低迷続く中国不動産市場の展望-金融危機に至る可能性は低いが、停滞は長期化し、経済の重石に
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=76268?pno=1&site=nli
※ 大体、「常識的なところ」だろう…。
※ 「投信」買ったりする時は、ご注意を…。
※ あと、銘柄選定する時は、「中国市場」への「依存割合」を、チェックしとく方が、いいな…。
『要旨
中国で不動産市場の低迷が続いている。これまで中国経済に不動産市場の発展が大きな役割を果たしてきたが、その不動産依存が目下最大のリスクとなっている。本稿では、中国の不動産市場を巡る状況や最近の政策対応の動向を踏まえ、不動産市場が今後どのような展開をみせるか考察するとともに、不動産市場の悪化が拡大した場合の経済・金融への影響を分析した。
今後の展開に関しては、メインシナリオとして、現在の政策対応の効果が即効性を欠くことから停滞は長期化し、販売の減少幅拡大に歯止めがかかり始めるのは早くとも24年になると想定している。その後も、人口減少と過剰在庫により不動産市場は軟化しやすく、不安定な状況が続くだろう。
経済・金融への影響に関しては、22年と同程度の不動産関連需要の需要減が追加で発生した場合、名目GDPを2%程度押し下げる可能性があるが、国内セクターへの影響が主で、海外への影響は限定的となりそうだ。金融面では、銀行の不良債権処理余力はまだ十分にある。不良債権処理が経済の重石となりうるが、システミックリスクの顕在化により金融危機にまで至る可能性は低いとみている。
■目次
1――低迷が長期化する中国の不動産市場
2――不動産政策緩和に転じた中国指導部。ただし、過度な緩和は期待できず、効果発現は緩やかに
3――今後の展望:3つのシナリオ
1|メインシナリオ
:停滞長期化の後に底打ち。ただし、その後も需給は軟化しやすく不安定な状況が続く
2|リスクシナリオ
:販売悪化に歯止めがかからず悪循環が加速しハードランディング
3|楽観シナリオ
:積極的な政策の緩和により販売が早期に回復
4――不動産市場の悪化が拡大した場合の経済・金融への影響と耐性
1|実体経済への影響
:昨年と同程度の不動産関連需要減が追加で発生すれば、景気への影響は大
2|金融への影響
:不良債権処理圧力が高まるも、銀行セクターの処理余力はまだあり
5――おわりに:不動産市場ソフトランディングの成否は今後の中国経済の行方をも左右
』
『
1――低迷が長期化する中国の不動産市場
中国で不動産市場の低迷が続いている。契機となったのは、2020年に導入された不動産デベロッパーの債務管理強化の施策(8月の負債規制(いわゆる「三道紅線」)や12月の融資総量規制)だ。この規制強化やコロナ対策を受けた住宅販売減少の影響により、大手の恒大集団を含む一部デベロッパーの資金繰りが悪化したことで物件の施工が遅れ、買い主への引き渡しが滞るようになった。
中国では、物件の完成前に売買契約をし、住宅ローンの支払いも始まる「予約販売」の形式が主であるため、物件の引き渡しの遅れに不満を抱いた買い主の間で、住宅ローン支払いボイコットの動きが22年7月以降広がった。この混乱による不安から住宅の買い控えが拡大し、住宅市場の悪化が一段と進んだ。
(図表1)図表1:住宅販売面積・価格
事態を重くみた中国政府は、予約販売済み物件の引き渡しを安定的に進めるための対策(「保交楼」)を22年7月末に即座に打ち出し、地方政府主導の基金を用いた開発中プロジェクトへの資金繰り支援等の取り組みを始めた。
さらに、同年11月には、金融機関によるデベロッパー等への資金繰り支援強化の措置も公表1したほか、翌23年1月には、優良なデベロッパーを対象にバランスシート改善計画行動プランを策定するなど、様々な対策を進めてきた。
だが、それにもかかわらず、不動産市場の不安定な状況は継続している。住宅販売面積と住宅販売価格(70都市平均)の四半期毎の前年比は、ともにマイナスの局面から脱しきれておらず、23年4月以降は再び悪化する動きもみられる(図表1)。消費者の不安心理は依然解消されていないようだ。
