資源の呪い・・・ガイアナ、NEOM、アフリカ諸国
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『 以前、このブログでも取り上げた記事で、ガイアナで発見された海底油田を狙って、1世紀以上前から隣国のベネズエラが国境線を巡って起こっていた紛争を蒸し返し、ガイアナの国土の70%に及ぶ地域に対する主権を主張している問題を取り上げました。こういう天然資源の発見により、地域の経済や利権が根こそぎ引っくり返る現象を「資源の呪い」と言います。凄く卑近な例で例えると、国家にとって、宝くじに当選したようなものなので、その地域の地場産業や国家体制に多大な影響を与え、多くの場合には、不幸になります。うまく発見された天然資源の利を活用するには、その国に十分な民主主義体勢と、情報の透明化、良く教育された人的資源が存在している事が必要です。実際、現時点で、それを十分に活用し、国の経済を発展させるのに最大限に活用していると評価されているのは、北欧のノルウェーの北海油田開発だけです。ちなみに、量としては多く採れる中東や南米の諸国は、一国も含まれていません。
資源の呪いの本質は、天然資源という突出した利益を産む産業が生まれる事で、国の構造のみならず、他国から見た地域の価値すら変わってしまう点になります。余りにも儲けが出る為に、国家のあらゆるリソースが、天然資源の採掘に特化してしまい、一般の国民は偏った国家運営の為に、返って貧しくなります。ノルウェーの場合は、北海油田という天然資源開発で得た利益を、国が運営する透明性の高い政府運営のファンドの資金として運用し、現時点では世界最大の資金を誇る政府系ファンドになっています。金融市場で運用する事で、元の資金を何十倍にも増やし、これを仮に国民一人当たりで分配した場合、漏れ無く生活を底上げする計算になります。独裁者が不透明な情報開示で、恣意的に運用しているファンドと違い、十分な情報開示と監視がされている中での運用なので、資源から得る収入に頼り切る事無く、そこからの資金を更に増やす事で、国民全体が豊かになっています。こういう例は、実は極めて稀です。大概は、政府の一部が私腹を肥やしたり、資源を巡って内戦が起きたり、技術を持つ国外の大資本にコントロールされたりして、蚊帳の外の国民は不幸になります。
実際、植民地時代のアフリカでは、せっかく独立を勝ち取っても、そこで鉱山が発見されたという理由で、イギリスから故意にイチャモンを付けられて、戦争を仕掛けられて消滅したオレンジ自由国という国家も存在します。現在の南アフリカが成立以前の話で、キンバリーでダイヤモンド鉱が発見された事を理由に、まず、トランスヴァール共和国が消滅し、周囲の国家と併合する形で、南アフリカ連邦というイギリスの自治領にされています。この時、ブール人独自の国家というものは消滅し、複数の人種を抱える歪な国境を持つ国家が成立し、悪名高いアパルトヘイトに繋がる白人を頂点とする国家運営が始まります。一部の特権階級を除いて、国民が等しく不幸になりました。
現在、きな臭い地域の筆頭に上がっているベネズエラですが、ここは石油利権で真正面からアメリカと対立したチャベス前大統領が、世界最大の原油埋蔵量という原油がもたらす富に依存し、大盤振る舞いのばら撒きを始めました。社会福祉などで、労せずに利益を得られる国民は、チャベス氏を支持し続けて、国家運営はチャベス氏の身内による私物化が進み、汚職や横領も酷くなりました。それでもなお、国家財政を支える利益が出ているうちは良かったのですが、原油の価格が暴落すると、あっと言う間に国家運営が資金でつまずき、アメリカからの経済制裁も加わって、国内経済はハイパーインフレで大混乱に陥り、現在では国から逃げ出す難民で周辺国の治安が脅かされる事態になっています。そして、チャベス前大統領の側近であるマドゥロ大統領が、武力を背景にした独裁を布いて、司法を支配し、議会を無力化して、民主主義という体勢だけ残した事実上の独裁国家になっています。この場合の問題点は、資源という収入源に依存して、国の命運を原油の市場価格に委ねてしまった事です。そして、原油を大量に抱えているゆえに、アメリカに正面から楯突くという外交上の失態も犯しました。身の丈以上に強気に出てしまったわけです。なんなら、南米の盟主としてブラジルとタメ張るぐらいイキっていたので、原油の価格が下がると、一気に追い詰められました。しかも、海外からの技術支援も止まったので、油井の老朽化で死んだ施設も発生し、産油量は毎年減っています。
また、アフリカのあちこちの小国では、油田を探して試掘をしまくる海外資本が入った結果、採算が取れないと放置された試掘油井から原油が漏れ出して、付近の環境を汚染し、飲用水が枯渇して、住人に甚大な被害が出ている地域もあります。また、アフリカの貧困国では、普通に新薬の人体実験の被験者とされる代わりに資金を得ている国もあり、つい、この間の武漢肺炎のワクチンの人体実験も盛大に行われています。つまり、ワクチンにお金を出せる先進国の安全の為に、アフリカの住民は健康被害のリスクを負った人体実験の被験者にされています。天然資源の発見という成果に繋がらなくても、普通に先進国が天然資源の採掘の為に、環境を荒らしまくって、後始末はしていません。アフリカに毎年、何兆円もの資金援助がされるのは、こうした人道的犠牲に目を瞑る事とバーターになっている面もあります。医学や科学が発展するには、人権無視で実験ができる犠牲者が必要で、我々が安全な医療を受けられる影で、恣意的に犠牲にされている人々もいるという事です。
