※雑報によると露軍が占領したマリウポリ市の幹線道路に面した廃墟アパートの…。
https://st2019.site/?p=21896
『※雑報によると露軍が占領したマリウポリ市の幹線道路に面した廃墟アパートのファサードだけ化粧工事した宣伝ビル誕生。
内部は廃墟なのでもちろん人っ子一人、そこに住んではいない。テレビ撮影用の屋外セット。』
※雑報によると露軍が占領したマリウポリ市の幹線道路に面した廃墟アパートの…。
https://st2019.site/?p=21896
『※雑報によると露軍が占領したマリウポリ市の幹線道路に面した廃墟アパートのファサードだけ化粧工事した宣伝ビル誕生。
内部は廃墟なのでもちろん人っ子一人、そこに住んではいない。テレビ撮影用の屋外セット。』
タイの空港を離陸してインド経由で紅海にさしかかったイスラエル「El Al」航空の民航機が、…。
https://st2019.site/?p=21896
『ストラテジーペイジの 2024-2-29記事。
タイの空港を離陸してインド経由で紅海にさしかかったイスラエル「El Al」航空の民航機が、そのナビゲーションシステム(ADS-BとACARS)に対する地上からの電波ハッキングを受けた。
詳細不明だが、過去にソマリア上空で「El Al」機は自動操縦を乗っ取られそうになったことがある。パイロットが手動に切り替えたので事故にはつながらなかったが、ぼんやりしていれば飛行機はあらぬ場所へ誘導されるところであった。』
イスラエルが2023-10-7に喰らったようなテロ&ゲリラの一斉攻撃を、…。
https://st2019.site/?p=21896
『Martin Stanton 記者による2024-2-27記事「“Crippled At The Starting Gate” ―― America’s Achilles Heel In Future Conflict」。
新刊紹介。Kurt Schlicter著『THE ATTACK』は、イスラエルが2023-10-7に喰らったようなテロ&ゲリラの一斉攻撃を、米国本土も蒙ると予言する。現状のようにメキシコ国境からの不法移民を入り放題にしていれば、それは不可避である。
敵国は、これら潜伏ゲリラ隊をして、まず、米軍の輸送機部隊のハブ飛行場を襲撃させる。それによって米軍の遠隔地への戦力投射ができないようにする。
※メキシコ移民やイスラミック移民を米本土内に入り放題にしておいて、それを民主党の票田にして行こうという民主党政権の既往の政策は「社会の自殺」に等しかったのだが、同時に合衆国憲法はそれを禁じてはいないのである。
つまりダブルで自殺的なのである。
となるとこの際、新世代の政治リーダーが呼びかけるべきことは、新しい「修正憲法条項」でなくてはいけないはずなのだ。
ところがそれをよびかける新世代の政治家が、管見では米国には不在ときている。
これは今の米法曹界の学問レベルが、マスメディアの皮相なバイアスに劣後していることを示す。
このまま行くとどういうことになるか? 「市民の義務として不法移民を見つたらその場で銃殺しろ」と新大統領がテレビで煽動することになると思う。
移民が片付いたら、そのあとは商店泥棒たちが「市民自警銃殺隊」のターゲットになるだろう。やはり「改憲」は大事だよ。』
『FT』の特だね記事がすごい。
https://st2019.site/?p=21896
『Joseph Trevithick 記者による2024-2-28記事「Russia’s Low Threshold For Nuclear Weapons Use Detailed In New Report」。
『FT』の特だね記事がすごい。
同紙は、2008から2014のあいだにロシアからブリーチングした29の部外秘ファイルを、誰かから見せてもらったようだ。
2010年以降のロシア軍の方針では、保有するSSBNの2割がやられた場合、または保有するSSNの3割がやられた場合、または3隻以上の巡洋艦が沈められた場合、または3箇所以上の海軍航空隊基地がやられた場合、または沿岸の海軍司令部複数が同時にやられた場合は、ロシア海軍は戦術核を使うのだという。
また秘密文書は、中国軍〔国名を名指しせず「南軍」と表現している〕が〔国境で小競り合いしている現地部隊のほかに?〕第二梯団を配備した場合は、ロシア軍最高司令官は、〔戦術級〕核兵器の使用を命令する、としている。
※プー之介の政治演説。列挙した公約を総計すると国家予算が453兆ルーブルも必要になるのだが、2024のロシアの国家税収は35兆ルーブルで、そこから36兆ルーブルを支出しているさなかである。あと、ロシア国民は酒を飲むのを止めて、スキーにいそしみなさい、だと。お前がやれよ。 』
オランダもウクライナと協定締結、明文化された今年の軍事支援額は182億ドル以上
https://grandfleet.info/european-region/the-netherlands-also-concludes-an-agreement-with-ukraine-providing-for-more-than-18-2-billion-in-military-aid-this-year/
『ウクライナと安全保障協定を締結したオランダは「2024年に20億ユーロの軍事支援を提供する」と約束、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、デンマーク分を加えると2024年の軍事支援額は182億ドル以上=2.7兆円になり、まもなくノルウェーも協定を締結する見込みだ。
参考:Володимир Зеленський і Марк Рютте провели зустріч у Харкові й підписали угоду про безпекове співробітництво між Україною та Нідерландами
参考:Украина подписала соглашение по безопасности с Нидерландами
2国間協定を通じて積み上がっていくウクライナへの軍事支援
G7は昨年7月のNATO首脳会議で「米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、カナダはウクライナの長期的な安全保障について協議することを約束する」と発表、これは明文化されていなかったウクライナ支援を「二国間協定の義務に置き換える」という意味で、英国は安全保障に関する2国間協定を1月に締結して「2024年に25億ポンドの軍事支援を行う」と表明。
出典:PRESIDENT OF UKRAINE
2月16日に協定を締結したドイツも「2024年に71億ユーロの軍事支援を行う」と、フランスも「2024年に30億ユーロの軍事支援を行う」と、2月24日に協定を締結したイタリアも「必要な支援を提供する(2024年分の支援金額は非公開)」と、カナダも「2024年に30億加ドル以上の軍事支援を行う」と、デンマークも「必要な支援を提供する(2024年分の支援金額は非公開)」と約束していたが、オランダも1日に安全保障に関する2国間協定を締結した。
オランダは締結した協定に基づき「2024年に20億ユーロの軍事支援を提供する」と約束、英国が締結した協定に倣って「協定の有効期間は10年間」「双方が合意すれば延長も可能」「ウクライナがNATOに加盟した時点で安全保障上の義務は終了」という内容だ。
出典:PRESIDENT OF UKRAINE
因みにG7の共同宣言に賛同した国(20ヶ国以上)との協議も進められており、ノルウェーも数週間以内にウクライナとの協定を締結する見込みで、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、デンマーク、オランダが約束した2024年の軍事支援は182億ドル以上=2.7兆円になる。
これは軍事支援が新たに上積みされたというより、明文化しないまま各国が行っていた軍事支援を協定という形に置き換えただけで、当該国が2022年と2023年に行った軍事支援額が不明なため「ウクライナに対する2024年の軍事支援額=1年分の支援額」がどの程度増えたのかは何とも言えない。
※日本人からすると安全保障協定と言えば日米安保=防衛義務が含まれるのではと考えるかもしれないが、世界中で結ばれている安全保障協定の形は様々で、ウクライナに提供される協定にも防衛義務は含まれていない。
関連記事:オランダのウィルダース氏、連立政権樹立のためウクライナ支援停止を撤回
関連記事:独仏がウクライナと安全保障協定を締結、2024年に101億ユーロの軍事支援を約束
関連記事:ウクライナは孤独ではない、英国とウクライナが歴史的な安全保障協定に署名
関連記事:バルト三国はウクライナ支援に14億ユーロ以上、英国は支援額を25億ポンドに増額
関連記事:ショルツ政権はウクライナ支援倍増で合意、40億から80億ユーロに引き上げ
関連記事:自由のための戦いに期限なし、ドイツは2032年までの予算計画にウクライナ支援を盛り込む
関連記事:イタリアのメローニ首相、ウクライナに武器を送らなければ戦争が近づくだけ
※アイキャッチ画像の出典:PRESIDENT OF UKRAINE
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投稿者: 航空万能論GF管理人 欧州関連 コメント: 14 』
『 名無しの悪夢
2024年 3月 02日
返信 引用
世界中で結ばれている安全保障協定の形は様々で、ウクライナに提供される協定にも防衛義務は含まれていない。
つくづく日本の常識と世界の常識は違うものだと思い知らされます、ありがとうございます。
7
たむごん
2024年 3月 02日
返信 引用
日米安保も、日本の教科書(日本の常識)と違って、仰る通り怪しいですからね。
アメリカの議会次第で、日本に対する米軍派兵の義務はありません。ウクライナ戦争のアメリカ上下院を見れば、100%派兵は前提として有り得ないでしょうね。
>同様に日米安全保障条約第五条の「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」という規定について、「米国の憲法で宣戦布告の権限を与えられている連邦議会において認められて初めて、米軍が我が国の防衛のために対応する」という認識を政府は持っているのか。
(※ 資料69 日米安全保障条約第五条
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。)
>また、我が国として、米国の国内法について有権的に解釈し得る立場にはないが、日米安全保障条約の締結は米国においては米国議会によって承認されたものであり、同条に規定する米国の対日防衛義務を承認した同じ議会が、当該義務の履行を妨げるような措置をとるとは考えていないところである。
(令和四年六月十日提出 質問第一三八号 日本有事の際、本当に米軍は日本を守るのかに関する質問主意書 提出者 井坂信彦)
(令和四年六月二十四日受領 答弁第一三八号 内閣衆質二〇八第一三八号 令和四年六月二十四日) 』
『 T.T
2024年 3月 02日
返信 引用
まあ、日米安全保障条約も第5条を読めば分かるように自動参戦するわけではないので、日本の常識も勘違いの類いなんですがね。
11
もく
2024年 3月 02日
返信 引用
そうなんですよね。
おまけでアメリカの核の傘に守られている、というのも幻想で、
明文化され公表されていないうえに、
アメリカ本土が核による反撃を受けるリスクを負ってまで核攻撃はできない。そんなことすれば大統領は選挙で絶対負ける。だから、アメリカの核の傘による抑止は成り立たない。
8
NHG
2024年 3月 02日
返信 引用
でも当のウクライナでは西側の核を恐れてロシアの核は抑止されてるとされてるから、まったくの意味なしではないと思う
nanashi
2024年 3月 02日
返信 引用
イヤ、核を恐れているのは西側でしょう。
核があるからこそNATO直接介入なんて事態が起こり得ないのですから。
プーチン大統領は度々メッセージを発しています「核兵器を忘れるな」と。
政府は分かっているでしょうが、西側の世論はどんな血迷った事を言い出すか分からないですからね。
2 』
配下の国が思い通りに動かなくなり、核戦争で脅すしかなくなったアメリカ政府 | 《櫻井ジャーナル》 – 楽天ブログ
