政治力を高めるイスラム勢力 インドネシア、建国75周年
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62712030X10C20A8910M00/
『【ジャカルタ=地曳航也】インドネシアは17日の独立記念日で建国75年を迎えた。約2億7千万人が住む世界4位の人口大国は高い経済成長を続け、7月には世界銀行が「上位中所得国」に認定した。一方、多数派のイスラム勢力が政治力を強め、建国精神の「多様性の中の統一」は揺らぐ。
独立記念日を前に建国75年を祝うたこをあげるインドネシア国民(バリ州、8日)=ロイター
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独立記念日を前に建国75年を祝うたこをあげるインドネシア国民(バリ州、8日)=ロイター
記念日にはジャカルタの大統領宮殿で恒例の式典が開かれた。今年は新型コロナウイルス対策のため、ジョコ大統領夫妻のほかは招待客を絞り込んだ。出席者は75年前に初代大統領スカルノが独立宣言を発した午前10時(日本時間正午)すぎになると国歌「インドネシア・ラヤ」を斉唱した。
「叫ぼう、インドネシアは一つだと」――。この国歌の一節にそぐわない出来事が最近あった。
ナディム教育・文化相は7月末、イスラム団体で国内最大のナフダトゥル・ウラマー(NU)、2番目に大きいムハマディヤに公の場で謝罪する事態に追い込まれた。「皆さんの支持と参加を得られなければ質の高い教育は実現できない」と語り協力を求める動画を同省サイトに掲げたのだ。
両団体が批判したのは教員を対象にした学外教育プログラムの改革だ。配車大手ゴジェックの創業者でもあるナディム氏は民間企業の参加を目指した。国民の9割を占めるイスラム教徒に強い影響力を持つ両団体に十分な根回しをせず「企業に国家予算を使うべきでない」と指弾された。
改革は修正せざるを得なくなった。イスラム団体が政策決定に関与する現状を映し出した。
インドネシアは広くて大きな国だ。東西の幅は北米大陸に匹敵し、3つの標準時がある。独自の文化を持つ約300の民族を、文法や発音が平易な共通語でなんとかまとめ上げている。宗教では少なくとも少数派のキリスト教プロテスタント、同教カトリック、ヒンズー教、仏教の信徒も尊重してきたが、最近ではイスラム教徒が突出する。
1968年に就任した第2代大統領スハルトは出身母体の国軍を基盤に独裁体制を築き、イスラムを政治から遠ざけた。中東の強権国家の多くと同様、原理主義の台頭を恐れたためだ。だが98年に失脚すると、国軍も政治から身を引いて民主化が進んだ。解き放たれたイスラム団体が数の勢いで権力を志向したのは自然な成り行きだった。
インドネシア放送委員会は2月、民放テレビ局が前月に放送したバリ島産のワインを紹介する番組を問題視し、同局に警告した。アルコールをタブー(禁忌)とするイスラム教徒が不快になるとの理由だった。地方では小規模だがイスラムの価値観を重視する組織が乱立し、圧力をかける。
同国シンクタンク、スタラ研究所によると、2007~18年にキリスト教の礼拝妨害、教会建設の反対運動が合わせて約200件起きた。インドネシア科学研究所のワシスト・ラハリョ氏は「社会の『イスラム化』は精神運動というよりも宗教の政治化だ」と指摘する。17年のジャカルタ特別州の知事選が象徴的だった。
イスラム保守団体は当時の現職で中国系キリスト教徒のバスキ・チャハヤ・プルナマ氏が「非イスラム」だと非難した。一方、イスラム教徒のアニス・バスウェダン氏を支持し、当選に導いた。
科学研究所のワシスト氏は「SNS(交流サイト)が国民の分断を広げている」とも分析する。「非イスラムの罪」をあおる偽ニュースが拡散している。SNSでは最近、ジョコ氏の与党が同国では非合法の共産党に近いと主張する投稿が目立ってきた。24年の大統領選に向け、宗教や宗派の溝が広がる気配もある。
SNS管理システムを提供するカナダのフートスイート・メディアなどの調査では、SNSの利用時間はインドネシアが1日あたり約3時間半で、世界平均より1時間以上長い。偽ニュースにも接しやすくなるようだ。
世俗のジョコ氏は社会の融和に努める。再選を果たした19年の大統領選で戦ったイスラム政党党首のプラボウォ・スビアント氏を国防相に起用した。同氏は17年のジャカルタ州知事選でイスラム保守団体をたきつけ、ジョコ氏に近いバスキ氏の当選を阻止した。ジョコ氏もイスラム勢力の政治力を無視できない。』













