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『シベリアの村に住むアリーナ・コソワさんの叔父が先月、急病で倒れたとき、近くの大都市オムスクから急行した救急車は、病人を搬送せず去った。仕方なく、家族が車で病院に運んだ。到着すると、病院は診療の順番を待つ患者であふれかえっており、10時間も待たされる羽目になった。それも、診療を受けられたのは同僚が裏で手を回してくれたおかげだった。
感染者が急増し、医療機関にかかる負担も大きくなっている(サンクトペテルブルクで新型コロナ患者の受け入れなどにあたる医療従事者)=AP
感染拡大で強まる政府への不満
コソワさんの叔父セルゲイ・コソフさんは、退院したら病院で受けたひどい扱いと、大混乱の様子を告発してやると親戚に息巻いていたが、結局、退院することなく亡くなった。
9つの時間帯にまたがる広大な国土を持つロシアで全国的に新型コロナウイルスの感染が急拡大していることで、18歳のブロガー、コソワさんのようなこれまで比較的無関心だったロシア人も、政府がパンデミック(世界的大流行)に対して有効な対策を取れないことに怒りを抱くようになった。
ロシアの累計感染者数は、世界で4番目に多く、6日には過去最高となる2万9093人の感染が確認された。この感染の第2波は、現感染者数の7割を占め、モスクワのように近代的な医療インフラの整っていない地方にとって特に大きな打撃となっている。
大統領府はロシアのワクチン「スプートニクV」の接種開始により、感染拡大を抑えることができるだろうと期待している。ワクチンの大規模接種は7日に、まずモスクワで教師や医師を対象に無料で始まった。その他の地域でも週内に接種が始まる予定だ。
政府の感染対策を指揮するゴリコワ副首相は先週、21万6千人の入院患者を治療するのに必要な専用病床数が確保されており、病床使用率が90%を超えているのは全国の85の地域のうち4つだけだと強調した。しかし、全国の医療従事者や一般市民は医薬品の不足や病院で治療を受けるまでに長時間待たされること、救急車が到着するのに何日もかかることなどに不満の声を上げている。
叔父を亡くしたコソワさんは、オムスク州のアレクサンドル・ブルコフ州知事を批判するラップを作った。ブルコフ氏が「故郷で人々が病院へたどり着く前に死んでいく」のを見ながら、モスクワの施設の整った病院で治療を受けていることを皮肉っている。
ブルコフ氏は、モスクワで受けた検査で最初に陽性が判明したので、対応ガイドラインに従って首都にとどまっていると発表した。しかし、オムスクの病院が対応能力の限界に近づいている中、知事の言動が批判の的になっている。
オムスク州では、病床に患者を搬送しても長く待たされることに抗議して、2人の救急隊員が新型コロナの患者を地元保健当局の庁舎に運び込む出来事が起こった。この患者たちのための病床は結局、確保されたが、この事件の後に2人の保健当局の幹部が更迭された。
コソワさんは本紙の取材に答えて、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の彼女のフォロワー150万人のうち何人かは、自分たちの経験を投稿してきたと語った。コソワさんは「医師たちは職業意識が足りず、医薬品やベッドが不足している。当局は、国民をなだめようとしているのだろうけど、ぬか喜びさせてるだけだわ」と語った。
厳しい行動制限に二の足
大統領府は不人気なロックダウン(都市封鎖)の判断を地方政府に委ねているが、地方の当局者たちは、秋に感染が急拡大し始めても、行動制限を再導入することに二の足を踏んだ。
市民や小規模ビジネスに対する政府の支援も少ない状況や、プーチン氏の言う「よく知られたロシア人の無鉄砲な態度」があることも背景に、パンデミックにうんざりしているロシア国民は外出を控えることを渋っている。
独立系世論調査機関レバダ・センターが11月に実施した調査では、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)に関する規則を守っていると回答した人の割合は57%にとどまった。公共のイベントへの不必要な参加を控えていると答えた人は、全体の45%にすぎなかった。
厳格なロックダウンの再実施を提案する当局者もいるが、大統領府は後ろ向きだ。プーチン氏の支持率が夏に過去最低まで落ち込んだ後、ようやく回復しつつある状況でそうした措置を取れば再び急落する恐れがあるとみているためだ。政策の失敗の犠牲にされているという不満を持つ飲食店などの経営者たちも反対の声を上げる。
最も厳しい状況に直面している地域の1つが、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクだ。市当局は病床は95%以上がすでに埋まっていると表明。7日には年末までに感染拡大の歯止めをかけられなければ、外出禁止令を出してすべての医療施設をコロナ患者の受け入れに使わざるをえなくなると警告した。
サンクトペテルブルク市当局は、新年のお祝いの時期に接客業の営業時間を制限する決定をしたが、100以上のバーやレストランの経営者がその措置を無視すると宣言した。
レストラン経営者のアレクサンダー・コノバロフ氏は「この措置は完全に不合理だ」と指摘。規制に従うことを拒否すると宣言している飲食店などの場所示す「抵抗地図」を作成した。「すべてのレストランが営業停止ということになれば、大部分は家賃の割引を受けられるので、なんとか生き残れる。(営業時間の制限より)ロックダウンの方がまだましだ」と語る。
さらに事態悪化の可能性も
モスクワの高等経済学院の疫学分野の教授であるワシリー・ウラソフ氏は、現在、新規感染者が急増しているのは、感染拡大がまだ十分に抑え込まれていない5月に行動制限を解除したことが原因だと語る。「ロックダウンは感染の急激な拡大を短期間に抑え込むのに有効だが、長期的に継続することは難しく、解除した途端に感染は再び拡大する」と指摘する。
夏までに感染拡大を十分に抑えられなかったことで、医療インフラの整っていない辺境部にもウイルスが広がっている。北極圏のすぐ南に位置する人口1千人ほどの村、ウスチ・ピネガに住むガリーナ・レートチキナさんは、地元の病院が昨年、閉鎖されてしまったため、新型コロナに感染した両親を医療の受けられる施設まで搬送してくれる救急車を見つけようとしたが、無駄だった。
レートチキナさんは「川がまだ凍っていないので、運転して行くこともできない」と嘆く。「医者を呼んでも、60キロも離れた所から来なければならないので難しい。(隣村に)医師が1人と、救急救命士が1人いるだけで、彼らは自分の村の患者でさえ診療しきれないのよ」
ウラソフ氏は、最悪の時期はこれから到来する可能性があると考えている。「ロシアでは感染の流行が完全に終息しなかった。夏にモスクワで新規感染者数が減ったとしても、感染はロシアの地方に広がり始めていた」と指摘する。「ロシアで、医療基盤を拡大できる資源を持っているのはモスクワだけだ。その他の地域にはそんな資源はない」とも語った。
By Max Seddon
(2020年12月10日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
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