1 このうち、住宅建設プロジェクト向け融資の返済期間延長の措置などは、適用期間が当初、公表後半年間(2023年6月まで)だったが、23年7月に24年度末まで延長された。
2――不動産政策緩和に転じた中国指導部。ただし、過度な緩和は期待できず、効果発現は緩やかに
好転の兆しがみえない状況を受け、23年7月24日に開催された中央政治局会議では、下半期の経済政策運営にあたり、リスクの解消が必要な重点領域の筆頭として不動産市場を挙げ、「我が国不動産市場の需給関係に重大な変化が起こったという新たな状況に適応し、適時に不動産政策を調整・最適化し、都市に応じた政策ツールを適切に用いる」との方針を示した。
習政権下で頻繁に用いられてきた「不動産は住むためのもので投機するためのものではない」とのフレーズが用いられず、不動産政策を緩和する考えが示唆された。
実際にその後、地方政府を中心に緩和の動きが相次いでいる。例えば、住宅買い替え時の頭金比率などの借り入れ条件の緩和(「認房不認貸」)や、1軒目購入時の頭金比率引き下げ、住宅購入の前提となる自地域への戸籍転入に関する制限の緩和・撤廃のほか、販売価格に関する規制を緩和する地方もあらわれている。
今後も同様の動きは広まるとみられるが、緩和の度合いがこれ以上強まる可能性は低く、政策の効果発現は緩やかなものとなるだろう。
上述のような各種緩和措置や、利下げ等の金融緩和を通じて住宅販売の後押しをするとともに、上述の「保交楼」やデベロッパーへの資金繰り支援により消費者の買い控え心理の解消を図り、地道に不動産市場の回復を促していくものと考えられる。
過度な緩和に対して消極的な背景には、不動産市場を巡る構造的な課題がある。
例えば、不動産価格の問題だ。試算値であるため幅をもってみる必要はあるが、世帯可処分所得に対する住宅価格の比率をみると、2022年時点の水準は、11倍と必ずしも低くない水準である(図表2)。
加えて、地方による差が顕著だ。例えば、22年時点で水準が最も高い北京では25倍を超える水準で高止まりしている一方、最も低い内モンゴル自治区では7倍前後の水準である。
また、同じ省の中でも人口が集中しやすい地域とそうでない地域とで差がある。例えば、中部地区の湖北省の場合、省都の武漢市は16倍で、省全体の13倍に対してやや高い(いずれも21年)。
「共同富裕」のスローガンのもとで格差是正の取り組みを進めているなか、中間所得層の住宅負担が高まったり富裕層との格差が拡大することは望ましくない。景気対策のためとはいえ、行き過ぎた緩和を行い、住宅価格が再び過度に上昇することは中国指導部として容認できないだろう。
また、20年から始まった債務管理強化の背景でもある不動産デベロッパーの高レバレッジは、金融リスクの温床であり、解消の必要性が高い。不動産業の負債比率は、2010年代半ばから目立って上昇を続けている(図表3)。
不動産業の場合、予約販売の代金が契約負債として負債に計上されるため、負債が膨らみやすい側面はあるものの、看過できない状態にあるといえる。不動産市場がかつてのような高成長を見込めないなか(詳細は後述)、景気を優先してデベロッパーの体質改善を先送りにすれば、後に禍根を残すことになる。これも、緩和の強化に踏み切りづらい要因だろう。
図表2:住宅価格の世帯可処分所得比/図表3:企業の負債比率(業種別)
3――今後の展望:3つのシナリオ
1|メインシナリオ:停滞長期化の後に底打ち。ただし、その後も需給は軟化しやすく不安定な状況が続く
8月に入り、上場しているデベロッパーから23年上期(1~6月期)の業績が公表されており、恒大集団が前年度に続き最終損益で赤字を計上したほか、碧桂園控股も今期に赤字に転じるなど、デベロッパーの資金繰りは依然厳しい状況にある。
23年夏場以降の政策対応の効果により、徐々に底打ちに向かうと考えられるが、上述の通り即効性を欠くことから、消費者の間に安心感が醸成されるにはまだ時間がかかるだろう。
販売の減少幅拡大に歯止めがかかり始めるのは、早くとも24年に入ってからになると予想される。それでも、24年も前年比で減少となる可能性も十分にあり、停滞は長期化する見込みだ。
また、販売が底打ちした後も、需給両面の要因から不動産市場は軟化しやすく、不安定な状況が続くと考えられる。
