※ 身内に不幸があったので、しばらく投稿はお休みします。
月: 2021年4月
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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210420/k10012984761000.html



『JAXA=宇宙航空研究開発機構や防衛関連の企業など日本のおよそ200にのぼる研究機関や会社が大規模なサイバー攻撃を受け、警察当局の捜査で中国人民解放軍の指示を受けたハッカー集団によるものとみられることが分かりました。
警視庁は、日本に滞在していた中国共産党員の男がサイバー攻撃に使われたレンタルサーバーを偽名で契約したとして、20日にも書類送検する方針です。捜査関係者によりますと、JAXA=宇宙航空研究開発機構が2016年にサイバー攻撃を受けていたことがわかり、警視庁が捜査したところ、日本国内にあるレンタルサーバーが使われ、当時日本に滞在していたシステムエンジニアで中国共産党員の30代の男が、5回にわたって偽名で契約していたことが分かりました。
サーバーを使うためのIDなどは、オンラインサイトを通じて「Tick」とよばれる中国のハッカー集団に渡ったということです。
また、中国人民解放軍のサイバー攻撃専門の部隊「61419部隊」に所属する人物が指示する形で、別の中国人の男も日本で偽名を使いレンタルサーバーを契約していたことが分かりました。
これまでの捜査で、サイバー攻撃はハッカー集団「Tick」が、中国の人民解放軍の指示で行ったとみられ、JAXAのほか防衛関連の有力企業など、およそ200にのぼる研究機関や会社が標的になったということです。
レンタルサーバーを契約した2人は、すでに出国していますが、警視庁は不正な行為を確認したとして、このうち30代の中国共産党員の男を私電磁的記録不正作出・供用の疑いで、20日にも書類送検することにしています。
警察当局は、中国が軍の組織的な指示で日本の機密情報をねらっている実態があるとして警戒を強化するとともに、サイバー攻撃を受けたおよそ200の企業などに連絡を取って、被害の確認や注意喚起を行ったということです。
JAXAの広報担当者は、NHKの取材に対し、「サイバー攻撃とみられる不正なアクセスを受けたのは事実だが、情報の漏えいなどの被害はなかった」としています。
中国関与の疑い突き止めた捜査の経緯
今回の捜査は、警視庁公安部に4年前に設置された「サイバー攻撃対策センター」が中心になって進められました。センターには専門知識を持ったおよそ100人が所属していて、主に政府機関や企業などへの海外からのサイバー攻撃について捜査を行っています。
関係者によりますと今回は、2016年から翌年にかけて日本の防衛関連や宇宙・航空関連の企業や研究機関がねらわれたという情報をもとにまず、攻撃に使われたレンタルサーバーを特定しました。
サーバーは、日本国内にあり偽名で契約されていましたが契約した人物の割り出しを進め、日本に滞在していた中国共産党員の男らの存在が判明したということです。
さらに、中国人民解放軍でサイバー攻撃を専門に行っているとされる「第61419部隊」に所属する人物が関与していた疑いも分かり、警察当局は中国のハッカー集団が軍の指揮下で組織的に攻撃を行っている可能性が高いと判断しました。
サイバー攻撃は、発信元を分からなくするために特殊な技術などが使われるため捜査が難しく、今回のように国レベルの関与の疑いを日本の捜査機関が明らかにすることは極めて異例です。
中国の「61419部隊」とは
今回、関与の疑いが持たれている中国人民解放軍の「61419部隊」は、日本に対するサイバー攻撃を専門に担当する部隊だとみられています。一方、同じ人民解放軍には、アメリカにサイバー攻撃を仕掛ける「61398部隊」という部隊も存在するということです。
アメリカのFBI=連邦捜査局などは、情報通信や宇宙関連の企業から機密データを盗み出したとして、中国のハッカー集団をこれまでに複数回起訴していて、いずれも軍や情報機関の指示を受けて活動していたと分析しています。
専門家「巧妙な攻撃 対策の徹底を」
サイバーセキュリティーに詳しい岩井博樹さんは、「中国では、人民解放軍や国家安全部など軍や、情報機関の指揮のもとで民間の業者などがサイバー攻撃を行っているとみられ、その中の一つが『Tick』というハッカー集団だ。2000年代前半から活動を始め、航空や宇宙に関する研究組織などをターゲットにして巧妙なサイバー攻撃を行っているとみられる」と話しています。そのうえで、「宇宙開発をめぐっては国家間での競争が激しく、特に、人工衛星に関するものなど、軍用にも使える技術は、中国としては、のどから手が出るほどほしい情報であることは間違いない。今後も中国からのサイバー攻撃は続くとみられ、情報を盗み取られる危険性を事前に認識しておくことや、仮に被害を受けてもダメージを最小限にする対策が重要になる」と指摘しています。
機密情報ねらうサイバー攻撃相次ぐ
警察庁によりますと、去年1年間に国内で確認されたサイバー攻撃に関係するとみられる不審なアクセスは1日当たり6506件と、2016年の1692件に比べて5年間でおよそ4倍に増え、過去最多になっています。去年には、三菱電機で会社のネットワークが大規模なサイバー攻撃を受け、8000人を超える個人情報のほか、研究開発中の防衛装備品に関する情報も外部に流出した可能性があることが明らかになっています。
また、NECでもサイバー攻撃によって社内のサーバーなどが不正なアクセスを受け、およそ2万8000件のファイルの情報が流出した可能性があることが分かっています。
関係者によりますと、いずれも中国のハッカー集団の関与が指摘されていて、セキュリティ対策が不十分な部署をねらって巧妙に攻撃が行われたとみられています。
サイバー攻撃を受けても機密情報の保護の観点から公表されないケースも多く、表面化していない被害は多数あるとみられています。
加藤官房長官 「緊張感を持って対応」
加藤官房長官は閣議のあとの記者会見で「報道があることは承知しているが、捜査に関することであり、コメントは控えたい」と述べました。その上で「政府機関や重要インフラに対するサイバー攻撃は、組織化・巧妙化が進んでおり、こうした攻撃への対応は、政府としても重要な課題であると認識している。サイバーセキュリティー確保については関係機関で緊張感を持って対応していきたい」と述べました。』
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https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g01074/









『―スタートアップ企業のソラミツがアイデアを武器に一国の中央銀行のデジタル通貨を作り上げた過程は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツがシリコンバレーの最初の頃を彷彿とさせます。デジタル通貨に目を向けた理由は?
ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズとは月とスッポンですけれども、私はソニーで長く勤めました。ソニーは世界初をやろうという文化がありましたから、とにかく世の中にないものをやりたいと思った。私はシリコンバレーでパソコンのVAIO1号機を開発したものの、大きな赤字を出した。これからはハードウェアの時代じゃない、サービスとかインターネットの時代だと思いまして、帰国して、電子マネーのEdyを始めました。
EdyはEuro、Dollar、Yenの頭文字から取り、世界の通貨を目指していた。ところが、技術の壁があって、海外で全然受け入れてもらえず、日本でしか普及しなかった。一方、ビットコインは出てすぐ、世界中で使われるようになった。これは悔しいと、ブロックチェーン(分散型ネットワークを構成する複数のコンピューターに、暗号技術を組み合わせ、取引情報などのデータを同期して記録する手法)の技術を持つソラミツに参加して、今は代表取締役をやっています。
―何かをやりたいというのをどんどん追求していったら、デジタル通貨を作るに至ったということですか。
本当に自分のライフワークになっていて。やっとこういう時代になったと。技術がやりたいことに追いついてきた時、たまたまカンボジアの中央銀行との出会いがあって、これこそ自分のライフワークだと思って取り組み始めました。
―Edyを作った頃にブロックチェーン技術があったら、Edyはデジタル通貨となったのでしょうか。
そうだと思います。Edyを始めた頃、大学の先生からずいぶん怒られたんです。『君たちは技術の使い方を間違っている』と。いわゆる転々流通(不特定の所有者に価値が引き継がれること)しないんです。これは学者さんから見ると、経済理論の見地からおかしい。単なるプリペイドカードでしかないし、電子マネーじゃないと。
ただ、当時は、転々流通できてセキュリティが高いという技術がなく、やむなく転々流通でない方式、「口座型」(利用者の口座間で振替決済)をやった。Suicaが口座型を真似して、さらにPay PayやLINE Payも真似した。だから、日本の金融業界が効率の悪い口座型になってしまって、転々流通ができなかった責任は私にもあると。私が最初に間違った方式でやって、学者さんの反対を押し切ってやっちゃったので。だからそこを直さなきゃいけないと思っていまして。要するに世直しですよね。それを何とかしなきゃいけないという気持ちは強いです。
詐欺かと思ったカンボジア国立銀行の誘い
―カンボジアの中央銀行(カンボジア国立銀行)からデジタル通貨のシステムを作って欲しいと言ってきたとき、パッと手を挙げたのは、スタートアップ企業だからこそ出来たのですか。
SNSで『国立銀行です』と名乗られて、『お宅の技術をちょっと試してみたい』と連絡してきた。最初は偽物だろうと思いました。国立銀行がスタートアップに連絡してくるわけがないと。これは絶対いわゆる詐欺じゃないかと。でも、いろいろやり取りしていると、どうも本物らしいということで、創業者と一緒にカンボジアへ行ってみたわけです。そうしたら、本当にカンボジア国立銀行だった。
私はソニーで、いろんな技術の盛衰を見てきました。昔、ベータマックスというビデオがあって、それがVHSに負けたとか、メモリースティックはSDカードに負けた。やっぱりIT技術って日本だけでやっていたら駄目だと。ガラパゴスでは絶対に勝てない。世界で勝負して、世界標準を目指していかないと残れないというトラウマを何回も経験した。
ソラミツ創業者の武宮誠はアメリカ国籍だったのですが、日本に来て日本が好きになって帰化した。彼もとにかく最初からグローバルで勝負しようということで、プロトタイプを開発していきなりスイスに行って、スイスのダボス会議に参加したりとか、ニューヨークでプレゼンしたりとか。そうしないと絶対に生き残れないという意識でやっていました。それがカンボジア国立銀行の目に留まったんだと思います。
プノンペン市のカンボジア国立銀行 提供:ソラミツ
アンコールワットの遺跡を背景に。ソラミツの創業者である武宮氏(右から2人目)と宮沢氏(左から3人目)提供:ソラミツ
―最初からグローバルで勝負し、それを成し遂げたのは技術的な裏打ちもあった。
そうですね。武宮は本当に天才です。彼は大学卒業後に米陸軍に入隊し、脳科学とかAIとかをずっと研究していた。奈良県にあるNTTの先端技術研究所に転籍して働いていた時に、ビットコインというのが世の中で生まれた。彼は『すごいけど、もっといいものを作れると思った』と言い、実際作っちゃった。彼はスティーブ・ウォズニアック(アップル創業時の天才技術者)のように、最先端のものを作ってくれた。私はどちらかというとスティーブ・ジョブズ・タイプかもしれない。自分はコードも書きますが、そんなに得意ではないので、新しい技術を理解して、それをどうやって世の中に受け入れてもらうかを考えながらやっていた。
―ソラミツは独自に開発されたブロックチェーン技術「ハイパーレジャーいろは」をオープンソースとして開放し、周辺で利益を上げるというビジネスモデル。従来の日本企業のパターンと違う。
ブロックチェーンを開発した日本企業はあるが、われわれみたいにオープンソースにして世界で戦っている企業は本当に少ない。大手のブロックチェーン開発企業は日本国内で閉じていて、なおかつオープンソースではなくて、ライセンス料で収入を得るようなビジネスモデルなので、広がらない。閉じてしまっているというのは非常に残念ですよね。
このままでは世界に遅れる日本の金融界
―バコンの話に戻りますが、カンボジアはドルが自国通貨より流通し、中央銀行は困っていた。しかし、バコンを始めると自国通貨の割合のほうが多くなった。
カンボジアは国立銀行がしっかりしている。若い人が多く、みんなすごく勉強しています。金融の人だけれども、技術にも明るく、ある意味しがらみがない。日本の金融機関ってしがらみだらけで、既存のシステムを変えられないとか、失敗したくないと考えている人が役員に多いと思う。
この調子で行くと、ますます日本は遅れていく。日本の金融界の偉い方も、『カンボジアは金融インフラがないからできた』と言う。それだけではなく、先々を見る目とか、それに対して挑戦しようという気概があった。短期間でできたのも、彼らには既に概念設計が出来上がっていたから。中央銀行デジタル通貨(CBDC)はこうあるべきだというものが、全部出来上がっていた。
日本にはデジタル通貨の概念設計がないんです。中央銀行デジタル通貨はどうあるべきか、明確ではない。これから実証実験をちょっとずつやっていきます、みたいな感じ。一方、カンボジアは確固たる考え方を持っていた。リスクとか、こういうことをやると銀行に大きな影響を与えるとか、シミュレーションを行い、全部分かっていた。それが2016年です。5年前にカンボジアでは今の日本よりもはるかに明確になっていた。
カンボジアは自国通貨リエルよりも米ドルが流通していた。ドル比率が高いのを何とかしたいと。しかし、バコンを導入したことによって、自国通貨の割合が高くなった。
デジタル通貨「バコン」の開始式典であいさつするカンボジア国立銀行のチア・セレイ統括局長 2020/10/28 プノンペン(共同)
―カンボジア国立銀行は中国のデジタル人民元に対する危機感もあった?
