原油に上昇圧力、5カ月ぶり高値 再燃する地政学リスク
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0333R0T00C24A4000000/
『2024年4月3日 23:27
原油価格への上昇圧力が強まってきた。石油輸出国機構(OPEC)プラスは3日に今の減産目標の据え置きを決めたものの、中東やロシアの地政学リスクが供給減につながるとの警戒が根強く、主要原油価格は3日に1バレル86ドル台と5カ月ぶりの高値をつけた。景気低迷する中国の需要底入れも意識され始めた。原油価格の上昇は世界のインフレを再燃させる可能性がある。
サウジアラビアなどでつくるOPECと非加盟のロシアな…
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『サウジアラビアなどでつくるOPECと非加盟のロシアなどが加わるOPECプラスは3日、2カ月に1度の合同閣僚監視委員会(JMMC)をオンラインで開き、サウジやイラクなど8カ国による日量220万バレルの自主減産目標の据え置きを決めた。ロシアも自主的に日量47万バレルの輸出・生産削減方針を続けるとした。
OPECプラスは「市場の状況を引き続き注意深く見極め、いつでも追加措置を講じる用意がある」と強調した。
市場は減産据え置きを事前予想していた。一段の減産ではなかったにもかかわらず、原油価格は上昇で反応した。米原油指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物価格は3日に4営業日連続で上昇し、一時1バレル86ドル台と2023年10月以来5カ月ぶりの高値をつけた。
22年3月に1バレル130ドルをつけた原油価格は中国をはじめ世界景気の減速懸念などから23年12月に70ドル台まで下落した。
ところが、24年初からじりじり上昇を続け、23年末からの上昇率は約2割に達した。原油価格に上昇圧力がかかる背景には3つの要因がある。
まず供給減だ。OPECプラスが自主減産を決めた3月上旬時点では懸念されていた減産の実効性が高まってきた点だ。
ロシアのノワク副首相は3月末、国内石油企業に4〜6月の減産を命じたと明らかにした。輸出・生産削減はOPECプラスの強制力を伴わない自主目標だが、政府命令が減産の背中を押すとの見方が広がった。ノワク副首相は「(OPECプラスの減産に)全ての国が平等に貢献するためにこの措置を取った」と強調する。
サウジのエネルギー相のイラク訪問を受け、イラクも3月中旬、輸出を日量10万バレル強減らすと表明した。イラクの生産量は2月時点で日量425万バレルと生産枠を25万バレル超過していた。
3日のJMMCでは、1〜3月に生産過剰となったメンバー国に4月末までに詳細な補正計画を出すよう求めた。OPECプラスはイラクやロシアなどの動きについて「JMMCが歓迎した」とも発表した。市場では「サウジをはじめとしたOPECプラスがなりふり構わず価格下支えに動いている」(日本総合研究所の松田健太郎副主任研究員)との見方が広がる。
2つ目の理由が地政学リスクの再燃だ。
中東では1日、イスラエルがシリア首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺を空爆した。イエメンの親イラン武装組織がサウジの石油関連施設を攻撃したり、海上輸送の大動脈であるホルムズ海峡を通じた供給網に支障が出たりする懸念が増す。
ロシア情勢をめぐっても、ウクライナが今年に入り、少なくともロシアの7地域の石油関連施設へのドローン(無人機)攻撃を実施。ロシアの石油精製能力はすでに1割程度低下しているもようだ。
供給力が弱まるなかで需要回復の芽が出てきたことも原油価格上昇に拍車をかける。
代表例が中国経済だ。中国国家統計局が3月31日に発表した3月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.8と市場予想を上回り、好不況の境目とされる50を6カ月ぶりに上回った。
原油をガソリンなど石油製品に加工する精製処理量も中国では1〜2月に前年同期から3%増え、伸び率は4カ月ぶりの大きさだった。
国際エネルギー機関(IEA)によると、24年の世界石油需要増加分の約半分は中国が占める。中国経済の復調は世界の石油需給を引き締めそうだ。
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之首席エコノミストは「中国の需要増と産油国の減産で需給が引き締まっているところに地政学リスクが重なり、原油価格を強く押し上げている」と指摘。
JPモルガンのナターシャ・カネバ氏は「ロシアの減産強化などで、欧州指標の北海ブレント原油価格は5月までに1バレル90ドル台半ば、9月には100ドル近くまで上昇する可能性がある」とみる。
原油価格の高騰はインフレ再来のリスクを高める。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は3月29日、「利下げを急ぐ必要はない」と述べ、今後のインフレ動向を慎重に見極める考えを示した。
米株式市場には利下げ時期が遠のいたとの見方が広がり、ダウ工業株30種平均は4万ドルを手前に頭打ちが続く。
OPECプラスは7月以降の減産計画について、6月に開く閣僚級会合で議論する方針だ。地政学リスクが解消されないなかで、さらなる減産延長や深掘りなどが打ち出されれば、原油価格の一段の押し上げにつながる可能性もある。
(古賀雄大、ドバイ=福冨隼太郎)
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 日本では、ガソリン価格は高止まりしている。しかも、補助金の支給が継続されているなかのこと。もし補助金の支給が取りやめられたら、ガソリン価格はいくらぐらいになるだろう。
トランプは電気自動車に対する補助金を取りやめるといっている。完全に市場に任せれば、車の数は相当減るに違いない
2024年4月4日 7:06いいね
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志田富雄
日本経済新聞社 編集委員
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分析・考察 米国では5月末から 9月初めあたりまでが「ドライブシーズン」といわれ、ガソリン需要が増える時期です。
ただ、昨年はガソリン価格が上がると需要の伸びが鈍化し、インフレの中で米国民の動きが鈍っていることが伺えました。今年はどうなるか。
もうひとつの注目点は、ガソリン高騰対策で激減した米国の戦略石油備蓄(SPR)の補充が遅れていること。
米政府が買い入れ目標とする価格を実際の相場が上回ってしまっているからです。
SPRが少ない状態でハリケーン被害など供給障害が起きれば相場はより跳ね上がりやすくなります。
2024年4月4日 8:38 』



