中国のソフトパワーへの警戒心 ライオネル・バーバー氏
英フィナンシャル・タイムズ前編集長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH243UD0U1A220C2000000/
『ロンドンの金融街シティーの端にはかつて、英王立造幣局が置かれていた。造幣局の起源は、ロンドンをデーン人の手から取り戻したことで知られるアルフレッド大王が、銀貨の鋳造を始めた882年にさかのぼるという。中国は2018年5月、在英大使館の移転のため、歴史的な場所を譲り受ける式典を開いた。
中国の大使館移転の動きは、同国が欧米諸国の大半とは違う時間軸で物事をとらえていることを示す。中英関係がきしもうとも…
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中英関係がきしもうとも、大使館が中国のソフトパワーを英国などに広める基盤になるということだ。中国の駐英大使は式典の際、新しい時代が、中国の国際的な役割と影響力に見合う施設を必要としているという趣旨の発言をした。新しい時代とは、中英関係の「黄金時代」であると語った。
英フィナンシャル・タイムズ前編集長のバーバー氏
(移転は果たしていないようだが)式典から約3年が過ぎた。中国による香港の民主化運動への対応や新疆ウイグル自治区での人権弾圧、英国が高速通信規格「5G」の通信網から中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)排除を決めたことなどを巡り、両国関係は悪化している。
2月には、中国当局が英BBCワールドニュースの放送を禁止した。先に英当局が中国国際テレビ(CGTN)の放送免許を取り消したことなどへの報復とみられる。英当局は、CGTNの番組の最終的な編集権を中国共産党が握っているとしていた。
CGTNへの対応は、英国が自国内での中国のソフトパワー行使に対し、より強硬な姿勢に転じたことを浮き彫りにする。特に警戒されているのが、中国政府の助成を受けた大学での研究だろう。分野としてはデュアルユース(軍民両用)の技術も含まれる。
英シンクタンクのシビタスが最近まとめた報告書によると、英国内の大学の少なくとも15校が、中国の軍事関連メーカーや大学と「生産的な」研究パートナーシップを結んでいるという。こうした研究が英政府の研究助成機関や王立学会からも資金を得ているとされる問題について、英当局は調査に乗り出している。
シビタスは、英国の大学と、中国政府が後ろ盾となる組織との関係が、透明性に欠けていると批判する。報告書の著者は「中国が27年までに米国の軍備に肩を並べ、49年までには最先端の軍事技術を備えて米国を抜く目標を公言しているという文脈で、動きをとらえる必要がある」との考えを示した。
習近平(シー・ジンピン)国家主席は15年10月の訪英時、マンチェスター大学にある国立グラフェン研究所(NGI)に足を運んだ。グラフェンは炭素素材の一種で、鋼鉄の約200倍という強度を持ち、熱伝導率は銅より高い。習氏の訪問と同日、ファーウェイはグラフェンなどの研究でNGIと手を組むことを発表した。NGIは企業とともに輸送や医療、エネルギー、電子、防衛といった分野でいち早い商業化に取り組む。
英紙デイリー・テレグラフの元編集者で上院議員のチャールズ・ムーア氏は、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学をはじめ英国の高等教育機関で中国が行使してきたソフトパワーに、警鐘を鳴らしてきた。英誌スペクテーターで「問題は、信頼の土台がないことだ。中国が海外で研究に関する秘密情報を盗もうとしていることを、英国の大学は理解しなければならない」と述べる。
中国政府はこうした見方を否定するが、英国だけでなく、オーストラリアから米国まで様々な国々で、高等教育機関における中国の影響力を懸念する声が上がる。半面、高い学費を払って在籍する中国人留学生の増加に依存せざるを得ないという構図もある。
英国では中国人留学生の数が12万人を超え、最近5年間で34%程度増加したという。新型コロナウイルスの感染拡大前に規模を急拡大して財政難に苦しむ大学にとっては、必要不可欠な収入源だ。英国の教育機関と中国の関係は、複雑に絡み合う。
著名建築家のデビッド・チッパーフィールド氏が携わる大使館の建設は、中国が造幣局の置かれていた場所に腰を据えることを物語る。敷地から目と鼻の先のロンドン塔のそばを流れ続ける、テムズ川のようにだ。
この記事の英文をNikkei Asiaで読む https://asia.nikkei.com/Opinion/China-s-soft-power-push-attracts-scrutiny-in-UK?n_cid=DSBNNAR
Nikkei Asia