なぜAOKIは“うまみ”の少ない五輪のために、「危ない橋」を渡ったのか スピン経済の歩き方 2022年09月13日 10時57分 公開https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2209/13/news075.html
※ 今日は、こんなところで…。
※ 「タコ壺社会」からの、「圧力」に抗しきれなかったんじゃないか…。
※ 日本社会は、ある意味、無数の「タコ壺」から構成されているとも言える…。
※ ギョーカイとは、「タコ壺」により構成されている社会のことだ…。
※ 「タコ壺」及び「それを、取りまく界隈」は、あまりに「心地よく、ウットリするくらい安穏」だ…。
※ 「タコ」は、「タコ壺」に籠っている限り、惰眠を貪り続けられる…。
※ 外の世界に、どんなに「波風」が立とうと、「タコ壺」には影響しない…。
※ こういう「タコ壺」は、数限りなく存在する…。
※ 経済界、産業界、官界、政界、労働会、教育界、医師会、歯科医師会、獣医師界、介護業界…。
※ そういう「タコ壺」業界を、「票田」として組織化し、まとめ上げているのが、「某政党」だ…。
※ 選挙ともなれば、巨大な「集票マシーン」として機能する…。
※ 今日も今日とて、タコ達の惰眠の「寝息」が、聞こえてくるな…。
※ 「タコ壺化」は、別に「山岳地帯」の「専売特許」じゃ無いんだ…。
『先週、紳士服大手AOKIの前会長・青木拡憲氏が贈賄疑惑を認め始めた、とマスコミ各社が報じた。
東京2020組織委員会の元理事・高橋治之氏に便宜を図ってもらうように依頼をして資金提供したことを認め、その理由を「組織委内で重要な立場にいたため」などと供述したというのだ。
贈賄容疑で逮捕されたことを受け、AOKIホールディングスがコメント(出典:AOKIホールディングス)
「でしょうね」というリアクションの人も多いかもしれない。東京五輪は招致段階から多くの専門家が「裏金が飛び交う“利権の祭典”になる」と予想しており、ここにいたるまでさまざま「疑惑」が浮かんでは消えを繰り返してきたからだ。
例えば、本連載でも『なぜ大手マスコミは「電通の疑惑」を報じないのか 東京五輪の裏金問題』(16年5月24日)で紹介しているが、英・ガーディアン紙が東京五輪の裏金疑惑を報じ、大手広告代理店・電通の関与も指摘された。同社は「スポーツビジネスの第一人者」と言われる高橋元理事の古巣だ。
ちなみに、IOC幹部に日本の裏金が配られていたとされていたとき、JOCの副会長として存在感を示していたのは、田中英壽・日大前理事長。不透明な金銭授与が問題視され、東京地検特捜部に脱税で逮捕された「日大のドン」が絶大な影響力があったということからも、五輪の内幕でどういう類いの「カネ」が飛び交っていたのかは容易に想像できよう。 トラブルが続いた東京オリンピックは、閉幕後も(写真提供:ゲッティイメージズ)
そんな「五輪汚職」の全貌については、これから少しでも明らかになっていくことを期待したいが、ビジネスパーソンとして気になるのは、そんな利権争奪戦の内情より、こんなシンプルな疑問ではないか。
なぜAOKIは“うまみ”の少ない五輪ライセンス商品のために、企業の社会的信用を失墜させるような「危ない橋」を渡ろうと思ったのか――。』
『「費用対効果」の低い五輪ライセンス商品
ご存じの方も多いだろうが、五輪ライセンス商品は言うほど「バカ売れ」するようなモノではない。例えば、五輪・パラリンピックの国内最上位スポンサーにあたる「ゴールドパートナー」だったスポーツ用品大手のアシックスは、日本選手団が表彰式で着用したウェアやボランティアのユニホーム、公式応援Tシャツなどを手がけたが、売れ行きは芳しくなく、オリパラ関連の収支が赤字だったと明らかにしている。
もちろん、これは「無観客五輪」によって、会場周辺でTシャツやらを販売できなかった影響もあるのだが、そもそも日本の消費者が「五輪ライセンス商品」にそこまで思い入れがないことも大きい。