そう思います。やっぱりデジタル人民元の動きが気になるわけですよね。デジタル人民元は中国の中でしか使いませんというふうに言っていますけれども、それはたぶん方便だと思っていて。中国はUAEとかタイと研究会を開いて海外での利用の可能性を検討しているわけですよ。デジタル人民元の国際連携みたいな話で、一帯一路で使わせるとか、アジア圏に普及させるということを考えている。それが広がると、米国がドルのSWIFT(国際銀行間通信協会)を活用した経済制裁を出来なくなると思います。北朝鮮やミャンマーが経済制裁されても、デジタル人民元を使って中国から資金がどんどん行ってしまう。
デジタル通貨「バコン」の使用を呼びかける看板(プノンペン市内)提供:ソラミツ
デジタル人民元の脅威
―これからデジタル人民元をはじめ、各国でデジタル通貨が普及していくと、社会がどう変わっていくと思われますか。
3つぐらいのシナリオを思い描いています。日本の金融機関がうまく正常な形で進化して、新しいデジタル技術を取り入れていくというのが1番目のシナリオです。
2番目のシナリオは、それができなかった時に、新たなプラットフォーマーが金融機関に取って変わる。〇〇Payなのか、あるいはFacebookなのか。巨大プラットフォーマー企業が新しい技術で利便性の高いサービスを提供することによって、ユーザーが『そっちでいいや』となって、どんどん日本の金融機関のシェアが下がって、その分、銀行は淘汰される。これが2番目のシナリオ。
3番目は、中央集権的なプラットフォームが支配する世の中ではなくて、分散型金融の普及で、資産を分散的に所有し、民主的に配分が決まっていく。金融機関も必要なくなるかもしれません。例えばDEX(Decentralized Exchange)という分散型交換所では資産は人手を介さず自動的に交換される。為替交換とか全部できてしまう。そういうものがより安いコストでより普及していく。これら3つの勢力が、市場を拡大しながら共存していくのかなと思っています。
―宮沢さんは日銀のデジタル通貨分科会ラウンドテーブル委員を務めている。日本のデジタル通貨はどの方向が望ましいと思ってらっしゃいますか?
2番目のシナリオはよくないと思っています。プラットフォーマーが日本の金融界を牛耳ることになると、銀行は信用創造機能を制限されて経済活性化ができなくなる。なので、1番が良いですよね。3番の、ビットコインのような仮想通貨はこれからも発展していくと思いますが、多くの日本人は、銀行のサービスが便利になればそっちを使うかなと。で、私としては、1番を応援しているという立場ですね。
『ソラミツ 世界初の中銀デジタル通貨「バコン」を実現したスタートアップ』(宮沢和正著 日経BP)書影
日本銀行は民間デジタル通貨や決済手段と日銀が将来発行するCBDCが共存・連携することを大前提としています。そのためには日本の銀行預金の使い勝手がもっと良くならなければいけない。銀行が決済性預金としてブロックチェーンなどの最新の技術を活用した民間デジタル通貨を発行し、決済コストを今までの1/10以下に下げ、即時支払や転々流通に対応し、スマートコントラクトを活用して支払方法に様々なルールを設定できる金融システムを構築する必要があると思います。そうしないと利用者は新たな技術を活用したもっと利便性の高い決済手段に流れていってしまいます。
銀行や自治体などが全国共通の民間デジタル通貨を発行するためのプラットフォームを運営する会社があります。2020年4月に設立したデジタル・プラットフォーマーという企業です。この企業はカンボジア中銀デジタル通貨「バコン」と同じ技術を活用しており、全国の銀行や自治体を繋ぎ将来は日銀の発行するCBDCとも連携して国民に低コストで利便性の高いデジタル通貨を提供する新時代の決済システムを提供してゆくと思います。
バナー写真:カンボジアのデジタル通貨「バコン」を紹介する展示物 プノンペン 2020/10/28 共同 』
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主な情報通信機器の保有状況(世帯)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252110.html

『第2節 ICTサービスの利用動向
1 インターネットの利用動向
(1)情報通信機器の保有状況
ア 主な情報通信機器の保有状況(世帯)
●世帯におけるスマートフォンの保有割合が8割を超えた2019年における世帯の情報通信機器の保有状況をみると、「モバイル端末全体」(96.1%)の内数である「スマートフォン」は83.4%となり初めて8割を超えた。「パソコン」は69.1%、「固定電話」は69.0%となっている(図表5-2-1-1)。』
『イ モバイル端末の保有状況(個人)
●個人におけるスマートフォンの保有率は67.6%となっている。2019年における個人のモバイル端末の保有状況を見ると、「スマートフォン」の保有者の割合が67.6%となっており、「携帯電話・PHS」(24.1%)よりも43.5ポイント高くなっている。(図表5-2-1-2)。』
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「打倒トランプ」から「打倒中国」へ、バイデンの支持率が安定している本当の理由
海野素央 (明治大学教授 心理学博士)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22765
『今回のテーマは、「政権発足100日、バイデンの支持率が安定している本当の理由」です。バイデン米政権は4月下旬で発足してから100日を迎えます。
米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティックス」による各種世論調査のバイデン大統領の平均支持率(21年4月8~13日)は54%で、不支持率の41%を13ポイントもリードしています。バイデン氏は1月20日の就任以来、50%台の支持率を維持しています。
では、その背景には何があるのでしょうか。本稿ではバイデン支持率安定の諸要因を整理します。
(ronniechua/gettyimages)
支持される増税
一般に日本人にはバイデン大統領といえば、おそらく「増税をする大統領」というイメージが強いでしょう。しかし、バイデン氏は年収が40万ドル(約4400万円)以下の米国民には増税をしないと公約をしています。増税対象になるのは、40万ドル以上の高額所得者のみで、この政策は米国民から支持を得ています。
