対中国、効かない融和策 日米比が握る南シナ海の行方

対中国、効かない融和策 日米比が握る南シナ海の行方
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD158D70V10C24A3000000/

『2024年3月22日 10:00

南シナ海で、中国とフィリピンの対立が緊迫している。両国が領有権を争う海域で、中国船からフィリピン船が放水銃を浴びせられたり、衝突されたりする事件が相次ぐ。

この危機は各国にとって人ごとではない。南シナ海は多くのエネルギーや商品が行き交う貿易の大動脈だ。この海が波立てば、国際経済に計り知れない影響が及んでしまう。強国路線を歩む中国の行動パターンを知るうえでも、フィリピン情勢は大事な教訓を示している…

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『相次ぐ放水銃発射や体当たり

現地の情勢がとりわけ緊迫しはじめたのは、2023年後半になってからだ。フィリピン側によると、昨年8月、同国が実効支配する南シナ海のアユンギン礁に向かうフィリピン船に、中国海警局の船が放水銃を発射した。10月下旬には、中国海上民兵の船がフィリピン沿岸警備隊の船の航行を妨げ、衝突した。

近年、同海域で中国船がフィリピン船の進路を妨害するケースはあったが、衝突にまで発展したのは初めてだという。昨年11月、12月、24年3月も中国海警局などの船が放水銃を浴びせたり、体当たりしたりする事件が続いている。フィリピン側の船が損傷し、軽傷者が出たこともある。

なぜ、これほど緊張が高まっているのか。22年6月に就任したマルコス・フィリピン大統領は、ドゥテルテ前大統領の対中融和路線を180度ひっくり返し、親米路線に転じた。

単純にみると、これが中国の激しい反発を招き、対立が強まっているように映る。この仮説に立てば、直接の原因はマルコス政権にあることになる。

しかし、舞台裏を取材すると、まったく異なる構図が浮かぶ。実は、マルコス政権が生まれる前から、フィリピン近海の緊張は高まっていたのだ。

フィリピンの当局者や安保専門家らによると、ドゥテルテ時代にも、中国海警局や中国海上民兵の船がたびたびフィリピンとの係争海域にやってきた。そして実効支配を広げようと、フィリピン船に威嚇や挑発を重ねてきた。

にもかかわらず、ドゥテルテ前政権はこれらの大半を伏せ、わずかな事例しか周知しなかった。中国をいたずらに刺激したくないうえ、対中融和策の失敗を認めたくない思惑が働いたのだろう。

フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ准将は明かす。「中国からの攻撃的で危険な行動は、マルコス時代に始まったわけではない。ドゥテルテ時代に明らかにされたのは数件だけだが、ほかにも重大な危険行為が続いていた」

就任後、マルコス氏が親米路線にかじを切ったのは、こうした経緯を知り、対中融和策は効かないと悟ったからだ。

昨年5月に訪米し、バイデン米大統領と会談。両国はこれに先立ち、フィリピンでの米軍の活動拠点を5カ所から9カ所に増やすことも決めた。

マルコス氏はさらに日本やオーストラリアとの連携にも動く。昨年8月には両国とフィリピン、米国の4カ国による共同訓練を実施した。岸田文雄首相が訪米する4月上旬には再びワシントンに駆けつけ、岸田氏とバイデン大統領と一堂に会し、3カ国による初めての首脳会談を開く。

信奉するのは「力の論理」

フィリピンの経験から他国が学べることは多い。端的にいえば、主権にかかわる領土問題などで中国に譲り、折り合おうとしても、うまくいかないということだ。

よく指摘されるように、中国が信奉するのは「力の論理」だ。

中国と安定した関係を築くには、こちらも沿岸警備力などを整え、海洋の秩序を保つ必要がある。

海洋問題に詳しいフィリピンのデラサール大学のレナート・デ・カストロ教授は話す。

「こちらが融和路線をとろうがとるまいが、中国の出方は実質的に変わらない。中国には原則を譲らず、領海の防衛能力を強めるのが肝心だ」

中国は近年、南シナ海で領有権争いを抱えるマレーシアやベトナムにも圧力を強めている。

「南シナ海の沿岸国は公表を控えているが、係争海域に中国船が侵入する頻度が増えている」(東南アジアのシンクタンク首脳)

日本にも苦い経験がある。09年9月に生まれた鳩山由紀夫・民主党政権は東アジア共同体構想を唱え、中国に融和策をとった。

だが、中国の対日姿勢は和らぐことはなかった。後継の菅直人政権下の10年9月、尖閣諸島付近で中国漁船の衝突事件が起きると、中国は報復を発動。中国各地で反日デモが燃え広がった。

日中関係がそれなりに安定したのは安倍晋三政権が日米同盟を立て直し、日本の中国への抑止力が回復してからだ。

友好国同士の連携期待

11月の米大統領選でトランプ氏が当選すれば、米国はより内向きになり、インド太平洋への関与が揺らぐ恐れがある。

そんな展開にもそなえ、アジア諸国は米国とだけでなく、域内の友好国同士の連携も急ぐときだ。

3月1日に日本の国際交流基金などが主催し、フィリピン、インド、日本による安保・経済協力を話し合う会議がマニラで開かれた。

フィリピン側からは防衛装備品の移転も含め、日印との連携への期待が示された。

アジア諸国にとっていちばん望ましいのは、中国との安定した共存だ。それは中国との対話だけでは実現しない。各国が連携を深め、海洋の力関係が大きく崩れないようにすることが前提になる。

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