大統領と軍部との対立、ゼレンスキーが軍事作戦や指揮に介入したのが原因
https://grandfleet.info/war-situation-in-ukraine/conflict-between-the-president-and-the-military-caused-by-zelenskys-interference-in-military-operations-and-command/
『海外メディアだけでなくウクライナメディアも「大統領府とウクライナ軍の間に何が起こっているのか」について次々と報じており、今度はウクライナ・プラウダ紙が「大統領と軍部首脳の問題はゼレンスキーがザルジニーの職務範囲に政治的要素を持ち込んだのが原因」と報じている。
参考:Война против политики. Что происходит между Зеленским и Залужным
圧力はどこからやって来るのか?
“ここ最近、世界の大手マディアが大統領と軍部首脳の衝突を詳細に報じているが、こうした報道を大統領府長官の顧問を務めるポドリャク氏は『ロシアのプロパガンダ』『ロシアのために働く手先』とレッテルを貼っている。戦争中に力をもつ人間同士の間で摩擦が起こるのは一般的に珍しくなく過去の戦争でもお馴染みの光景だ。さらに言えば野心をもつ人々の間で対立や論争が起きないほうが驚きだ。我々は直面する脅威を前にして大統領と軍部首脳の間で何が起きているのか正確に理解することが重要だ”
出典:PRESIDENT OF UKRAINE
“この衝突の発端は2022年3月に実施された社会調査(本格的な戦争がウクライナ人の政府に対する信頼にどのような影響を及ぼすかというテーマ)にあり、当時のゼレンスキー大統領への信頼度は93%で、最も困難な時期に大多数の市民が軍の最高司令官(ゼレンスキー)を信頼しているのだから素晴らしい結果のように思えるものの、同じように大多数の市民はウクライナ軍も信頼(98%)していた”
“大統領の側近は98%の信頼が最高司令官のゼレンスキーに向けられたものなのかどうかを心配していたが、軍への信頼はゼレンスキーではなくザルジニーに向けられたもので、この時期にザルジニーが個人的な慈善基金を設立したため、この基金がやがて政党に発展するのではないかと大統領府は疑い始めた。
参謀本部の関係者も本紙に「当時のザルジニーはゼレンスキーや大統領府と正常な関係を保っていたが、4月22日を境に何かがおかしくなった。ザルジニーは基金のことで混乱して直ぐに諦めた」と証言”
出典:PRESIDENT OF UKRAINE
“ザルジニーの野望を最も警戒しているのは大統領府長官のイェルマクで、ある政府関係者は「侵攻初期に大統領とも滞在していたシェルター内でイェルマクは再三、ザルジニーには基金があるのか、メディア戦に精通しているのか、彼には熱心な支持者達がいるのかなどを気にしていて奇妙だと感じていたが、当時はそれほど重要なことだとは思わなかった」と述べている”
“政治的な対立に巻き込まれることを警戒したザルジニーは意図的にメディアへの露出(Telegramへの投稿とメディアに対する数回の取材に応じただけ)を控えたものの、公の場に姿を見せなくなって露出が減ったザルジニーの行動や発言は逆に大きな関心を呼び起こし、彼のことを神と同一するものまで現れ始めた。
しかし当時はハルキウやヘルソンでの歴史的な勝利、反攻作戦の準備が進められていたため摩擦は危機的なものではなく、戦争の立役者だった2人の関係に視線が集まり始めたのは反攻作戦が行き詰まりを見せてからだ”
軍事と政治のゲーム、ゼレンスキーとザルジニーの緊張関係の本質
“2人の関係性を覆う政治的な話や感情論はさておき、両者の緊張関係の本質は戦争と政治の混同に起因している。
侵攻初期のゼレンスキーは軍を信頼して作戦に口を挟まなかったが、徐々に形式的な最高司令官の地位を利用して軍事作戦の計画立案や指揮に介入し始め、ザルジニーの職務範囲=軍の指揮や司令部に政治的要素を持ち込んでしまった。
これは当時の状況(政治的に支援を引き出すための結果を必要としていた状況)を加味すると必要なことだったのかもしれない”
出典:ArmyInform/CC BY 4.0
