気をもむ「Kishida」の行方 米国によぎるジンクス

気をもむ「Kishida」の行方 米国によぎるジンクス
ワシントン支局 坂口幸裕
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN04DOA0U4A600C2000000/

『2024年6月10日 0:00

「キシダ(Kishida)さんは9月の総裁選で勝てるのか」「ポストキシダの有力候補は誰か」――。最近、日本の国会議員や政府関係者が訪米した際、支持率が低迷する岸田文雄首相の先行きを危ぶむ質問を受けるのが定番になりつつある。

気をもむのはバイデン米大統領も同じかもしれない。国際会議の場で「この男がウクライナのために立ち上がると思った人は欧米にほとんどいなかった」と持ち上げたのはリップサービスだけで…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『国際会議の場で「この男がウクライナのために立ち上がると思った人は欧米にほとんどいなかった」と持ち上げたのはリップサービスだけでもない。

背景には相対的に米国の軍事・経済力が低下する国際社会で同盟国・日本が担う役割への期待がある。米国はいまも世界の警察官なのか――。ブリンケン米国務長官は仏メディアに問われると「米国だけで全ての問題を管理する能力はない」と認めた。

一方「米国の関与がなければ(世界で)物事を管理するのはより難しくなる。不可欠なのは(同盟・有志国と)より良い協力関係を築くことだ」と明言した。

米国にとって、最大の競争相手と位置づける中国の抑止へ軍事・経済など幅広い面で協力する日本の戦略的価値は高まる。

バイデン氏㊨は2023年7月のNATO首脳会合で岸田氏(㊨から2番目)を持ち上げた(リトアニア・ビリニュス)=ロイター

岸田氏が2021年10月に首相に就いた当初、ホワイトハウスはその手腕を見極めようと身構えた。間髪入れず訪米実現を探る日本側の要望を受け入れなかったのは、苦い記憶があったからだ。

前任の菅義偉氏が21年4月に訪米した時、長期政権となった安倍晋三元首相の後継者としてホワイトハウスに招く最初の外国首脳として厚遇したにもかかわらず、半年も経ずに退陣した。

21年1月に大統領に就いたバイデン氏の1期目4年間では、日本の首相は大半が岸田氏になる。対ロシア制裁に参加し、防衛費の倍増を決めたのを機に岸田氏への信頼は高まった。日本の安全保障の転換を決断した評価と4月の国賓待遇での訪米招待は無関係ではない。

連邦議会にも日本への期待が表れる。トランプ前大統領に近い野党・共和党のジョンソン下院議長は上下両院合同会議で岸田氏が演説する舞台を整えた。

4月11日、首都ワシントンの連邦議会議事堂。「日本はすでに米国と肩を組んでともに立ち上がっている。米国は独りではない」

岸田氏が演壇から呼びかけると、ウクライナ支援継続を促す場面などで座ったままだった共和のマージョリー・テーラー・グリーン下院議員ら保守強硬派も起立して拍手した。

元米政府高官は「岸田氏の発言を聞いて台湾有事があれば日本の自衛隊が米軍と一緒に行動するという宣言だと受け止めた」と話す。安全保障面での役割拡大を約束したとの共通認識が広がる。

民主党のアミ・ベラ下院議員は岸田氏が訪米した後に議会で「我々はアジアでの戦争を防ごうとしており、同盟国も立ち上がろうとしている」と指摘。「自らの政治リスクを冒して(防衛費を)国内総生産(GDP)比2%に引き上げる岸田氏を称賛する」と訴えた。

足元で岸田氏は政権運営で窮地に立つ。米民主党政権で日米関係にかかわった関係者の間ではかつてのジンクスが脳裏をよぎる。

短命に終わった日本の首相の在任期間が民主党政権だった時期と重なるケースがあるためだ。1993年1月から2期8年務めたクリントン氏は7人、オバマ氏は2009年1月から8年間に5人の首相と向き合った。

一方、通算在任期間が1806日の中曽根康弘氏と「ロン・ヤス」関係を築いたレーガン氏、同1980日の小泉純一郎氏と蜜月だったブッシュ氏(第43代)、3188日で過去最長の安倍氏と「シンゾー・ドナルド」と呼び合ったトランプ氏はいずれも共和党政権だった。長期政権は日米安定の土台になった。

岸田氏は10月まで首相の座にいれば就任3年になる。戦後の歴代首相の在任期間は平均2年余りで日本の首相として短命とは言えないものの、岸田氏が退き「日米同盟に不確実性の要因が加わるのは排除したい」(元米高官)のが本音だ。

翻って米国。11月の大統領選で再選を狙うバイデン氏自身も過去の岸田氏との会談で「国内がなかなかうまくいかないんだ」と漏らしたことがある。支持率は低迷し、「米国第一」を掲げるトランプ氏が勝敗を分ける激戦州で先行する。

米ジョージ・ワシントン大のロバート・サッター教授は「日米関係にとって最も大きな変化はトランプ氏の返り咲きだ。自民党内で起こるどんな事態よりもはるかに影響が甚大だろう」とみる。

3カ月後に迫る自民党総裁選と5カ月後の米大統領選。日米の指導者選びは今後の国際秩序にとっても無視できない変数になる。

【関連記事】

・衆議院解散、秋以降の公算 首相の総裁再選へ狭まる道
・シリコンバレーでトランプ支持じわり 民主IT規制に反発 』