世論調査で定評のある米クイニピアック大学(東部コネチカット州)の調査(2021年4月8~12日実施)によれば、年収40万ドル以上の富裕層に対する増税に関して、64%が「支持する」、31%が「支持しない」と回答しました。30ポイント以上も増税を「支持する」が上回っています。党派別にみると、91%の民主党支持者が「支持する」と答え、共和党支持者においても40%が賛成に回っています。
さらに、バイデン大統領は法人税率を21%から28%に引き上げると発表しました。この政策も米国民から支持されています。同調査では62%が支持、31%が不支持と回答しました。こちらも党派別にみますと、92%の民主党支持者、55%の無党派層、34%の共和党支持者がバイデン氏の法人税増税案を支持しています。
ジェンダー及び人種別では、法人税増税案に関する支持率が白人女性とヒスパニック系(中南米系)で67%、黒人で74%に上りました。女性と黒人、ヒスパニック系はバイデン氏の支持基盤なので、税制改革案は支持者固めに直結しているといえそうです。
次ページ » 2つの「ビックプラン」』
『2つの「ビックプラン」
バイデン大統領は1.9兆ドル(約200兆円)規模の追加経済支援法案(通称「米国救済計画」)を米議会で成立させると、即座に2兆ドル(約218兆円)規模のインフラ投資計画(通称「米国雇用計画」)を米議会に提案しました。インフラ投資計画は、橋、道路、空港の整備といった従来型のインフラよりも、高速ブロードバンドの拡大や、50万カ所の電気自動車用充電ステーションの設置など、21世紀型に焦点が当たっています。この2つの「ビッグプラン」は米国民から支持を得ています。世論調査で有名な米マンモス大学(東部ニュージャージー州)の調査(21年4月1~5日実施)によれば、63%が「米国救済計画」を支持しました。特に、「強く支持する」は同年3月の35%から43%に8ポイントも上昇しました。
では、米国民はインフラ投資計画をどのように受け止めているのでしょうか。上で紹介したクイニピアック大学の世論調査では、44%が「支持する」、38%が「支持しない」、19%が「分からない」と回答しました。米国民の約2割が態度を明確にしていないものの、支持が不支持を6ポイントリードしています。
加えて同調査では、「仮に法人税増税によって財源を確保するとしたら、インフラ投資計画を賛成しますか、それとも反対しますか」という質問に対して、53%が「賛成」、39%が「反対」と答えました。賛成が14ポイントも上回りました。つまり、バイデン氏の法人税増税によるインフラ投資計画の実施が米国民から支持を得ているということです。
「共感・敬意型リーダーシップ」
クイニピアック大学の調査では、米国民の52%がバイデン大統領のリーダーシップスキルを評価しています。昨年の大統領選挙でもそうでしたが、大統領に就任してからもバイデン氏は、新型コロナウイルスの犠牲者を出した家族の悲しみに寄り添った言動をとっています。例えば、常に上着のポケットに死者数を明記したカードを入れています。これも同氏が米国民から支持を得ている一要因でしょう。アフガン戦争に終止符を打つために4月14日(現地時間)、バイデン大統領は同時多発テロ発生から20年を迎える9月11日までに、同国の駐留米軍の完全撤退を完了すると正式に発表しました。その際も、アフガニスタンやイラクで戦死した米兵士と家族に対して共感と敬意を示しました。
バイデン氏は「2448人の命が奪われ2万722人の負傷者が出た」と述べたとき、神聖な人間の命について「約」という言葉を使用するべきではないと主張しました。死者数の繰り上げ繰り下げに反対して、「約2500人の命」ないし「約2400人の命」という表現を使いませんでした。
ホワイトハウスでの演説で、バイデン大統領は首都ワシントンにあるアーリントン国立墓地の「セクション60」に埋葬されているアフガニスタンで戦死した米兵士について言及しました。その後、セクション60に向かい献花を行いました。このようなバイデン氏の「共感・敬意型リーダーシップ」が遺族の心を確実につかんでいるでしょう。
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『「打倒トランプ」から「打倒中国」へ
ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、米中関係について「衝突ではなく競争」と記者団に繰り返し述べています。バイデン氏は前回の大統領選挙で、「打倒トランプ」を合言葉に民主党リベラル派との結束を図り成功を収めました。今度は、民主・共和両党の共通の競争相手ないし敵を中国に設定して、「打倒中国」で団結力を高める意図が透けて見えます。その象徴となったのが、半導体に関してバイデン大統領が用いた建国の父ベンジャミン・フランクリンが残した名言でした。バイデン氏はホワイトハウスに超党派の議員を招待し、「1本の釘がなくなり蹄鉄が駄目になった」と述べたのです。「1本の釘がなくなり、蹄鉄が駄目になった。蹄鉄がなくなり、馬がどうしようもなくなった。馬がいなくなり、騎士はどうしようもなくなった。騎士がいなくなり、戦いはどうしようもなくなった」と、フランクリンは語りました。
ただしバイデン氏の場合、「1本の釘」は半導体で、「馬」は5Gや兵器、「戦い」は中国との戦いを指しています。人権侵害や知的財産権窃盗で反中国感情が高まる米国社会において、「打倒中国」を共通項にして結束を図る戦略がバイデン氏の安定した支持率維持の主因になっています。』
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トランプより過激な完全撤退、賭けに踏み切ったバイデンの思惑
“第二のサイゴン”に現実味
佐々木伸 (星槎大学大学院教授)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22773
『バイデン米大統領がアフガニスタン駐留米軍を米中枢同時テロから20年となる9月11日(9・11)までに完全撤退させると決断した。軍部の反対を押し切っての「無条件撤退」で、内戦が激化するなど戦況にかかわらず撤退を断行する。ある意味、撤退への道筋をつけたトランプ前大統領よりも過激な決定だ。政治的な賭けに出たバイデン氏の思惑と今後のシナリオを探った。
2001年、アフガニスタンの戦場に向かうアメリカ兵(代表撮影/ロイター/アフロ)
政府崩壊でも見直さず
ニューヨーク・マンハッタンにあった世界貿易センターの双子の高層ビルに2機の旅客機が突っ込んだ9・11。実行した国際テロ組織アルカイダへの報復として、米国がアフガニスタン戦争を仕掛けてから20年。「史上最長の戦争」から抜けられないまま、泥沼にはまってきた。これまで2200人の米兵が犠牲になり、戦費は2兆ドル(200兆円)もつぎ込んだが、和平を達成することはできなかった。この「終わりなき戦争」に終止符を打つ道筋を付けたのはトランプ氏だった。「米第一主義」を掲げたトランプ氏は昨年2月、アフガニスタンの反政府勢力タリバンと和平合意し、今年5月1日までに完全撤退することを約束した。一時、10万人を超えていた米駐留軍は段階的に削減され、現在は2500人にまで減少している。