需要面については、人口減少により総需要が鈍化の趨勢を辿ると見込まれる。
住宅を購入する主な年齢層の都市部人口について、例えば25~44歳を対象とし、国連の予測値をもとに推計すると、2000年代から低下傾向にある(図表4)。
20年代に入ってからも低下を続け、20年代後半には減少に転じる見込みだ。
一方、供給面については、住宅在庫の水準が高まっている。
建設中の物件のうち未販売の分を在庫とみなし、各年の販売面積対比でみた水準を試算すると、2010年代後半から徐々に上昇しており、供給圧力が高まっていることを示唆している(図表5)。
22年には販売不振を主因に、4年分の販売面積に相当する在庫が積みあがっている計算となる。販売不振の状況下で、この在庫が十分に消化されるには数年かかる可能性が高い。
こうした需給バランスにより、販売が持ち直しに向かった後も、住宅価格や不動産開発投資が下押しされやすい状況が続き、経済の重石になると考えられる。
また、建設中の在庫物件について、開発中断となるケースが増える可能性がある。
これはデベロッパーや金融機関の財務を悪化させるため、金融の不安定化要因となるだろう。
図表4:都市部人口(25~44 歳)と住宅販売面積/図表5:建設中の住宅在庫面積(販売面積比)
2|リスクシナリオ:販売悪化に歯止めがかからず悪循環が加速しハードランディング
以上が今後想定される中心的なシナリオだが、リスクシナリオも想定される。
政策の効果がなかなか現れずに販売不振が長期化した場合、収益悪化や資産(開発中物件や土地使用権など)の評価損計上等による財務の悪化で大手デベロッパーが倒産し、それを契機に消費者心理が冷え込む、というものだ。
その結果、販売が一段と減少し、それが更なるデベロッパーの財務悪化を招く、という形で負のサイクルが生じ、ハードランディングに至る可能性も否定できない。
この際、家計が保有する投資用物件も潜在的な供給圧力となる。人民銀行が19年に都市部家計3万戸を対象に行った調査によれ下落期待が高まり、売却が加速すれば、市場の悪化に拍車がかかりかねない。
ただし、このような事態となれば、中国指導部が歯止めをかけるべく強力な措置を打ち出すことが予想されるため、実現の可能性が低いテールリスクとみている。
3|楽観シナリオ:積極的な政策の緩和により販売が早期に回復
他方、政策対応がより積極的なものとなれば、底打ちに向かうペースはやや早まるかもしれない。
例えば、資金繰りに苦しむ不動産デベロッパーの救済などが挙げられる。現地では、20年に導入された債務管理強化に関する規制の緩和、撤廃や、国有資本を中心とした救済ファンドの設立等を提言する声もあがっている2。
こうした策が実現すれば、「国進民退」の加速など副作用が懸念されるものの、消費者心理の改善にはプラスに働くだろう。
前掲図表4の通り、人口の伸び鈍化のペース以上に販売が減少していることを踏まえれば、ペントアップ需要が生じる可能性もある。
ただし、上述の通りデレバレッジの必要性を背景に緩和の拡大は見込みづらく、このシナリオについても、実現の可能性は高くないと考えられる。
2 例えば、「徐高:?整?化房地?政策,?需求?和供??并重」(『??网』、2023年8月30日)、「?? | 姚洋:?允?房企降价自救」(『新浪??』、2023年8月25日)。』
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4――不動産市場の悪化が拡大した場合の経済・金融への影響と耐性
不動産市場の低迷は、言うまでもなく目下の経済の最大の下押し圧力であり、金融不安定化のリスクともなっている。
8月時点では、不動産開発投資や不動産販売の減少が続く中でも、+5%前後の成長率目標は達成できそうな見込みであり、金融システムにも混乱はみられないが、上述のリスクシナリオのように一段と悪化が進んだ場合、実体経済・金融に対する影響はどの程度となるだろうか。いくつかの観点で定量的に確認してみよう。
1|実体経済への影響:昨年と同程度の不動産関連需要減が追加で発生すれば、景気への影響は大