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202403020000/


『アメリカのロイド・オースチン国防長官は下院軍事委員会の公聴会で追加資金の承認を議員に呼びかけた。
ウクライナに対する600億ドルの新たな支援策が議会で通らないため、その資金がないとウクライナでロシアが勝利、NATOとロシアが直接軍事衝突すると主張している。アメリカの支援が続かなければ確実に負けると警告したというが、資金や武器弾薬を供給してもウクライナの敗北は決定的である。
短期的に見るとウクライナにおける戦闘は2013年11月から14年2月にかけてバラク・オバマ政権が仕掛けたクーデターから始まるが、その背景には1992年2月にDPG(国防計画指針)草案という形で作成された世界制覇プロジェクトがある。
その当時、すでに国防総省もネオコンに制圧されていた。国防長官はディック・チェイニー、国防次官はポール・ウォルフォウィッツ。ふたりともネオコンだ。そのウォルフォウィッツが中心になって作成されたことから、DPGは「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。
そのドクトリンではドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、新たなライバルの出現を防ぐことが謳われている。旧ソ連圏だけでなく、西ヨーロッパ、東アジア、東南アジアにアメリカを敵視する勢力が現れることを許さないとしているのだ。
しかし、当時の日本政府はアメリカの戦争マシーンに組み込まれることを嫌がる。細川護煕政権が国連中心主義を主張したのはそのためなのだが、そうした姿勢を見てネオコンは怒る。細川政権は1994年4月に倒され、95年2月にはウォルフォウィッツ・ドクトリンの基づく「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」をジョセイフ・ナイは発表した。
そうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布され(地下鉄サリン事件)、それから10日後には警察庁の國松孝次長官が狙撃された。そして8月には日本航空123便の墜落に自衛隊が関与していることを示唆する大きな記事がアメリカ軍の準機関紙とみなされているスターズ・アンド・ストライプ紙に掲載される。
アメリカではソ連消滅後、有力メディアが旧ソ連圏に対する戦争を煽り始め、その流れに逆らったビル・クリントン大統領はスキャンダル攻勢にあった。
クリントン政権で戦争を抑える上で重要な役割を果たしていたのは国務長官だったクリストファー・ウォーレンだが、1997年1月にブレジンスキーの教え子でもあるマデリーン・オルブライトへ交代、彼女は98年秋にユーゴスラビア空爆を支持すると表明する。
そして1999年3月から6月にかけてNATO軍はユーゴスラビアへの空爆を実施、4月にはスロボダン・ミロシェビッチの自宅が、また5月には中国大使館も爆撃された。この空爆を司令部はアメリカ大使館にあり、指揮していたのはブルガリア駐在大使だったリチャード・マイルズだと言われている。
2000年はアメリカ大統領選挙のある年だったが、1999年の段階で最も人気があった候補者は共和党のジョージ・W・ブッシュでも民主党のアル・ゴアでもなく、立候補を否定していたジョン・F・ケネディ・ジュニア、つまりジョン・F・ケネディ大統領の息子だった。1999年前半に行われた世論調査ではブッシュとゴアが30%程度で拮抗していたのに対し、ケネディ・ジュニアは約35%だったのだ。
しかし、ケネディが大統領選挙に参加することはなかった。1999年7月、ケネディ・ジュニアを乗せ、マサチューセッツ州マーサズ・ビンヤード島へ向かっていたパイパー・サラトガが目的地へあと約12キロメートルの地点で墜落、ケネディ本人だけでなく、同乗していた妻のキャロラインとその姉、ローレン・ベッセッテも死亡している。
墜落地点から考えて自動操縦だった可能性が高く、操作ミスだった可能性は小さい。JFKジュニアが乗っていた飛行機にはDVR300iというボイス・レコーダーが搭載され、音声に反応して動き、直前の5分間を記録する仕掛けになっていたが、何も記録されていなかった。また緊急時に位置を通報するためにELTという装置も搭載していたが、墜落から発見までに5日間を要している。
2000年の上院議員選挙では投票日の3週間前、ブッシュ・ジュニア陣営と対立関係にあったメル・カーナハンが飛行機事故で死んでいる。このカーナハンと議席を争っていたのがジョン・アシュクロフト。ジョージ・W・ブッシュ政権の司法長官だ。ちなみに、選挙では死亡していたカーナハンがアシュクロフトに勝っている。
選挙の結果、大統領に選ばれたのはブッシュ・ジュニア。大統領に就任した2001年の9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃され、アメリカは侵略戦争を始める。
2002年には中間選挙が行われたが、この段階でイラク攻撃に反対する政治家は極めて少なかった。例外的なひとりがミネソタ州選出のポール・ウェルストン上院議員だが、そのウェストン議員は投票日の直前、2002年10月に飛行機事故で死んでいる。
メディアは「雪まじりの雨」という悪天候が原因だったと報道さしていたが、同じ頃に近くを飛行していたパイロットは事故を引き起こすような悪天候ではなかったと証言、しかも議員が乗っていた飛行機には防氷装置がついていた。しかも、その飛行機のパイロットは氷の付着を避けるため、飛行高度を1万フィートから4000フィートへ下降すると報告している。その高度では8キロメートル先まで見えたという。
ブッシュ政権はアメリカ主導軍を使い、2003年3月にイラクを先制攻撃してサダム・フセイン体制を破壊し、100万人を超すと見られるイラク人を殺している。この数字は複数の調査でほぼ一致している。
例えば、アメリカのジョーンズ・ホプキンス大学とアル・ムスタンシリヤ大学の共同研究によると2003年の開戦から06年7月までに約65万人のイラク人が殺されたという。イギリスのORBは2007年夏までに94万6000名から112万人が死亡、またNGOのジャスト・フォーリン・ポリシーは133万9000人余りが殺されたとしている。
ネオコンは1980年代からフセイン体制を倒し、イランとシリアを分断しようとしていた。そのフセイン体制をペルシャ湾岸の産油国を守る防波堤と考えていた勢力、例えばジョージ・H・W・ブッシュやジェームズ・ベイカーらとネオコンは対立、イラン・コントラ事件が発覚する一因になった。
結局、イラクではフセインを排除したものの、親イスラエル体制を樹立することには失敗。そこで次のオバマ政権は2010年8月にPSD-11を承認してムスリム同胞団を使った体制転覆作戦を始動させる。そして始まるのが「アラブの春」だ。
その流れの中でアメリカ、イギリス、フランスを含む国々は2011年春からリビアやシリアに対する軍事侵略を始めた。この戦術はオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーが1970年代に始めたものだ。
リビアに対する攻撃は2011年2月に始まり、3月には国連の安全保障理事会がアメリカなどの要請を受けて飛行禁止空域の導入を承認、5月にはNATO軍機が空爆を開始する。そして10月にムアンマル・アル・カダフィは惨殺された。
その間、地上ではアル・カイダ系武装集団のLIFGがNATO軍と連携して動いていたのだが、その事実が明らかになってしまう。例えば、反カダフィの武装勢力が拠点にしていたベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられた。
イギリスの外務大臣を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックは2005年7月、アル・カイダはCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストだと指摘している。アラビア語でアル・カイダは「ベース」を意味、データベースの訳語としても使われる。
一般的にアル・カイダのリーダーだと言われ、イコンとして扱われていた人物がオサマ・ビン・ラディン。そのビン・ラディンを2011年5月、アメリカ海軍の特殊部隊が殺害したとオバマ大統領は発表している。
2012年からオバマ政権はシリア侵略に集中、リビアから戦闘員や武器をNATO軍がシリアへ運び、軍事支援を強化するのだが、そうした行為を正当化するためにシリア政府を悪魔化するための偽情報を流した。
ところがシリア軍は手強く、アル・カイダ系武装勢力では倒せない。そこでオバマ政権は支援を強化するのだが、アメリカ軍の情報機関DIAは、オバマ政権が支援している武装勢力の危険性を指摘する。その主力はサラフィ主義者やムスリム同胞団で、アル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘されていた)といったタグをつけているとする報告を2012年8月にホワイトハウスへ提出したのだ。オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになるとも警告していた。2012年当時のDIA局長はマイケル・フリン中将だ。
この警告は2014年にダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)という形で現実なった。この武装勢力は同年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にモスルを制圧する。その際にトヨタ製小型トラック「ハイラックス」の新車を連ねた「パレード」を行い、その様子を撮影した写真が世界に伝えられ、広く知られるようになった。
アメリカの軍や情報機関は偵察衛星、通信傍受、人間による情報活動などで武装集団の動きを知っていたはず。つまりパレードは格好の攻撃対象だが、そうした展開にはなっていない。ダーイッシュが売り出された後、フリンDIA局長は退役に追い込まれた。
オバマ政権は「残虐なダーイッシュ」を口実に使い、シリアへアメリカ/NATO軍を直接投入しようと目論み、戦争体制を整える。2015年2月に国務長官をチャック・ヘイゲルからアシュトン・カーターへ、9月に統合参謀本部議長をマーティン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させたのだ。
ヘイゲルは戦争に慎重な立場で、デンプシーはサラフィ主義者やムスリム同胞団を危険だと考えていた。それに対し、カーターやダンフォードは好戦派だ。
統合参謀本部議長が交代になった数日後の9月30日にロシアはシリア政府の要請で軍事介入、ダーイッシュなど武装勢力の支配地域は急速に縮小していく。アメリカ主導軍と違い、ロシア軍は本当にダーイッシュやアル・カイダ系武装勢力を攻撃したのだ。
シリアでの戦闘でロシア軍は戦闘能力や兵器の優秀さを世界に示し、歴史の流れを変えた。アメリカを憎悪しながら沈黙していた国々がロシアの周辺に集まり始めた。そしてウクライナでもロシア軍は戦闘能力や兵器の優秀さを示し、アメリカ/NATO軍は惨めな姿を晒すことになったのである。
そうした中、ニューヨーク・タイムズ紙は、CIAがウクライナ領内、ロシアとの国境に近い地域に12の秘密基地を作っていたと伝えているのだが、特に驚くような話は含まれていなかったが、明らかな偽情報も含まれていたことが指摘されている。CIAの優秀さとロシアの邪悪さを宣伝することが目的だと見られている。米英を中心とした支配システムを維持するため、アメリカ/NATO軍は凄いと人びとに思わせなければならない。
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最終更新日 2024.03.02 01:33:21
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自国の兵士をウクライナへ派遣したくない独政府は長距離ミサイルの供給を拒否 | 《櫻井ジャーナル》 – 楽天ブログ