だが、合意ではタリバンとアフガニスタン政府軍との内戦が激化し、政情が悪化しても撤退を実施するかどうかはあいまいな部分が残されていた。しかし、バイデン大統領は4月14日の発表で、撤退期限を9月まで先送りしたものの、「同国を再び、米本土へのテロ攻撃の拠点にさせないという目的は達成された」として、戦況にかかわらず完全撤退させることを決定した。
大統領は「撤退の条件を設定するとして、どんな人的、予算措置をすれば、条件が整うのか、適切な回答がなかった。なければ、留まるべきではない」と述べ、内戦が激化し、たとえアフガン政府がタリバンの攻勢により崩壊するような最悪の情勢になっても撤退の方針を変えない決意を明らかにした。
バイデン大統領はオバマ政権の副大統領当時の2009年、オバマ大統領の増派に異議を唱え、対テロ部隊など小規模の駐留軍を残して撤退すべきだとの主張を展開し、退けられた過去がある。米メディアによると、大統領は軍事的に勝利できないという確信を深め、「戦況次第で撤退計画を見直す」などの条件付きのアプローチでは、永遠に駐留し続けなければならなくなるとの考えに傾斜していた。
その背景には、「米国がアフガンなどの紛争に足を取られているスキをついて、“最大の競合国”の中国が世界各地に影響力を拡大している」との懸念がある。大統領は早急にアフガン紛争のくびきを外し、中国への対抗やコロナパンデミック対応、気候変動、国内の大規模インフラ投資などの喫緊の戦略的な課題に取り組む必要がある、と思い極めていたようだ。
とりわけ、自由や人権といった理念を重視する大統領の頭には「民主主義体制」対「専制主義体制」の競争という構図が描かれており、外交では中国の勢力拡大など対中政策が最優先課題。菅義偉首相との16日の日米首脳会談後の共同声明で、「台湾海峡の平和と安定」という文言を入れたのも、そうした考えに基づいている。
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『“第二のサイゴン”に現実味
しかし、バイデン大統領の決定は結局、「アフガニスタン政府を見捨てた」ものであり、同国に軍事介入した末、混乱を放置して逃げたというそしりを受けかねない。政治的には大きな賭けだ。野党共和党のマコネル上院院内総務は「選挙で選ばれたアフガン政府への裏切り」と批判、トランプ氏の盟友で、保守派のグラム上院議員は「新たな9・11に備えた保険政策の放棄」と手厳しい。トランプ前政権との和平後、米軍への攻撃を控えてきたタリバンは約束破りと反発、「全外国軍が撤退するまでいかなる会議も欠席する」との声明を発表。トルコで今月後半に開催予定のガニ政権との和平協議をボイコットすることを明らかにした。
米軍が撤退した場合の見通しは極めて暗い。国連によると、現在でも内戦の犠牲は7年連続3千人を上回るなどタリバンと米国の和平合意後も戦闘が沈静化する兆しはない。米専門家グループが2月に公表した米議会報告書は、米軍がアフガンから全面撤退すれば、国家崩壊を招いて内戦が激化すると警告した。
米国家情報長官が最近発表した報告書によると、向こう1年の和平の見通しは暗く、米軍が撤退すれば、タリバンが占領地を拡大すると予想。政府軍は主要都市の支配を維持するものの、タリバンから占領地を奪還するのは困難と厳しい見通しを示している。米紙は米当局者の発言として、ベトナム戦争時に陥落したサイゴンに言及し、カブールが“第二のサイゴン”になる恐れを指摘した。
最悪のシナリオは米軍の撤退後、タリバンが各地で全面的な攻勢に出て、政府軍の敗北が続き、最終的にはカブールが陥落。政府首脳らが逃亡を図り、逃げ遅れた要人らがタリバンに殺害されるか、捕虜となる。タリバンは全土にイスラム原理主義色の濃い政令を出し、そうした中で捕まった政府の要人らが即決裁判で処刑されていくという筋書きが見えてくる。
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『存在感高めるパキスタン
アルカイダやイスラム国(IS)といったテロ組織が再び米本土をテロ攻撃できるほど台頭するかについては、短期的に否定的な分析が一般的だ。米軍のテロとの戦いの中で、アフガンのアルカイダやISは弱体化、米本土にテロを仕掛ける余力は残っていない。ただ、タリバンはトランプ前政権との和平合意で、同国をテロ組織の聖域にしないと約束をした形になっているものの、バイデン政権は信用していないだろう。中長期的に見れば、米軍が撤退すれば、イスラム過激派の掃討作戦は著しく後退し、情報収集もこれまでのようには運ばない。かと言って、アフガン国内を空爆すれば、タリバンとの関係が悪化し、かえって反米感情を煽り、過激派と手を組ませることになりかねない。過激派が育つ余地があるということだ。
そこで駐留軍なきあとの米国にとって重要になってくるのがアフガンの隣国にして核保有国のパキスタンの存在だ。ニューヨーク・タイムズは米軍の撤退が「パキスタンの勝利」と報じている。パキスタンの情報機関ISIがマドラサ(イスラム原理主義学校)の敬虔なイスラム教徒の若者らを支援し、タリバンを創設したことはよく知られている事実だ。
ISIはタリバンを使ってアフガン情勢を自国の安全保障に有利になるように操り、タリバン指導者らを国内に“保護”し、米国も見ないふりをしてきた。カタール・ドーハで開かれてきた政府との和平協議に出席するタリバン代表団はパキスタンから出国し、協議のためパキスタンに戻った。パキスタンは水面下でタリバンに影響力を行使してきたのである。
米軍が撤退し、タリバンがより勢力を拡大するようになれば、パキスタンにとっては好ましい展開だ。目の上のコブ的な米国のプレゼンスが消え、アフガンの政治に介入しやすくなるからだ。米国もアフガンの過激派対策や情報をパキスタンにより依存するようになるだろう。パキスタンは米国にも恩を売ることができ、軍事援助を引き出しやすくなる。米軍撤退後のアフガン情勢のカギはパキスタンだ。』
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「チャイナカード」を駆使したバイデン政権の景気浮揚戦略
斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22774