実体経済に対する直接的な影響として、(1)不動産開発投資、(2)不動産販売、(3)住宅関連消費財の販売の減少がGDP押し下げに働く。
本稿執筆時で統計が既に公表されている23年8月時点では、それぞれ、前年同期比(年初来累計)で▲8.8%、▲7.1%、▲1%と、昨年から減少が続いている状況だ。
図表6:不動産関連需要減少時の国内生産(付加価値額)
・輸入への影響 ここからさらに減少幅が拡大すると、経済への悪影響はどの程度となるだろうか。
追加での減少幅を、22年の減少幅((1)~(3)それぞれ、▲10%、▲24.3%、▲4.7%)と仮定した場合の影響について、中国の産業連関表(2020年版)により2次波及まで試算したところ、不動産投資減少による直接効果が大きい建築業を中心に、生産を2.2兆元押し下げるとの結果となった3(図表6)。
これは、22年の名目GDPの1.9%に相当する規模となる。近年の成長率の水準を踏まえれば、景気への影響は大きい。なお、海外への影響という観点で、輸入(海外にとっては中国への輸出)に関しても同様に試算したところ、製造業を中心に1,400億元押し下げるとの結果となった。これは、22年の輸入総額対比で0.7%程度であり、直接的な影響の大きさは限定的といえる。
また、直接的な影響に加えて、雇用の悪化や住宅価格下落による逆資産効果、不動産関連税収や土地使用権売却収入の減少による地方財政の悪化といった間接的な影響も想定される。
建築業の就業者数は全産業のうち約1割を占めているほか、上述の中国人民銀行による都市部家計への調査によれば、家計が保有する資産のうち不動産が最も多く、約6割のシェアを占めている。
コロナ禍が始まった20年以降、家計の消費性向は従前に比べて低下しているとみられるが、雇用不安の高まりや住宅価格の下落が、消費を一段と下押しする可能性がある。
また、地方政府の主要財源に占める土地・不動産関連の歳入のシェアは、37%(21年)4と大きく、その落ち込みのインパクトは大きい。
実際、22年には税収や政府性基金が減少しており、一部で政府職員への給与支払いに影響が生じているとの報道もある。
その消費への影響が懸念されるほか、インフラ投資下押しの要因にもなり得る。
これらも考慮すれば、押し下げ幅は上述の名目GDP比1.9%からさらに拡大するだろう。このほか、地方政府の公共サービスの供給にも支障をきたすようになれば、社会不満の増大にもつながりかねない。
3 (1)不動産開発投資は、全体のうち建設、設備設置、設備購入、(2)不動産販売は、販売付加価値額、(3)住宅関連消費は、家電・AV機器、家具、建築・内装材とし、2022年のGDP統計に見合った規模となるよう調整したうえで、2022年と同じ減少幅を前提に試算。生産押し下げ額は付加価値ベースとし、波及効果は2次波及まで考慮した。
4 主要財源は、一般公共予算(税収入・税外収入)、政府性基金(地方政府専項債を含む)、中央からの財政移転。土地・不動産関連の歳入は、税収のうち都市土地使用税・土地増値税・不動産税・契約税・耕地占用税と、政府性基金歳入のうち土地使用権譲渡収入。
2|金融への影響:不良債権処理圧力が高まるも、銀行セクターの処理余力はまだあり
金融面では、不動産デベロッパー向け貸出や家計の住宅ローンに関する銀行の不良債権増加や、債券デフォルトなどの増加が生じている。これに伴い、不良債権処理圧力が高まり、それが経済を下押しする可能性はあるが、システミックリスクに至る可能性は低いとみている。
まず、国内における不動産セクター向けの主なファイナンスのうち、規模が最も大きい銀行貸出については(図表7)、不動産セクター向け貸出、とくに不動産開発向け貸出の不良債権比率が、19年末の1.8%(銀行業全体)に対して、22年末には5.2%(主要6大銀行)と、不動産市場の悪化を経て高まっているが、銀行業全体でみて耐性はまだあると考えられる。
例えば、2020年以降、銀行業全体で毎年約3兆元以上の貸倒引当金を繰り入れているとみられ5、そのうえで2兆元近い純利益を計上している。
加えて、2023年6月末時点で、銀行の貸倒引当金が6.6兆元、自己資本の取り崩し余地が6.67兆元(試算値)6ある。
これらを合計すれば、18兆元程度の不良債権処理余力があることになる。
