【軍事ワールド】ロシア・プーチン大統領が発表した「驚異の新兵器群」 額面通り受け取れない理由https://www-origin.sankei.com/west/news/180313/wst1803130006-n1.html
『2018.3.13 06:30
ロシアのプーチン大統領が1日、年次教書演説を行い、開発中の「驚異の新兵器群」を発表した。新型大陸間弾道ミサイル「サルマト」や、原子力エンジンで射程距離が無制限のステルス巡航ミサイルなどだ。だが米の専門家らの間には「使い古された技術」と一蹴する向きも。実際には新兵器というより、「より危険な兵器」との懸念が浮かび上がる。(岡田敏彦)
新兵器が続々?
英BBC放送(電子版)などによると、大統領選前の重要な年次教書演説でプーチン氏が発表した新兵器は主に4種だった。 PR
最も脅威的なのは、大陸間弾道ミサイル「RS28サルマト」で、射程は11万キロ。 通常の攻撃コースである北極経由はもちろん、南極経由でも欧米を攻撃できる射程を持ち、弾頭重量は100トン、核弾頭なら15個を搭載できるという。
北極経由より圧倒的に長距離である南極経由の攻撃が可能になった。
この意味するところは、弾道ミサイル防衛(MD)において「北から核ミサイルがくる」との想定に基づき北方方面に配備していたMDの迎撃ミサイルなどを、南側にも配備しなければ守りきれないということだ。
さらに、このサルマトが搭載できるのは、自由落下していく核弾頭だけではない。
大気圏突入後、滑空して目標へのコースを変える超音速飛翔滑空兵器「アバンガード」も搭載できるという。アバンガードは機体表面が約2000度近くになり「隕石のような火の玉となって標的に飛ぶ」。』
『もうひとつは低空を飛ぶ巡航ミサイルだが、その動力は原子力。核動力巡航ミサイルとして「無限の射程距離」を獲得したという。
これは北大西洋条約機構(NATO)や米国、日本の迎撃システムによる迎撃可能エリアを大きく迂回して目標に到達することが可能だと説明。レーダーに探知されにくい低空を飛ぶ。
4つめは海中無人機だが、動力は核エンジンで、長射程を獲得するためとみられる。潜水艦から発射され、通常の潜水艦では潜れないような深海を航行する。しかもスピードは潜水艦より速く、目標艦船に回避の時間を与えない。また核弾頭を搭載すれば港湾など陸上施設の攻撃も可能という。
弾道ミサイル防衛
ただし、これらの兵器がすべて驚愕に値する「秘密の新兵器」というわけではない。
例えばサルマトは2016年10月にロシアの開発メーカーが既に自社のホームページで開発の実態を公表している。
それらをまとめて「新兵器」として公開したプーチン氏の意図は明白だ。
演説でプーチン氏は「これらは非常に強力な兵器で、(欧米の)弾道ミサイル防衛(MD)を突破できる」と強調。こうした新兵器で「われわれとの国境付近にMDシステムや北大西洋条約機構(NATO)の施設を配備するといった非友好的な行動は意味がなくなる」と述べるなど、その意図は「MDの無力化をアピールすること」にあったといえる。
米国やNATO、日本が持つ弾道ミサイル迎撃システムは、海上自衛隊では護衛艦「みょうこう」などのイージス艦が持つイージス・システムとSM3ミサイルの組み合わせのほか、陸上版のイージス・アショア、韓国配備の高高度防衛ミサイル「THAAD」、比較的低空での迎撃を受け持つPAC3といったものがある。
ロシアが恐れて来たのは、こうした防衛兵器で自国ロシアの核兵器が無効化される一方で、自国に向かってくる核兵器を迎撃する手段がないことだ。』
『これでは、お互い核兵器を持つことで平和と軍事的均衡を保つ「相互確証破壊」が成り立たなくなる。
そこでMDを突破できる兵器を-というのがロシアの動きだが、この新兵器群はむしろロシアの限界を示している。
コピーを超えて
ロシアはかつてのソ連時代から、兵器開発に関して特徴があった。
その一つは、旧西側の兵器の開発思想を追いかける、というものだ。第二次大戦後には、戦時中にソ連領沿海州に不時着した米国のB29重爆撃機を返却せずに分解。ほぼコピーしたTu-4爆撃機を約1000機も生産、配備した。
その後、実物が手に入ることがなくフルコピーもなくなったが、西側、特に米国の兵器開発の後を追う姿勢が続いた。
