意思決定に民主主義のじれったさ…市場不安あおる(2012年6月17日 15:37)
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFZ15010_V10C12A6K11100/

『2012年6月17日 15:37
27カ国が集まるEUの意思決定には時間がかかる。仕組みの複雑さや、時に危機のスピードに追いついていけない民主主義のじれったさも、市場の不安心理をあおる一因になっている。
EUの最高意思決定機関は、加盟各国の首脳らによる欧州理事会(EU首脳会議)。ここで政治的な方向性が決まると立法作業に移る。
立法機関は2つある。各国の関係閣僚から成る閣僚理事会と、直接選挙で議員が選ばれる欧州議会だ。
2つの機関は共同で意思決定をするが、案件によっては理事会だけで決めるケースもある。
理事会での議決方法は大別して2つ。
加盟27カ国の全会一致と、人口などに応じて国ごとに投票権を案分する特定多数決だ。条約改正など重要度の高い案件は全会一致が原則となる。
一連の手続きが済んでも、まだ終わらない。
今度は加盟国がそれぞれ、国内の民主的プロセスを経て条約や法案を批准・承認する。議会での議決や国民投票など手続きは国や案件ごとに異なる。
今注目度が高いのは構造的な財政赤字がGDP比0.5%を超えた国に、より強く是正を求める「新財政協定」。協定に反対した英国とチェコを除く25カ国の政府間協定として批准手続き(アイルランドのみ国民投票で批准)中だ。来年1月の発効をめざす。
ユーロを巡る問題はこうしたEU全体の意思決定とは別に、ユーロ加盟17カ国で政策を決めることが多い。
例えば、昨年秋の欧州金融安定基金(EFSF)の強化策は全17カ国の議会の可決などを経て発効することになった。
ところが昨年10月、最後に残ったスロバキアが、連立与党内部から「スロバキアに世界を救う責任はない」との声がわき出て、これを否決。ユーロ圏GDPのわずか0.4%しかない小国の反対で強化策は頓挫しかけた。
当時の女性首相ラディツォバ氏が総選挙と引き換えに野党の賛成をとりつけ、再議決で可決にこぎ着けたが、今年3月の総選挙で与党は惨敗した。
「ヨーロッパは危機を通じて形成され、危機に対する解決策を積み重ねて構築されていく」。
欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立を主導し「欧州統合の父」と呼ばれるジャン・モネはこう語った。今回の危機も壮大な欧州統合の歴史の1ページなのか。答えはまだ見えない。(山本由里)
[日経ヴェリタス 2012年6月17日付]』