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202403010000/
『ドイツのオラフ・シュルツ首相はウクライナへ長距離ミサイル「タウルスKEPD 350」を提供しないとしている。このミサイルはドイツ/スウェーデンのタリウス・システムズが製造している空中発射型の巡航ミサイルで、射程距離は500キロメートル、最大速度はマッハ0.95。そのシステムを動かすためにはドイツ兵を派遣しなければならず、そうしたことをドイツ政府は行えないとしている。しかもウクライナでアメリカ/NATOは負け戦だ。
要員を派遣する必要性を示すため、シュルツはイギリスやフランスのケースを口にした。英仏両国はミサイルを供給するにあたり、目標管制や目標管制の支援を行う要員を送り込んでいると説明しているのだ。つまりイギリスやフランスは目標管制や目標管制支援のために自国の兵士をウクライナへ送り込んでいるということになる。こうしたことは常識だが、イギリス下院の国防委員会で委員長を務めていたビアス・エルウッドはシュルツの発言を批判した。
本ブログでも書いてきたことだが、アメリカ/NATOは兵士や情報機関員をウクライナへ送り込んでいる。兵器の操作だけでなく、軍事情報を提供し、最前線で戦闘に参加している兵士もいるようだ。フランスのル・フィガロ紙のジョージ・マルブルノは、ウクライナでアメリカ陸軍の特殊部隊デルタ・フォース(第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊)やイギリス陸軍のSAS(特殊空挺部隊)も戦闘に参加しいるとしていた。ポーランドやバルト諸国からも戦闘員が入っていると言われている。
今年1月16日にロシア軍が軍事施設とともに破壊した旧ハリコフ・パレス・ホテルは情報機関や軍関係者が利用していたと言われている。攻撃を受けた当時、この建物には200人近くの外国人傭兵が滞在、相当数の死傷者が出たという。その際にフランス人傭兵約60名が死亡、20人以上が医療施設に搬送されたと伝えられている。その日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は40発のスカルプ巡航ミサイルと「数百発の爆弾」をキエフに送ると約束している。
もしドイツがタウルスをウクライナへ供給した場合、オペレーターを派遣することになるだろうが、やはりフランスの場合と同じようにロシア軍から攻撃される可能性が高い。
アメリカの世界制覇戦争はソ連が1991年12月に消滅した直後から始まり、ウクライナでは2004年から05年にかけて実行されたのが「オレンジ革命」で新自由主義政権を成立させた。その「革命」を指揮していたのはアメリカ政府で、現地の拠点はアメリカ大使館だが、政権転覆工作を指揮するのはCIAの破壊工作部門である。
新自由主義は富を外国の巨大資本やその手先に集中させ、国民を貧困化させるが、そうした事実を知ったウクライナの有権者はビクトル・ヤヌコビッチを選ぶ。そこでアメリカのバラク・オバマ政権は2014年2月にクーデターを成功させたのだが、それを指揮していたのはネオコンであり、CIAが暗躍していた。
そのクーデターではネオ・ナチが実働部隊として利用されたが、そのメンバーは2004年からバルト3国にあるNATOの訓練施設で軍事訓練を受けていたと伝えられている。またポーランドの外務省は2013年9月にクーデター派の86人を大学の交換学生を装って招待、ワルシャワ郊外にある警察の訓練センターで4週間にわたり、暴動の訓練を受けたとも報道されていた。
そうした訓練だけでなく、オバマ政権はCIAやFBIの専門家数十名を顧問として送り込み、傭兵会社「アカデミ(旧社名はブラックウォーター)」の戦闘員約400名もウクライナ東部の作戦に参加させていた。2015年からはCIAがウクライナ軍の特殊部隊をアメリカの南部で訓練している。』
ロシア・ウクライナ戦争:紛争から2年後の戦略的評価 (AUSA)
https://milterm.com/archives/3538
※ 今日は、こんな所で…。








『ロシアがウクライナに侵略してから2年が経過した。
報道では戦争の行く末について様々な評価が見られるところである。ロシアは勝ったとの評価や、ウクライナはアヴディフカ(Avdiivka)からの撤退を機に今後を悲観的に評価するなどのものが一般的であろうと感じている。
これまでもMILTERMで紹介してきたAmos C. Fox氏が、米陸軍協会(AUSA)のウェブサイトに戦略的評価の論稿を投稿しているので紹介する。
この論稿では、分析の手法として「最終目的(ends)-方法(ways)-手段(means)-リスク(risk)」を用いている。報道ベースの包括的な印象の評価に比べ、より客観的な評価と受け止めても良いのではないかと考えるところである。(軍治)』
『2024年2月29日 / 最終更新日時 : 2024年2月29日 軍治
ロシア・ウクライナ戦争:紛争から2年後の戦略的評価
THE RUSSO-UKRAINIAN WAR: A STRATEGIC ASSESSMENT TWO YEARS INTO THE CONFLICT
February 20, 2024
by LTC Amos C. Fox, USA
Land Warfare Paper 158, February 2024
エイモス・フォックス(Amos Fox)はレディング大学の博士課程在籍中で、フリーライター、紛争学者として米陸軍協会(Association of the United States Army)に寄稿している。戦争と戦いの理論(theory of war and warfare)、代理戦争(proxy war)、将来の武力紛争(future armed conflict)、市街戦(urban warfare)、機甲戦(armored warfare)、ロシア・ウクライナ戦争などを研究・執筆。エイモス(Amos)はRUSIジャーナルやSmall Wars and Insurgenciesなど多くの出版物に寄稿しているほか、RUSIのWestern Way of War、This Means War、Dead Prussian Podcast、Voices of Warなど数多くのポッドキャストにゲスト出演している。
要約:IN BRIEF
ロシア・ウクライナ戦争における戦略的バランスを検討すると、ロシアが優勢であるという結論に達する。
2024年、ウクライナはロシアによる領土併合と、奪われた領土への兵力増強を覆す見込みは限られている。
米国の資金・物資支援が減少するにつれ、ロシアの攻勢行動からウクライナを防御する能力が低下する。
ウクライナは、占領しているロシアの陸上部隊を退去させるために、陸上部隊を大幅に増強する必要がある。
はじめに:INTRODUCTION
ロシア・ウクライナ戦争は3年目を迎えようとしている。この紛争に至るまで、国防・安全保障研究界では、この戦争は膠着状態にあるとする論調があふれてきた。
おそらく最も説得力があるのは、ウクライナ軍の元司令官であるヴァレリー・ザルジニ(Valery Zaluzhny)将軍で、2023年11月の『エコノミスト』誌とのインタビューでそのように述べている[1]。一方、著名なアナリストのジャック・ワトリング(Jack Watling)をはじめ、反対のことを力説する者もいる[2]。
とはいえ、2年が経過した今、紛争の戦略的バランスを客観的に検証することは有益である。
ウクライナが勝っているのか、それともロシアが勝っているのか。ウクライナがロシアに勝つためには何が必要なのか、逆にロシアがウクライナで勝つためには何が必要なのか。
さらに、紛争の勝敗を見極めるだけでなく、ロシア・ウクライナ戦争という文脈だけでなく、国防・安全保障研究界全体に通じる顕著な傾向を明らかにすることも重要である。
本稿では、「最終目的(ends)-方法(ways)-手段(means)-リスク(risk)」というヒューリスティックを用いて、こうした疑問を解決する。
そうすることで、ロシアとウクライナの現在の戦略的配置を検証することになる。
そして、2022年2月にどうであったかではなく、どうあってほしいかでもない。嗜好や願望というレンズを通して紛争を見ると、どのようなアナリストも戦略的状況を見誤ることになる。
しかし、この記事の到達目標は、紛争の現実を冷静に見つめ、状況を評価し、2024年に紛争がどのような方向に進む可能性があるかを提示することである。
全体的な結論としては、ロシアがこの紛争に勝利している。
ロシアが勝利しているのは、ドンバス自治州、クリミアへの陸橋、そしてクリミア自体の領有という、ロシアが最低限受け入れられる結果を手にしているからである。
しかし、この勝利条件は、ウクライナがa)それぞれの領土でロシア軍を撃破し、b)その領土の支配権を奪還し、c)その後のロシアの反攻に対してその領土を保持するのに十分な戦力を生み出せないことに依存している。
ウクライナがロシア軍を撃破し、その地形をすべて占領・保持するために必要な陸上部隊の不足は、いくら精密打撃や長距離火力、ドローン攻撃で補うことはできない。
したがって、ウクライナ軍に資源を投入し、陸上部隊を大幅に増強しなければ、紛争ではロシアが勝利する可能性が高い。
本稿執筆時点のように、米国のウクライナ支援が凍結されたままであれば、2024年のロシアの勝利は現実的な可能性となる。
下地を築く:状況的意味合い:LAYING THE GROUNDWORK: SITUATIONAL IMPLICATIONS
さらに、国防・安全保障研究界にとっても、いくつかの重要な含意が浮かび上がってくる。
第一に、領土を支配するために行われる陸上戦争は、非正規戦争や対反乱、内戦とは本質的に異なる軍事的終末状態を持っている。したがって、軍隊は参戦する紛争に適した軍隊を持たなければならない。
例えば、対反乱軍や治安維持軍は、消耗の戦争(wars of attrition)を闘い勝つために作られた工業化された軍隊(industrialized army)に領土をめぐる戦争で勝つことはできない。
これは、政策立案者、軍の上級指導者、戦力設計者が、将来の軍隊を構築しようとする際に、高く評価し、注意深く考慮しなければならないことである。
第二に、領土を支配するために行われる陸上戦争には、その最終目的に適切に沿った軍事戦略が必要である。
したがって、軍隊は、その紛争、あるいは軍隊が交戦する紛争の局面に適した戦略を持たなければならない。
例えば、精密打撃の中心性に基づいて構築された戦略は、精密打撃の成功を利用するのに十分な陸上部隊を欠いており、領土をめぐる戦争、特に消耗の戦争(wars of attrition)を闘い、勝利するために構築された工業化された軍隊(industrialized army)に対しては勝利できない。
政策立案者と軍の上級指導者は、政治的最終目的と軍事戦略をその手段に応じて定期的に更新し、再構築する必要がある。
そうでなければ、非現実的な到達目標を追求するために限られた資源を浪費する無駄な戦略をとってしまうリスクがある。
第三に、反対の声明にもかかわらず、領土の物理的所有が両国の政治的・軍事的勝利の重要な構成要素である場合、物理的量は、この場合、より多くの人的資源は、精密打撃や長距離火力よりも重要である。
物理的量は、軍隊が領土を保持し防御することを可能にする。
軍隊の物理的量が多ければ多いほど、どのようなタイプの攻撃にも強くなり、使用した弾薬の量、攻撃を行った回数、失った人命のどれをとっても、敗北させるのがより難しく、コストがかかる。
第四に、ウクライナ軍との接触線に沿ったロシアの防御のように、準備され、階層化され、防護された防御は、克服するのが困難である。
攻撃側に、(1)占領軍を撃破する、(2)解放された領土に移動する、(3)その領土を支配する、という3つの任務を遂行できる十分な弾力性と資源を備えた陸上部隊がない場合、この難題は飛躍的に増大する。
パンチを与えるようにデザインされた軍隊は、攻撃に成功した後、明け渡された、あるいは解放された領土に前進を続け、その後反攻を食い止めることができないような戦力構造の縦深性を欠いており、防御的任務以外にはほとんど役に立たない。
この発見は、将来の部隊は小型軽量で分散して闘うべきだという、将来の戦力構造に関する従来の知恵(wisdom)とは相反するものである。
