エルドアン勝利の大統領選 トルコの民主主義の行方は
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/30425
『トルコの大統領選挙は、事前には野党候補のクルチダルオールが現職のエルドアンに対して優勢であると分析されていたが、5月14日の1回目の投票ではエルドアンが過半数には満たないもののリードし、5月28日の決選投票では約4%の差をつけて勝利した。
(Chris McGrath / スタッフ/gettyimages)
ベルギーのシンクタンク「カーネギー・ヨーロッパ」のディミタル・ベチェフ客員研究員による5月16日付の英フィナンシャルタイムズ紙掲載の論説‘Erdoğan’s political momentum puts Turkish democracy to the test’は、1回目の投票結果を分析するとともに、エルドアン政権の継続の下でトルコの民主主義の試練が続くと述べている。要旨は次の通り。
なぜ世論調査は間違えたのか?選挙の前のほとんどの世論調査でエルドアンは遅れを取っていた。大地震に対するパッとしない対応と経済失政がエルドアンに対する支持を損なうと予想されていた。
クルチダルオールは一回目の投票で首位に立つ、あるいは50%の敷居を超えて勝ちを決めるとすら予想されていた。実際には、エルドアンが49.5%の票を獲得し、クルチダルオールに4ポイントを超える差をつけた。そればかりか、公正発展党(AKP)を中心とする与党連合が議会の過半数を維持した。
保守的な有権者の一部がAKPを見限ったために、エルドアンは一回目の投票では勝利できなかったが、世論調査に現れない隠れた支持があった。
トルコのナショナリズムにも関係がある。クルチダルオールが勝つためにはクルド系の国民民主党(HDP)の支持を必要とすることは明らかだった。それゆえ、彼は(非合法組織である)クルド労働者党(PKK)に繋がる勢力の側に寝返ったと描かれ易くなった。その結果、エルドアンあるいは第3の候補シナン・オアン(ナショナリストで対クルド強硬派の)のいずれかに票が流れた。
エルドアンの新たな任期は容易ではない。AKPは、経済危機は何とか凌げると結論づけるかもしれない。湾岸諸国からの投資と対ロシア輸出の伸長は安心材料である。しかし、トルコ・リラは脆弱なままである。制御不能のインフレは生活水準を蝕み続け、不満を高めるであろう。高水準のエネルギー価格と地震からの再建は財政に重圧を加えるであろう。
ロシアおよびウクライナ双方と強い関係を有するエルドアンが現職にとどまることは、プーチンとゼレンスキー両人にとり幸いである。スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟については若干のやり取りがあろうが、7月のNATO首脳会議の前に了解に達することは恐らく可能である。
エルドアンの勝利は、必ずしも欧州連合(EU)との摩擦を意味しない。過去の選挙とは対照的に、今回は、ブリュッセルやEU主要国に対する怒りのレトリックの暴発は見られなかった。トルコはEUからの資金の流入に依存することになろう。EUはエルドアンが欧州への難民の流入を止め置いてくれること、そしてウクライナの紛争における調停役を担うことを当てにすることとなろう。
エルドアンの下における更なる5年間はトルコにおける民主主義のルールを危険に晒し、西側との関係を緊張させるかも知れない。しかし、長期的には、すべてが失われた訳ではない。野党陣営とトルコ社会はトルコの民主主義が未だ生きていることを示唆するに十分な強靭性を発揮した。
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今回のトルコの選挙は、野党陣営にとっては予想しなかった最悪の結果であったであろう。選挙前にはほとんどの世論調査がクルチダルオールの優勢を伝えていたにもかかわらず、1回目の投票は、蓋を開ければ、得票率はエルドアンが49.50%、クルチダルオールが44.89%で、エルドアンが約4.5ポイント上回った。同時に行われた議会選挙でも、AKPと極右の民族主義者行動党(MHP)の与党連合が過半数を維持することになった。』
『上記の論説は、なぜ世論調査が間違えたのかを問うている。終わってしまえば色々言えるだろうが、大統領選挙の投票結果の分布を見ると、クルチダルオールは地中海沿岸を含む都市部で勝っているが(もっともイスタンブールやアンカラでの勝利は僅差である)、地方ではエルドアンが圧倒的に勝っている。世論調査は都市部の声を過大に反映し、地方に根強い宗教右派の動向を見失っていたのではないかと思われる。
1回目の結果を受けて、勝負はほぼ決まりとの空気が一気に広まっていた。5月28日に行われた決選投票では、エルドアンが52.16%、クルチダルオールが47.84%と、エルドアンが4ポイントあまりリードした。クルチダルオールは「絶望するな。われわれは耐え、共にこの選挙をものにする」と鼓舞したが、選挙戦のモメンタムは維持できなかった。
決選投票では、1回目の投票で予想外の5%超を獲得した第三の候補シナン・オアンの票がいずれの候補に流れるかが注目されていた。彼は極右の世俗主義であり、いずれとも相容れないところがあった。彼はエルドアンにはナンセンスな経済政策の放棄を要求し、クルチダルオールにはクルド系政党HDPと手を切ることを要求している。クルチダルオールは極右の主張に擦り寄り厳しい移民政策を打ち出すなどしたが、決選投票で逆転するには不十分だった。
トルコの民主主義は強靭性を示したが……
上記の論説は、野党陣営は敗れたが、野党陣営とトルコ社会はトルコの民主主義は未だ生きていることを示唆するに十分な強靭性を発揮したと述べている。
確かに、トルコ社会は民主主義を諦めてはいない。投票率は88%を超える高率であったようである。選挙は政権に対する主たる不満の表明のチャンネルとして機能したとは言えるのであろう。深刻な選挙の不正や妨害は報告されていない。
しかし、公平な土俵で戦われた選挙とは言えない面もある。いずれにしても、民主主義のルールを脅かすエルドアンの強権政治を追放するまたとない機会を逸したことはトルコのために惜しまれると言うべきであろう。』

