野村総合研究所が閉会式直後に全国の20~60代の男女3564人に実施したアンケート調査では、オリンピックを機に「東京2020オリンピック大会関連グッズ(Tシャツ、キーホルダー、ポスターなど)」を購入したのはわずか2.6%しかいなかった。そして注目すべきは、実に91.7%が「東京2020オリンピック大会を機に購入した商品はない」と回答しているのだ。 東京2020オリンピックを機に買ったもの(出典:野村総合研究所)
賛否はあったが、いざやったら国民の多くはメダルラッシュに大盛り上がりで「夢をありがとう」と感動をする人もたくさんいた。が、だからと言って、五輪エンブレムがついた商品を爆買したり、お祭りムードに浮かれて財布のヒモが緩んだりするほど、消費者は単純ではないのだ。
このようなシビアな現実から、スポンサー企業の「費用対効果」の悪さも指摘されていた。IOCや組織委員会に多額のスポンサー料を払ったところで宣伝効果も微妙で、ブランドイメージが爆上がりするわけでもない。ましてや「実利」も少ないとなれば当然だろう。
そんな「費用対効果の悪い五輪」に、「裏金」まで突っ込むAOKI経営陣の判断にモヤモヤする人も多いのではないか。 東京オリンピックのスポンサーになることのメリットは?(出典:野村総合研究所)
国立競技場の工事を落札するとか、警備業務のすべてを受注するという超巨大事業ならば、決定権のある人間とズブズブに癒着することは、構図としては理解できる。許されることではないが、営利企業として「危ない橋」を渡るだけの見返りがあるからだ。
ただ、AOKIが便宜を図ってもらおうとしたのは「スーツ」だ。正直、そこまで巨大なカネを生むものではない。また、スポーツアパレルならばアスリートの活躍でドカンと売れるかもしれないが、「メダルに感動したからスーツを買おう」という発想にはなりづらい。つまり、逮捕覚悟で汚職をするほど「うまみ」がないように見える。』
『五輪のスーツはビミョーな結果に
実際、高橋元理事に販売期間の延長を依頼したという「東京2020オリンピックエンブレムスーツ」も汚職をしたわりには、かなりビミョーな結果となっている。
AOKIでは19年8月から「東京2020オリンピックエンブレム ストレッチウォッシャブルスーツ」(3万9000円)などの”東京2020公式ライセンス商品”を発売しており、販売数は累計3万着を突破したという。特に盛り上がったのがやはり五輪本番だ。
『東京2020オリンピックエンブレムスーツの受注が高まっており、開催前と比較し、販売着数は約1.2倍と大変ご好評をいただいております』(21年7月29日プレスリリース) 東京2020オリンピックエンブレム ストレッチウォッシャブルスーツ(出典:AOKI) (出典:AOKI)
ここだけ聞くと「汚職効果」があったように感じるだろうが、紳士服大手として真っ当に勝負をしているスーツと比べると、この「3万着」はかなり見劣りする。それは20年11月に発売以降、大ヒットをしている「パジャマスーツ」だ。
これはパジャマの快適さとスーツのフォーマルさを兼ね備えたセットアップスタイルで、8000円台で購入できるという手頃さもあって、22年春までに累計販売数は10万着を超えている。高額なオフィシャルサポーター料や高橋元理事に賄賂を払うカネがあるのなら、「パジャマスーツ」のような時代に合わせた新商品の開発に投資をしたほうがはるかに堅実だし、費用対効果があるように思えてしまうだろう。
「異業種参入組」の動きをみても、そのような結論にならざるを得ない。
例えば、18年3月から販売され人気を博しているスーツ型作業着「ワークウェアスーツ(WWS)」はコロナ禍でも支持されており、21年5月には前年同月比1000%という売り上げとなり、これまでの累計販売数は15万着を超えた。 ワークマンの「リバーシブルワークスーツ」が売れている(出典:ワークマン)
また、ワークマンは21年2月に同社初のスーツ「SOLOTEX 使用リバーシブルワークスーツ」(上下セットで4800円)、3月に「高通気」で夏向きの「DotAir 使用リバーシブルワークスーツ」(同4800円)を15万着限定で生産したところ、ともに店舗入荷後に即完売している。
確かに、これらの機能性スーツよりも「東京2020オリンピックエンブレムスーツ」は高額だ。しかし、そのぶんだけ高額な五輪ライセンス料を払わないといけないし、高橋元理事に賄賂も払わないといけない。しかも、販売期間は決められている。