第五に、カール・フォン・クラウゼヴィッツ(Carl von Clausewitz)は次のように警告している。
「私が相手を打倒しない限り、相手が私を打倒するかもしれないと恐れるに違いない[3]。このように、私が支配しているわけではない。私が彼に指図するのと同じように、彼も私に指図するのである」。
ロシア・ウクライナ戦争は、クラウゼヴィッツ(Clausewitz)の警告を再確認させた。
どちらの軍も相手を完膚なきまでに打ち負かすことができないため、ロシアとウクライナは長い消耗の戦争(war of attrition)に陥っており、これがザルジニ(Zaluzhny)が言及し、ワトリング(Watling)が否定する膠着状態に拍車をかけている。
したがって、行間にある文章は、つまり、戦争に直面したとき、国家は、敵対者の軍隊を打ち負かすと同時に、広大な物理的地形を占領し保持することを含む、最終状態の補足条件を達成することができる軍事力を解き放たなければならないということである。
敵対者の軍隊を撃破しなければ(その構成にかかわらず)、戦術的な軍事的利益はつかの間のものである可能性と常に戦わなければならない。
さらに、まず敵対者の軍隊を打ち負かせば、長い消耗の戦争(war of attrition)を短い消耗の戦争(war of attrition)に変えることができる。
ロシアの戦略的評価:RUSSIAN STRATEGIC ASSESSMENT
最終目的:ENDS
ロシアの戦略的最終目的は次のように要約できる。
ウクライナ国家を政治的、領土的、文化的に分裂させる。
容認できる政治的・軍事的成果の範囲を支えるために、十分な領土獲得を維持すること
戦略的な物資のオーバーマッチを維持する
ウクライナが闘いを継続する能力を、物質的にも、国際社会からの支援に関しても疲弊させる
紛争の異常を常態化する
併合した領土を取り戻すための攻勢作戦を遂行するウクライナの能力を弱体化させ、侵食する。
これらすべての最終目的を総合的に見れば、ウクライナ国家の非国家化がこの紛争におけるロシアの戦略的最終目的であることは明らかである。
ラファエル・レムキン(Raphael Lemkin)は、非国家化とは、国家が意図的かつ組織的に、他国の国民性や国民的パターン(文化、自己同一性、言語、慣習など)を侵食または破壊するプロセスであると定義している[4]。
2022年2月以降、ロシアの政策と軍事目標は少しずつ変化しているが、ウクライナの非国家化がクレムリンの戦略的最終目的の中心にあることに変わりはない。
2022年のクレムリンの目標には、ヴォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy)大統領を失脚させ、ウクライナの自治を終わらせ、ロシアの党派的政治指導者に置き換え、ウクライナの領土の大部分を併合することが含まれていた。
そのために、ロシアのプーチン大統領は当時、ウクライナを「非ナチ化」「非武装化」し、同時にキーウに国際社会の政治的・軍事的同盟のネットワークの中で政治的・軍事的に中立を保つよう強制すると語った[5]。
プーチンは2023年12月にモスクワで行った記者会見で、これらの政策目標を再確認した[6]。
とはいえ、ロシアの軍事行動は、2022年4月にモスクワが首都キーウへの最初の攻撃に失敗して以来、キーウに向かって前進しておらず、ゼレンスキー(Zelenskyy)やウクライナ政府を政権から排除するための新たな取組みを示していない。
しかし、2024年にこのような事態が発生する可能性は十分にある。特に、米国のウクライナ支援が当面凍結されたままであればなおさらである。
しかし、クレムリンは、モスクワがキーウの国際社会からの財政的・軍事的支援とウクライナの領土奪還のための攻勢的軍事活動を継続する物質的手段の両方を凌駕するように、紛争を時間とコストの面で長引かせようとしているように見える。
そうすることで、クレムリンはウクライナを戦略的に疲弊させ、その後にキーウに和平交渉を仲介させるつもりなのだろう。
最近指摘したように、ロシアのウクライナに対する領土的野心は、おそらく受け入れ可能な結果のスペクトルに沿って動いている[7]。
おそらく、前述のように、ロシアが最低限許容できる結果、つまりクレムリンが戦争を終結させても満足できる最低限の領土保有には、クリミアとクリミアへの陸橋であるドンバスの保持が含まれる(図1参照)。
わかりやすくするため、クリミアへの陸橋にはザポリージャ州とヘルソン州が含まれている。
この2つの州は、ドンバスとクリミアの間の統一された地上のつながりを提供している。
陸橋が重要なのは、ロシア領内からドンバス占領地とクリミア占領地を結ぶ地上連結をロシアに提供することで、クリミアの統治、防御、保持を簡素化できるからである。
図1:ロシアの潜在的な成果
2024年はウクライナにとって極めて重要な年になるだろう。
もし米国がウクライナに友好的な大統領を選出すれば、キーウは2025年も米国からの財政的・軍事的支援を期待できるだろう。
一方、ウクライナに友好的な大統領が選出されなかった場合、キーウはロシアの非国家化の取組みから自国を防御するための財政的・軍事的支援が減少することが予想される。
同時に、ウクライナの戦場に中国、北朝鮮、イランの兵器や弾薬が出現していることは、ロシアがこの紛争の消耗的な性質に対応し続けるという独自の課題に直面していることを示している[8] 。
外部からの支援がウクライナでの戦争マシンの維持にどの程度役立っているかは、オープン・ソースの情報では判別が難しいが、外部からの支援によってロシア軍が防御産業の生産と流通の不足の一部を克服できていることは分かっている。
そして、中国、北朝鮮、イランの支援によって、クレムリンはウクライナの軍隊とキーウのロシアへの抵抗力を維持する能力を疲弊させることを到達目標に、時間的、空間的、資源的に紛争を長引かせ続けることができる。
リスク:RISK
ロシアはすでに、ウクライナ侵攻に伴うリスクの多くを乗り越えてきた。
経済制裁は初期に大きな打撃を与えたが、ロシアの産業と経済はそうした初期の苦難を吸収し、中国、北朝鮮、イランの支援を含め、多くの課題を相殺する方法を見出した[9]。
さらに、西側諸国がウクライナへの兵器支援を徐々に拡大したことで、ロシアはこれらの兵器についても同様に段階的に学習することができ、ほとんどの場合、紛争の初期に、前線全体に効果を生み出すのに十分な密度で導入された場合に生み出された可能性のある「ゲームを変える(game-changing)」効果を無効にすることができた[10]。
それどころか、西側諸国からの支援がゆっくりと滴り落ちることで、ロシア軍はそれらの兵器システムを観察し、学び、適応し、西側の技術や火力に対抗する効果的な方法を開発することができた[11]。
ロシア軍の学習プロセスによって、紛争初期の恥ずべきパフォーマンスから回復することができ、ウクライナへの第三者的支援という米国をはじめとする西側諸国の戦略に疑問を投げかけることができた[12]。
ロシア・ウクライナ戦争が現在のロシアにもたらす主なリスクは以下の通りである:
(1)米国やNATOがウクライナのために陸上部隊が介入する可能性があること、
(2)国内不安の結果として政変が起こる可能性があること、である。
米国とNATOが陸上部隊で介入するリスクは低く、戦術核や戦略核でロシアがエスカレートする恐れがあるため、今後もその状態が続く可能性が高い[13]。
ロシアがウクライナを核打撃する可能性も低いが、ロシアの政治指導者たちは、好ましくない行為に反対し、抑止するために、定期的に核の脅威を振りかざしている[14]。
ロシアの安全保障理事会のドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)副議長は最近、ウクライナが西側諸国が供給する長距離ミサイルでロシア国内のミサイル発射基地を攻撃した場合、ウクライナに核で対抗すると脅した[15]。
これは、ロシアが2023年夏に核兵器の一部をベラルーシに再配置したことに続くものである[16]。
とはいえ、米軍やNATOの陸上部隊が投入されたり、クリミア半島が失われたりする可能性がない限り、ロシアが実際に核兵器を使用する可能性は依然として低い。
第二のリスク、つまり国内不安が政治的不安定を引き起こすというリスクに対して、プーチンとその支持者たちは、この問題を相殺するために、昔ながらのロシアの方法を使い続けている。
逮捕、暗殺、失踪、弾圧は、この難題に対抗し、ウクライナに対する彼の政策に対する国内の反対を抑止するために採用されている主要な方法である[17]。
2023年8月のワグネル・グループ代表エフゲニー・プリゴジン(Yevgeny Prigozhin)の暗殺は、おそらくこの手法の最も有名な例だろう[18]。
さらに、アレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)の定期的な失踪と投獄も、プーチン政権が政治的反対勢力を黙らせようとしているもう一つの例である[19]。
長年のクレムリンの子分であったイーゴリ・ギルキン(Igor Girkin)は、2023年中にプーチンとクレムリンのウクライナ戦争への対応に極めて批判的であったが、2024年1月に4年の禁固刑を言い渡された[20]。
さらに、ロシア国内では、プーチンが自身の戦争によって引き起こされた強い経済的・国内的動揺を受けて、反対派を黙らせ、異論を罰しようとするため、ジャーナリストへの弾圧が急増している[21]。
加えて、元米陸軍ヨーロッパ司令官のベン・ホッジス(Ben Hodges)米陸軍中将(退役)は、ロシアはウクライナでの戦争に周辺部や農村部から市民を動員していると述べている[22]。
これらの人々の多くは少数民族であるため、プーチン(そして多くのロシア人)の社会階層における重要性は低い[23]。
ホッジス(Hodges)によれば、モスクワやサンクトペテルブルクなど、ロシアの主要な人口集中地区以外の地域から大々的に撤退させることで、プーチンは戦闘による損失の重荷を遠く離れた地域に押し付け、社会的地位の低い人々に負担させることで、潜在的な国内不安を相殺することができる[24]。
そうすることで、プーチンは紛争を継続し、ウクライナと西側の決意を破綻させようとする時間を稼ぐことができる。
手段:MEANS
手段とは、軍事力が実現可能な方法を生み出すために必要な軍事装備やその他の資材のことである。
さらに、手段は軍事力の最終目的と手段を結びつける戦略的接着剤として機能する。
最終目的の節で述べたように、ロシアの産業界は、ロシア軍部隊の軍備や軍需品に対する需要に挑戦しているように見える。
ウクライナとの戦場におけるロシア軍部隊の方法、つまり作戦アプローチは、資源を大量に消費する。初期のロシア軍の戦闘損失は、ウクライナ軍の頑強な闘いぶりとロシア軍の無策な戦術が相まって、ロシアに大規模な兵站上の難題をもたらした。
さらに、ロシアは、火力で先導し、火力が許す限り漸進的に前進するという、長年のロシアの軍事慣行に従って闘い続けている。しかし、漸進的な進歩は、男性と物資に多大な犠牲を強いることにもなっている。
例えば、ジャック・ワトリング(Jack Watling)とニック・レイノルズ(Nick Reynolds)は、マリウポルとバフムートの会戦におけるロシアの闘いについて、ロシアの軍事的利益を促進するために人海攻撃(human-wave attacks)を用いる「挽肉器戦術(meatgrinder tactics)」に依存していると言及している[25]。
2024年2月20日現在、ロシアは404,950人の兵員、6,503台の戦車、338機の航空機、25隻の艦船など、多くの戦闘犠牲者を出している[26]。
ウクライナの最高インテリジェンス責任者であるキリロ・ブダノフ(Kyrylo Budanov)が指摘するように、ロシアが代理部隊を利用するのは、陸上兵力の必要量を相殺し、自国の軍隊への負担を軽減しようとする主な方法である[27]。
契約上の代理人であるワグネル・グループとドネツク人民軍とルハンスク人民軍(それぞれDPAとLPA)は、どちらも文化的な代理人であり、2022年2月の新たな敵対行為から2023年夏までの間に使用された主要な代理人であった。
2023年6月のワグネル・グループのクーデター未遂は、クレムリンのワグネル・グループへの依存を当然冷え込ませた。