パイオニアは相当に無駄な試行錯誤をしなければならないが、後追いならば、枝分かれする技術のうち先行者(米国)が選んだ“本命”を迷うことなく選択できる。開発時間とコストの大幅削減が可能だ。
そして、例え選んだ道が失敗であったとしても、それは先行者(米国)も失敗することを意味しているため「ひとり負け」は避けられる。
可変翼の大型戦略爆撃機では米のB-1に対しソ連はブラックジャックを、宇宙往還機ではスペースシャトルに対しブラン、超音速旅客機でも英仏コンコルドに対しTu-144と、外観に違いはあれど開発思想的には「そっくりさん」の機体は多い。
また中国のように劣化コピーしか作れないのと異なり、後追いの利点を活かして元祖より優秀という機体も少なくない。さらに後追いとは別思想の兵器もあり、分野によっては米に対し優位性すらあった。』
『ところが、今回のMDに対するロシアの姿勢は異なる。
MDに対して「我が方もMDを」という選択肢を取っていない。
高度な電子装備やミサイル誘導、そしてその実用化といった面では、もはや同じ土俵に立つのは不可能になったとみるのが妥当なようだ。
背景に目をやれば、兵器開発の基盤となる経済面では、名目GDPでトップから米中日独英仏印と続き、ロシアは12位で韓国(11位)より下位にある。
こんな状態で米国と対等の兵器群を開発・維持しようとすれば、歪(ひず)みが出るのも無理はない。
より使いやすい核という歪み
その歪みが、今回プーチン氏が公開した兵器群の「核偏重」だ。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は、この兵器群を「ソ連時代の防衛構想の焼き直しか、ロシアが既に作り上げているもの」として、斬新さに否定的だ。 例えば南極経由の弾道ミサイルは無価値ではないが、人工衛星を打ち上げるロケット技術があれば作れるレベルのものだ。
実際、原子力をさまざまな兵器に応用しようとの試みは1960年代には存在していた。米国では原子力を動力とした爆撃機が構想され、原子力を動力とした巡航ミサイルについても「冷戦時代に米ソとも開発を検討した」(WSJ)。
当時は戦場の大口径砲といった戦術級兵器にすら核弾頭が用意され「原子砲」と呼ばれた。さらに米国では空対空核ミサイル「AIR2-ジーニー」という、現在の目で見れば非常識な兵器まで開発、実際に運用された。
核爆弾を搭載して攻めてくる爆撃機の編隊に向けて発射し、編隊ごと吹き飛ばす(蒸発させる)。後の放射能汚染など二の次という兵器だった。』
『こうした冷戦期の原子力・核利用兵器に共通するのは安全性の低さだ。
兵器に安全性という言葉は違和感があるが、信頼性と言い換えてもいい。
いくら核兵器とはいえ、保管中に突然爆発するなどあってはならない。いざというとき故障が起こるようでも駄目なのだ。運用人員の教育と訓練、整備、そして維持管理のコスト…。米ソとも冷戦期にこうした問題を検討し、結局は無用の長物として、核動力のミサイルや爆撃機といった類いの危険な兵器の開発や配備を中止した。
核弾頭としての利用以外では、空母や原子力潜水艦の動力に使われる程度となって現在に至るのだ。
だが、その過程でロシア(ソ連)はいくつもの大失態を重ねてきた。鉄のカーテンの陰で当時は一般に知られていなかったが、原子力潜水艦の事故は信じがたいほど多い。
1960年には原潜K-8が原子炉の蒸気発生器の故障を起こし乗組員13人が重度の被曝
▽1961年、K-19の原子炉事故により被曝で21人が死亡
▽68年、K-27が原子炉事故で142人が被曝、10人死亡-。
70年末にはアルファ級原潜で原子炉のメルトダウン事故が起き、83年にはK324がウラジオストク南東100キロで中国の潜水艦と衝突し沈没。現場近辺では高濃度の放射線レベルが計測された。
ソ連崩壊に伴う原潜の廃棄において、残留放射能の高い原子炉区画の処理・保管に日本が協力したことも記憶に新しい。
ソ連からロシアとなった後も、原潜クルスクの大事故(2000年8月)が発生している。
こうした過去を踏まえてロシアの「新兵器群」を見れば、結局は管理しきれない原子力利用兵器を無闇に増やすだけではないのかという疑念が深まる。』