“しかしゼレンスキーは階級社会の軍事組織に政治家らしい柔軟さを持ち込み、ザルジニーを迂回する形で軍の各司令官(陸軍のシルスキー大将や空軍のオレシュチュク中将)とコミュニケーションを取り始めてしまった。
各司令官との直接対話は大統領の仕事をスピードアップさせるの役立ったものの「頭越しの指示」はザルジニーの仕事を不安定にさせてしまった”
“ザルジニーの側近は本紙に「ゼレンスキー大統領に2種類のウクライナ軍があるようだ。1つはお気に入りのシルスキー大将などが指揮する良いウクライナ軍で、もう1つはザルジニー総司令官に従う悪いウクライナ軍だ。これはザルジニーのやる気を奪い総司令官としての指揮にも支障が生じる」と指摘”
出典:ПРЕЗИДЕНТ УКРАЇНИ
“ゼレンスキーが軍に持ち込んだ「もう一つの政治的要素」は軍事委員会の不正に対する決断(各州や各地地区に設定されていた軍事委員長の解任)で、政治的見地から「正義の執行を求める社会的要求」を迅速かつ決定的に実現したかに見えた。
しかし軍事的見地からは複雑な結果(動員作業の複雑化)を招いてしまった。
司令官人事も同様で特殊作戦軍司令官のホレンコ少将や医療軍司令官のオスタシチェンコ少将の解任、統合軍司令官のナエフ中将解任の可能性も同様の影響を及ぼすだろう”
“これらの人物は全てザルジニーに近い人間ばかりで、彼らの解任はザルジニーの指揮系統に不安定さをもたらすだけだ。
ナエフ中将の解任は「南部防衛の失敗を問う刑事事件を通じてザルジニーに近づくための試み」と言われているものの、これも2人の関係性を覆う政治的な物語の1つに過ぎない”
出典:President Of Ukraine 女性として初めて少将に昇進したオスタシチェンコ少将
“大統領と軍部首脳の摩擦が最も高まったのは反攻作戦の開始後で、軍を非難する大統領府の主張にも一定の合理性がある。
何故なら反攻作戦を立案したのも、必要な戦力規模をはじき出したのも軍であり、これに基づいて大統領府はパートナーに協力を要請して新たな部隊を編成したのだ。
しかし実際の戦闘は想定よりも困難であることが判明、得られた結果はメリトポリに向かうはずだった計画と著しく異なっていた”
“勿論、克服困難な作戦実施の前提条件もあった。
ロシア軍は恐ろしい規模の防衛ラインを構築するのに十分な時間があり、この様な状況下で作戦を実行するには兵力が不足していたが、最大の問題は反攻作戦に政治的要素が含まれていた点だ。
大統領府の人々は血なまぐさいバフムート防衛を「価値ある戦い」と定義し、反攻作戦もメディアを通じて一般市民に「クリミア解放が可能だ」と錯覚させるほど期待感を高めた”
出典:管理人作成(クリックで拡大可能)
“このような政治的側面の喧伝がなければ反攻作戦の軍事的な問題は容易に対処(責任問題)が可能だった。
現在状況で反攻作戦の軍事的な責任をザルジニーに問うなら、メディアを通じて期待感を煽った大統領府の人々も政治的な責任を負う必要がある。
なぜならゼレンスキーがザルジニーの職務範囲に侵入したように、大統領府の人々もゼレンスキーの政治領域に侵入したからだ”
“ザルジニーは政治的な発言を一切行っておらず政党も公的な運動も財団も持っていない。
しかし大統領府は定期的に社会的調査を命じておりザルジニーへの信頼は着実に増加している。
今月2日に公開された社会的調査(大統領選挙が実施された場合誰に投票するかを問う内容)は「ゼレンスキーが47%の得票を得る」というものだったが、本紙は非公開の研究データを入手することができ、ゼレンスキーとザルジニーが第2ラウンドに進んでゼレンスキーが負ける可能性を伏せていることを発見した”
“ゼレンスキーにとってザルジニー以外に政治的脅威はなく、Sun紙とのインタビューの中で「戦争を指揮する将軍が軍人としてではなく政治家のように振る舞うのは大きな間違いで、ウクライナ軍上層部は政治に干渉すべきではない」と警告した相手はザルジニーで間違いない”
“この政治的状況を作り出したのはザルジニーなのだろうか?ザルジニーは何らかの政治的な行動を起こしたのだろうか?絶対にその様なことはしていない。
彼はメディアの政治的アクターとして全く存在しない。彼の潜在的評価は寧ろ「ウクライナはロシアとは異なる」というテーゼの結果だ。
大規模な戦争の中でも我々の社会はバランスを保とうと努力しており、ウクライナの民主主義はその回復力を新しい例を示そうとしている”
ザルジニー辞任の可能性は?