社会的信用を失墜させる恐れのある汚職で高価格帯のスーツを3万着売るよりも、マーケティングや素材開発に投資して、廉価なスーツを10万着売っていくほうがどう考えても経済的だ。なぜAOKIの経営陣は、そんな当たり前の判断ができなかったのか。』
『「東京五輪」という妄想
このような話をすると、「これだから素人は困る、五輪のオフィシャルサポーターをしています、という宣伝効果はカネには換え難いものがあるのだ」とか「グッズがそんなに売れなくてもブランドイメージや社会的信用度が増すことを考えれば安いと判断したのでは」と主張される方もいらっしゃるだろう。
ただ、本件で筆者が理解に苦しむのは、まさしくそこなのだ。というのも、AOKIの元会長らは、東京五輪に対して国内外からダーティーなイメージが定着してから汚職に踏み切っているからだ。 (写真提供:ゲッティイメージズ)
東京地検特捜部の逮捕容疑によれば、AOKIが高橋元理事にオフィシャルサポーター契約や公式ライセンス商品の販売契約で便宜を図って欲しいと依頼をしたのは17年1月からで、実際に「コンサル料」なる賄賂を払い始めるのは同年10月からだ。
先ほども申し上げたように、16年5月から国内外のメディアがJOCや電通の「五輪裏金疑惑」を追及している。つまり、AOKIの元会長らは、世間に「五輪の裏にはきな臭い話が山ほどあるんだな」というイメージが急速に広まりつつあったタイミングに、疑惑の渦中にあった高橋元理事の汚職に本格的に関与し始めているのだ。
「大胆不敵」というべきか、「自分たちは何をしても許される特権階級だ」などと思い込んでいるのでは、と不安になってしまうほどのモラルの壊れっぷりだ。
AOKIほどの大企業の経営陣がなぜこんな大逆風の中、メディアからも疑惑の目を向けられていた高橋元理事に裏金を払おうと決断したのか。なぜ「うまみ」の少ないライセンス商品を、犯罪に手を染めてまで売ろうと思ったのか。
これから捜査や司法の場で、ご本人たちの言葉で語られるだろうが、本質的なところで言ってしまうと、経営陣の皆さんが「昭和の妄想」を引きずっていたことが大きいのではないかと個人的には感じている。
それは一言で言ってしまうと、「オリンピックをやると景気が良くなって日本経済も復活する」という妄想だ。学校の近代史の授業などでも、1964年の東京五輪というのは、日本が戦後の復興から、世界第2位の経済大国に成長をしたきっかけになったイベントとして教えられる。』
『自分たちが好むサクセスストーリーに
東京五輪開催に合わせて、新幹線や高速道路などのインフラが整備されカラーテレビも普及したことで、景気が良くなった。それが高度経済成長期の起爆剤になった――というのが定番のストーリーだが、実はこれはまったくの妄想だ。日本人がよくやる「まったく関係のない2つの出来事を結びつけて、自分たちが好むサクセスストーリーにする」という悪い癖が出てしまった「後付けのストーリー」だ。
そもそもオリンピックで経済成長するなんてムシのいい話があるのなら、世界は「経済大国」であふれているはずだが、現実はそうなっていない。むしろ、過去のオリンピック開催国を見れば、公共事業などの建設バブルと観光ビジネスを瞬間風速的に生むが、その後は反動で「五輪不況」に陥るのがお約束で、競技施設は大赤字を生んで廃墟になったりする。近年では、リオデジャネイロがいい例だ。 東京2020オリンピックエンブレム ストレッチウォッシャブルスーツ(出典:AOKI)
マスコミはあまり触れないが、実は日本も1964年の東京五輪後に不況になっている。しかし、その4年後、1968年に西ドイツのGDPを抜いて、世界第2位の経済大国になった。これは「五輪の奇跡」でもなんでもない。
このとき、日本のマスコミは技術大国として国際社会で知られた西ドイツを抜いたので、「日本の技術は世界一ィ」と狂喜乱舞したが、この年に抜いたのは人口だ。先進国やある程度の規模まで成長した国の場合、GDPは人口に比例をする。
今、中国のGDPは日本の3倍程度まで成長しているが、これは中国の技術力が日本の3倍になったからだと思っている日本人はいないだろう。単純に人口が圧倒的に多いので、経済水準が上がるとGDPもドカンと跳ね上がっているだけだ。
