中国・ミャンマー鉄道網着々 インド洋へ貨物の大動脈
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0931J0Z01C22A0000000/
『【ヤンゴン=新田裕一】中国とミャンマーを結ぶ鉄道網の整備が着々と進んでいる。中国側では国境近くで新路線の一部が開業。越境貨物輸送のテストも相次ぐ。ミャンマーは中国の広域経済圏構想「一帯一路」の要衝で、2021年のクーデター後は先進国の援助がほぼ停止した。その間隙をついて中国勢が伸長するが、コスト高や資金調達環境の悪化など新たな課題も浮上している。
中国側で一部開業
ミャンマー第2の都市マンダレーの鉄道駅。中国・重慶市を5月下旬に出発し、電気製品や自動車部品などコンテナ60個分の貨物を載せた列車が6月上旬に到着した。雲南省臨滄市でトラックに積み替え、陸路でミャンマー北東部シャン州のチンシュエホーで越境した。鉄道を使わない場合に比べて20日短い15日程度で運べるという。
鉄道とトラックを組み合わせたこの臨滄経由の物流ルートは「中緬新通道」と呼ばれる。中国共産党系メディアの環球時報(英語版)は「輸送距離と時間が短縮され、中国内陸部から中東や欧州に輸出する国際物流を最適化する」と伝えた。
20年12月に雲南省大理市と臨滄を結ぶ鉄道路線「大臨線」が開通したことで実現した。21年8月にはシンガポールからミャンマーの最大都市ヤンゴンまで貨物船で、その後はトラックで臨滄まで運び、最後は鉄道で四川省成都市に輸送するテストも実施した。
ミャンマー側も延伸構想
インフラ建設企業では中国国有の中国中鉄が有力な担い手だ。同社が施工を進める「大瑞線」は中国―ミャンマーの陸路貿易で最重要の玄関口、瑞麗市をまず目指す。大理から330キロメートルの路線で、22年7月に着工から14年を経て中間地点の保山駅までが開業した。
ミャンマー側でも中国主導の事業が前進している。国境を挟んで瑞麗と接するミャンマーのムセからマンダレーまで鉄道を建設し、さらにインド洋に面する西部ラカイン州のチャウピューまで伸ばす構想だ。
ゲートの先は中国雲南省の瑞麗(2018年6月、ミャンマー北東部ムセ)
18年、中国中鉄とミャンマー国鉄がムセ・マンダレー間の鉄道建設に向けた事業化調査で合意。36の駅、124の橋、60のトンネルを建設するという内容で総事業費の見積もりは89億ドル(1兆3千億円)とされる。マンダレー・チャウピュー間でも21年1月に事業化調査の覚書を交わした。
チャウピューは経済特区に指定されており、中国中信集団(CITIC)主導で大規模な港湾と工業団地を開発する計画。22年8月下旬、港湾の建設着手の前段階となる環境・社会影響評価の一環として住民向け説明会を開いた。調査会社によると23年7月には同評価の作業が完了する見込みだ。
債務問題に懸念
これらが完成すれば、ミャンマーを横断して中国内陸部とインド洋が鉄道でつながり、一帯一路の要衝として「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」の役割が高まる。ミャンマーにとっては、自国の農産品などの対中輸出を促進し、グローバルな物流拠点としての収益源も開拓できる。
もっとも、21年2月に国軍がクーデターで全権を掌握して以降、ミャンマーでは新路線の工事など目に見える形で中国主導のインフラ事業が進んでいるわけではない。
民間シンクタンクのミャンマー戦略・政策研究所の研究者は「中国はミャンマーの国内情勢や対中感情の悪化に神経質になっている」と話す。同研究所が有識者らを対象に行った調査で、CMECが「中国により多くの利益をもたらす」と考える回答者は83%と、「双方に利益がある」(12%)を大きく上回った。
中国の被援助国の間では債務問題への懸念が広がっている。一帯一路では、パキスタンから東方に抜ける「中パ経済回廊(CPEC)」が地元の住民の反発や政府の債務問題を引き起こした。
2国間には求心力も
中国としては援助国に対して政策や外交で圧力を与える「債務のワナ」批判が高まるなか、CMECは成功裏に進めたい思いがあるとみられる。
債務の面では、実はミャンマーの対外債務や中国への依存は比較的小さい。世界銀行によるとミャンマーの対外債務は20年時点で国民総所得(GNI)比17%。ラオス(95%)やカンボジア(71%)に比べると低い。相手国別の債務残高で中国が占める比率も25%と、日本を下回る水準だ。