“新しい年を迎える前にウクライナは武器や弾薬の新たな供給を必要としており、これらについてパートナーと事前に合意し、自国での武器生産も事前に計画しておく必要があった。
つまり軍のニーズを事前に把握しておかなければならず、参謀本部が戦略計画書を大統領府に提示するためには、軍が来年に必要なものをリストアップしなければならない。
この手の情報はウクライナ・プラウダ紙に掲載すべき内容ではないものの、大統領府、国防省、予算権限をもつ最高議会、契約を締結する企業は必ず目にしなければならない”
出典:Генеральний штаб ЗСУ
“国民の奉仕者のアラハミア代表はモセイチュク氏(ウクライナ人ジャーナリスト)のインタビューの中で「我々は委員会から新しい戦争計画が提示されるのを待っていた。参謀本部は来年はこの様に戦う、そのために多くの人員と資金が必要だという具体的な計画を立てる必要がある」と憤慨し、国防委員会のベズフラ副委員長と共に「軍部首脳は辞任すべき」という意見で一致したが、国防委員会のラフマニン議員は最高議会に計画書の提出を拒否(国防委員会にその権限がないのが理由)した”
“しかし、本当の問題は計画がないことではなく、大統領府も西側のパートナーも1991年の国境に到達するための計画に満足していないことだ。
参謀本部の試算によると大統領が設定した「全占領地の解放」を実行するには3,500億ドル~4,000億ドル相当の戦力と手段が必要で、米国防総省の高官はオフレコで「11月にオースティン国防長官がキーウを訪問した際、ウクライナ側から1,700万発の砲弾が必要だと聞かされて驚いた。それだけの砲弾を世界中から集められる訳がないからだ」と述べている”
出典:Photo By Chad J. McNeeley, DOD
“さらにオースティンは我々に「ザルジニーが自分が如何に干渉を受けているかについて不平を漏らしていた」と明かしてくれた。
この会話の内容はゼレンスキーの耳に届いているはずで、国防総省の高官も「このようなコミュニケーションは信頼を促進するものではない」と付け加えた。何でも正直に話しすぎるザルジニーにゼレンスキーが良く思っていないのは確実で、これまで架空の話だった「ザルジニーの辞任」が現実のものになるかもしれない”
“そうなると総司令官の後任を考えなくてはならず、今のところ現実的なオプションはシルスキー大将だけだろう。
彼はキーウ防衛、ハルキウ防衛、ハルキウでの反撃で見事な手腕と成果を示したが2つの問題がある。
1つ目はシルスキーのメディア受けが良くない点で、彼はゼレンスキーの前線訪問を何度も受けてTelegramに投稿しているものの注目を集めることができない。2つ目は「損失を数えない指揮官」というイメージが定着している点だ”
出典:Zelenskiy Official
“但し、ザルジニーが辞任すればウクライナの政治にスーパースターが誕生するのは確実だ。ゼレンスキーの側近も「このことを大統領府の人々も完全に理解している」と述べており、少なくとも大統領府の大半はザルジニーの辞任に反対している”
“どちらにしてもザルジニーの後任を考えるのは彼を任命したゼレンスキーの役割だろう。
そのような決断を下す前に大統領は「ザルジニーとの関係悪化の根源を取り除くことができるかどうか」をよく考える必要がある。
これはザルジニーがEconomist紙とのインタビューの中で述べた課題(膠着した前線の打開に必要な軍事的要素のこと)のことで、この問題を短期的に解決する術がないので何れにせよ戦略的な停戦が必要になるだろう”
出典:PRESIDENT OF UKRAINE
“しかし「戦争の膠着状態」や「停戦」に関する話をゼレンスキーは聞きたがらない。彼は「一時的な停戦は戦争の凍結を招き、パートナーからの関心を失えば支援の削減に繋がる。そうなれば凍結状態から抜け出せなくなる」と鉄壁の理論を叫び続けている”
“果たしてザルジニーが辞任すれば、この戦略的論争から抜け出せるのだろうか? 答えはNOだ。
ザルジニーの辞任が保証するのはウクライナの重要な戦略的優位性の喪失である。戦争の立役者だった2人の結束が失われれば社会全体の結束が失われかねない”
以上がウクライナ・プラウダ紙が報じた要約で、特に皆さんが注目している「ゼレンスキー大統領に2種類のウクライナ軍があるようだ。1つはお気に入りのシルスキー大将などが指揮する良いウクライナ軍で、もう1つはザルジニー総司令官に従う悪いウクライナ軍だ」という部分は、本当に指揮系統が2つに分かれているのではなく「大統領への強烈な皮肉」だろう。
因みに、これだけ長く難解な長文を最後まで読み切った人は本当に凄いと思う。
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※アイキャッチ画像の出典:PRESIDENT OF UKRAINE
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投稿者: 航空万能論GF管理人 ウクライナ戦況 コメント: 89 』




