【詳細分析】米大統領選挙の「天下分け目」はどこか?バイデンとトランプの激戦州争奪戦https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33431
『2024年4月3日
3月も末になり、2024年米大統領選挙を戦う民主党のジョー・バイデン大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領の動きが、益々活発になってきている。バイデン大統領は3月28日(現地時間)、バラク・オバマ元大統領とビル・クリントン元大統領と3人で、ニューヨーク市で政治献金の集会を開き、1日で2600万ドル(約39億円、1ドル=151円で換算)を集めた。
一方、トランプ元大統領はニューヨーク市で殉職した警官の追悼式に参加し、バイデン大統領との比較を鮮明に打ち出して、「より良い大統領像」を見せつけた。その中には、警官の命を尊重しかつ、犯罪対策を重視するというイメージも含まれる。同じニューヨークを訪問しているバイデン大統領を強く意識した計算された演出である。
今後、人口の割合によって割り当てられた各州の選挙人――殊に激戦州における選挙人――の獲得に向けて、両者の間で激しい動きがみられることになるだろう。
一口に激戦州と言っても、大統領選挙の度に州が変わる場合もあれば、同一の州が激戦州になっても、争点によって支持者がシフトする。例えば、2008年と12年大統領選挙では、南部バージニア州と西部コロラド州が激戦州に含まれていた。
オバマ選対に研究の一環として参加した筆者の観察によれば、バージニア州では、州都リッチモンドの黒人、北部フェアファックスのリベラル層とヒスパニック系(中南米系)および、バージニアビーチの黒人とヒスパニック系の票如何で、バラク・オバマ大統領とライバルのミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事(共に当時)の勝負が変わるという事態であった。結果は、それらの有権者の票は、オバマ大統領に投じられ、彼が得票率で3ポイントの差という接戦を制した。
コロラド州ではヒスパニック系の顕著な増加が、勝負の鍵となった。つまり、オバマという“黒人”の大統領候補によって、人種と投票行動が激戦の要素となったのである。
激戦州は「スイングステート(揺れる州)」と呼ばれる。選挙の度に、民主党と共和党の間を振り子のように揺れ動くのでスイングステートと呼ばれるのだが、その理由の一つは争点が影響を及ぼすからである。例えば、今回のイスラエル・ガザ戦争によって、バイデン大統領はアラブ系が多い激戦州ミシガンで停戦を強く求める若者とアラブ系の支持を少なからず失っている。
また、今回の大統領選挙では、人工妊娠中絶の権利が主要な争点になっている。バイデン大統領は、2022年に米最高裁によって覆された人工妊娠中絶の権利復活を強調し、「トランプは女性に罰を与える」「中絶は女性の自由の権利である」と訴えている。この争点は、女性や若者においては気候変動よりも重視されている。激戦州の共和党支持の女性の中で、人工妊娠中絶の権利復活を強く望む女性は、バイデン大統領に投票するかもしれない。
さらに、人口動態、特に人種構成の変化も激戦州になるか否かに影響を与える。例えば、メキシコと国境を接するアリゾナ州は、ヒスパニック系の人口が32.5%を占めている(2023年時点)。以前は共和党が圧倒的に強い赤い州(赤は共和党のシンボルカラー)であったが、近年ヒスパニック系の人口流入により、民主党支持者が増え、その結果、2020年の選挙では激戦が繰り広げられた。
24年米大統領選挙では、全米50州の中でどの州が激戦州となるのだろうか。また、ジョー・バイデン大統領は当選に必要な「選挙人270」を獲得するために、どのような選挙人獲得の戦略を描いているのか。一方、前回の大統領選挙で敗れたドナルド・トランプ前大統領は、どの州を奪還すれば、勝利できると考えているのか――。
激戦7州とは
今回の選挙では、バイデン陣営は東部ペンシルベニア州、中西部ウィスコンシン州、ミシガン州、南部ノースカロライナ州、ジョージア州、西部ネバダ州、アリゾナ州の7州を激戦州に挙げている。これらの州は、2020年でも激戦州として注目された。
前回の米大統領選挙での激戦7州におけるバイデン大統領とトランプ前大統領の得票率の差を調べてみると、得票差の小さい順に、ジョージア州0.3ポイント、アリゾナ州0.4ポイント、ウィスコンシン州0.6ポイント、ペンシルベニア州1.2ポイント、ノースカロライナ州1.3ポイント、ネバダ州2.4ポイント、ミシガン州2.8ポイントであった。これらの7州は、得票率の差が3ポイント以下であった(図表1)。上記の内、ノースカロナイナ州以外は、バイデン大統領がトランプ前大統領に勝利した。
バイデン大統領は、ジョージア州アトランタ、ウィスコンシン州ミルウォーキー、ペンシルベニア州フィラデルフィア、ノースカロライナ州ファイエットビルおよびミシガン州デトロイトなどに住む黒人を標的にして、彼らの票を稼いだ。一方、アリゾナ州とネバダ州では、フェニックスやラスベガスなどの都市に住むヒスパニック系を狙った。