資源の呪いという象徴的な言葉を、仕組みで解説すると、その典型的な例が「オランダ病」という現象で確認できます。このオランダ病というのは、エコノミスト誌が、オランダに起きた現象を説明する為に作った造語で、経済用語として広く用いられています。
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ある国が豊富な天然資源を見つけ、それを積極的に輸出し始めると、大きな貿易黒字を得ることができる。だが貿易黒字は自国の通貨高を招き、資源以外の輸出品は国際競争力を失う。そのため製造業が衰退し、そこで働いていた人々は失業者になっていく。それを防ぐために、資源輸出で得た収益の適切な投資と産業を多角化させることが求められる。
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国家のリソースというのは、土地、労働人口、資本の3つの要素で決まります。これらは、お互いを牽制しあう関係になっていて、一つが突出して伸びると、他の要素のリソースを侵食します。例えば、土地=巨大プランテーションが伸びると、農園に従事する労働人口と、運営する資本の比率が高まります。結果として、他の産業が伸びなくなり、主力農産物の市場価格で国家運営が左右されるようになります。また、その国の土地面積、労働人口を超えるリソースを投入する事は不可能なので、自ずから国家としての資本は、制限を受ける事になります。労働人口だけ足りなくて、アフリカの部落から黒人を拉致して、奴隷として働かせたのが、アメリカ南部の巨大プランテーションです。農園主は貴族のような生活をしていましたが、結局は現在のアメリカの人種問題のど真ん中の原因になっています。
原油産出国の場合、上記の三大要素の内、資本が歪に伸びた形になるわけですが、金融市場で原油取引などを経験した事のある方ならお解りでしょうが、原油先物取引のボラティリティーというのは、まともな感性では耐えるのが難しい程に変動の激しい世界です。平気で1日で2%ぐらいの価格が上下動しますので、市場の中でも突出した殺人相場になっています。原油産出国、特に中東というのは、国土が砂漠という事もあり、原油以外に資本になる芽が無い地域が多いです。つまり、資本に偏った構成になる為、それ以外の産業が、いきなり漁業だったり小作農になったりします。原油採掘という産業は、何万人も労働力が必要ではないし、その割に利益率が馬鹿高いです。なので、皆が原油に関わろうとして、それ以外の産業を育てようとしません。最近、中東の各国がNEOMのような巨大都市プロジェクトを立ち上げようとしているのは、さすがに資源の枯渇した後の国家運営に不安が出てきたからです。しかし、冷静に考えると判るのですが、ブチ上げられているプロジェクトが、余りにも夢物語的で、そもそもの発想が無価値な土地を単独で利益を産む場所に変えようという発想なので、普通に考えて失敗するだろうみたいな無謀なものばかりです。地道に産業を育てようとか、未来を見据えた投資とは、程遠いもので、いきなりバベルの塔みたいな空中庭園を砂漠に作ろうみたいなものばかりです。なまじ、金があるから、そういう発想になるのですが、下手に深入りすると危ないプロジェクトに見えます。実際、現時点でもNEOM関連の予定されていた派生プロジェクトは、頓挫しています。
前述のノルウェーの場合、北海油田という資本から出た利益を、政府系ファンドという金融取引に回して増やし、国民に福祉という形で分配したので、国民の生活の向上に繋がっています。原油で得た利益を、ばら撒いたり、原油に依存したり、一部の利権者が独占したり、他国から利権を狙われたりしなかったので、国民が不幸にならなかったのです。こういう賢い運用をしたのは、ノルウェーだけです。
王政を布いているので、透明性という部分では問題があるものの、優秀な指導者を得た事で、自国の天然ガスを液化天然ガスという形で、世界と取引できる産業に育て上げたカタールも優秀な国家と言えます。カタールは国の位置からして、ガス田から出る天然ガスを気体のままで、パイプラインで、買えるだけの経済力のある国に輸出するのが難しかったのです。液化天然ガスの技術を、国家の命運を賭けて産業として育てたのは、カタールの現在の王で、これによってタンカーで天然ガスを、港がある世界中の土地に輸出できるようになったのです。ただし、ここも、発想として未来の資源枯渇に備えて、大金を投入して砂漠に巨大都市を作るという方向に動いているのは変わらず、金に物を言わせて、世界中の国際イベントを抱き込んています。先日のワールドカップの誘致も、その一例ですね。ただ、一方で、天然ガスで稼いだ利益を、政府系ファンドで運用しているのは、ノルウェーと同じなので、この国は中東の中で、そのうち無視できない実力を持つのではないかと思っています。ただ、国家運営の透明性という意味では、落第点ですけどね。王政のままでは、指導者の意向が出すぎるので、どこかで躓く気がしています。
資源というのは、それに関わった人間が、一生の間、お大臣ができるくらいの富を生み出してくれるので、短絡的に利用され、関われなかった多くの人を不幸にします。それは、人間の知恵で回避できるのですが、それだけの賢さを体勢として持っている国は少なく、仮にそうであっても、時代が悪ければ、他国の資源を目的にした侵略に遭い、強奪されたりします。そして、いずれは枯渇するのが、見えているものです。そういった事柄の全てが、それを持つ国に、様々な不幸を呼び込む原因になり得ます。
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