『16日の日米首脳会談では「中国の脅威」を念頭に置いた日米同盟の重要性が強調されたが、バイデン政権は国内向けにも、半世紀ぶりといわれる大規模経済再建策への支持取り付けのため、「チャイナカード」を振りかざし始めている。今のところ、党派を超え国民の支持は広がりつつある。
(AP/AFLO)
「このプランは、第2次大戦以来の最大規模の雇用投資であり、わが国の世界における競争力を高め、今後何年にもわたる中国とのグローバルな競争で勝ち抜く上でより優位に立たせることになる」バイデン大統領が去る3月31日、ピッツバーグに出向いて行った2兆3000億ドル規模におよぶ巨額インフラ投資計画のお披露目演説は、冒頭から中国との競争意識をむき出しにしたものだった。
「この計画中には、政府主導研究開発予算の記録的増額が含まれており、バッテリー・テクノロジー、バイオテク、コンピューター・チップ、クリーン・エネルギーなどのハイテク分野における中国との競争に勝つことを目的とするものだ」
「わが敵対国(中国)は、わが国がインフラ再建に取り組むことを非常に心配している。なぜなら、彼らはこれまで競争する必要のなかった分野で新たな競争を強いられることになるからだ」
「習近平と大統領就任後2時間近く電話で会談したが、その中で彼は『あなたの国を一言で言えば、可能性の国だ』と評した。まさにその可能性こそわが国民の資質だ」
「中国はわが国を食い物にしているChina is eating our lunch。われわれは何としてもインフラを整備する必要がある」
「世界には、デモクラシー体制ではコンセンサスが得られないために自分たちの方が勝利できると考える専制国(中国)が存在する。まさにそれこそが、アメリカ対中国の競争の中核をなすものだ」
さらに、このバイデン演説と同時にホワイトハウスが報道陣向けに配布したインフラ投資関連の「ファクトシート」(28ページ)でも、「中国」を名指しした表現が10数回にも及んだ。
ワシントンの中国専門家の間では、米大統領およびホワイトハウスが国内政策重要演説で特定の外国の存在についてこれほど執拗に言及したのは、旧ソ連との冷戦に向き合ったアイゼンハワー大統領以来との見方が出ている。今や、ソ連消滅、冷戦終結後後、GDP世界第2位の大国にのし上がってきた中国といかに向き合うかが、アメリカにとっての最大関心事になってきたことの証左にほかならない。
大統領選演説後、公表された世論調査結果によると、道路、空港、港湾、河川などの基礎インフラやインターネット通信網拡大などの社会インフラ充実を盛り込んだ今回のインフラ投資計画全般について、「支持」73%、「不支持」21%と、52%の圧倒的差で国民が支持していることが明らかになった(InvestNowUSA、4月6日)
一方、インフラ投資の財源として法人税引上げに関する有権者を対象とした党派別世論調査によると、民主党員の「支持」が85%だったのに対し、共和党員の間では「支持」が42%、「不支持」が47%と分かれた(Morning Consult、4月7日)。共和党員の間では、今回のバイデン・プランについて、「民主党の選挙戦略」と位置付ける冷ややかな見方が依然少なくないことを示している。
ケブン・マッカーシー共和党下院院内総務は早速、同プランについて「民主党が目指している法人税引上げは共産主義中国を上回る」と批判した。
しかし、一般国民の間ではトランプ前政権当時から、党派を超え中国との対抗意識、反感が高まりつつあることは確かであり、アメリカの抜本的国力向上を目指した大胆なインフラ投資計画に対し、野党共和党としても徹底抗戦しにくい事情もある。
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『「チャイナカード」の“有効性”
米議会で先月、新疆ウイグル自治区における人権弾圧を理由として「2022年北京冬季五輪開催地変更」を求める決議案が上下両院に提出されたが、その際、対中強硬派の共和党議員が中心的役割を果たしたのも、対中ライバル意識を反映したものだ。バイデン政権にとっての「チャイナカード」の“有効性”については、すでに昨年、バイデン氏側近のタルン・チャーブラTarun Chhabra氏(現ホワイトハウス国家安全保障会議上級局長)らが共同執筆した「Foreign Affairs」誌論文中で詳述されている。チャーブラ氏はオバマ政権下で国家安全保障会議「戦略立案局長」を務めた後、昨年までブルッキングズ研究所「国際秩序・戦略」部長として論陣を張ってきた。
同誌論文のハイライトは以下の通りだ:
「中国の貿易慣行はアメリカから何百万人もの仕事を奪い、その経済成長は、アメリカの安全保障と繁栄の基幹をなす国際システムに大きな支障を招来させてきた。米中両国の競争は今や避けがたいものとなっている。中国は台頭するにつれ、各国および国際機関への影響行使を目的とした、貿易からサイバー・秘密工作にいたるあらゆる分野においてアメリカ相手に激烈な競争を挑んできた」
「米国内の政治的右翼は、トランプ前政権が対中競争の観点から貿易戦争を仕掛け、インド太平洋における脅威に対抗するための国防予算増額に踏み切るなど、中国とのライバル意識を強めつつあった。その一方、左翼は従来から、対外的な過度の競争が排外主義を醸造し、愛国主義を煽ることで戦争を引き起こしかねないとの強い懸念を抱いてきた。そして大国間競争の結果として、産軍複合体を肥大化させ、ひいては国防、情報機関、外交キャリアたちの権力集中を招くことを心配してきた。彼らは、何十年にもわたるアフガン、イラク戦争などの長期化による厭戦気分を募らせ、国内再建への資源投入を強く呼びかけている」
「しかし、左翼が中国の脅威認識に二の足を踏むことはそれ自体、中国のアジア地域での侵略行為、略奪的国家経済体制、人権抑圧政策を勇気づけることにつながる。彼らが現実直視を回避することは、われわれの機会を失わせる。逆に、中国に断固として対抗することは、アメリカの繁栄維持、安全保障強化、自由主義体制の価値観再生を可能とするのみならず、棄損した国内政治修復にも役立つ。左翼はこの際、かねてから抱いてきた地政学的競争に対する嫌悪感を一掃し、国内における多くの業績が外国からの脅威に対抗した結果であることを認識すべきだ」
「わがアメリカ国民はこれまで、外国の敵と戦う際には国内的意見対立を克服し、共通の善のために犠牲を払う用意を示してきた。戦争あるいは地政学的競争が激化する際に、連邦政府は増税に踏み切り、経済的規制を強化し、科学、インフラ、社会サービス支出を増額し、取り残された人々、グループのための機会を増やし、富の格差縮小に乗り出した。第二次大戦中には、連邦予算は1938年の68億ドルから1945年には一気に983億ドルに増加、高所得者層を対象とした所得税も94%にまで引き上げられた。この結果、経済格差は米国近代史上最も顕著に是正され、その後の冷戦を通じ、全米ハイウェー網の構築、ソ連との技術競争に対抗するための公共教育、科学・技術支出増額にもつながった」