バイデン大統領は今年3月19日、アリゾナ州フェニックスにあるメキシコ料理のレストランに支持者を集め、「この大統領選挙の結果を決めるのは、わずか6州か7州である。アリゾナ州はその中の1州だ」と語った。アリゾナ州の有権者に強い印象を与え、コミットメント(関与)を求める言葉であった。
20年米大統領選挙では、選挙の専門家たちは南部フロリダ州や中西部オハイオ州を激戦州に入れて選挙人の獲得を予想したが、この2州は早い段階でトランプ前大統領の大勝が決定し、その意味では激戦州ではなかった。』
『ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州の3州
大統領候補者がどの州を重視しているかの指標のひとつは、訪問――その回数、機会や対象となる有権者がいる場所である。バイデン大統領のこれまでの訪問についてみてみると、7州の中でどの州を最重点州においているのかについて、はっきりとした傾向が見られる。
2021年1月の大統領就任時から23年12月までの3年間に、バイデン大統領はペンシルベニア州を32回、ミシガン州を8回、ウィスコンシン州を7回訪問した(図表2)。
ホワイトハウスがあるワシントンD.C.に隣接する南部メリーランド州とバージニア州および私邸がある東部デラウェア州を除けば、他州と比較すると、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州の訪問回数は多い。特に、前回の大統領選挙の勝敗を決定づけたペンシルベニア州の訪問回数は突出している。同州は、主として献金目的で訪問する東部ニューヨーク州と西部カリフォルニア州よりも訪問回数で上回っているのだ。
バイデン大統領は23年、ミシガン州で全米自動車労働組合(UAW)の集会やストライキのピケに参加した。対象としたのは、古くからの民主党支持層である労働組合員と労働者である。また、ウィスコンシン州では、黒人が経営する企業や黒人商工会議所を視察した。
大抵の州では、バイデン大統領の3年間の訪問回数は0回ないし1、2回である。例外は中西部オハイオ州で、ミシガン州とウィスコンシン州程度に訪問しているのだが、オハイオは前回の選挙で、トランプ前大統領が8.1ポイント差で勝利を収めた州である。3月16日に発表されたフロリダ・アトランティック大学の世論調査によれば、現在もトランプ前大統領がオハイオ州においてバイデン大統領を11ポイント差でリードしており、同州は今回の大統領選挙において激戦州に入らないだろう。
しかし、オハイオ州の訪問には全米に向けたアピールがある。例えば、バイデン大統領は、連邦政府からの補助金を受けて、米インテルが州都コロンバス郊外に建設する半導体工場の着工式に22年9月に参加したが、それは2022年8月に成立した半導体産業支援法の成果を全米に宣伝する絶好の機会と捉えてのことだった。』
『「3+1(スリー・プラス・ワン)」のフォーメーション
今年に入っても、バイデン大統領はペンシルベニア州を4回、ミシガン州とウィスコンシン州をそれぞれ2回訪問した(3月26日時点 図表3)。これらの3州は、同大統領にとって絶対に落とせない重点州であることは間違いない。中でも、ペンシルベニア州は最重点州と言える。戦略上の計算はこうだ。
バイデン大統領は、ペンシルベニア州の選挙人19を確実に取らなければならない。仮に選挙人15のミシガン州ないし選挙人10のウィスコンシン州のどちらかを落とした場合、選挙人16の南部ノースカロライナ州の選挙人で補足するしかない。選挙人11のアリゾナと選挙人6のネバダのどちらかの1州では不足分を補えないからである。
しかし、マリスト大学(東部ニューヨーク州)の世論調査(24年3月11~14日実施)によれば、ノースカロライナ州ではトランプ前大統領に3ポイントリードを許している。投開票日まで約7カ月あるものの、この状態が続けば「3+1」の戦略は破綻する。
選挙人獲得戦略には、ジョージア州やフロリダ州を含めた「サンベルト(南部および南西部の地帯)」の選挙人を獲得する戦略や、西部のアリゾナ州およびネバダ州を中心に選挙人を得る戦略もあるのだが、バイデン大統領は「3(ペンシルべニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州)+1(ノースカロライナ州):スリー・プラス・ワン」のフォーメーションを柱にして、今回の選挙に臨むと考えられる。』
『「激戦州の分類」と「選挙人の計算」
3月に筆者が参加したバイデン陣営の激戦州担当者と支持者によるオンラインミーティングで、この担当者はバイデン大統領が獲得できる州の選挙人を3分類して説明した(図表4)。彼によれば、バイデン陣営は民主党が圧倒的に強い州(青い州:青色は民主党のシンボルカラー)、やや民主党が強い州(薄い青色の州)と激戦州に分類している。
