「日本は防衛費を今すぐGDPの3%に」トランプ前政権の国防ブレーンが提言
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『1/21(日) 6:02配信
JBpress
[ロンドン発]ドナルド・トランプ前米大統領が野党・共和党大統領候補指名争いの初戦アイオワ州党員集会で地滑り的勝利を収める中、トランプ前政権で戦略・戦力開発担当国防副次官補を務めたエルブリッジ・コルビー氏が17日、ロンドンのシンクタンク、英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)で米国の外交・安全保障政策について思う存分語った。
「中国は台湾を征服する準備をしている。日本は2027年度に防衛費を国内総生産(GDP)の2%にすると言っているが、今3%にすべきだ。米国人(在日米軍)がいなくなったらどうするのか。日本人は武士道サムライやバンザイ突撃をするのだろうか。私はそうは思わない」と中国の軍事増強に危機感をあらわにした。
■ 「米国は準備が整わないまま大国間競争の時代に突入している」
コルビー氏は「米国は準備が整わないまま大国間競争の時代に突入している。この競争時代に、いかに自由と繁栄を確保するかは現代の国家安全保障上の重要課題だ」として「マラソン・イニシアチブ」を立ち上げた。
マラソン・イニシアチブの狙いは国家がライバルとの長期にわたる競争を乗り切るために必要な外交・軍事・経済戦略を練ることだ。
コルビー氏は2017年の国家安全保障戦略で国防総省を代表して詳細な説明を行い、18年の国家防衛戦略を策定した。大国間競争でロシアは地域的な対抗者にとどまるが、より大きな脅威である中国は覇権を争うライバルだと明確に位置付けた。
「太平洋第一主義者」を自認するコルビー氏は本当に重要な競争相手は中国だけだと考えている。
■ 米国の安全保障において最大の脅威となった中国
トランプ前政権での役割について、コルビー氏は「ジェームズ・マティス国防長官と彼のチームの下で国家防衛戦略を策定した。中国に焦点を当て大国間戦争に備えることに重点を置こうとした。非常に重要な方向転換だった。元米国務長官ヘンリー・キッシンジャーの言葉を借りれば根本的な現実を反映せずに大きな戦略転換はできない」と振り返った。
22年国家防衛戦略で民主党のバイデン政権は中国重視、大国間競争という基本的な考えを踏襲し、「他の地域を軽視するより、むしろ1つの大きな戦争に勝つことに焦点を当てている」とコルビー氏は強調する。22年版では、戦略的競争相手の中国は「米国の安全保障に対し最も包括的で深刻な挑戦を行っている」と警戒感を一段と強めている。
「日本や台湾の友人に言いたいのは、私たちは多くの進展を遂げたが、中国のパワーが増大し続けていることを考えると十分ではないということだ。中国はすでに力をつけている。購買力平価で米国を追い抜き、世界最大の経済大国になった。産業基盤は米国を凌駕する。オーストラリア戦略政策研究所によれば、中国は多くの技術分野で米国と肩を並べている」(コルビー氏)
次の米大統領任期の25~29年、トランプ政権とバイデン政権どちらが中国との戦争を回避できる可能性が高いのか。コルビー氏は「トランプ政権は強さによる平和だ。バイデン政権が誕生した時、世界は相対的に平和だった。しかし欧州では大規模な戦争が勃発し、中東でも火を吹き、拡大する恐れがある」という。』
『■ 「現状で米中戦争を回避する方法は中国の主張を受け入れること」
「私は軍事的なバランス、ハードパワーと地域的なバランスを重視している。中国の軍事力増強やその他の準備の規模に対して、現在の米国の態勢は明らかに十分ではない。ウクライナや中東での戦争がすぐに終わりそうにないことを考えると、このままではいけない。現状では米中戦争を回避する唯一の方法は中国の主張を受け入れることだろう」(コルビー氏)
トランプ前政権で大統領顧問を務めたケリーアン・コンウェイ氏は米Foxニュースで「第2次トランプ政権は中国に焦点を当てるだろう」と指摘した。中国は窓を閉じるかもしれないし、甘い言葉で米国に取引を持ちかけるかもしれない。しかし、それが説得力を持つとは思えないし、どのように機能するのかも自分には分からないとコルビー氏はいう。