2国間関係は求心力が働く局面にある。ミャンマーが11年に民政移管した後のテインセイン政権は中国のミッソン・ダム事業を凍結するなど中国への依存を減らす方向に転じた。だが、クーデターで再びミャンマーが国際社会から孤立し、中国やロシアに頼らざるを得なくなる可能性は高い。
日本のODA事業は後退
日本は中国に対抗し、ミャンマーの3大都市(ヤンゴン・ネピドー・マンダレー)を結ぶ基幹鉄道の改修を政府開発援助(ODA)で支援してきた。老朽化した線路を取り換え、15時間かかっていたヤンゴン・マンダレー間の所要時間を8時間に短縮するものだ。クーデターで新たな着工は難しくなり、完成への道筋は見えない。
総事業費は1期・2期工事を合わせて推計3320億円に上り、約8割を円借款で賄う計画だ。日本政府はクーデターを受けてODAの新規案件を凍結したが、既存の「継続案件」は実行するという立場。ただ受注企業が決まっていない場合は事実上中断している。
日本は基幹鉄道の改修事業を継続しているが……
関係者によると、第2期の入札は実施期間中にクーデターが起き、参加者が辞退するなどして不成立となった。国際協力機構(JICA)は「日本政府の方針を踏まえて対応を検討する」といい、今後の扱いは未定だ。
日本の経済援助を象徴するプロジェクトだったが、ミャンマーの政情が抜本的に好転しない限り途中駅まででストップしてしまう可能性がある。そうなればいくら日系のインフラが「高品質」でも、中国主導の事業がもたらす経済的効果への評価が勝ることになる。
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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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分析・考察
中国とミャンマーとの関係は現在の「良好」である。鉄道以外にも、チャウピュ港、その周囲の経済特区建設、同港から雲南へのパイプライン建設も進められている。
なぜ、中国がこのルートを重視しているのか。それは将来の「台湾有事」、東・南シナ海の有事によって、中国の東側の海が使えなくなっても、エネルギー補給、物資供給などを維持するためだ。
目下、ミャンマーの他、中央アジアラインがあり、パキスタンラインも模索されている。
ミャンマーから見れば、中国の生命線を国内に握りむしろ中国に対する「強み」を得られるだろうし、債務の罠についても中国にとっても必要なのだから、どこかで折り合うとの見込みもあるのではないか。
2022年10月12日 8:51 (2022年10月12日 10:02更新)
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説
これも一帯一路イニシアティブの一部であろう。
ミャンマーにとって外国の援助で鉄道網を整備できれば、経済成長の起爆剤になる。
半面、債務の問題もあろうが、そのオペレーションはノウハウが必要であり、ミャンマー側はそのノウハウを持っているのか。
途上国のインフラ整備は子供にお洋服を買うのと同じであり、子供の成長を見込んで、少々大き目のお洋服を買うのは一般的である。
ただし、大きすぎるお洋服を買うと、足かせになる。今のミャンマーをみると、インフラ整備よりもまず軍事政権が退陣するのが先決である
2022年10月12日 7:53 (2022年10月12日 9:39更新)
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高橋徹
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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ひとこと解説
ミャンマー国軍にとって中国への接近はもろ刃の剣です。
国民の間で対中感情は極めて悪いといわざるを得ません。
クーデターを「大幅な内閣改造」と評し、国軍を支援している(少なくとも批判はしない)のももちろんですが、以前からミャンマーに発電所を建設し、大半を自国に送電するような振る舞いへの反感がありました。
2011年の民政移管後、軍政の受け皿だったテインセイン前政権が米欧に接近したのは対中依存を減らすためでしたが、政変でそれも元のもくあみです。
中国にとってミャンマーはインド洋への出入り口にあたるため、今後もインフラ投資を含めた支援を続けるでしょう。
2022年10月12日 8:48 』