同時に、ロシアの軍事作戦は攻勢的でなく、防御的なものとなり、ウクライナの領土をさらに没収するのではなく、すでに併合した土地を維持しようとしている。
その結果、モスクワの陸上部隊や使い捨ての歩兵に対する要求はやや低下している。
それにもかかわらず、ドンバスを横断する接触線とクリミアへの陸橋に沿って防御戦を闘うことで、ロシアはドローンと攻撃能力の必要性を高めている。
前述したように、ロシアは中国、北朝鮮、イランと良好な外交関係を維持している。このためロシア軍部隊は、ウクライナの戦場で使用する重要な兵器をこれらの国から入手することができる。
このように、経済制裁がロシアの戦争遂行能力を麻痺させる可能性があるにもかかわらず、クレムリンはウクライナとの紛争を継続するために必要な手段を確保するために、経済力と軍事力の基盤を多様化してきた。
さらに、これによってロシアは、ウクライナが米国やその他の西側諸国から供与された軍事援助の導入によって得た多くの優位性を克服し、戦場に戦域レベルの静止状態を取り戻すことができた。
別の言い方をすれば、ロシアは手段を多様化することで、国際社会の軍事支援を長引かせ、ウクライナの戦闘継続する能力を疲弊させることを到達目標に、モスクワに有利な膠着状態を生み出し、紛争を継続させている。
ロシアの多様な戦力基盤を考慮すると、2024年まで戦場での停滞(膠着状態)が続く可能性が高い。
実際、これがロシアにとって望ましい行動なのだろう。
ロシアは、キーウやウクライナの主権争いに友好的でない大統領、つまりウクライナの戦争に対する米国の支援を完全に排除するような大統領を米国が選出することを期待して、次期米大統領選を通じて紛争を長引かせようとしているのだろう。
方法:WAYS
方法とは、行為主体が最終目的を達成するために、その手段を尊重しながら模索する具体的な方法のことである。
方法とは、多くの支援する作戦線(lines of operation)または取組み目標(lines of effort)から構成されている。さらに、戦略のウェイの中には、多くの補完的な戦役(campaigns)や作戦が同時に存在することもある。
さらに、分類学的な立場から言えば、戦略の方法の中で支配的なアプローチや作戦線(lines of operation)または取組み目標(lines of effort)は、しばしば戦闘員の一般的な戦略の略語となる。その意味で、ロシアの戦略は疲弊戦略(strategy of exhaustion)とみなすことができる。
ロシアの疲弊戦略は、5つの取組み目標(lines of effort)に分けることができる。
1、将来の交渉を支援するために、領土の獲得を段階的に増加させる。
2、領土の獲得を強化し、ウクライナがその土地を奪還しようとする取組みを阻止する
3、ウクライナの攻勢能力を破壊し、併合した領土を奪還しようとする将来の試みを阻止する
4、米国と西側の軍事支援を凌駕するために紛争を一時的に長引かせる
5、紛争を時間的・空間的に長引かせ、ウクライナの人的資源の予備を超えるようにする。
紛争初期、ロシアの戦略はウクライナ領土の征服に重点を置いていた。
その規模については議論が分かれるところだが、ロシアの軍事作戦は、キーウ、ドニエプル川の両岸に並行する州、ドニエプル川以東のすべての州をウクライナとロシアの国際境界線まで占領するつもりであることを示していた。
この作戦は失敗に終わったが、ロシアはドンバス自治州の支配を拡大し、クリミアを維持し、2014年から2015年にかけての戦役の到達目標であったクリミアへの陸橋を手に入れることができた[28]。
上記の「手段」の項で述べたように、ロシアは2023年まで限定的な領土獲得を試みた[29]。
これ以上ウクライナの領土を獲得するのは、交渉のためだけの可能性が高い。
そのため、ロシアとウクライナが紛争終結を交渉しなければならない局面に至った場合、ロシアは交渉の切り札としてウクライナの領土の一部を「返還(give back)」することで、真に望むもの、すなわちクリミアとクリミアへの陸橋であるドンバスの保持を維持することができる。
この傾向は2024年まで続くだろう。ロシアは、両国間の交渉が実を結んだ場合、おそらく交渉上の立場を改善する目的で、接触線に沿って領土を拡大しようとすることが予想される。
さらにロシアは、ウクライナの手持ち物資と予備兵力の両方を枯渇させることで、ウクライナの戦争の取組みを頂点に至らせようとしている。
プーチンは、ロシアは現在61万7000人の兵士が紛争に参加していると述べている。ウクライナ国内の戦闘部隊の数は不明だ[30]。
とはいえ、マリウポル、バフムート、アヴディフカなどの重要な会戦は、ロシアにとっては厳しいが、ウクライナにとっては深刻な懸念である。
ウクライナに対するロシアの人口優位は、端的に言えば、クレムリンがキーウよりもはるかに深い井戸から軍隊を生み出せることを意味する。
そのため、ロシアはウクライナに対する人口の優位性を生かし、血みどろの消耗の会戦(battles of attrition)でウクライナの戦力を疲弊させ続けている。ウクライナ軍を絶頂に至らせようとするクレムリンの試みは、成功の兆しを見せている。
たとえば2023年12月、ゼレンスキー(Zelenskyy)は軍司令官たちが50万人の追加兵力を求めていると述べた[31]。
ゼレンスキー(Zelenskyy)は、この数字がウクライナの市民社会に与える影響について「非常に深刻だ」と述べた[32]。
ブダノフはさらに最近、ゼレンスキー(Zelenskyy)に同調し、さらなる兵力の動員なしにはウクライナの立場は不安定になると述べた[33]。
したがって、ロシアの疲弊戦略(strategy of exhaustion)はうまくいっているように見える。
ロシアの量は、先に述べたロシアの最低限受け入れ可能な結果、すなわちクリミアとクリミアへの陸橋であるドンバスの保持という線に沿って紛争を凍結させた。
この現実は、クリス・カヴォリ(Chris Cavoli)米陸軍欧州軍司令官兼欧州連合軍最高司令官大将が力強く述べていることに反している。
「精密さは量に勝る。この秋、ウクライナ軍はそれを示した。しかし、それが機能するには時間が必要であり、その時間は通常、空間で買うことになる。だから、この方法を使うには、時間と引き換えに空間が必要なんだ。我々全員にそれがあるわけではない。我々の思考と計画策定において、それを補う必要がある」[34]。
米国や西側諸国が提供した精密打撃は、紛争初期のウクライナを助けたかもしれないが、ロシアの領土保持の意図と相まって、ロシアの質量はカヴォリ(Cavoli)の仮説を否定している。
さらに、カヴォリ(Cavoli)が言う「時間のために領土を犠牲にする」というのは、実際にはウクライナの政治的・軍事的目標よりもむしろロシアの有利な方向に作用している。
ウクライナ軍が不本意ながらロシアの陸上部隊に割譲した土地は、精密打撃では奪還できそうにない。
ウクライナがロシアの陸上部隊を撃退し、奪還した領土を支配し、その後のロシアの反攻から領土を守るためには、統合火力と精密打撃の支援を受けた相当規模の陸上部隊が必要となる。
ロシアの戦略的評価:まとめ:RUSSIAN STRATEGIC ASSESSMENT: SUMMARY
戦争における勝利が、敵対者の政治的・軍事的目標を犠牲にして、一方の国家がその政治的・軍事的目標を達成することで定義されるとすれば、2年間の紛争を通じてロシアが優位に立っているように見える(表1参照)。
ロシアの疲弊戦略(strategy of exhaustion)と領土併合戦略は、ロシア経済とロシア国民に多大な犠牲を強いながらも、機能しているように見える。
ロシアは、疲弊戦略を実行するために必要な戦争備蓄を維持するために、拠点を多様化させなければならなかったし、領土を獲得するために必要な齧って保持する戦術(bite-and-hold tactics)を実行するために、ロシア国民に大きな犠牲を強いなければならなかった。
ロシアは現在、ほぼ防勢に回っており、接触する時間帯に沿ってその位置を保っていることを考えれば、ロシア国民への被害は来年には減少するだろう。さらに、ロシアが防御陣地を固めていることを考えれば、2024年まで戦場での優位は保たれるだろう。
最終目的(Ends)
リスク(Risk) 手段(Means)
方法(Ways)
l ウクライナ国家を崩壊させる
l 受け入れ可能な政治的・軍事的結果の範囲を支えるのに十分な領土獲得を維持する
l 戦略的な物質的優位( overmatch)を維持する
l ウクライナの抵抗継続能力を疲弊させる
l 紛争の異常を常態化する
l ウクライナの併合領土奪還作戦遂行能力を削ぎ、侵食する。
l 米国および/またはNATOが陸上部隊で介入
l 国内不安による政変
l 国際パートナーの多様な基盤
l 代理人部隊
l 大規模陸上部隊
l ウクライナに消耗の戦争を闘ように強いる
l ウクライナの陸上部隊を壊滅させる(すなわち、疲弊戦略)
l 接触線沿いで膠着状態を強いる
表1:ロシアの戦略
ウクライナの戦略的評価: UKRAINIAN STRATEGIC ASSESSMENT
最終目的:ENDS
ウクライナの焦点は、ロシアの占領から領土を解放し、ドンバスとクリミアの主権回復を含むロシアとの1991年の国境を回復することにある[35]。それ以上に、ウクライナは西側諸国との結びつきを強めるために働き続けている。
安全保障支援パートナーシップから欧州連合(EU)加盟への取り組みまで、ゼレンスキー(Zelenskyy)と彼の政府は、国際社会からの政治的、軍事的、経済的支援を維持し、獲得するために外交チャンネルを押し広げ続けている[36]。
EUに加盟し、国際社会からの支持を維持し続けるというキーウの取組みは、ウクライナの領土からロシア軍(ロシアの代理勢力も含む)を排除するという目標よりも、はるかに現実的であることは間違いない。
古典的なボード・ゲーム「リスク」は、ウクライナが何をしなければならないかを見事に例えている。
「リスク」では、プレイヤーは地図上の領土の一部を要求したり奪還したりするために、領土を占領している軍隊を攻撃して打ち負かさなければならない。
攻撃側が守備側を破った場合(そしてその場合)、攻撃側は1つだけでなく2つのことをしなければならない。
攻撃側は軍隊を征服した領土に移動させなければならないだけでなく、攻撃を開始した領土に少なくとも1つの軍隊を残さなければならない。事実上、攻撃を成功させれば戦闘力は拡散し、これは攻撃中に被った損失の上乗せとなる。
それでもなお、攻撃側は新たに獲得した領土と攻撃元の領土との間で、適切な軍隊のバランスを見極めなければならない。どちらかの領土のバランスが崩れれば、敗れた占領者による反攻の格好のターゲットとなる。
ウクライナはまさにそのような立場に置かれている。しかし、領土のごく一部を奪還するために攻撃するだけでなく、ウクライナは領土の20%近くを取り戻す努力をしなければならない[37]。この問題をさらに深刻にしているのが、ロシアの占領軍の規模である。
前述したように、プーチンはロシアが紛争に投入した兵士の数は67万人で、これはモスクワが最初に投入した19万人の侵攻部隊から200%以上増加したことになる[38]。
プーチンの数字を検証するのは難しい。また、この数字が戦闘部隊と支援部隊、ウクライナで活動する部隊と紛争にコミットしているがロシアで活動する支援部隊をどのように分けているのかを確認するのも難しい。
それにもかかわらず、議論のために、670,000人のロシア軍全員がウクライナにいると仮定しよう。
攻撃を成功させるには、1つの防御測定単位ごとに3つの測定単位が必要(3:1)であるという従来の攻撃者から防御者へのヒューリスティックを使用し、個々の部隊を測定単位として使用すると、ウクライナの攻撃を成功させるには、上記の順序を実行するために200万人以上の兵士が必要になることがわかる。
ウクライナからロシアの陸上部隊を撤退させ、反攻の可能性が高いウクライナを維持するために必要な兵力は本当に200万人なのだろうか?古今東西のアナリストの中には、3:1という比率には欠陥がある、あるいは適切でない、あるいはその両方があると指摘する者もいる[39]。あるいは、カボリが示唆したように、現代の技術が陸上部隊の必要性を奪っているのだろうか?
