消えた肖像画、金正恩「総書記」に込めた対バイデン戦略
編集委員 峯岸博
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※ 「やれやれ…。北朝鮮は、相も変わらず「内部での権力闘争」か…。内部でいくら「称号」いじっても、国家の置かれた「構造」は変わらんだろうに…。」と思って読んでいた…。
※ しかし、後半で「瞠目」した…。
※ 『党大会から北朝鮮の当面の対米シナリオが読めてくる。バイデン米政権との制裁解除につながる交渉の進展はしばらく見込めない。その一方で米中の激しい対立は続く。いずれ台湾、人権、香港などの問題をめぐり両者のあつれきが抜き差しならなくなったときに北朝鮮問題が米中の交渉カードとして再び浮上する。それまで中国を後ろ盾に食いつなぎ、核・ミサイル能力を既成事実化しながら外交のシーズンを待つ――。』…。
※ なるほど、米中が「抜き差しならなくなった」その時が、「北朝鮮カード」の値打ちが最も高まる瞬間か…。
※ その時に、一気に「キャスティング・ボート」を握って、「起死回生の一撃を放つ」…。
※ それまでは、虎視眈々と「雌伏する」…。
※ 本当だとしたら、「恐るべし」だ…。
※ ただ、この策には「弱点」もある…。
※ それは、その「起死回生の一撃」を放つまで、国家が、国民が「持ちこたえることができるのか」という点だ…。
※ そして、その放つ「一撃」が、その時に大国を振り向かせるほどの「威力」を持ちうるのか…、という点だ…。
『北朝鮮で12日に閉幕した第8回朝鮮労働党大会は、支配政党の最高職位として「総書記」の10年ぶりの復活に耳目が集まった。対米交渉の決裂とコロナ、制裁、水害の「三重苦」に直面した金正恩(キム・ジョンウン)氏の復古的な動きには、父祖の権威頼みというよりも、むしろ「父祖超え」に真の狙いがみえる。
総書記といえば、金正恩氏の父で17年間にわたり独裁を敷いた金正日(キム・ジョンイル)氏のイメージが強い。祖父…
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北朝鮮で12日に閉幕した第8回朝鮮労働党大会は、支配政党の最高職位として「総書記」の10年ぶりの復活に耳目が集まった。対米交渉の決裂とコロナ、制裁、水害の「三重苦」に直面した金正恩(キム・ジョンウン)氏の復古的な動きには、父祖の権威頼みというよりも、むしろ「父祖超え」に真の狙いがみえる。
新年を迎え、故金日成主席(左)と故金正日総書記の銅像が立つ万寿台の丘に献花に訪れた市民ら(1月1日、平壌)=共同
総書記といえば、金正恩氏の父で17年間にわたり独裁を敷いた金正日(キム・ジョンイル)氏のイメージが強い。祖父の金日成(キム・イルソン)主席にも「党中央委員会総書記」の時代がある。
2011年12月に死去した金正日総書記の後を継いだ金正恩氏は翌12年に父を党代表者会を通じて「永遠の総書記」とし、自らは新設した「第1書記」に就いた。金日成氏は死去後の1998年に改正された憲法で「永遠の主席」に位置づけられていた。軍歴もない若き3代目には「自らの正統性をアピールするため、祖父と父を偶像化、神格化することで忠誠心を示さなければならない」(北朝鮮関係筋)事情があった。
金正恩氏は16年の第7回党大会で新設ポストの「委員長」に就くと、父を党規約で「永遠の首班」と新たに規定した。今回の党大会では、廃止していた書記局制を復活させ、自らは「総書記」に推戴された。今回、総書記就任は可能であったとはいえ、北朝鮮内外で事実上の「永久欠番」と目されていた職位をあえて選んだ理由は何か。
北朝鮮の公的な機関や団体などには各種の委員会があり、委員長ポストもたくさん存在する。前回党大会で、国際社会に「普通の国家」を印象づけようと党にも委員長制を設けたとの見方があったが、結局は「最高の地位と同じ職名があふれていては権威にかかわるので、伝統のある肩書を引っ張り出した」との分析がある。
それ以上に大きいとみられるのが次の目的だ。