これは、不動産向け以外も含む不良債権残高(3.2兆元、23年6月末)に対して約6倍の規模である7。
実際には、「保交楼」に関する融資についてはリスク区分を下げない等、不良債権認定を抑制する措置がとられているが、仮に不動産向け貸出を中心に不良債権が今後さらに増加しても、銀行業全体でみれば処理を行う余地があるといえる。
もっとも、金融機関の規模によって影響の程度は異なると考えられる。
体力の弱い中小銀行に関しては、自己資本比率が規制水準を下回るまで毀損するなど経営への影響は小さくなく、不良債権処理が経済を下押しするだろう8。
それでも、中小銀行が資産規模で全体に占める割合は相対的に低い。
また、地方政府が債券発行により調達した資金を中小銀行に資本注入しているほか、個別銀行の破たんなど緊急時には、その影響が全国に伝播して金融収縮を招かないよう人民銀行による流動性供給の実施等も想定されることから、システミックリスク顕在化による金融危機の誘発は想定しづらい。
他方、不動産デベロッパー向けの債券や信託など銀行貸出以外のファイナンスについては、銀行貸出に対して10%強の規模にとどまることから、ボリュームの面で金融システム全体におけるプレゼンスは限定的である。
懸念があるとすれば、いわゆる「どんぶり勘定」により複数の資産をまとめて運用するなど、リスクの所在が不透明になりがちなシャドーバンキングの存在が指摘できる。
中国のシャドーバンキングに関しては、健全化に向けた対応が2018年に始まり、21年度末で是正措置が完了していたが、23年夏に返済遅延を起こし問題となった中融国際信託のように、依然リスクの高い資金運用がなされるケースが残存しているようだ。
ただ、マクロでみれば、シャドーバンキングの規模は2010年代半ばから縮小傾向にあり9、運用の健全化も進められていることから、当時に比べてリスクは低下しているとみられる。
このほか、海外への影響も限定的と考えられる。
オフショア市場で発行されたドル建て債券については、2022年のデフォルト率が16%とオンショア市場に比べて高いが、同年末の総残高は約1,700億ドル(うち320億ドルがデフォルト)と限定的であり、国際金融市場の安定を揺るがすものとはならないだろう。
なお、不動産市場に関しては、規模は不明であるものの、中国人が海外の物件に投資をしているケースが少なくないと思われる。
上述したリスクシナリオのように中国国内の不動産市場が悪化した場合、バランスシート調整のために中国人が海外の保有物件を売却し、海外不動産市場にも影響が及ぶ可能性はある。
図表7:不動産セクター向け国内ファイナンスの状況(2022 年)
5 銀行保険監督管理委員会(現・金融監督管理総局)によれば、2020年以降の不良債権処理額は3兆元規模にのぼっている。それでも貸倒引当金残高は毎年5,000~6,000億元増加していることから、単純に計算すると毎年3.5~3.6兆元の貸倒引当金を繰り入れていることになると考えられる。
6 2023年6月末時点の自己資本比率(14.66%)と中国における自己資本比率規制の差分。規制水準の自己資本比率は、自己資本比率(8%)および資本バッファー(2.5%)のほか、国内のシステム上重要な銀行(D-SIBs)に課せられるD-SIBバッファー(0.25%~1.5%の5段階、ここでは1%)の合計値(11.5%)とした。
7 関(2023)が上場企業の財務データをもとに試算した潜在的な不良債権比率は、2022年央で9.6%と、公表された不良債権比率(22年6月末時点)の1.67%の5.7倍であった。
8 中国人民銀行が毎年公表している金融安定報告書に盛り込んでいるストレステストによれば、対象の4,008行の不良債権が21年末時点の不良債権比率の5倍まで増加する重度ストレスケースにおいて、D-SIBsの19行は、21年末の16.05%から11.91%まで低下するのに対し、非D-SIBsの3,989行は、同12.78%から6%まで低下する。D-SIBs・非D-SIBsの貸出資産残高は、それぞれ対象行全体の71.3%、28.7%となっている。
