石破茂氏のアジア版NATO構想は反米か媚中か? 島田洋一、月刊「正論」で批判
正論11月号 連載「アメリカの深層」
https://www.sankei.com/article/20241001-VGN2D4JFRNAWBMZAG4IAQCOWKE/?outputType=theme_monthly-seiron
『2024/10/1 07:00
過去に防衛大臣などを歴任した石破茂氏が、自民党総裁選出馬にあたり発表した基本政策の中に、「アジア版NATO」創設があった。候補者討論会で、他候補から「集団的自衛権の全面行使と憲法の関係はどうなるのか。また具体的にどの国が入るのか」と当然の質問が出ている。これに対し、石破氏は次のように答えた。
「まさしくそれらの点を、これから議論を詰めたい。中国を最初から排除するということを念頭に置いているわけではない」
呆れた回答という他ない。当然ながら同盟国アメリカからは不信の声が出た。筆者のところにもいくつか届いている。代表的なものは、民主党政権で鳩山由紀夫首相が唱えた「東アジア共同体」構想の焼き直しではないのか、という疑問である。
まず改めて鳩山プランを振り返っておこう。鳩山氏は月刊誌『Voice』(二〇〇九年九月号)で、同構想について「東アジア地域を、わが国が生きていく基本的な生活空間と捉え、この地域に安定した経済協力と恒久的な安全保障の枠組みを創出する」と概要を説明している。
さらに同年十月、北京で開かれた日中韓首脳会議の冒頭、「今までややもすると米国に依存しすぎていた。アジアの一員としてアジアをもっと重視する政策をつくり上げていきたい」と述べている。岡田克也外相は会議を前に「日本、中国、韓国、ASEAN、インド、オーストラリア、ニュージーランドの範囲で(東アジア共同体を)考えたい」と具体的なメンバーを挙げていた。アメリカは明示的に外されている。
物理的距離は理由にならない。ニュージーランドとアメリカ本土は、日本からほぼ等距離である。米領で軍事拠点でもあるハワイ、グアム、アラスカなどは、ニュージーランドより遥かに近い。なお、朝鮮半島北部すなわち北朝鮮もこの共同体から除かれているが、「恒久的な安全保障の枠組み」という以上、無視してよいはずがない。
島田洋一教授
島田洋一教授
北朝鮮は体制崩壊させて統一韓国に含める趣旨というなら分かるが、単に深く考えていなかっただけだろう。拉致問題で協力的な友好国、モンゴルを外した理由も分からない。少し考えても穴だらけの「構想」であり、絵に描いたような軽挙妄動であった。
当時、米オバマ政権の国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長だったジェフリー・ベイダー氏によれば、「中国の対抗力たるアメリカを外し、中国を中心に東アジア機構を作るというこの危険な発想」に対し、ベトナムが特に強い懸念を抱き、国家主席自ら積極的に潰しに掛かったという。
「他ならぬ(共産党一党独裁の)ベトナムがこうした提案の戦略的愚かさを理解する一方、アジアにおける最大の同盟国が理解していなかった事実はオバマ政権に衝撃を与えた」とベイダー氏は皮肉まじりに総括している。
やはり当時のオバマ政権のブレーンだったハーバード大名誉教授のジョセフ・ナイ氏も「米国は『外されている』と感じたなら報復に打って出る」と露骨に不快感を示していた。民主党穏健派の二人にしてこの反応。あとは推して知るべしだろう。
慌てた鳩山首相は、「アメリカとアジアの架け橋になるのが、自分の意図」と釈明したが、米側からは、「架け橋など不要。アメリカは自らアジアとの関係をコントロールできる」と一蹴された。
鳩山氏に限らず、自民党幹部からも過去に危ない言動が出ている。
二〇一九年四月、習近平国家主席を表敬訪問した二階俊博幹事長(当時)は、会談後「協力し合って一帯一路構想を進めていく。米国の顔色を窺って日中の問題を考えていくものではない」と啖呵を切った。戦略性皆無の媚中発言であった。
石破氏の「アジア版NATO」だが、米国ではこうした鳩山、二階路線と同類だと見られよう。
(福井県立大学名誉教授 島田洋一)
(月刊「正論」11月号から)
しまだ・よういち
福井県立大学名誉教授。昭和32年、大阪府出身。京都大学大学院法学研究科博士課程修了。専門は国際関係論。「救う会」副会長、国家基本問題研究所企画委員。著書に『腹黒い世界の常識』(飛鳥新社)など。
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