長距離精密打撃、あらゆる種類のドローン、優れた標的情報は、補完的な兵器とインテリジェンスが常に行ってきたこと、つまり、競争する陸上部隊の前進や防御態勢を支えてきたが、それに取って代わってはいない。
さらに、技術は、それが支援する作戦だけでなく、それが克服しようとする敵対的な作戦の両方の文脈で見なければならない。
もし、ロシアの戦略が現時点では領土を維持することに主眼を置いており、そのためロシア軍は防御作戦を実施することに集中しており、ウクライナの陸上部隊には、攻撃(attack)-撃破(敗北)(defeat)-占領(occupy)-防御(defend)の一連の諸兵科連合作戦を実施するための数がないというのが正しいのであれば、精密打撃、ドローン、ターゲッティング情報は、無益な戦略的立場のための粉飾かもしれない。
この観点から見ると、キーウの戦略はバランスを欠いている。つまり、キーウの最終目的は手段の限界を超えている。このような状況が、紛争を消耗の戦争(war of attrition)と特徴づける一因となっている。
リスク:RISK
対ロシア戦争に勝利するためのウクライナの戦略にとって最大のリスクは、米国の政治的、財政的、軍事的支援を失うことである。
他のヨーロッパのパートナーからの支援の喪失は、重要性の高い順にそれに続く。
これについては、他の出版物でも多くのことが書かれているので、本節ではその他の戦略的リスクについて検討する。
キーウにとって最大の戦略的リスクのひとつは、軍事力を疲弊させたり拡散させたりして、ロシアの陸上部隊がますます脆弱な位置から攻撃を仕掛け、ウクライナの土地をさらに没収することである。
例えば、2023年夏のウクライナの反攻は、ウクライナの戦線にいわゆるソフト・スポットを作り出し、そこから局地的な反攻が作戦上の突破口を開く可能性がある。
しかし、ゼレンスキー(Zelenskyy)と彼の政府が本当にウクライナの全領土をロシアから解放するつもりなら、この状況は戦略的軍事計画担当者が考慮しなければならないことだ。
加えて、クリミアの奪還は状況を一変させる可能性がある。プーチンはクリミアがロシアのレッド・ラインであると表明しており、核による報復は、半島を奪還しようとするウクライナの合法的な試みと重なる可能性が高いことを示している[40]。
従って、プーチンのレッド・ラインは、キーウの政策立案者や戦略家がクリミアを奪取し保持しようとする試みを実行に移す前に考慮しなければならないものである。
プーチンのレッド・ラインはブラフかもしれない?そうかもしれない。しかし、核攻撃の脅威は、プーチンが核兵器をベラルーシに移動させ、紛争初期に核攻撃兵器をウクライナの近くに配置し直したことと相まって、この脅威の信憑性を示している。
手段:MEANS
ウクライナの戦略的最終目的に関する節で詳述したように、ウクライナが政治的・軍事的目標を達成するのを妨げている最大の資源は人的資源である[41]。
ザルジニ(Zaluzhnyi)が最近のエッセイで述べているように、ウクライナの募集と維持の問題は、固定人口、人的資源を分担する連合軍の不在、2年間にわたる戦死者その他の死傷者と相まって、ウクライナをこのような立場に追い込んでいる[42]。
たとえキーウが徴兵制を開始したとしても、彼らがこの立場を克服できる可能性は高くない。上記の3:1の計算を考慮すると、キーウがウクライナからロシアの陸上部隊を排除したいのであれば、理論的には200万人以上の訓練された軍隊を生み出す必要がある。
さらに、技術愛好家の言う通り、精密打撃兵器やドローン、高度なインテリジェンスによって、3対1の比率を2対1、あるいは1.5対1にまで開放戦闘でシフトさせることができれば、その優位性は市街地での防御側に戻るだろう。これは、国際人道法を考慮するためであり、また、より多様な活動環境におけるターゲティングの課題でもある。
この文脈に当てはめると、計算はさらに難しくなる。トレバー・デュピュイは、「攻撃側に対する3:1の戦力比の要求は、それに関わる振舞いやその他の戦闘変動要因に関するある程度の知識がなければ、有益な価値を持ち得ない」と書いている[43]。
そのため、作戦環境、相手のタイプ、歴史的にどのような闘い方をしてきたかといった要素も、状況に当てはめなければならない。理論上も軍事ドクトリン上も、市街地の作戦環境では攻撃側と防御側の比率が3:1から6:1に増加することを示唆している[44]。
ウクライナの占領地域には多数の都市があり、キーウ軍が通過しなければならない前線の広さと縦深を考えると、これは大きな課題となっている。
仮に、ロシア軍はドネツク市、マリウポリ、メリトポリ、シンフェロポリ、セバストポリなどの要衝を突破し、必要な兵力が3:1から6:1に連動したネットワークを形成し、ウクライナがロシア軍を撤退させるために必要な全体的な戦闘力を増大させる可能性がある。
さらに、ウクライナがロシアの陸上部隊をウクライナから排除できた場合、反乱の問題も方程式に入ってこなければならない。物理的な領土を奪還することと、その領土に住む人々の忠誠心を確保することはまったく別のことだ。ドネツク州とルハンスク州の大部分とクリミア全域は、10年間ロシアに占領されている。
これらの地域の住民の政治的忠誠心、文化的帰属意識、国内政治は、現時点では確実とは言い難い。
したがって、ドンバスとクリミアで反乱が起きる可能性は、失われた領土を取り戻し保持するための作戦を実施するために必要な手段、この場合は人的資本を計算する際にも考慮しなければならない。
野戦砲、ミサイル、防空ミサイルなど、必要な弾薬はすでに不足しており、ウクライナの弾薬不足は2024年まで加速しそうだ。
これは、ザルジニ(Zaluzhnyi)が最近のエッセイで、ウクライナが生き残り、ロシアに勝利するために必要なものについて述べたもう一つの懸念である[45]。この記事を書いている時点では、議会はウクライナに対する国防総省の最新の資金要求を承認していない。
それが実現するかどうかはまだわからない。とはいえ、議論を続けるために、議会が2024年3月に資金を承認すると仮定してみよう。しかし、その時点までに、資金不足はウクライナへの支援の遅れを生み、すでに脆弱な弾薬の状況を悪化させ、はるかに危機的な状況を生み出す可能性がある。
現状では、ウクライナの部隊は陣地を守り、前線を維持することしかできない段階に近づいている[46]。ウクライナの部隊は、弾薬が不足しているため、ロシア軍の防御帯を整然と突き破り、ロシア軍の陸上部隊を一網打尽にするような強力な攻勢作戦を行うことはできないだろう。
また、議会がウクライナ向けの資金を承認してから、軍がその資金に関連する装備をウクライナ軍に提供できるようになるまでの時間と、ウクライナ軍がその装備を戦場で使用できるようになるまでの時間との間にタイムラグが生じる。
議会が承認してからウクライナ軍が現地で装備を使用するまでの間、ロシアの戦術的・作戦的な軍事的構成作戦のリスクが高まる一方、ウクライナの防勢作戦成功のリスクは低下する。
したがって、ウクライナの弾薬危機を悪用し、先に述べたように、後々交渉上の立場を強化するために領土を追加で獲得しようとするロシアの陸上部隊が、今後数カ月のうちにウクライナの戦線に侵入しようとすることが予想される。
方法:WAYS
ウクライナの戦略的最終目的と、ウクライナのリスクと手段の両方がその最終目的にもたらす課題を検討した結果、方法はかなり単純な議論となった。ウクライナの限られた人員と弾薬ベースでは、ウクライナが攻勢的にできることはすでに限られている。
ウクライナのロシア軍が実際に67万人に迫り、3対1(あるいは6対1)の比率が正確な計画上の考慮事項だとすれば、キーウは最低でも、クリミアとクリミアへの陸橋であるドンバス地方を奪還するための200万人規模の軍隊の人員、資材、弾薬を捻出しなければならない。
さらに、これはウクライナの成功に続く反攻や、新たに解放された地域での反乱の可能性を考慮していない。
マイケル・コフマン(Michael Kofman)とフランツ=ステファン・ガディ(Franz-Stefan Gady)は、このテーマに関する最近の対話の中で、このことに言及し、当面の間、ウクライナ軍は、接触線に沿った防御作戦と、小隊規模を超える作戦はほとんどなく、小規模で限定された目的の攻勢に限定されることを示唆した[47]。
戦争に勝つ方法とは言い難いガディ(Gady)のウクライナの立場に関する評価はコフマン(Kofman)の評価よりも楽観的だが、両アナリストともキーウの軍隊にとって2024年は非常に困難な年になることを示唆している。戦略的バランスを考えれば、ガディ(Gady)とコフマン(Kofman)の言う通り、2024年のウクライナは、ロシアの突破を防ぐのに十分な戦力で接触線を防御する以上のことをするのはかなり難しいだろう。アヴディフカはその一例だ。
ドネツク州の接触線沿いに位置するアヴディフカは、現在の紛争のホットスポットである。ロシアの陸上部隊は、領土併合を拡大し、ウクライナの戦闘継続能力を疲弊させる目的で、この都市でウクライナの人員、物資、装備を消耗させる「肉弾攻撃(meat assaults)」を続けている[48]。
数カ月にわたる闘いの末、ロシアはこの都市の占領を目前に控えているようだ[49]。現時点では正確な死傷者数を特定するのは難しいが、この都市をめぐる争いで人員と資源が枯渇するなか、双方の数千人の兵士が死亡したとの報告がある。
アヴディフカでの攻撃のようなロシアの強固な攻撃から戦線を維持することが、2024年までのウクライナの作戦の最大範囲になると思われる。
ウクライナの戦略的評価:まとめ:UKRAINIAN STRATEGIC ASSESSMENT: SUMMARY
最も基本的な所見は、ウクライナはドンバス、クリミアへの陸橋、あるいはクリミアを奪還するのに必要な規模と期間の攻撃作戦を絶頂に達しており、その能力はないということだ。さらに、ウクライナ軍がロシアをウクライナ領内から排除するには、陸上戦力の大幅な増強が必要となる。
精密打撃と空軍力は、この試みに役立つだろうが、ウクライナの歩兵と機甲部隊は、依然として地形の中に移動し、ロシアの陸上部隊の地形を一掃し、地形を保持し、ロシアの反攻に打ち勝たなければならない。
したがって、2024年までウクライナが大規模な攻勢を仕掛けることはないだろう。ウクライナは、ロシアの保有する領土をかじるために1つか2つの小規模な攻勢を試みるかもしれないが、それ以上の大規模なものはウクライナの手段を超える。
ウクライナに対する米国の支援が長期間凍結されたままであれば、ロシアとの接触線を維持するだけのウクライナの能力はさらに悪化するだろう。米国の兵器、弾薬、軍事装備は、ウクライナの自衛能力にとって不可欠である。
支援がなければ、ウクライナの補給網、砲兵部隊、陸上部隊は日ごとに脆弱さを増していく。それは、ウクライナ軍を通して弱点が拡散し、キーウが有用な軍事戦略を展開できなくなることを意味する。要するに、2024年はウクライナにとっても、政治的・軍事的目標を達成するウクライナの能力にとっても、暗澹たるものになりそうなのだ。
最終目的(Ends)
リスク(Risk) 手段(Means)
方法(Ways)
l 主権の維持とウクライナの理念
l ロシアが支配している領土の解放
l 国際的な支援の維持
l 米国と国際的な支援の喪失
l 限られた資源を使い果たす
l 犯罪は核対応のレッド・ラインかもしれない
l 限定的な攻勢しかできない陸上部隊
l 人的資源基盤の縮小
l 国際的に供給される長距離打撃、ドローン、インテリジェンス
l 陣地戦(戦闘力を維持するため)
l 限定的な目標の攻撃、長距離火力とドローン打撃でロシア軍を苦しめる
表2: ウクライナの戦略
しかし、ウクライナに対する米国の支援が比較的早期に解除されれば、ウクライナの自衛能力は若干低下するものの、すぐに回復する可能性が高い。とはいえ、ウクライナが抱える人的資源の問題から、2024年中に大規模な攻勢をかけることはできないだろう。
米国や他の西側諸国からの長距離精密打撃、空軍力、インテリジェンスの流入は、人的課題の一部を軽減するのに役立つだろうが、その懸念を完全に取り除くことはできない。したがって、敵対する塹壕網に整列した部隊の消耗的粉砕は、2024年を通して紛争を特徴づける可能性が高い。
結論:CONCLUSION
ロシア・ウクライナ戦争は現在、膠着状態にある。この膠着状態は、一方は併合した領土の保持に重点を置き、もう一方は、その目標を達成する手段を持たない敵対勢力を領土から退治することに重点を置いた、競合する戦略の結果である。それぞれの国の最終目的とのバランスを考慮すると、現在のところロシアが戦争に勝っている(表3参照)。
ロシアはウクライナの領土のかなりの部分を支配しており、残忍な陸上戦(land warfare)以外の手段でその領土から追い出すことはできないだろう。さらに言えば、ウクライナがクリミアとクリミアへの陸橋であるドンバスを解放し、保持するために必要な戦力を捻出できるかどうかは議論の余地がある。
ウクライナの占領地の解放を達成するために必要な数の軍隊、戦闘部隊、攻撃能力を生み出すには、国際的な連合が必要になる可能性が高い。この国際連合が実現する可能性は極めて低い。
「はじめに」で述べたように、領土をめぐって行われる陸上戦争は、非正規戦争や対反乱、内戦とは異なる軍事的最終目標を持つ。さらに、戦略の最終目的は、まずその手段によって支えられなければならず、次に、その最終目的を達成するための資源に制約された方法によって支えられなければならない。
したがって、精密打撃戦略やフットプリントの軽いアプローチでは、相手の軍隊を物理的に破壊し、その領土を占領することを基本として戦争を闘うために作られた工業化された軍隊(industrialized armies)を打ち負かすのに十分な戦力は得られない。圧倒的な火力を提供し、侵略者の領土に殺到することができる堅牢な陸上部隊は、20世紀の武力紛争の遺物ではなく、戦争の未来である。
これはヨーロッパ特有の紛争の特徴ではなく、ジョン・マクマナス(John McManus)が指摘するように、第二次世界大戦中の太平洋戦域での米軍の作戦において、東アジアでも証明されたことである。例えば、マクマナス(McManus)は、米軍はフィリピン侵攻時に、ノルマンディー侵攻時よりも多くの師団を起用したと指摘している[50]。
中国と台湾の紛争シナリオに関して政策立案者が直面する考慮事項を考えると、マクマナスの知見とウクライナで露呈した戦争の現実を考慮に入れることは有益である。中国が併合を意図して台湾に侵攻する場合、ロシア・ウクライナ戦争と同様の要素を考慮する価値がある。台湾に侵入し、掃討し、保持するためには、大規模で強固な陸上部隊が必要となる。
さらに、ウクライナにおけるロシアの作戦は、量が精度に勝るのであって、その逆ではないことを示している。精密さは戦場の一点での戦術的勝利をもたらすかもしれないが、有限の一点での勝利は戦略的勝利をもたらすことはないだろう。
さらに、ロシアの量の戦略(mass strategy)を「愚かだ」と否定するのは的外れだ。ロシアが戦略的勝利を収めれば、その方法がいかに怪しげなものであろうと、それほど非論理的であるはずがない。結局のところ、ロシアのウクライナでの作戦は、特に領土の併合戦争において、国家が獲得したものを真に強固なものにし、反攻に対する軍事的勝利をヘッジする方法として、量(mass)が有効であることを示している。
最終目的(Ends)
リスク(Risk) 手段(Means)
方法(Ways)
ロシア
l ウクライナ国家を崩壊させる
l 受け入れ可能な政治的・軍事的結果の範囲を支えるのに十分な領土獲得を維持する
l 戦略的な物質的優位( overmatch)を維持する
l ウクライナの抵抗継続能力を疲弊させる
l 紛争の異常を常態化する
l ウクライナの併合領土奪還作戦遂行能力を削ぎ、侵食する。
l 米国および/またはNATOが陸上部隊で介入
l 国内不安による政変
l 国際パートナーの多様な基盤
l 代理人部隊
l 大規模陸上部隊
l ウクライナに消耗の戦争を闘ように強いる
l ウクライナの陸上部隊を壊滅させる(すなわち、疲弊戦略)
l 接触線沿いで膠着状態を強いる
ウクライナ
l 主権の維持とウクライナの理念
l ロシアが支配している領土の解放
l 国際的な支援の維持
l 米国と国際的な支援の喪失
l 限られた資源を使い果たす
l 犯罪は核対応のレッド・ラインかもしれない
l 限定的な攻勢しかできない陸上部隊
l 人的資源基盤の縮小
l 国際的に供給される長距離打撃、ドローン、インテリジェンス
l 陣地戦(戦闘力を維持するため)
l 限定的な目標の攻撃、長距離火力とドローン打撃でロシア軍を苦しめる
優位性
ロシア
l ロシアは負けないことで勝たなければならない。ウクライナはロシア軍を領土から追い出すことで勝たなければならない。
ロシア
l ウクライナの資源問題は巨大な戦略的リスクを生み出す。
ロシア
l ウクライナの限られた人的資源と国際社会への依存は、ウクライナを極めて脆弱にしている。
ロシア