青い州には西部カリフォルニア州や東部ニューヨーク州などが含まれ、合計185の選挙人がいる。薄い青色の州には、コロラド州、東部メイン州、中西部ミネソタ州、東部ニューハンプシャー州およびバージニア州があり、合計41の選挙人がいる。一方、冒頭で紹介した7州を激戦州に挙げた。7州の選挙人の合計は93である。
バイデン陣営は226(185+41)の選挙人確保は可能であるとみているが、当選に必要な270に届くには、さらに44の選挙人を獲得しなければならない。ペンシルベニア州(選挙人19、以下同)、ミシガン州(15)、ウィスコンシン州(10)の選挙人の合計は丁度44である。これらの3州を確保できれば、バイデン大統領はギリギリ選挙人270を持って再選を果たせる。
2012年オバマ陣営の選対本部長を務め、現在は政治コンサルタントであるジム・メッシーナ氏は、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州の重要性に言及し、3州を獲得できれば選挙人270で当選できると分析している。
しかし、ミシガン州での民主党予備選挙(24年2月27日)では、投票率の約13%に当たる10万人以上の有権者が「支持者なし」に投票した。しかも、薄い青い州に分類されているミネソタ州での同党予備選挙(同年3月5日)では、4万5000人以上の有権者が「支持者なし」に投票し、「抗議票」が約19%を占めた。上の計算はミネソタ州での勝利を前提にしているので、仮に同州を落とすと、「3+1」のフォーメーションは崩れることになる。
ちなみに、フロリダ・アトランティック大学の世論調査(24年2月29~3月3日実施)では、ミネソタ州においてバイデン大統領がトランプ前大統領を支持率で8ポイント上回っており、ミシガン州と比較すると、アラブ系と若者の影響は大きくないかもしれない。』
『ミシガンとウィスコンシンを狙うトランプ
ただし、予断を許さないのも事実だ。イスラエル・ガザ戦争において恒久的停戦を求める若者やアラブ系が、一連の予備選挙でバイデン政権に対する抗議票を投じたとみられているからだ。若者はバイデン大統領の同戦争に対する政策を支持しておらず、パレスチナに対して同情をいだいている。以下で、世論調査の結果を紹介してみよう。
まず、米クイニピアック大学(東部コネチカット州)の世論調査(24年3月14日発表)では、イスラエル・ハマス戦争に対する若者(18~34歳)のバイデン大統領に対する支持率は12%、不支持は72%で、60ポイントも支持が不支持を下回った(図表5)。また、全体で39%がイスラエルに同情すると回答したのに対して、若者は46%がパレスチナに同情すると答えた(図表6)。』
『次に、英誌エコノミストと世論調査会社ユーガブの共同世論調査(24年1月28~30日実施)もみてみよう。この調査では、若者(18~29歳)の45%が「イスラエルがパレスチナ市民に対して大量虐殺を行っていると思う」と回答し、全体の31%を約15ポイント上回った(図表7)。同調査(同年3月10~12日実施)では、「貨物船から食料や水を載せた積荷を下すために、ガザ地区沿岸に桟橋を取り付けることに賛成か反対か」という質問に対して、55%の若者が賛成と答えた。
若者は、バイデン大統領が非常にイスラエル寄りであると見ている。その一因は、同大統領の発言にある。
ハマスのイスラエル奇襲攻撃に関連して、「私はユダヤ主義者だ。ユダヤ人でなくてもシオニストになれる」(23年12月5日)と強調して、イスラエルを全面的に擁護したからだ。
元来、パレスチナにユダヤ人による国民国家を樹立しようとする運動であったシオニズムを担うユダヤ民族主義者をシオニストと言うようだが、バイデン大統領はシオニズムから離れてユダヤ人を強く支持するメッセージを送りたかったのではないか。しかし、それはアラブ系や若者の強い反発を買ってしまった。
ちなみに、筆者とゼミ生は2月19日、広尾にあるパレスチナ総代表部を訪問し、ワリード・シアム大使にヒアリング調査を実施したが、同大使はバイデン大統領の上の発言を非常に問題視していた。
激戦州ミシガンの若者とアラブ系は11月5日の投開票日に、トランプ前大統領に投票しないかもしれないが、投票所に出向かなければ、それは民主党内のバイデン支持の票が減り、同前大統領に有利に働くことを意味する。この要素も昨年10月7日以降の新しい問題であり、これに対処しなければならない。
バイデン大統領にとって好ましくない数字が出ている。米CNNの世論調査(24年3月13~18日実施)では、ミシガン州でトランプ前大統領がバイデン大統領を8ポイントリードしたのである。
トランプ前大統領側からすれば、バイデン大統領のこの「3+1」のフォーメーションを崩すために、激戦7州の中で、第1にミシガン州、第2にウィスコンシン州での勝利を狙えば良い。事実、トランプ前大統領は今年4月2日、ウィスコンシン州を訪問する予定である。
いずれにしても、2024年米大統領選挙は、ペンシルベニア、ミシガンとウィスコンシンの3州で最終的に勝負が決することになるだろう。』