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『専制主義的中国国家との競争に打ち勝つ
「そして今や、中国との競争が大規模公共投資を実現させ(左翼が求める)進歩的課題の前進を可能とさせる時代が到来した。この点では、これまで共和党もあらゆる政策分野に対する大型連邦支出に異を唱えてきたが、中国への対抗を目的とした諸計画に関する限りは超党派的アプローチの機会を提供することになる。改革を『対中競争』を前提に組み立てることにより、進歩的プロジェクトも穏健派そして保守派に支持を拡大させることが可能となる。例えば2019年、中国産業・貿易政策に対する警戒心の高まりにより、レーガン革命当時のような経済保守主義に対する再考を共和党議員たちにも促しており、そのうちの一人、マルコ・ルビオ上院議員は『もはや市場原理主義では中国との競争に対処できない』として、21世紀型のいわば“共通善資本主義common-good capitalism”ともいうべき産業政策の推進を提唱している」
「同様に中国との技術競争においても、高等教育予算削減や、わが国人材確保の貴重な資源である移民制限を主張してきた保守派に対し、主張の転換を余儀なくさせている。その他、バイオテク、ITなどの先端分野もしかりだ……わが国は気候変動、伝染病拡散防止などの分野における中国民間レベルとの協力関係を進める一方で、専制主義的中国国家との競争に打ち勝つために、“中国カード”を効果的に駆使していくべきである」
このように、チャープラ氏らは、内政重視の民主党リベラル派に対しては、「中国との競争」こそが米国内の社会投資増大ひいては米国の国力強化につながることを説明する一方、財源確保のための法人税などの引き上げに根強い反対を唱える共和党タカ派向けには、中国への強硬姿勢をアピールすることで支持取り付けの重要性を訴える、いわば“両面作戦”の切り札としての「チャイナ・カード」の利点を強調したものだ。
バイデン大統領が今回打ち出した「インフラ投資」大計画は、再びホワイトハウス入り後、実際に戦略立案に携わるチャープラ氏の従来の主張を反映させていることは確かだ。今後、同政権としてはこうした視点に立った上で、中国との対抗意識をできるだけ前面に打ち出し、インフラ整備・新規投資のための大規模予算支出に対する国民の理解を求めていくとみられる。
ただ、それによって、トランプ前政権時代に増加しつつあった財政赤字のさらなる拡大は避けられず、今年後半にかけ、財源確保のための法人税および高所得者向け所得税引上げ案をめぐり、減税重視の野党共和党との激しい攻防が注目される。』
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https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22785

『今回のテーマは、「菅・バイデン共同会見、3つの疑問点」です。菅義偉首相は4月16日、ジョー・バイデン米大統領とホワイトハウスでの会談を終了した後、共同会見に臨みました。
そこで、菅首相は中国、台湾、イノベーション、コロナ対策、気候変動並びにアジア系住民への差別問題などで「一致した」と繰り返しました。合計11回も「一致した」と強調したのです。
一方、バイデン氏は共同会見で中国の挑戦に対して日米が連携して対抗する重要性について言及しましたが、今夏の東京オリンピック・パラリンピック競技大会及び、日本の中国に対する人権侵害制裁の立場に関して明言を避けています。
そこで本稿では、共同会見での菅・バイデン両氏のパフォーマンスと内容に関する3つの疑問点を挙げます。
(AP/AFLO)
【疑問点その1】
なぜバイデン大統領は共同会見でこの夏の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の支持を表明しなかったのか?
共同会見で菅首相は、「今年の夏、世界の団結の象徴として東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を実現する決意であることをお伝えしました」と語り、「バイデン大統領からこの決意に対する支持を改めて頂きました」と述べました。共同声明には確かに「バイデン大統領はこの夏の安全・安心な東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅首相の努力を支持する」と明記されました。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、今回の訪米で菅首相が重視していた議題のひとつであったことは間違いありません。というのは、帰国後菅氏はバイデン大統領から再度支持を得たと主張できるからです。バイデン氏は菅氏に「お土産」を持たせたと解釈できます。
ただし、バイデン大統領は共同会見で東京オリンピック・パラリンピック競技大会への強い支持を表明しませんでした。
共同会見の前日15日に行われた政府高官とメディアとの電話会議で、同高官はバイデン大統領が東京オリンピック・パラリンピック競技大会を巡る菅首相の置かれた政治状況に対して非常に神経質になっていることを明かしました。その上で、「大会開催まで数カ月あるので状況を見守ろう」と述べました。バイデン氏は東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関する自身の発言が、菅政権の存続に影響を及ぼす可能性があると捉えており、軽々な発言をしないように控えているのです。
20年米大統領選挙を振り返ってみると、バイデン大統領はドナルド・トランプ前大統領とは異なり、支持者の参加人数を制限した小規模集会を開いて、マスク着用及びソーシャルディスタンスを義務づけていました。さらに新型コロナウイルス感染が拡大すると、ドライブイン形式の集会を開催し、参加者は拍手喝さいの代わりに、車内からクラクションを鳴らして支持表明をしました。選挙期間中、バイデン氏は「コロナ対応型選挙」に徹し、それが有権者から支持を受けました。
となると、菅氏との会談でバイデン大統領は東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関して、かなり高いレベルの安全性の確保ができているのかを確認したとみて間違いありません。共同会見で支持を明言しなかった理由は、バイデン氏は100%確信をもっていないからです。
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『バイデン大統領は菅首相の招待を受け入れたのか?