l ロシアはより大きな資源基盤を持っているため、ウクライナとその限られた手段に対して疲弊戦略をとることができる。
表 3: ロシア・ウクライナ戦争:戦略的バランス
最後に、ロシア・ウクライナ戦争は、戦術的勝利と勝利の間のシーソーのような推移から自国を守るために、敵軍を排除することがいかに重要であるかを示している。クラウゼヴィッツ(Clausewitz)は、破壊されていない軍隊は常に戦場に戻り、敵対者の狙いを弱める可能性があると主張している。
ウクライナがロシア軍を排除し、ウクライナの戦場から排除できないことは、キーウがウクライナで積極的に狙いを追求するクレムリンと絶えず格闘しなければならないことを意味する。
ウクライナは、ウクライナ国内のロシア軍を壊滅させ、解放された領土を占領・保持するために必要な破壊的な戦闘能力と相まって、大規模な戦力を生み出すことができない。つまり、この消耗の戦争(war of attrition)は、ウクライナがプーチン軍をウクライナから追い出すために必要な戦力を生み出すことができるか、ウクライナが戦略的に疲弊して紛争をやめざるを得なくなるか、あるいは両当事者が紛争終結を決断するまで続くことになる。
結果はどうあれ、2024年もロシアはウクライナを戦略的に疲弊させようとする可能性が高い。
一方、キーウは、ロシア軍を破壊し、領土を解放するために必要な軍隊を募集し、訓練しようとしながら、接触線に沿った位置を維持するために最善を尽くす。
ノート
[1] “The Commander-in-Chief of Ukraine’s Armed Forces on How to Win the War,” Economist, 1 November 2023.
[2] Jack Watling, “The War in Ukraine is Not a Stalemate,” Foreign Affairs, 3 January 2023.
[3] Carl von Clausewitz, On War, trans. and eds. Michael Howard and Peter Paret (Princeton, NJ: Princeton University Press, 1984), 77.
[4] Raphael Lemkin, Axis Rule in Occupied Europe: Laws of Occupation, Analysis of Government, Proposals for Redress (Concord, NH: Rumford Press, 1944), 80–82.
[5] Guy Faulconbridge and Vladimir Soldatkin, “Putin Vows to Fight on In Ukraine Until Russia Achieves its Goals,” Reuters, 14 December 2023.
[6] Harriet Morris, “An Emboldened, Confident Putin Says There Will Be No Peace in Ukraine Until Russia’s Goals are Met,” Associated Press, 14 December 2023.
[7] Amos Fox, “Myths and Principles in the Challenges of Future War,” Association of the United States Army, Landpower Essay 23-7, 4 December 2023.
[8] “China’s Position on Russia’s Invasion of Ukraine,” US-China Economic and Security Review Commission, 31 December 2023; Robbie Gramer, “Iran Doubles Down on Arms for Russia,” Foreign Policy, 3 March 2023; Kim Tong-Hyung, “North Korea Stresses Alignment with Russia Against US and Says Putin Could Visit at an Early Date,” ABC News, 20 January 2024.
[9] Tong-Hyung, “North Korea Stresses Alignment with Russia”; “China’s Position on Russia’s Invasion of Ukraine”; Darlene Superville, “The White House is Concerned Iran May Provide Ballistic Missiles to Russia for Use Against Ukraine,” Associated Press, 21 November 2023.
[10] Matthew Luxmoore and Michael Gordon, “Russia’s Army Learns from Its Mistakes in Ukraine,” Wall Street Journal, 24 September 2023.
[11] Margarita Konaev and Owen Daniels, “The Russians Are Getting Better,” Foreign Affairs, 6 September 2023.
[12] Jack Watling and Nick Reynolds, Stormbreak: Fighting Through Russian Defences in Ukraine’s 2023 Offensive (London: Royal United Services Institute, 2023), 15–19.
[13] Bryan Frederick et. al., Escalation in the War in Ukraine: Lessons Learned and Risks for the Future (Santa Monica, CA: RAND, 2023), 77.
[14] “Bluffing or Not, Putin’s Declared Deployment of Nuclear Weapons to Belarus Raises Tensions,” Associated Press, 27 July 2023.
[15] “Russia’s Medvedev Warns of Nuclear Response if Ukraine Hits Missile Launch Sites,” Reuters, 11 January 2024.
[16] “Ukraine War: Putin Confirms First Nuclear Weapons Moved to Belarus,” BBC News, 17 June 2023.
[17] Steve Gutterman, “The Week in Russia: Carnage and Clampdown,” Radio Free Europe/Radio Liberty, 19 January 2024.
[18] Samantha de Bendern et al., “Prigozhin May Be Dead, but Putin’s Position Remains Uncertain,” Chatham House, 24 August 2024.
[19] Gutterman, “The Week in Russia: Carnage and Clampdown.”
[20] Robert Picheta et al., “Pro-War Putin Critic Igor Girkin Sentenced to Four Years in Prison on Extremist Charges,” CNN, 25 January 2024.
[21] Robert Coalson, “How the Russian State Ramped Up the Suppression of Dissent in 2023: ‘It Worked in the Soviet Union, and It Works Now,’” Radio Free Europe/Radio Liberty, 31 December 2023.
[22] Ben Hodges, “Ukraine Update with Lieutenant General (Retired) Ben Hodges,” Revolution in Military Affairs [podcast], 1 January 2024.
[23] Sven Gunnar Simonsen, “Putin’s Leadership Style: Ethnocentric Patriotism,” Security Dialogue 31, no. 3 (2000): 377–380.
[24] Hodges, “The Ukraine Update.”
[25] Jack Watling and Nick Reynolds, Meatgrinder: Russian Tactics in the Second Year of Its Invasion of Ukraine (London: Royal United Services Institute, 2023), 3–8.
[26] The Kyiv Post keeps a running tally of these figures and other Russian losses in a ticker across the top of their homepage: https://www.kyivpost.com.
[27] Christopher Miller, “Kyrylo Budanov: The Ukrainian Military Spy Chief Who ‘Likes the Darkness,’” Financial Times, 20 January 2024.
[28] “Ukraine in Maps: Tracking the War with Russia,” BBC News, 20 December 2023.
[29] Constant Meheut, “Russia Makes Small Battlefield Gains, Increasing Pressure on Ukraine,” New York Times, 22 December 2023.
[30] Jaroslav Lukiv, “Ukraine Seeks Extra Soldiers – President Zelenskyy,” BBC News, 19 December 2023.
[31] Lukiv, “Ukraine Seeks Extra Soldiers.”
[32] Lukiv, “Ukraine Seeks Extra Soldiers.”
[33] Miller, “Kyrylo Budanov: The Ukrainian Military Spy Chief Who ‘Likes the Darkness.’”
[34] Christopher Cavoli, “SACEUR Cavoli – Remarks at Rikskonferensen, Salen, Sweden,” NATO Transcripts, 8 February 2023.
[35] Olivia Olander, “Ukraine Intends to Push Russia Entirely Out, Zelenskyy Says as Counteroffensive Continues,” Politico, 11 September 2022; Guy Davies, “Zelenskyy to ABC: How Russia-Ukraine War Could End, Thoughts on US Politics and Putin’s Weakness,” ABC News, 9 July 2023.
[36] Angela Charlton, “Ukraine’s a Step Closer to Joining the EU. Here’s What It Means, and Why It Matters,” Associated Press, 14 December 2023.
[37] Visual Journalism Team, “Ukraine in Maps: Tracking the War with Russia,” BBC News, 20 December 2023.
[38] “Russia-Ukraine Tensions: Putin Orders Troops to Separatist Regions and Recognizes Their Independence,” New York Times, 21 February 2022.
[39] John Mearsheimer, “Assessing the Conventional Balance: The 3:1 Rule and Its Critics,” International Security 13, no. 4 (1989): 65–70; Michael Kofman, “Firepower Truly Matters with Michael Kofman,” Revolution in Military Affairs [podcast], 3 December 2023.
[40] Vladimir Isachenkov, “Putin Warns West: Moscow Has ‘Red Line’ About Ukraine, NATO,” Associated Press, 30 November 2021.
[41] Maria Kostenko et al., “As the War Grinds On, Ukraine Needs More Troops. Not Everyone Is Ready to Enlist,” CNN, 19 November 2023.
[42] Valerii Zaluzhnyi, “Modern Positional Warfare and How to Win It,” Economist, accessed 24 January 2024.
[43] Trevor Dupuy, Numbers, Predictions, and War: Using History to Evaluate Combat Factors and Predict the Outcome of Battles (Indianapolis, IN: Bobbs-Merrill Company, Inc., 1979), 12.
[44] Army Training Publication 3-06, Urban Operations (Washington, DC: Government Printing Office, 2022), 5-23.
[45] Zaluzhnyi, “Modern Positional Warfare and How to Win It.”
[46] Olena Harmash and Tom Balmforth, “Ukrainian Troops Face Artillery Shortages, Scale Back Some Operations – Commander,” Reuters, 18 December 2023.
[47] Kofman, “Firepower Truly Matters”; Franz-Stefan Gady, “A Russo-Ukrainian War Update with Franz-Stefan Gady,” Revolution in Military Affairs [podcast], 30 November 2023.
[48] Joseph Ataman, Frederick Pleitgen and Dara Tarasova-Markina, “Russia’s Relentless ‘Meat Assaults’ Are Wearing Down Outmanned and Outgunned Ukrainian Forces,” CNN, 23 January 2024.
[49] David Brennan, “Avdiivka on Edge as Russians Proclaim ‘Breakthrough,’” Newsweek, 24 January 2024.