北朝鮮で「永遠の~」とあがめる場合、肉体は死んでも思想や路線は生きていることを意味し、生前の言葉や党への指導も絶対的なものとして後世に残る。金正恩氏の統治にこうした「遺訓政治」は欠かせなかったが、実権を握って10年目に入り、「教えに縛られる」と感じるようになったのかもしれない。絶対権力者の後継者が路線の修正に腐心する姿は、中国や旧ソ連でも過去にみられたが、今回、それを打ち破るのが「総書記」の復活だと北朝鮮関係筋は語る。
つまり、父や祖父と同じ肩書を身に付け、「同格」になることによって初めて先人が敷いたレールから外れることも可能になり、裁量が増すとの発想だ。絶対権力者も全てから自由にはなれない。金正恩氏は党大会の演説で「金日成・金正日主義」との言葉も使った。父祖の権威を借りつつ、さらにその権威を超えようとする野心がのぞく。
それを裏付けるような光景が、党大会の舞台となった4・25文化会館でみられた。金正恩氏が座るメイン会場のひな壇の後方に、前回の党大会では大きく存在感を示していた金日成、金正日両氏の巨大な肖像画が姿を消したのだ。そこに飾られていたのは鎌とハンマーと筆を組み合わせた朝鮮労働党のマークのみだった。北朝鮮では最高指導者以外には決められないことだろう。さらに、党大会の会場ロビーには、白い元帥服姿などの金正恩氏の巨大写真が所狭しと飾られていた。
第8回朝鮮労働党大会に臨む金正恩委員長(前列左から3人目)1月9日、平壌(朝鮮中央通信=共同)
第8回と同じ建物で開いた第7回朝鮮労働党大会では、金正恩氏(中央)の後方に故金日成主席と故金正日総書記の巨大な肖像画が掲げられていた(2016年5月、平壌)=AP
党大会後の17日に開いた最高人民会議(国会に相当)で、次は国家の最高指導者ポストとして「主席」になるのではないか、との臆測も飛び交ったが「父も遠慮したポストに孫が就くのははさすがにいかがかと遠慮したのではないか」と見る向きがある。儒教文化が根付く朝鮮半島で金正恩流のさじ加減なのか。いつか主席を名乗る日が来るかもしれない。
もう一つ波紋を広げたのが、党内でも猛スピードで昇進を重ねてきた金正恩氏の実妹、金与正(ヨジョン)氏のまさかの「降格」人事だ。
建国の父である金日成主席の直系を示す「白頭(ペクトゥ)血統」という普遍的な立場は変わらず、金正恩氏がいずれまた引き上げるとの見方が強い。それでも今回、対米、対南関係を担当してきた与正氏の名目上の「降格」は、北朝鮮において外交の地位が下がったことを内外に示すメッセージとみられる。
与正氏に限らず、外交担当者の冷遇が目立ったのが今回の人事の特徴だ。対照的に、党で思想検閲や人事権を握る組織指導部畑の趙甬元(チョ・ヨンウォン)氏が最高指導部の政治局常務委員に抜てきされた人事も話題を呼んだ。党大会を通じて、金正恩体制の内向きで復古的な姿勢が際立った。
バイデン米大統領は北朝鮮への厳しい言動が目立つ=ロイター
北朝鮮内では、コロナ流入阻止のため昨年1月から境界を封鎖したことに伴い、深刻な物資不足に拍車がかかっている。経済政策も「先祖返り」している。党大会で自力更生、自給自足の基本方針を確認したほか、限られた物資を国家が集中管理して住民に分配する社会主義システムが再稼働しているという。
党大会から北朝鮮の当面の対米シナリオが読めてくる。バイデン米政権との制裁解除につながる交渉の進展はしばらく見込めない。その一方で米中の激しい対立は続く。いずれ台湾、人権、香港などの問題をめぐり両者のあつれきが抜き差しならなくなったときに北朝鮮問題が米中の交渉カードとして再び浮上する。それまで中国を後ろ盾に食いつなぎ、核・ミサイル能力を既成事実化しながら外交のシーズンを待つ――。
その間にも国際社会は北朝鮮による弾道ミサイル発射などの軍事挑発を警戒しなければならない。国際社会にいっそう背を向けた3代目の危険な賭けが続く。
峯岸博(みねぎし・ひろし)
1992年日本経済新聞社入社。政治部を中心に首相官邸、自民党、外務省、旧大蔵省などを取材。2004~07年ソウル駐在。15~18年3月までソウル支局長。2回の日朝首脳会談を平壌で取材した。現在、編集委員兼論説委員。著書に「韓国の憂鬱」、「日韓の断層」(19年5月)。
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