日本の脅威か?「中国-欧州」貨物鉄道の実力
https://toyokeizai.net/articles/-/171848
『2017/05/18 6:00
古くから中国と地中海諸国を結ぶ交易路として栄えてきたシルクロードが、装いを新たして復活した。「一帯一路」構想。中国が陸路と海路でアジア、中東、欧州とを結ぶ巨大な経済圏を作ろうという構想だ。5月14~15日には一帯一路に関する国際会議が北京で開催され、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領ら世界各国の首脳が参加した。
鉄道を使った“シルクロード”はすでに動き出している。4月29日、ロンドンから初の直行貨物列車が19日間をかけ、浙江省義烏市に無事到着した。中国と欧州を結ぶ貨物列車が走り出してから6年余り。中国から見て、英国は欧州行き貨物列車行き先の国として11番目の国だという。
100円ショップの集散地に到着
義烏という街は、雑貨を扱う人々の間で「“100円ショップ”向け商品のふるさと」として広く知られる。日本向け雑貨の出荷はかつてより落ち込んだといわれるが、依然として「中国最大の小商品(食品や雑貨等の小物)集散地」の地位にあることに変わりはない。日々さまざまな物資が出入りしている。
今回、義烏に着いたロンドン発の貨物列車は、今年1月1日に義烏からロンドンに向けて走った中国発往路便の折り返し便となる。中国発の往路は義烏から18日目にロンドンに到着。34個のコンテナは衣料品で満載だったという。
中国行きは4月10日、ロンドン東郊外のDPワールド(DPはドバイポートの略)が運営する貨物ターミナル・ロンドンゲートウェーを出発。英国からの主な積み荷は、ベビー用品をはじめ、清涼飲料やビタミン剤で、往路の2倍以上となる88個のコンテナが運ばれた。
ドーバー海峡をくぐるユーロトンネルを通り、フランス、ベルギー、ドイツ、ポーランド、ベラルーシ、ロシア、カザフスタンの7カ国を経由し、新疆ウイグル自治区の阿拉山口ボーダーから中国に入った。全走行距離は1万2451キロメートル。旧ソ連各国では軌間(ゲージ)が異なるため2度の積み替えを行う必要があったという。』
『ロンドンからの出発に際し、居合わせた記者らは往路便が到着してから復路便が出発するまでに3カ月以上もかかった理由について関係者に問い質したところ、義烏側のカーゴフォワーダー会社の幹部は、「ロンドン便貨物列車は始まったばかり。貨物輸送が定期運行化され、中国と欧州を結ぶ重要な輸送インフラとなれば、沿線の人々が徐々にそのすばらしさを理解することだろう」と余裕の構えを見せた。
多くの国々をまたいで走る国際貨物列車は各国に入る際に通関が必要となるが、英国で貿易商を営む中国籍の女性は「通過各国が中国の『一帯一路』政策に理解を示し、通関手続きを簡素化すると聞いている。船便と比べ半分の日数で中国に商品を届けられるうえ、航空便を使うより圧倒的に安いのが魅力」と手放しで歓迎している。
一方、英国のメディアは、欧州連合(EU)からの脱退を控えた英国がアジアの大国・中国を貨物列車で結ぶ意義について、「EU以外の国々との貿易の枠組みを強化するための一環では」との見方を示している。
51ものルートがある中国―欧州間の貨物列車
「中欧班列(チャイナ・レールウェー・エクスプレス)」と呼ばれる中国と欧州を結ぶ貨物列車をあらためて紹介してみよう。
中国から欧州行きの貨物列車は2011年3月、内陸部の重慶からドイツ北西部のデュースブルクに向けて走ったのが最初だ。それ以来、今年4月までの累計運行数は3600本を超えた。始終点は中国側が27都市、欧州側が11カ国28都市で、それらを相互に結ぶ列車は、重慶―デュースブルク間、成都―ポーランド・ウッジ間、鄭州―独ハンブルク間など、全部で51ものルートに達している。
前述のように、旧ソ連領の各国を走る際には軌間の違いからコンテナを積み替えねばならないが、関係者によると「600トン分のコンテナを40分で積み替えた記録もある」という。ちなみに、前述の義烏からはロンドン行きのほか、スペインのマドリード行きもあるが、この場合は標準軌のフランスから広軌のスペインに入る際に、さらにもう一度積み替えることになるという。
では、これらの列車はどんな経路を走っているのだろうか。』
『鉄道で欧州方面に接続できる経路は、全部で3つある。
