオーを立ち上げた。
AIがデザインしていることは公表せず、自社EC(電子商取引)のみでの販売だったが、いきなり完売する商品が出た。
「ツイードニュアンス クロップドカーディガン」(7100円)で、厚手のニットなのに肩に「タック」が複数入っている点が魅力だ。「人間のデザイナーには思いつかないアイデアだった」とデザイナーの常盤さんは振り返る。
AIは複数のタックを入れ、ニットでもふんわりした肩に仕上げた=ワールド提供(写真のモデルもAIで生成)
タックとは、生地をつまんで折りたたみ、縫い留めることで立体感やゆとりを出す技法を指す。複数入れると、ニットでもふんわりした肩に仕上がる。
常盤さんは「複数のタックはコストがかさむため、自然と頭から外れていた。自分たちでブレーキをかけていたことに気付かせてくれた」と話す。この新デザインはワールドの他ブランドでも採用された。
オーオーでの経験以来、常盤さんはAIを相棒としている。
最近でも、春夏のトップスをデザインしていると、AIが黒色の服にオレンジの襟ぐりという「イケイケな配色」(常盤さん)を提案してきた。
「自分だと思いつかない提案が出るたび、デザイナーとしての感覚を思い出す」という。
人間の役割は「10を11にすること」
常盤さんのような人材を育てるため、AI・イニシアティブ長の上條さんは全国で計85回ほど対面の研修を開き、現場のデザイナーなど2000人にAIの使い方を助言してきた。
背景にはアパレル業界の深刻な人手不足がある。繊維や製造分野まで、幅広い職種で人材確保が困難な状況が続く。
上條さんは「デザイナーは後進を育てるのに時間がかかる。センスを言語化してAIに落とし込めれば、解決できる」と強調する。
AIがさらに成長したら、アパレル業界で人間の役割は何になるのか。
常盤さんは「最後の判断や仕上げに人の手が入ることが重要かも。デザインと同じくらい見せ方や売り方も大事だから、消費者に届けるための精査と確認で『10を11にする』ことも必要」と話す。
実験ブランドであるオーオーはワンシーズンしか商品を発表しておらず、ワールドの他ブランドでもゼロからのデザインにAIを使っている例はまだ少ない。
AIが仕事を奪うのではとの戸惑いがあったり、AIを使いこなせず悩んでいたりするデザイナーもいる。AI時代のクリエーティブ(創造性)を巡る答えはまだ出ていない。
(中藤玲)
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