韓国捜査当局、尹錫悦氏の身柄を拘束 現職大統領で初
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM152320V10C25A1000000/
『2025年1月15日 10:53 (2025年1月15日 11:53更新)
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木村幹峯岸博
大統領公邸前には大勢の捜査員がつめかけていた(15日、ソウル)
【ソウル=甲原潤之介】韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣言をめぐり、内乱容疑などで捜査している独立捜査機関「高官犯罪捜査庁(高捜庁)」と警察の合同捜査本部は15日、尹氏の身柄を拘束した。
現職大統領の身柄拘束は憲政史上、初めて。執行を阻もうとする警護庁との攻防から身柄拘束は難航した。
大統領公邸前には15日早朝から捜査員らが集結。敷地内に侵入し、身柄拘束に向けて大統領側と協議を続けていた。韓国メディアによると、警察は今回の執行に投入するためソウルや首都圏の捜査員1000人あまりを招集した。
韓国メディアによると、大統領を乗せたとみられる車両が公邸を出て高捜庁に到着した。今後、聴取を受ける見通し。
国民向け談話を発表する尹錫悦大統領(15日、大統領府提供)=聯合・共同
尹氏は拘束前に映像メッセージを公開した。「流血の事態を防ぐため、不法捜査だが、高捜庁の出頭(要請)に応じることにした」と述べた。捜査を受け入れるわけではないことも強調した。
尹氏の弁護団は、軍事機密施設である大統領公邸に対する責任者の承認のない捜索は制限されるとして「違法な令状執行」だと反発した。
大統領権限を代行する崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相は拘束に先立ち、15日に声明を出した。「国家機関間の物理的衝突は国民の信頼と国際社会の評価に取り返しのつかない損害を与え、許されない」として「不幸な事態が発生すれば厳しく責任を問う」と表明した。
15日は捜査員らが大挙して公邸につながる小道の正門に集まり、待機していた警察関係者が正門を通過して中に入った。はしごを運び込む様子もみられた。
警護庁は「物理的衝突を防ぐために最大限努力する」としているものの、大統領公邸が国家保安施設であり「出入りには責任者の事前承認が必要になる」という従来の立場を繰り返した。
内乱罪は国家権力を排除したり、憲法に基づく秩序を乱したりする目的で暴動を起こした際に問われる罪で、韓国の刑法87条で規定する。首謀者は死刑や無期懲役、無期禁錮が科される。
韓国の大統領は在職中に原則として刑事上の訴追を受けない特権を持つ。一方で内乱罪などは例外として訴追対象になる。
2024年12月の非常戒厳を巡っては関係者が既に内乱罪で続々と起訴されている。前国防相の金龍顕(キム・ヨンヒョン)被告のほか、戒厳司令官に任じられた陸軍参謀総長ら軍幹部らが既に起訴された。捜査側は軍を投入して国会などの統制をしようとした状況を内乱罪にあたるとした。
歴代大統領では李明博(イ・ミョンバク)氏や朴槿恵(パク・クネ)氏が離任後に有罪判決を受けて収監された。
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木村幹
神戸大学大学院国際協力研究科 教授
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ひとこと解説 現職大統領の逮捕は韓国においても憲政史上初。1月3日に逮捕令状執行を試みた時とは異なり、大統領警護処は逮捕阻止に積極的に動きませんでした。背後には、警護処を預かる次長等の強硬派指導部が阻止を支持したのに対し、多くの警護員がこれを拒否した事がある、と韓国メディアは伝えています。とはいえ、問題はここからです。尹錫悦は自らが逮捕される以前に対国民メッセージを録画し、これを公開していますが、果たしてこの逮捕劇が大統領とこれを支える与党にとって、支持率を失墜させる効果を持つのか、それとも逆に彼等の下に保守派を更に結集させる効果を持つのか。毎週土曜日に開かれる大規模集会の行方と併せて、注目です。
2025年1月15日 11:37
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峯岸博
日本経済新聞社 上級論説委員・編集委員
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ひとこと解説 拘束失敗から2週間弱、その間に前回、大統領警護庁で指揮を執ったトップが辞任し、きょうもトップ代行の次長が身柄を拘束されたと報じられました(警察側は否定)。先日は捜査機関と大統領警護庁が水面下で協議していたことも明らかになり、思いのほかスムーズだった拘束劇は大統領警護側が分断させられた可能性があります。新大統領のもとで前政権の政府高官らが次々と逮捕されるなど憂き目をみるのは韓国の政権交代でおなじみの光景。韓国は民心と呼ばれる世論の動向が捜査や裁判の行方にとりわけ大きな影響力を及ぼす国柄です。この先、尹氏がこのまま逮捕されれば弾劾の是非を判断する憲法裁判所の審理への影響も避けられないでしょう。
2025年1月15日 11:26 』