トランプ大統領就任演説、格式より成果の「MAGA話術」
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『2025年1月22日 9:49 [会員限定記事]
【ワシントン=芦塚智子】米共和党のトランプ大統領による20日の就任演説は、「米国第一」といったスローガンをちりばめ、平易な言葉で不法移民排除などの公約実現を宣言する選挙演説スタイルを取った。「MAGA」と呼ばれる岩盤支持層への配慮が目立った。
トランプ氏は演説で、大統領選で繰り返してきた「米国の黄金時代」「米国第一」「米国を再び偉大に」「ドリル・ベイビー・ドリル(原油やガスを掘って掘って掘りまく…
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※ 『「ドリル・ベイビー・ドリル(原油やガスを掘って掘って掘りまくれ)」のスローガンを使った。いずれも「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」の頭文字から「MAGA」と呼ばれる岩盤支持層が盛り上がる言葉だ。
「何百万人もの犯罪者の外国人を来た所に戻す」「性別は男性と女性の2つのみにする」「メキシコ湾を『アメリカ湾』に改める」など、支持者に人気の公約を実現する大統領令を単純な言葉で説明した。就任式後にこうした大統領令に署名した。
民主党のバイデン前政権の政策を巡り「ぞっとする(horrible)裏切り」と批判し、大統領選での勝利を自賛した。米紙ワシントン・ポストによると、「horrible」という言葉が大統領の就任演説で使われたのは初めてだという。
歴代大統領の演説は米国の歴史をひもといて民主主義や融和の理念を掲げることが多かった。政治家のスピーチライターを務めた経験があるミシガン大学のラスティ・ヒルズ講師は「新大統領は高尚で超党派の姿勢を示す演説をするのが通常だが、トランプ氏の演説は選挙集会での演説の再利用で独特だった。支持基盤向けの演説に聞こえた」と指摘する。
例えば民主党のバイデン前大統領は2021年の就任演説で「我々は今日、一候補者の勝利ではなく、民主主義の大義の勝利を祝っている」と党派を超えた民主主義の重要性を訴えた。ケネディ元大統領も1961年の演説で同様の言葉を使った。
民主のオバマ元大統領は13年の演説で、米国の独立宣言の言葉をひいて「我々はこれらの言葉の意味と現実をつなぐため、終わりのない旅を続けている」と米国の歴史に言及しながら理想を語った。
歴代大統領は就任演説でワシントン初代大統領やリンカーン、ジェファーソン各元大統領、米国建国の父らの言葉や逸話を引用してきた。トランプ氏は17年の演説ではこうした歴史には言及せず、今回の演説でもパナマ運河を巡る政策の説明の中でマッキンリー元大統領について「生まれながらのビジネスマン」と触れるなどにとどめた。
ヒルズ氏は「トランプ氏は歴史や感動的な言辞よりも、自分のアイデアや政策、自分自身のことに重点を置く」と分析する。
過去の大統領就任演説には歴史に残るフレーズも多い。レーガン元大統領は1981年の就任演説で「政府は米国の問題の解決策ではない。政府こそが問題だ」と「小さな政府」を目指す保守主義の理念を示した。
1933年のルーズベルト元大統領の「我々が恐れなくてはならない唯一のものは、恐れそのものだ」という言葉も有名だ。ブッシュ元大統領(第43代)は2001年の演説で「前世紀の大半で、自由と民主主義を目指す米国の信念は荒れ狂う海の中の岩であった。いま風に乗る種となって多くの国々に根を下ろしている」と詩的な言葉で民主主義を世界に広める理想を語った。
ヒルズ氏はトランプ氏の演説について「自分に投票しなかった国民に手を差し伸べる機会を逃した」と指摘する。ただ、保守派メディアなどは「具体的な政策を明確に述べた」と好意的に評価している。
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