[FT]「世界的プーチン礼賛」の愚 目立つ強権的指導者
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『ロシアのプーチン大統領がついに国際社会でのけ者になると考えれば、同国の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の死の慰めにもなるだろう。しかし、最近の歴史や今の政治は、そうはならないことを示唆している。
悲しいことに、プーチン氏は世界の大部分で今後も尊敬、さらには憧れさえ伴って扱われ続けるだろう。
ロシアでまたしても突然死が起こったことで中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がプーチン氏を切り捨て…
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『ロシアでまたしても突然死が起こったことで中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がプーチン氏を切り捨てるとは誰も思わない。習氏も民主化運動活動家を憎悪しているからだ。
むしろ意外なのは、プーチン氏が世界で最も強力な一部の民主主義国の指導者らと今も友好な関係を維持していることだ。
インドネシアの次期大統領もプーチン礼賛者
世界3大民主主義国のインド、米国、インドネシアでは今年、プーチン氏を礼賛する人物が国家指導者に選出される可能性が十分ある。インドネシアのプラボウォ国防相、インドのモディ首相、米国のトランプ前大統領はいずれもプーチン氏への国際的非難から距離を置いていることで知られる。その理由は政治上の実益にとどまらない。
プラボウォ氏は14日に実施されたインドネシア大統領選での圧倒的勝利が確実視されている。だが同氏が大統領の座に就くことにインドネシアの民主主義を支持する多くの人は強い不安を抱いている。彼らはプラボウォ氏がプーチン流の強権的な統治を望んでいると懸念しており、プラボウォ氏が(スハルト独裁政権時代に)軍人だった頃、数々の人権侵害に関わった疑惑を指摘している。
昨年6月、プラボウォ氏はアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で演説し、プーチン氏の野望に大きく配慮したウクライナ和平調停案を提示したが、ウクライナから「ロシアによる計画だ」と拒否された。
インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストの編集局長コルネリウス・プルバ氏は同月、プラボウォ氏にはプーチン氏への「憧れ」があるとし、インドネシアの有権者の中には「自分がプーチン氏の熱狂的ファンであることからプラボウォ元将軍を支持する人が多い」と指摘した。
インドにも多いプーチンファン
モディ氏は1月にプーチン氏と友好的な電話会談をし、両首脳は4〜5月に予定されているインド総選挙と3月のロシア大統領選での互いの幸運を祈り合った。モディ氏はプーチン氏と異なり、正真正銘の選挙を戦うが、容易に勝利しそうだ。
インドの外交官らは、モディ氏のプーチン氏との協力関係は単に実利主義と国益に基づくものだと主張する。インドはロシアから兵器や軍装備品を多く購入しており、その関係を一夜にして断つことはできない。インド経済も安価なロシア産原油によって恩恵を受けてきた。
公平を期すために言っておくと、モディ氏は2022年9月にプーチン氏と会談した際、「今は戦争の時代ではない」と同氏を公の場で軽く批判した。だが両首脳の関係はその後、再び友好的になり、プーチン氏は23年10月にはモディ氏を「非常に賢明な人物」だと称賛した。
モディ氏率いる与党インド人民党(BJP)の広報担当ジャイビール・シェルギル氏は、ナワリヌイ氏の死に関する質問に平然とこう答えた。「ロシアは昔も今も、そして今後もインドの力強い友好国、協力国であり続ける」
モディ氏は、自らについてインドを植民地主義の遺産からようやく解放しつつある強権者であり、愛国主義者と強調してきた。それもありインドでは、プーチン氏の反欧米、かつ反植民地主義的な発言が多くの国民に好意的に受け入れられている。
モディ氏に批判的な人々は、モディ政権がインドの民主主義を弱体化させ、国家の様々な制度を使って同氏に敵対する勢力を訴追してきたと主張する。
インド最大野党の国民会議派は16日、同党の銀行口座が突如凍結されたとして不満を訴えた。国民会議派の指導者らはモディ氏がプーチン氏のように真の反対派をすべて弾圧したいと望んでいると非難している。
そして前米大統領も心底、尊敬の可能性
そしてプーチン氏を同じく支持するのが前米大統領だ。バイデン米大統領がナワリヌイ氏の死はプーチン氏に責任があると非難したのに対し、前大統領は沈黙を続けた。これは巨額の罰金の支払いを前大統領に命じた16日のニューヨーク州地裁の判決を非難するので頭がいっぱいだったせいもあるだろう。
だが普段は悪びれもせず侮辱的な言葉やニックネームを発する前大統領が、プーチン氏については一切、批判を口にしてこなかったのは周知の通りだ。それどころかプーチン氏を強くて賢い人物だと称賛してきた。
一部の米民主党議員は、プーチン氏が前大統領の弱みを握っているのか見極めようと躍起だが、実現できずもどかしさを感じている。だが前大統領がプーチン氏を称賛し続けるのは、もっと簡単な理由からかもしれない。プーチン氏を心底、尊敬している可能性がある。
前大統領の顧問や取り巻きには、かなり前から恥ずかしげもなくプーチン氏を称賛する一派がいる。14年にロシアがクリミアを併合した直後、前大統領の顧問弁護士を務めていたジュリアーニ元ニューヨーク市長はプーチン氏を「リーダーとは彼のような人物を言う」と語った。
ナワリヌイ氏の死の直前には、前大統領に近く、米保守系ケーブルテレビ、FOXニュースの看板キャスターだったタッカー・カールソン氏が、首都モスクワの地下鉄の美しさを称賛する動画を公開し続けていた。
カールソン氏はロシアの不思議に魅了され、自分がこびているもう一人の強権的指導者であるハンガリーのオルバン首相が困難な事態に陥っているのに気づかなかったかもしれない。
ハンガリーでは児童への性的虐待の隠蔽に関与したとして有罪判決を受けていた人物に政府が恩赦を与えていたことが判明、オルバン政権の不適切な対応に抗議する大規模なデモが首都ブダペストで起きていた。
強権国家の国民は現実を理解している
オルバン氏への予想外の反発は教訓的だ。強権的指導者は自国の愛国主義や汚れひとつない地下鉄車両を見せて、だまされやすい外国人を感動させるのは得意だが、その国民は大抵、見かけ倒しの裏に隠された現実を理解している。
ナワリヌイ氏は、プーチン氏とその側近らの腐敗と暴力をあばいて批判してきた。彼はその勇気の代償を命で払うことになった。プーチン氏の外国にいる礼賛者らは、ナワリヌイ氏が明らかにしたプーチン氏の卑劣で不快極まりない現実に今こそ目を覚ますべきだ。
By Gideon Rachman
(2024年2月19日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
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