【疑問点その2】
バイデン大統領は菅首相の招待を受け入れたのか?
菅首相は3月26日の参議院予算委員会で、バイデン大統領を東京オリンピック・パラリンピック競技大会に招待する考えを示しました。この件に関しても、バイデン氏は共同会見で態度を明らかにしませんでした。
外国人記者が共同会見で菅首相に対して、「公衆衛生の専門家が日本は準備ができていないと指摘しているのに、オリンピックを進めるのは無責任ではありませんか」という厳しい質問をしました。それに対して菅氏は回答をしなかったのです。ホワイトハウスでの共同会見に不慣れな菅氏は、外国人記者はバイデン氏のみに質問をぶつけてくると思い込んでいたフシがあります。
この場面は今回の共同会見のポイントです。菅首相は明らかに東京オリンピック・パラリンピック競技大会に対する疑問を払拭する機会を逃しました。
実は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関する質問はホワイトハウスでの定例記者会見でも出ています。ある担当記者がジェン・サキ報道官にコロナ禍での東京オリンピック・パラリンピック競技大会へのバイデン氏招待について、「菅首相は大胆な発言(a big statement)をしたと思いませんか」と質問をしました。
この「大胆な発言」には、「よくもそのような発言をしたものだ」という否定的な意味が含まれています。つまり、コロナ禍でのバイデン招待は、「困難」ないし「失礼」と言いたのです。
バイデン氏の率直にもの言うパーソナリティを考えると、本当に東京オリンピック・パラリンピック競技大会を支持しているならば、共同会見で「強く支持する」「ヨシからの招待を受ける」と断言したはずです。共同声明の東京オリンピック・パラリンピック競技大会支持は、バイデン政権の対中国戦略においてこれから矢面に立つ菅首相に対する特別な配慮としか思えません。
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『中国の人権問題
【疑問点その3】
バイデン大統領は日本の中国に対する人権侵害制裁の立場を今後も理解するのか?政府高官はメディアとの電話会談で、中国に対して人権侵害制裁を課さない日本に一定の理解を示しました。その理由として日中両国の経済関係の緊密さを挙げました。中国に対する人権侵害制裁に関して、日本に欧米と一緒に制裁を課すように無理に押し付けないというシグナルを発信したのです。
帝国データバンクによると、中国進出日系企業数は1万3646社(2020年1月時点)です。業種別では、製造業が5559社で全体の約4割を占めています。
仮に日本が人権制裁法の法整備を行い、欧米と共に中国に制裁を課した場合、同国は報復措置に出る公算が高いことは言うまでもありません。具体的には日本製品の不買運動、日系企業を標的にした法人税増税、入管手続や日本からの輸入品の手続における嫌がらせなど、多岐にわたる報復措置が可能です。
中国との経済関係を重視している日本は、人権問題で同国を刺激しないように注意を払っています。ただ、同盟国・友好国が束になって、中国に対して人権侵害の制裁を課してもらいたいというのが、バイデン大統領の本音です。人権はバイデン政権において内政と外交の双方の中核に位置づけられているからです。
今後、人権を最優先しないグローバル企業は消費者及び投資家から見捨てられる可能性があることを、日本企業は理解しなければなりません。世界的に人権重視の風潮が高まる中で、「人権尊重の経営」が日本企業の存続に直結するときが間近まで来ているといっても過言ではないからです。
米中の対立が先鋭化したとき、果たしてバイデン政権が日本の人権侵害制裁に対する消極的な立場に理解を示すかは予断を許しません。』
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https://www.asahi.com/articles/ASP4M6F9PP4MUHBI01V.html

『中国外務省の汪文斌副報道局長は19日の定例会見で、日米首脳会談後の共同声明で「台湾海峡の平和と安定」に言及したことについて、「台湾は不可分の中国の領土だ。中国は一切の必要な措置を取り、国家主権と安全、発展の利益を断固守る」とし、日米が関与を強める場合は対抗措置を取ることを示唆した。
声明で香港や新疆ウイグル自治区の人権状況に「深刻な懸念」を示したことについては、「人権問題では日米こそ負い目がある」と反論。日本の過去の侵略戦争や米国の21世紀以降の戦争を挙げつつ、「日米がすべきことは、自らの侵略の歴史と他国への人権侵害を反省して是正することであり、人権の看板を掲げて中国内政に干渉することではない」と断じた。
共同声明全般については「日米は国際社会を代表しておらず、国際秩序を定義する資格も自らの基準を他人に押しつける資格もない」と指摘。「口では『自由で開かれた』と言いながら小グループをつくって対抗をあおることこそ、地域の平和と安定に対する真の脅威だ」などと批判した。
日本には「周辺国や国際社会の懸念を直視すべきだ」とし、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出決定を取り消すよう改めて求めた。(北京=冨名腰隆)』
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『【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)加盟国は19日、EU初の包括的なインド太平洋戦略をまとめた。中国への懸念を念頭に地域の安全保障や経済への関与を強化。「同じ考えを持った国々」と協力し、人権保護やルールに基づく国際秩序の維持を推進する。加盟国によるインド太平洋海域への海軍派遣の重要性もうたった。
〔写真特集〕世界の航空母艦9月までに詳細を取りまとめる。対中強硬姿勢を示しインド太平洋地域を重視するバイデン米政権や、EUが「同じ考え方を持った国」と見なす日本のインド太平洋構想とも重なる動きだ。
ただ、戦略では中国の名指しは回避。EU加盟国間には対中政策に温度差もあり、足並みをそろえて戦略を実行できるかは不透明だ。』