高度経済成長期の日本も同じことが起きただけに過ぎないが、多くの日本人は「自分たちは特別!」という思いが強いので、「人口増」という客観的な事実から目をそらし、「チームワーク」「技術力」「労働者が勤勉」という精神論と経済を結びつけてしまった。 「五輪の奇跡」はあったのか
オリンピックもその一つだ。巨大スポーツイベントなので建設バブルや消費が瞬間風速的に膨らむが、薬物でドーピングしているようなものなので反動ですぐに不況に陥る。もちろん、このイベントに合わせて企業の技術革新や新しいビジネスが生まれるというメリットもあるが、それらは五輪が「マスト」というものでもない。事実、GAFAはアトランタ五輪で生まれたものではないし、中国経済の発展は北京五輪のおかげではない。
しかし、前回の東京五輪を経験したあの時の「熱気」を体験した世代は、オリンピックをやれば日本全体が元気になって経済も良くなってあらゆる問題が解決をするという「幻想」を抱いてしまう。青木前会長もその1人だ。』
『ムシのいい話なんてない
日立ハイテクが運営するWebメディア『minsaku』で連載された、ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の「TOKYOオリンピック2020と技術レガシー」では、AOKIの公式ユニフォームについても紹介されており、そこでは若かりし日の青木前会長が1964年の東京五輪を観戦した際に、「いつか商売を成功させて、オリンピックの審判団の服を作りたい」という思いを抱いたことが紹介されている。
『決勝の後、席を立つ観客もいたが、青木は審判団を見ていた。いや、審判が着る制服と帽子をじっと見ていた。
「スマートで、かっこよかった。オレは今は行商だ。だが、いつか商売を成功させて、オリンピックの審判団の服を作りたい」』(参照リンク)
断っておくが、このような夢を持つことが悪いことなどと言っているわけではない。これがAOKIを一代であれほど大きくさせた原動力のひとつになったわけなのだから、1964年の東京五輪は、当時の日本人に「夢」を抱かせる有意義なスポーツイベントだったのだとも感じる。
が、その「夢」への強すぎる思いが、経営者としての目を曇らせてしまったのではないか、と指摘したいのだ。
ここまで紹介したように、五輪にはその国が抱える構造的な不況を解決させるような神通力はない。そこにいくら大金を突っ込んでも利権を握る一部の人々が潤うだけで、国民の生活は豊かにならない。1964年のときのように、スポンサー企業が五輪をきっかけに急成長なんてムシのいい話もない。
青木前会長のような有能な経営者がそれを分からないわけがない。にもかかわらず、あのように「うまみ」もない、リスクしかないような「汚職」に手を染めてしまった。「夢」への強い執着が状況判断を狂わせたとしか思えない。
今回の事件からビジネスパーソンが学べることは、五輪、万博、IR(カジノを含む統合リゾート)、さらには経済安全保障なんていう「巨大利権」にいっちょかみをしたところで、苦労の割にはそれほど大もうけはできないということだ。』
『現時点の登場人物を見ると
今では信じられないだろうが、10年前は立派な経済人たちが大真面目で「東京五輪で日本経済復活!」「東京五輪をきっかけに日本は再び高度経済成長期になる」なんて言っていた。だが、五輪をしても日本経済は何も変わっていない。「コロナが悪い」「五輪反対派のせいだ」といろいろ言い訳をする人もいるだろうが、シンプルに人口減少で国力が落ちている今の日本では、昭和のような「利権でメシを食う」というビジネスモデルが成立しなくなっているだけの話なのだ。
“五輪汚職”がどこまで広がるかは分からないが、現時点の登場人物を見る限り、紳士服、出版、駐車場という「人口減」のあおりをモロに受けている企業ばかりだ。
これが今の日本経済を象徴している。巨大利権に頼っても、経済は決して良くならないということだ。国民もいい加減そろそろ「五輪」に過剰な期待をのっけるのはやめるべきではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。』