「共和党支持者だけでなく、米国の有権者の多くが中国を主要な課題だと考えている。第2次トランプ政権の方が良い結果になる(米中戦争を回避できる)。米国が『世界の警察官』として過去何世代にもわたって行った大規模介入は成功したとは言い難く、ある意味では逆効果だったと言える」とネオコンやグローバルなリベラル覇権主義の安全保障観を退けた。
「その反対側に孤立主義者と呼ばれる人たちがいる。彼ら自身の言葉では抑制主義者だ。軍産複合体によって作り出された戦争は不必要だ。他国にバランスを取らせればいい。そうすることでこれ以上、中東の戦争に米国が巻き込まれるのを避けることができる。しかしその反面、世界を放っておけば中国がアジアを支配してしまうマイナス面もある」(コルビー氏)
■ 2つの戦争を戦えない米国
コルビー氏によると、米国にとってアジアが最も重要だ。ロシアによるウクライナ戦争や北朝鮮の核・ミサイル開発を止められなかったように制裁は機能しない。だからこそ軍事力が問題だという。「英国は最新鋭空母クイーン・エリザベスを中核とする空母打撃群を極東に派遣したが、中国の攻撃から守ることを考えると米国にとっては差し引きしてマイナスだ」
「アジアを支配しようとする中国を牽制するための連合が必要だ。米国単独では十分強くもなく、毅然としているわけでもない。地域のパートナーである台湾や日本の協力が必要だ」(コルビー氏)
英国や欧州の安全保障専門家はアフガニスタン撤退がロシアのウクライナ侵攻を招いたように安全保障は地域ごとに切り離すことはできず、つながっているという。
しかしコルビー氏は北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないウクライナと、アジアで連合する可能性がある台湾の間に明確な一線を引いた。米国は膠着状態に陥ったウクライナから急速に関心を失っている。
「国防総省はリークされた国防産業戦略草案で米国は2つの戦争への準備ができていないと述べている。米国は2つの戦争を戦えない」(コルビー氏)
米国は軍需産業に十分な資金を投資していない。熟練労働者がいない。工場の生産能力を欠いている。サプライチェーンや資源、鉱物の問題を抱えている。コルビー氏は1年以上にわたって国防産業基盤の国家動員を訴えてきた。より大きな軍需産業エコシステムを構築する必要があるという。米国の軍需産業は欠乏状況なのに国防費を倍にできないのが現状だ。』
『■ 列強に支配される前の偉大な中国を復活させる
「ウクライナ戦争でロシア軍が優勢になりつつあるとはいえ、ロシアの脅威は中国に比べはるかに小さい。戦略的観点から中国を過小評価することのデメリットを考えれば、過大評価する方が賢明だ。私は、中国が身長3メートルを超えるとは思っていない。問題は彼らが170センチメートル以上だということだ」(コルビー氏)
コルビー氏によると、中国は米国の200倍以上の造船能力を持つ世界最大の産業基盤を持っている。中国の多くの人々は「台湾は中国の一部だ」と信じている。習近平国家主席の目標は単に中国共産党を存続させることでなく、列強に支配される前の偉大な中国を復活させることだ。これに対して、米国は中国に負けまいと押さえつけようとしている。
中国は拡張主義を強引に進め、自ら経済的な逆風に直面している。にもかかわらず、自分たちの首を絞めようとしているのは米国だと信じ込めば、第一次大戦のドイツや第二次大戦の日本のように無謀な戦争に突き進む地政学的な動機になるとコルビー氏はいう。中国は経済だけでなく軍事面でも非常に大きな規模になり、多くの重要技術分野で米国の先を行く。
コルビー氏は「冷戦時代の政策に戻る必要がある。冷戦後の政策は捨てなければならない。冷戦時代、欧州加盟国はNATOの軍事費の半分近くを負担した。一方、アンゲラ・メルケル前独首相はドイツ第一主義を貫いた。軍事費を節約し、福祉に費やした。これは続けられない。欧州はもっと多くの軍事支出をすることだ」と強調した。
コロナ対策とバイデン氏のバラマキ、2つの戦争支援で政府債務が膨張する中、第2次トランプ政権でウクライナ支援は真っ先に大幅削減される可能性は極めて大きい。英国も欧州もそれに備える必要がある。残る中東と台湾のどちらに重きを置くのか。中国重視を鮮明にしたコルビー氏だが、トランプ氏が何を考えているかについては答えなかった。
木村 正人 』