次世代原子炉で水素製造へ 安全試験成功、28年にも実証
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0194X0R00C24A4000000/
『2024年4月4日 2:00
政府は原子力を活用した水素製造の実証を2028年にも始める。今年3月下旬に小型原子力炉の安全確認試験に成功した。水素は、50年に温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標実現に欠かせない次世代エネルギーだ。再生可能エネルギーだけでなく原発からもつくる技術を確立して民間の供給体制を後押しする。
国の日本原子力研究開発機構は3月28日、経済協力開発機構(OECD)と共同で次世代原子炉と期待される高温工学試…
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『国の日本原子力研究開発機構は3月28日、経済協力開発機構(OECD)と共同で次世代原子炉と期待される高温工学試験研究炉(HTTR、茨城県大洗町)の安全確認試験に成功した。商用化に向けた関門の一つをクリアした形だ。
約850度の出力100%の状態で、原子炉の核分裂を調整する制御棒を入れなくても、自然冷却で停止できることを確認した。同機構の担当者は「事故時でも高い安全性を示した」と語った。
HTTRは高温ガス炉と呼ばれ、通常の原発に比べて出力は小さいが、安全性は高いとされる。ここで作った熱を活用して水素を作る。
技術確立まで国が主導し、その後の普及段階では民間企業に引き継ぐ。
11年の東京電力福島第1原発事故後、世界の原子力開発はいったんは停滞した。その後、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の発効を受けて、世界の多くの国は主力電源となる再生可能エネを補完する役割として、原子力の研究や開発に力を入れ始めた。
国際エネルギー機関(IEA)は、2050年の世界の電力需要が現在に比べて最大で1.5倍になると予測する。再生エネだけでは電力需要をまかなうのは難しい。
各国が原子力に期待するのは電力の供給だけではない。原子力で作った熱を使い、水素の製造につなげることにある。
水素は発電にとどまらず、航空機・船舶や鉄鋼産業の排出ゼロに欠かせない。稼働時に温暖化ガスの排出がない原発を使えば、水素の製造時から消費時まで排出をほぼゼロにできる。
原子力機構は24年にも水素製造施設を高温ガス炉に接続するための審査を原子力規制委員会に申請する。順調に審査が進めば、28年には水素製造試験を始める計画だ。
政府は2040年の水素の供給量を現在の6倍の年間約1200万トンにする目標を掲げる。
研究炉である原子力機構のHTTRは熱出力30メガワットだ。250メガワットに高めれば、燃料電池車(FCV)で年間20万台分の脱炭素水素を製造できると原子力機構は試算する。出力が小型なので数基設置することを想定している。
政府が「次世代革新炉」と名付けた炉は計5種類ある。
既に海外で実用化している改良型軽水炉を除けば、高温ガス炉が実証に最も近いという。高速炉や小型軽水炉、核融合は40年代以降を見込む。
日本も23年2月に閣議決定した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」で新規の原子力開発を明記した。今後10年間で高温ガス炉などの建設に1兆円を充てるとし、GX経済移行債で調達した財源も活用する。
福島原発事故後、日本では原発への不信感は拭えていない。放射性廃棄物の処分先も決まっていない。
4月にも政府が着手する次期エネルギー基本計画の改定の議論でも新型原子力が議題になる。具体的な実用化の時期や海外協力のあり方なども含めて俎上(そじょう)にのる。
日本の原子力研究では優れた技術を実証できても商用化にいたらなかったものは少なくない。次期エネ計画では民間企業を巻き込んだ戦略が必要になる。
(塙和也、松添亮甫)
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