9 例えば、信託の残高はピークであった2017年の21兆元から2022年末には15兆元まで縮小している。このほか、迂回融資に用いられる「非標準化債権」と呼ばれるプライベートクレジットに類する資産が、一般向けに販売されている理財商品の運用資産に組み込まれているが、その比率は2018年の17%から2022年には7%まで低下している。
5――おわりに:不動産市場ソフトランディングの成否は今後の中国経済の行方をも左右
以上、本稿では低迷が長期化する中国不動産市場の今後の見通しと経済・金融への影響について考察した。
中国指導部は、住宅販売の回復に資する現在の下支え策を継続して不動産市場がソフトランディングに向かうよう促しつつ、不動産デベロッパーのデレバレッジを進める考えとみられる。
その過程で経済への下押しは続くため、不良債権の増加やデフォルトの発生が局所的に生じる可能性が高いが、これら金融面での影響は、金融機関や機関投資家、富裕層を中心に「痛み分け」をしながら、時間をかけて処理していくことになるだろう。
コントロールがうまくいかず不動産市場の悪化が急激に進行し、それに伴う実体経済の腰折れ、金融の不安定化が生じるリスクシナリオへの警戒も怠ることはできないものの、これに対応するための政策対応の余地は、その副作用を無視すれば、まだ存在する。
例えば、不動産デベロッパー向けの融資緩和やモラトリアムなどを通じた不動産市場を巡るマインドの改善、インフラ投資の拡大や消費刺激策など財政拡張による経済の下支え強化、AMC(資産管理会社)による不良債権処理強化や政府主導での金融機関の再編、金融機関への公的資金注入拡大、流動性供給強化による金融市場の安定化など、策は様々で、過去に実施した事例もある。
ただ、これらの策は、最終的に財政の負担として跳ね返り、今後の政策運営を制約することになる。
景気の安定維持に加え、「共同富裕」実現に向けた格差縮小や、国際的影響力強化に必要な対外政策、安全保障など、今後も政策課題が山積するなか、リスクシナリオへの展開を回避する必要性は極めて高いが、景気のソフトランディングとデレバレッジのバランスをうまくとりながら進める現在の政策運営の難易度は、必ずしも低くない。
この点において、今回の不動産市場コントロールの成否は、今後の中国経済の行方を左右するといっても過言ではない。今後も綱渡りの状況が続く見込みであり、不動産市場を巡る動向には引き続き注視する必要がある。
【参考文献】
・伊藤秀樹(2022)「長期化の様相を呈する中国不動産の低迷」(みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2022年9月16日)
・王雷軒(2023)「2020年の規制導入以降の中国における不動産関連貸出の変化と影響」(農林中金総合研究所『農林金融』、2023年8月号)
・齋藤尚登(2023)「中国:最悪ケースは金融危機のトリガーに」(大和総研、2023年8月22日)
・神宮健「中国の信託会社の最近の状況について」(野村総合研究所『宮健のFocus on 中国金融経済』、2023年8月30日)
・関辰一(2023)「上昇する中国の潜在不良債権比率」(日本総研『環太平洋ビジネス情報』、2023 Vol.23 No.89)
・三浦有史(2022)「転換点を迎えた中国の住宅市場」(日本総研『環太平洋ビジネス情報』、2022 Vol.22 No.85)
・宮嶋貴之(2021)「中国恒大集団ショックと不動産バブルをどうみるか」(ソニーフィナンシャルグループ『Economic Data Watch』、2021年10月11日)
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。』
『経済研究部 ? 主任研究員
三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)
研究・専門分野
中国経済
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(2023年10月10日「基礎研レポート」)
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