東南アジアの銀行、見えない米利下げ時期に苦しむ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB207JQ0Q4A520C2000000/
『2024年5月28日 4:00
米連邦準備理事会(FRB)は利下げを急がない意向を示し、東南アジア諸国連合(ASEAN)内の銀行は顧客への債権回収や預金利子に対する影響に警戒を強めている。
シンガポールの信用情報会社クリアトは4月、東南アジアの金融機関は融資で「健全な利ざや」を得られると予想されるが、域内の中央銀行が利下げ戦略でFRBに追従する姿勢を保っていることから、債務不履行(デフォルト)問題にも直面するとみている。「今後…
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『「今後、域内の銀行の財務状況は悪化する可能性が高い。中小企業は流動性問題を抱える公算が大きい」
地域の3大大手行、シンガポールのDBSグループやユナイテッド・オーバーシーズ・バンク(UOB)、オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)はFRBの政策金利を参照して金利を設定しており、過去1年、優れた業績を上げた。
OCBCは5月10日、今年1〜3月期の純利益が前年同期比5%増の19億8000万シンガポールドル(約2300億円)になったと発表。3月末時点で不良債権が30億4000万シンガポールドルに達したと明らかにした。昨年末から5%増えた。
OCBCのヘレン・ウォン最高経営責任者(CEO)は5月の決算説明会で「融資内容を注視し、潜在的懸念の把握に努めている」と説明した。
シンガポール大手行は割れている。OCBCは一般向け貯蓄口座の利子を一定に保っている。だが、UOBは4月、競合する貯蓄口座の利子を引き下げた。UOBは5月8日、今年1〜3月期の純利益が前年同期比1.6%減の14億9000万シンガポールドルになったと発表。3月末で不良債権が50億5000万シンガポールドルに増加したと開示。昨年末は49億5000万シンガポールドルだった。UOBのウィー・イーチョンCEOは5月8日の決算発表会で「金利の高止まりが続くが、今年の見通しは控えめながら楽観的だ」と語った。
OCBCと同様、シンガポール最大手行のDBSも貯蓄口座の利子を据え置いた。ただ、DBSも今年1〜3月に、不良債権が3%増の52億2000万シンガポールドルになったと明かした。
米資産運用大手ブラックロックでグローバル債券担当最高投資責任者(CIO)を務めるリック・リーダー氏はパウエルFRB議長が最近、インフレに改善が見られない状況で、以前の想定よりも金利を長期的に制約的水準に保つ必要が生じていると示唆したと分析している。
シンガポール銀にとって受取利息と支払利子の差額を平均収益資産で除した純金利マージン(NIM)は横ばいか下落となっている様子だ。
マレーシアの銀行でも同じ傾向がみられる。米信用調査会社クレジットサイツは3月のリポートで、大手のCIMB、メイバンク、RHBの金利マージン低下を報告した。「債権の一部は劣化している」と分析した。
タイでも債権の質への重圧が続いている。タイ中銀は首相の利下げ要請を拒み、引き締め策を維持している。クレジットサイツは4月のリポートで、バンコク銀行やクルンタイ銀行などの大手は融資への重圧がのしかかり1〜3月期のNIM低下を指摘した。(シンガポール=ディラン・ロー)
[日経ヴェリタス2024年5月26日号、Nikkei Asiaから転載]
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