・「西ルート」――中国の内陸部から甘粛省、新疆ウイグル自治区を経由し、阿拉山口からカザフスタンへ接続。カザフスタン、ロシアを経由し、欧州へ向かう。
・「東ルート」――中国の沿岸部から東北各省を経て、内モンゴル自治区の満州里からロシアへ接続。シベリア鉄道経由で欧州へ向かう。
・「中央ルート」――華南や華中各地から内モンゴル自治区に向かい、エレンホト(二連浩特)でモンゴルへ。その後、シベリア鉄道を経由し欧州に向かう。
ちなみに、北京とモスクワを結ぶ旅客列車は、前述の「東ルート」「中央ルート」をそれぞれ通っている。一方「西ルート」を走る旅客列車は新疆ウイグル自治区の中心都市・ウルムチとカザフスタンのアルマトイを結ぶにとどまる。
欧州発の荷物をどう増やすか
現在、中国から欧州に向けて運ばれている主な貨物は、衣料品のほか、ノートブックパソコンをはじめとする電子製品やその部品、ディスプレーモニター、自動車などだという。最近では、中国で栽培された花きや鉢植えの草花が輸出された実績もある。
一方、欧州発のコンテナには、ドイツ製自動車、肉製品、家具、フランス産のワインなどが積まれているという。特に中国で人気が高いドイツ製自動車について、重慶の輸入車ディーラーは「港のある天津や上海に着くのではなく、内陸部にある重慶の貨物ターミナルで通関のうえ、商品である車が受け取れるのはとても便利」と中欧班列を使った輸入のメリットを強調する。
中国政府は2020年までに、中欧班列の運行本数を従来実績の2倍以上となる年間5000本まで引き上げるとの目標を掲げる。中国側の発表によると、中欧班列は今年1〜3月に欧州行き往路593本を運行しているが、復路便はその3分の1程度の198本にすぎない。中国からの輸出が極端に多い状況は当分続きそうだ。
「今年になって、中国と欧州を往復する貨物列車のルートが増えている」と、強気のコメントを述べる関係者もいるが、51あるルートの中には義烏―ロンドン間のように「中欧班列が走った実績がある」程度のところも数に含まれているのが現状だ。つまり多くのルートは、「貨物が集まったら走らせる」という現状を、「週に何便、と決まった頻度で走らせる」レベルまで高めることが目下の目標といえる。』
『もっとも、新しい物流の動きも見え始めている。4月には世界に2つしかない「二重内陸国」のひとつであるウズベキスタンで組み立てられた自動車を載せた貨物列車が江蘇省連雲港に到着。積み荷は船に載せ替えられ、第三国に輸出されたという。
中国政府は中欧班列の整備にあたり、関連する鉄道網や貨物ターミナルなどの整備にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金を活用する方針も示している。日本企業の中には、AIIBの発足の経緯などから中国を利する国際輸送インフラを積極的に利用するのを躊躇するところもあるかもしれない。しかし、中央アジア各国への製品売り込みを図るのなら、中国経由のルートも検討せざるをえなくなる。
中国で欧州企業と新たな競争も
中国の経済と社会の政策の研究、経済のマクロ調整などを行う、いわば国のシンクタンク的な役割を担う国家発展改革委員会は昨年秋、中欧班列の発展計画を示す文書の中で、「中欧班列は習近平政権が唱える『一帯一路』実現のための重要な担い手」としたうえで、ルートの東側に成長が著しい東アジア経済圏、西側に先進国が集まる欧州経済圏をそれぞれ抱え、中間にある中央アジアは経済発展に向けた潜在力が大きい地域であることから、これらが相互に結ばれることにより今後の成長の余地は非常に大きいとの見方を示している。
さらに、中欧班列が走る沿線7カ国は4月20日、国際貨物列車運行の際に必要な通関手順の簡素化、列車運行状況のトラッキングシステムの統一化、サービスの平準化などを目標とした協議書に署名した。中国側の関係者は「この署名により、中国―欧州間貨物輸送のうち鉄道によるシェアを拡大するだけでなく、中欧班列が沿線各国の経済発展や貿易の活発化に寄与し、国際的な物流ブランドとして認知されることを目指す」と期待感をにじませている。
欧州各国のさまざまな製品が貨物列車によって大量に運ばれることにより、日本企業にとっては欧州企業が中国市場における新たな競争相手になることも予想される。「一帯一路」政策により、従来は貿易の枠から外れていた中国内陸部の国際物流が変化しつつあることは明らかだ。西側から中国にアプローチしようとする欧州各国の動きがあることを頭に入れておくべきではないだろうか。』