米国の中国への優位性と日本が持つべき視点
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32333
『11月17日付けフィナンシャル・タイムズ紙は、米国と中国という二つの超大国の関係は困難を伴うが、競争的共存を目指すべきであり、米国がその持ち札を正しく使えばその関係は管理可能であるとのジョセフ・ナイの論説‘America should aim for competitive coexistence with China’を掲載している。主要点は次の通り。
カリフォルニアでバイデンと習近平の会談が行われ、両首脳は両国軍組織の対話再開に合意したが、米中関係は依然として険しい。
(新華社/アフロ)
台湾は引火点となる可能性があり、米国は台湾の防衛を支援すべきだが、それは「一つの中国」政策の文脈の中においてである。われわれは低強度の経済紛争を予測しておくべきだが、米国の戦略目標はエスカレーションを避けることであるべきだ。
そのような戦略が実現可能なのは、米国には大きな地政学的優位(2つの海洋と友好的な隣国に隣接している)があり、中国が米国に取って代わる可能性が低いからである。
米国の第二の利点はエネルギーである。シェールオイルとガス革命により、米国はエネルギーの輸入国から輸出国に変貌を遂げた。一方、中国はペルシャ湾とインド洋を経由するエネルギー輸入に大きく依存している。
また米国は今後10年間で労働力が増加する見込みで、人口動態上の優位性がある。一方、中国の生産年齢人口は2015年にピークに達した。中国は幾つかの二次的産業分野で優れてはいるが、米国は依然としてバイオ技術、 ナノ技術、そして情報技術においてリードしている。
中国の弱みは深刻である。例えば、人口減少の解決策は生産性を高めることだが、全要素生産性は低下しており、経済に対する党の厳しい統制が民間部門の起業家エネルギーを抑圧している。
米国のあるべき対中戦略は、熱戦も冷戦も回避し、可能な分野では協力し、中国の対外的振舞いを構成する要素を支配することである。これはその抑止力を通じ、また同盟諸国や国際機関の双方の強化を通じて実現できる。
第一列島線の鍵を握るのは、米国の緊密な同盟国であり、米軍駐留させている日本である。同時に米国は、現在中国が一帯一路構想を掲げて接近している貧しい国々を援助すべきである。何よりも、米国は国内の開放性を維持し、民主的価値観を守るべきだ。
米国は中国よりもはるかに強いソフトパワーを駆使できる。米国の軍事的抑止力は、中国との友好関係は壊さず中国に支配されたくもないとする多くの国々から歓迎されている。米国は冷戦を再現するより、米国にとって大きな希望の持てる戦略に焦点を当てるべきであろう。
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米国きっての国際政治学者であり、どちらかと言えば穏健な米国の戦略政策を描く傾向があるジョセフ・ナイが説く今後の米国の対中戦略は、興味深い。米国の対中政策として、熱戦は無論のこと、冷戦も選択肢ではなく、可能な分野で協力しつつ、中国の対外的振舞いを形成する要素を支配しようとすべきだ、という。』
『何よりも、ナイが米国は国内の開放性を維持し、民主的価値観を守るべきだと指摘している点は、ジョージ・ケナンがX論文の中で3つの重要事項の一つとして指摘した「デモクラシーの強みを証明し続けるべきだ」と重なる。
ナイが指摘する米国の優位性の議論に強い異論はない。しかし、米国のように中国から地理的に遠距離の位置に存在する大国はそれで良いだろうが、中国に近接した位置に存する諸国にとっては、米国の中国に対する優位性だけで、その自己主張の強い、腕力で周辺諸国をねじ伏せようとする習近平政権下の中国の拡張政策を抑止することが出来るだろうか。ナイの議論は、そうした諸国のその疑問への回答としては不十分に思える。
ナイの論理建てには、オバマ時代の米国のアジア政策を彷彿させるところがある。その政権下の数年間の情勢の推移を思い返せば、中国は米国からの圧力の遥かに軽微な環境の中で、南シナ海で、また東シナ海で、周辺諸国の反対に聞く耳を傾けず、一歩また一歩と、尊大に地保を拡大し続けてきた。その折の米国の対応は、その後の戦略政策に比較すれば、随分と「寛容」に過ぎた。
異なる日本と米国の重要性
中国が引き起こしている周辺諸国との紛争が、米国一国の安全保障を短期的にどの程度深刻に侵害するだろうかという点に関するナイの分析と見解は大きくは間違っていないのであろう。また、中国が米国の存亡を危うくする実力はないという分析も正しいだろう。しかし米国以外のインド太平洋諸国に位置する諸国にとっては、中国の昨今の振舞は深刻な安全保障上の脅威に膨らんできている。
「第一列島線の鍵を握るのは、米国の緊密な同盟国であり、米国が軍隊を駐留させている日本だ」というが、米国にとっての日本の重要性と、日本にとっての米国の重要性は同心円ではない。一定領域では重なり合うが、重複しない領域もそれなりに存在する二つの円の並列に表される。
近未来において、その重複領域がどの程度大きくなるのか、また小さくなるのか、不断の検証が必要となろう。』