プーチン大統領、「ワグネル反乱」後始末に苦慮
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR26CJA0W3A620C2000000/
『【ウィーン=田中孝幸】ロシアのプーチン大統領が民間軍事会社ワグネルの反乱の後始末に苦慮している。26日にワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏がメッセージを出すと、すぐにプーチン氏も演説して健在を誇示した。反乱がもたらしたロシア軍兵員への悪影響は深刻で、一連の説明には苦しさもにじむ。
「我々の社会の団結は、いかなる脅迫や国内混乱をあおる試みも失敗する運命にあることを示した」。プーチン氏は26日…
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『プーチン氏は26日夜に公表した6分間の演説で、反乱を素早く鎮圧できたと主張し、政権が揺らいでいないとアピールした。
プリゴジン氏は同日夕に11分間の音声メッセージを公表し、反乱について「(軍上層部などウクライナ侵攻で)数々の失敗を犯した人々を裁くためだった」と正当化する自説を展開した。
直後のタイミングでのプーチン氏の演説には、プリゴジン氏の主張だけが拡散される事態を防ぐ狙いも透ける。プーチン氏は演説後、ショイグ国防相や複数の治安機関のトップを集めた会議を開き、情勢を掌握していることを演出した。プーチン氏は27日にも反乱の対応にあたった治安機関員たちに演説し、労をねぎらった。
ロシア国営メディアはプリゴジン氏の音声メッセージを一切報じなかった。これまでも同氏については反乱を起こしたが失敗したとの報道にとどめている。
「反乱は西側の陰謀」とのイメージづくりにも余念がない。プーチン氏は演説で、反乱の指導者は「国の分裂と弱体化という犯罪に関与し、国は巨大な外部の脅威と国内からの前例のない圧力に直面している」と強調した。プリゴジン氏らはロシアの内戦を望む西側の術中にはまったとの認識を示した。
政権を支持する高齢層には国営テレビに信頼を寄せる市民が多いとされる。政権側にはウクライナ侵攻の目的とした「西側との戦い」の文脈に今回の反乱を位置づけ、支持層の離反を防ごうとする思惑もあるようだ。
とはいえ、ウクライナ東部の激戦地バフムトを奪取した「英雄」としてプーチン氏が5月に称賛したワグネルを一転して「裏切り者」と扱うのは苦しさが否めない。
プーチン氏は「ワグネル(戦闘員)の大半は愛国者だ」と言及した。「最後の一線で立ち止まった」とも述べ、流血の事態を回避した戦闘員たちへの謝意も表明した。反乱者を厳しく処罰すると語った24日の演説から態度を軟化させた。
ロシア通信によると、連邦保安局は27日、ワグネルに対する捜査を打ち切ったと発表した。ロシア国防省は同日、ワグネルが保有する大型軍事機材を同省に移管する準備を進めていると発表した。
プーチン氏は戦闘員には国防省との契約やベラルーシへの移動といった選択肢を認める意向を示した。反乱の首謀者であるプリゴジン氏と他の戦闘員への対応を分けることで従来の立場との整合性を保ち、事態の沈静化を図ろうとしている。
ベラルーシの国営メディアによると、ルカシェンコ大統領は同日「(ワグネルの)司令官たちが我々のところに来て助けてくれたら、かけがえのないことだ」と述べ、受け入れに前向きな考えを示した。
情報統制下でも様々な手段でプリゴジン氏の主張に触れてきた若年層や軍の兵員に今回の反乱がもたらした影響は大きい。軍上層部の腐敗を指弾し、政権が掲げるウクライナ侵攻の大義名分を否定した同氏の主張に共感する市民や兵員は少なくないとみられ、士気の低下は避けられない。
プーチン氏はワグネルに撃墜され死亡したロシア空軍機のパイロットに哀悼の意を表明したが、反乱を不問に付したことへの軍内の不満は残る。待遇面で劣る正規軍にあえて合流するワグネルの戦闘員はごく少数とみられ、戦力の低下が指摘される。
オーストリアのウォルター・フェイシティンガー戦略分析センター長は「侵攻の意義をプリゴジン氏が否定したことで、戦うことへの疑念が兵士に広がる可能性がある」と分析する。2万人規模とされ、主に特殊作戦に従事していたワグネルの戦線離脱で「ロシア軍の戦闘力に影響が出る」とも指摘する。』