蜜月の日米韓、支持率3割でも並ぶ 尹政権の誤算と秘策

蜜月の日米韓、支持率3割でも並ぶ 尹政権の誤算と秘策
編集委員 峯岸博
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD282350Y3A121C2000000/

 ※ 今日は、こんな所で…。

『岸田文雄首相がバイデン米大統領から2024年早期の米国国賓訪問の招待を受けた。3?4月ごろの訪米を探っている――。岸田首相にとって久しぶりの明るいニュースだが、韓国大統領府は複雑な思いで受けとめただろう。

本紙世論調査で岸田内閣の支持率は30%まで低下しており、訪米が政権浮揚につながれば、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権にとっても望むところだ。両政権の安定こそが、尹氏が主導してきた日韓関係を着実に…

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『両政権の安定こそが、尹氏が主導してきた日韓関係を着実に前進させるからだ。

来春のソウルでの日米韓首脳会談は難しく

問題は訪米の時期だ。

日米韓3カ国の首脳は8月の米キャンプデービッドでの会談で、年1回以上は首脳会談を開くと申し合わせた。この直後に韓国の聯合ニュースは、尹大統領が次回会談を来年の上半期にもソウルで開催したい考えだと報じた。

これは何を意味するか。尹政権の命運を左右する同年4月10日投票の韓国総選挙(一院制の国会議員選挙)への「第1の秘策」として、日米韓首脳会談を投票日の前にソウルで実現し、30%台に低迷する尹大統領の支持率を押し上げるアイデアである。

8月の米キャンプデービッドでの会談後に共同記者会見する(左から)韓国の尹錫悦大統領、バイデン米大統領、岸田文雄首相

このアイデアも「岸田首相の来春訪米」によって霧消してしまうだろう。米国での日米首脳会談と近い時期に、バイデン氏が同じ岸田首相と尹氏に会うために韓国まで足を運ぶ展開は考えにくい。来春といえば、その年の11月投票の米大統領選に向けてバイデン氏を含む候補者が本格的に走り始めているころである。

「トランプ再登板なら日米韓の拡大抑止は吹っ飛ぶ」

そのバイデン氏も不人気から抜け出せない。10?11月に実施された複数の世論調査での支持率は39%と4割を下回り、再選に影を落としているとメディアは報じている。蜜月関係を築く日米韓3カ国の首脳がはからずも30%台の支持率で足並みをそろえた。

返り咲きをめざすトランプ前大統領が「日米韓」の前に立ちはだかる。大統領時代、日韓など外国との同盟を資産よりもコストとしてとらえた。米軍駐留経費問題でも日韓双方に負担割合の大幅な増額を迫り、在韓米軍の大幅削減や撤退までちらつかせた。

最近、都内で開かれたシンポジウムで「トランプ再登板」の場合の地域安保リスクを不安視する意見が専門家から相次いだ。「一国主義の大統領が登場すれば、日米韓の拡大抑止は吹っ飛ぶ。相手への威嚇は揺らぎ、かたや中ロ朝には『しめしめ』となる」「トランプ政権ができたときに中東に割かれるリソースをどう調整するか、『トランプファクター』を考える必要がある」

韓国内の日本への不満も総選挙に影

韓国では、来春の総選挙が尹政権への審判の様相を呈している。尹氏を支える保守系与党「国民の力」が過半数議席を取り戻せなければ、27年3月の次期大統領選を待たずに「尹大統領のレームダック(死に体)が始まる」と政治・外交専門家は口をそろえる。

野党からの攻撃が強まるのはもちろん、与党議員や保守層からも距離を置かれ、行政府や検察への求心力が大きく低下する。何よりも国民の支持が離れていく。歴代大統領でもみられた光景である。

ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で、北朝鮮の金正恩総書記(左)と握手するプーチン大統領(9月)=ロイター

来春までの日米韓首脳会談の開催が難しくなった場合、例えば、岸田首相の訪米に合わせて尹氏も米国に飛び、日米韓首脳会談を開く、あるいは、岸田首相と尹氏がシャトル外交の一環として日韓のどちらかで首脳会談を開く。そんな案もささやかれている。

だが、日韓外交筋は「外交を選挙対策に利用したと野党に批判される」と否定的だ。福島の原発処理水や元徴用工問題などをめぐり尹政権が日本寄りの姿勢を繰り返しているにもかかわらず、元徴用工問題の解決策と併せて両国経済界が創設を決めた「未来パートナーシップ基金」も順調に進んでいるとは言いがたい。韓国内には日本側から何も得られていないとの不満が強い。

韓国で元慰安婦への賠償を日本政府に命じた高裁判決が出たばかりでもあり、日韓首脳会談は「成果がなければ国民向けに逆効果になりかねない」というわけだ。

そこで尹政権内で急浮上してきた「第2の秘策」がある。2019年末を最後に途絶えている日中韓首脳級会合を来春にソウルで開く構想だ。11月26日、釜山で開いた外相会合では日中韓首脳級会合について「なるべく早期で適切な時期の開催」をめざす方針で一致しているため、「選挙に外交を利用した」との攻撃をかわしやすい。

日中韓首脳級会合をめぐる中韓の駆け引き

韓国では日米韓連携に突き進む尹政権に対し、野党勢が「日米韓ばかりで中国に無策」と批判している。そうしたなかで日中韓首脳級会合のメンバーである中国の李強(リー・チャン)首相が訪韓し、尹大統領の左右に岸田首相と李強氏が並ぶ映像が流れれば、韓国政府・与党は中国との関係改善を印象づけられ、総選挙を前に大きな得点になるという読みである。

会談前に写真撮影に応じる(左から)上川外相、韓国の朴振外相、中国の王毅外相(11月26日、韓国・釜山)=共同

中国は、3カ国首脳級会合の開催には賛成しつつ、時期についてはあいまいな態度を続ける。日韓外交筋は「中国からすれば親中派である革新系野党の勝利が望ましく、敵に塩を送る総選挙前の開催には応じないだろう」と悲観的だ。

政治家経験が全くなかった尹氏はともかく、外交を得意としてきた岸田首相とバイデン氏が世界で相次ぐ危機を前に、ともに外交よりも安保対応に多くの労力を割かざるを得なかったのは誤算だったろう。

ピンチをチャンスに変えられるか

岸田首相も衆院解散・総選挙のタイミングを見極める難しい境遇にあるが、野党に直ちに政権を奪われるとの危機感はない。衆参両院で与党が多数を占め、米韓の2人に比べると思い切った政策を打ちだしやすい環境だ。「外交の岸田」にとって外交のピンチはチャンスでもある。

政策面でも守勢に回っている観があるのは永田町も同様である。「国会中継を聴いていると国内の話ばかりで、国会議員は与野党を問わず危機感と有事に行動できる腹があるのかと疑う」。最近、日本を代表する企業の元役員から、こんな便りが届いた。日米韓の蜜月がいつまでも続くとは限らない。米韓から迫り来る足音に耳を澄まし、備えを急ごうとしている政治家がどれだけいるだろうか。

峯岸博(みねぎし・ひろし)
1992年日本経済新聞社入社。政治記者として首相官邸、自民党、外務省、旧大蔵省などを取材。2004?07年ソウル駐在。15?18年ソウル支局長。2回の日朝首脳会談を平壌で取材した。現在は編集委員兼論説委員。著書に「日韓の決断」(7月出版)「日韓の断層」「韓国の憂鬱」
混迷する日韓関係や朝鮮半島情勢を分析、展望するニュースレター「韓国Watch」を隔週で配信しています。登録はこちら。
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