[50] “Ep 106: John McManus on the U.S. Army’s Pacific War,” School of War [podcast], 16 January 2024.
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なぜLINEヤフーは個人情報流出を繰り返すのか…総務省が問題視する「日本×韓国企業」のガバナンス危機 日本を代表するIT企業の致命的な弱点
https://president.jp/articles/-/76774?page=1
『三たび情報管理の甘さを露呈した「LINEヤフー」
情報管理の不備で“前科二犯”の「LINEヤフー」が、今度は、「LINE」アプリの利用者情報など大量のデータを流出させてしまう大失態を演じた。その数は、最大で44万件超にも上るという。
しかも、「事件」の公式発表は、不正アクセスを察知してから1カ月以上も経った後。その間、国内約9600万人、海外約1億人のLINEの利用者は、個人情報が不正使用されるリスクに直面していたことを知らずに使っていたのだ。
旧LINEが2021年3月、旧ヤフーがこの8月に、それぞれ個人情報管理の甘さを露呈し、世間を騒がせたのは記憶に新しい。情報が漏れた今回の経緯をみると、情報管理に対する意識もシステムも、教訓になっていなかったと言わざるを得ない。
鈴木淳司総務相(当時)は「大変遺憾だ」と憤り原因の徹底究明と報告を求めたが、3度の不祥事とも韓国のIT大手ネイバーなど海外の企業が絡んでいるだけに経済安全保障の観点からも問題視されよう。
わが国を代表するIT企業が、まともな情報管理をできず迅速な情報開示もしない実態に、利用者の不安と不信は募るばかりで、ネット社会の安心と安全が脅かされている。
社会インフラを担うプラットフォーマーとしての強烈な自覚と万全のシステム再構築が求められる。
記者会見するLINEヤフーの出沢剛社長=2023年11月7日午後、東京都千代田区
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不正アクセスは韓国から始まった
LINEヤフーは、SNS最大手のLINEとIT最大手のヤフーが親会社のZホールディングス(ZHD)と合併して10月1日に発足したばかり。ソフトバンクと韓国のIT大手ネイバーが大株主で、傘下にはスマホ決済最大手のPayPay、電子商取引(EC)サービス大手でファッションのZOZO、オフィス用品のアスクル、旅行の一休などを抱える。
「事件」が起きたのは、その直後だった。
同社によると、ネイバーの傘下企業の委託先の従業員のパソコンがサイバー攻撃を受けてマルウエア(悪意のあるソフトウエア)に感染、旧LINEとネイバー傘下企業の社内システムの一部を共通化していたため、LINEヤフーのサーバーも不正アクセスを受けたという。』
『
流出した恐れのある約44万件のうち、約39万件は実際に流出が確認された。個人情報は約30万件で、日本分は約13万件。台湾やタイなど海外の利用者情報も相当数ある。いずれも旧LINE関連の情報で、旧ZHDと旧ヤフーの個人情報に影響は及んでいないという。
流出した情報は、利用者の国、性別、年代、通話の利用頻度、スタンプの購入履歴など20項目を超える。音声やビデオによる無料通話の日時など「通信の秘密」にあたる情報も2万2000件余りあり、高度な技術を使って解析すれば利用者個人を特定できる可能性があると説明している。ただ、メッセージ本文、銀行口座やクレジットカードなどの情報流出は確認されていないという。
ほかに、LINEヤフーの取引先のメールアドレスなど約9万件、同社従業員の氏名、社員番号、所属部署、メールアドレスなど約5万件が漏れた。
システムへのアクセス管理があまりにずさんだったと言わねばならない。
携帯電話を使用する人
写真=iStock.com/miniseries
※写真はイメージです
発覚から1カ月以上経ってようやく公表
そもそも情報流出はあってはならない由々しき事態だが、もう一つ指摘しておきたいのは情報開示の遅れだ。
同社の説明では、不正アクセスは10月9日に始まり、17日に検知し、27日になってようやく外部からのアクセスを遮断したが、公表したのは発覚してから1カ月以上も経った後の11月27日。その間、11月7日に出沢剛社長が23年9月中間決算の発表で記者会見に出席していたにもかかわらず、沈黙したままだった。説明通りなら、この時点で、すでに内部調査にめどをつけ、緊急対策も済ませていたことになる。
「情報漏洩の規模や範囲を確認するのに時間がかかった」というが、「事件」を周知したタイミングはあまりに遅い。
LINEヤフーの従業員の氏名やアドレスが漏出したというからには、実在の従業員を騙って利用者に接触し、銀行口座やクレジットカード情報をだまし取るような犯罪が起きても不思議ではなかった。同社は情報流出による二次被害の報告は受けていないとしているが、はたしてそう言い切れるだろうか。個人情報を悪用しようとする輩は、どこにでもいる。そもそも不正アクセス自体が、悪意のある所業なのだから。
「事件」発生から1カ月半もカヤの外だった利用者は、突然の凶報に一様にゾッとしたに違いない。LINEヤフーは、総務省や個人情報保護委員会には適宜報告していたと弁明するが、利用者にこそ途中経過を含めて一刻も早く情報提供すべきだった。
情報管理の甘さもさることながら、情報開示に対する鈍感さは、利用者をないがしろにしていると言わねばならない。』
『
二度あることは三度ある…たび重なる情報管理の不祥事
LINEヤフーの個人情報管理をめぐる不祥事は、今に始まったことではない。
旧LINEがZHDの傘下に入ったばかりの21年3月、中国の業務委託先の従業員が旧LINEサーバー内の利用者の個人情報(氏名、電話番号など)を閲覧できる状態にあった問題が発覚した。ZHDによれば、中国の委託先からアクセス可能になっていた期間は18年8月から21年2月までで、少なくとも4人の中国人技術者が32回アクセスしていたという。中国には、政府の要請に企業が従わなければならない「国家情報法」があり、中国政府に日本人ユーザーの個人情報が筒抜けになりかねない状況にあった。
さらに、LINEの利用者間でやりとりした画像や動画データが韓国のサーバーに保管されていた実態も明らかになった。(参考:本サイト2021年5月11日付「LINEも楽天も…頻発する「中国リスク」に日本のIT企業が備えるべきこと」)
その時はサーバーを国内に移すなどの対策をとったというが、今回、再び、海外からアクセスできる環境が続いていたことになる。
旧ヤフーも問題を起こしている。ことし5月中旬から7月末にかけて、ネイバーの技術を活用した独自の検索エンジンを開発・検証するため、ネイバーに約410万件の利用者の位置情報を提供していたことが露見。提供した情報はネイバーがコピーできる状態だったことも判明した。
総務省は8月、利用者への周知が不十分なまま個人情報を外部に出したとして行政指導に踏み切った。ヤフーはプライバシーポリシーで周知している範囲内での情報提供と認識していたというから、お粗末としか言いようがない。
セキュリティー侵害の概念
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国際的プライバシー認証ルールに不合格の烙印が押されていた
これだけでも、LINEヤフーの個人情報の管理体制をめぐる不信は容易にぬぐえないが、実は、まだあった。
日本経済新聞(23年7月4日付)によると、旧LINEが国際的なプライバシーの認証制度の審査で不合格の烙印を押されていたというのだ。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)は、国境を越えて流通する個人情報の保護について「越境プライバシールール(CBPR)」を定めており、認証を得た企業は参加国のデータ保護に関するルールを守っていると認められ、国際的なビジネスを展開するお墨付きが与えられる。
そこで、経営統合の出鼻をくじかれた旧LINEは22年春、CBPRの認証を取得しようと動いた。
ところが、国内の審査機関「日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)」は「企業統治そのものが適切に機能していない」「セキュリティー対策・安全管理措置にかかわる自己宣言が適正かつ正当なものではない」と、ハネつけてしまった。審査が始まった後に、報告していなかった個人情報の漏洩事故が10件近くも判明したというのだから、是非もない。
個人情報の保護対策に万全を期していると自負しても、第三者の目から見ればまるで不十分に映ったというわけだ。
信頼回復への取り組みが、かえって不信感を生んでしまったのである。』
『背景にある韓国IT大手ネイバーとの微妙な関係
今や、コミュニケーションや行政サービスの基盤として国内約9600万人に広く使われているLINE、ニュースの提供をはじめネットサービスの総合センターとして5400万人余りの利用者を誇るヤフー。その両者が合併したLINEヤフーは、名実ともに日本を代表するIT企業であることは間違いない。
それだけに、「事件」の影響は深刻で、罪深い。
総務省は、たび重なる個人情報の管理体制の不祥事を受けて「ガバナンスのあり方を見直す必要がある」と警告しており、システムの再構築はもちろん組織としてのあり方も問われることになった。
ここで、不祥事が続く原因として、ネイバーとの微妙な関係に触れざるを得ない。
旧LINEは、もともとネイバーの子会社だった。LINEヤフーの筆頭株主Aホールディングスはネイバーとソフトバンクが50%ずつ出資しているから、現在も親子の関係といえる。つまり純粋な「日の丸プラットフォーム」ではなく、半分は海外企業なのだ。
ところが、あまりに近い関係のため、ネイバーが海外企業であることの認識が薄くなりがちで、個人情報の管理が甘くなっていたのではないかという指摘がされている。もし、そうなら、経済安全保障の面からも経営陣の意識改革が急務になってくる。
「日の丸プラットフォーム」を守るためにやるべきこと
当然のことながら、LINEヤフーの事業展開にも暗雲が漂う。
最大の合併効果と位置づけるLINEとヤフーの利用者IDの連携は、「楽天経済圏」に対抗する「LINEヤフー経済圏」の確立に向け、傘下のさまざまな電子商取引(EC)サービスの間で相互送客を活性化するための必須アイテムだ。低迷しているEC事業の起爆剤としての期待は大きく、さまざまな誘客キャンペーンを講じて、合併から1カ月余りでID連携を済ませた利用者は約2000万人に達した。
だが、今後、「事件」を知って逡巡する利用者が続出しそうで、LINEヤフーの野望は挫折しかねない。
また、12月に詳細を決める予定だった500億円規模の社債の発行も中止に追い込まれた。
21年3月の経営統合直後に起きたデータ管理不備問題は、その後の2年半の停滞を招いた。ようやく体制を立て直して合併したものの、またもや同様の情報管理問題でつまづいてしまった。
米国の巨大IT企業が闊歩する中、最大手の「日の丸プラットフォーム」が自壊しては笑い話にもならない。
今や生活インフラとなったLINEヤフーにすぐにとって代わるような国内のネットサービスは見当たらない。それだけに、LINEヤフーが真剣なガバナンス改革と徹底した情報管理体制の再構築を早急に進めてほしいと願うのは、筆者ばかりではないだろう。』
『水野 泰志
水野 泰志(みずの・やすし)
メディア激動研究所 代表
1955年生まれ。名古屋市出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で博覧会協会情報通信部門総編集長を務める。日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。新聞、放送、ネットなどのメディアや、情報通信政策を幅広く研究している。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。 ■メディア激動研究所:https://www.mgins.jp/
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LINEヤフーを行政指導へ 総務省、情報管理を問題視 情報51万件流出
https://www.sankei.com/article/20240229-FDTEA3J5ABLJNGC47XEBI5JOEU/
『通信アプリ「LINE(ライン)」の利用者の情報約51万件が流出した可能性がある問題で、総務省がLINEヤフーへの行政指導を検討していることが29日、分かった。情報管理の態勢の不備を問題視しており、業務委託先の監督の強化などを求める。
LINEヤフーは昨年11月、LINEの利用者や取引先などに関する約44万件の情報が、外部に流出した可能性があると発表した。その後の調査により、追加で約7万9千件が流出した恐れがあることが発覚し、計約51万件に膨らんだ。
LINEヤフーの主要株主で韓国IT大手ネイバーのサーバーが、不正アクセスを受けたことが原因だった。流出した恐れのある情報は、利用者の年代や性別、LINEスタンプの購入履歴のほか、取引先の従業員名やメールアドレスなどが含まれる。』