ホルムズ通航、日本は英仏の共同護衛と一線 米国抜き活動見合わせ
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『2026年4月27日 5:00
(2026年5月1日 18:30更新)[会員限定記事]
主要7カ国(G7)の米国への立場の違いが鮮明になってきた。欧州とカナダはホルムズ海峡の通航の安全確保に関し、米国と別の枠組みで動く。米国に安全保障を依存する日本は英国やフランスが主導する「多国籍ミッション」と距離を置く。
6月中旬に仏エビアンで開く首脳会議(サミット)を前にG7内で立ち位置が割れている。
G7は日欧やカナダという米国の主な同盟国が集う。「ルールに基づく国際秩序」を重視し、法の支配や自由貿易といった価値の共有を掲げて中国やロシアなどと対峙してきた。ここにイランが事実上封鎖するホルムズ海峡の問題が波及する。
高市首相、英仏会議に出席見送り
ロイター通信は4月29日、同海峡での航行再開に向け、米国が主導して有志国連合を立ち上げ、各国に参加を呼びかける方針だと報じた。
G7の一角の英仏はそれに先立つ4月17日、海峡の通航再開に向けた首脳会議を主催した。米国と一線を画す別の枠組みだ。トランプ米政権による逆封鎖は国際法違反が疑われるとの見方が背景に存在する。
日本からは市川恵一国家安全保障局長がオンラインでオブザーバー参加した。高市早苗首相は出席を見送った。
首相は書面で「ホルムズ海峡の安定が一刻も早く回復し、全ての国の船舶の航行の自由および安全が確保されることが不可欠だ」とのメッセージを出した。「日本は国際社会と緊密に連携し、わが国として可能な取り組みを行っていく」と表明した。
日本は英仏がまとめた声明にも加わらなかった。海峡封鎖の問題を外交的に解決し、航行の自由や法の支配を強調するといった内容だった。G7のドイツ、イタリア、カナダが賛同した。
日本の外交当局者は声明にある「多国籍ミッション」が障壁になったと語る。「持続可能な停戦合意に基づき、条件が整い次第、機雷除去作業などのために設立する」と掲げる。
政府高官は「日本は米国が反応するような動きをとれない」と説明する。トランプ氏にとって多国籍ミッションは米国抜きの秩序形成に映る可能性がある。
2025年にトランプ氏が大統領に返り咲いて以降、ロシアのウクライナ侵略を巡る対応などで「米国VS欧州・カナダ」という構図が生まれた。トランプ政権は国際法を軽視し、ロシア寄りの姿勢をみせる。そこに中東情勢が加わった。
会談で握手を交わす高市首相とトランプ米大統領(3月19日、ワシントンのホワイトハウス)=共同
日本の立ち位置は特殊だ。中国、北朝鮮、ロシアと向き合う脅威を踏まえれば、安全保障で米国にはしごを外されるリスクは欧州などに比べ高い。核兵器も持たない。抑止や有事対応への米国の関与が揺らげば、安保環境はさらに厳しくなる。
首相は中東情勢を巡り米国に寄り添う方針を徹底する。3月19日にホワイトハウスで開いた首脳会談で「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」と発言した。
経済協力を通じてトランプ氏の関心を引き寄せる。首脳会談では80兆円を超える対米投資の第2弾プロジェクトを説明した。米国の関税措置を巡る合意後、日本は真っ先に投資を実行に移している。
会談前、トランプ氏はホルムズ海峡に艦艇を派遣するよう日欧など同盟国に求めた。日本は欧州とともに慎重な姿勢をとったが、同氏は首相との会談で「北大西洋条約機構(NATO)とは違う」と日本を評価した。対米投資が功を奏した可能性がある。
米国の同盟国、対米関係を相対化
日欧など米国の同盟国は安保を米国の圧倒的な軍事力に依存する。周辺の脅威から自国を守るためだ。
しかしトランプ政権に追従していては「法の支配」などの主張と矛盾するリスクを抱える。
米国との関係を管理しつつ、相対化する重要性が増す。
欧州連合(EU)は自由貿易協定(FTA)をテコに域外との経済関係を広げ、米国抜きで機能する通商ルールや投資環境を整える。
1月にインドと交渉を妥結し、南米5カ国でつくる関税同盟メルコスル(南米南部共同市場)と署名に至った。3月にはオーストラリアと交渉を終えた。アジア太平洋地域を中心とする包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)と連携する構想もある。
安保ではNATOの枠組みを軸に米国との関係に重きを置く方針を維持する。トランプ氏と親しい関係を保つオランダ元首相のルッテNATO事務総長らがつなぎ留め役を果たしてきた。両氏は4月8日もホワイトハウスで会談した。
カナダのカーニー首相は米国との適切な距離を探りながら、中堅国「ミドルパワー」の結集をめざす。26年に入り、日本との防衛装備品・技術移転協定に署名した。北欧5カ国とも北極圏の防衛など安保分野で協力を進める。
経済面では中国とも歩み寄りをみせる。中国製電気自動車(EV)の関税を引き下げる代わりに、中国側はカナダ産キャノーラ(菜種)への関税引き下げで合意した。
オーストラリアは米国以外の友好国と経済・安保連携を深めている。3月にはEUやカナダと協力協定を締結した。日本や隣国のインドネシアとも安保協力を拡大し、互いの部隊が円滑に協力できる体制を整えている。
韓国は日本の立ち位置と似る。ともに安保環境が欧州より厳しい。在韓米軍への依存を減らす「自主国防」の理念に拍車がかかる。防衛産業の育成に注力し、装備品の輸出を通じて中東や東南アジアとの関係強化に取り組む。
核武装論も強まりつつある。同国のシンクタンク、峨山政策研究院が26年に発表した調査では自国での核開発を支持する割合が80%に上った。周辺の脅威を軽減するため、冷え込んでいた中国との関係改善にも着手した。
(三木理恵子、ブリュッセル=辻隆史、ニューヨーク=竹内弘文、シドニー=今橋瑠璃華、ソウル=小林恵理香)
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