厳格ルール下も発砲防げず 陸自、安全管理の検証必要に

厳格ルール下も発砲防げず 陸自、安全管理の検証必要に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE1616L0W3A610C2000000/

『岐阜市の陸上自衛隊射撃場で男性隊員3人が自動小銃で撃たれた事件は、訓練中の規則に従わずに自衛官候補生の男(18)が弾を装塡した可能性が浮上している。射撃場では入室から発射まで上官の厳しい命令に従う必要があるが、逸脱する形で事件は起きた。なぜ銃撃を防げなかったのか。銃や弾薬の安全管理は適切だったのか。検証が求められる。

陸自が管理する射撃場は全国に83カ所ある。防衛省関係者によると、殺傷能力がある銃を扱う射撃場内で、自衛官候補生が教育部隊幹部の号令に基づかない行動をとることは許されない。一挙手一投足が管理されているはずだった。

元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「訓練は規則や射撃計画に基づいて実施され、行動を見守る多くの隊員の監視下にある」と説明する。

陸自によると、射撃訓練では一般的に数人のグループごとに行動。場内に入るのは実際に実弾を発射する隊員と、発射に備え待機する隊員の2グループ程度と決められている。待機位置や手順も細かく定められている。

射撃場にもよるが、まず「準備線」のところで銃や服装の点検を受ける。その後、前方にある「待機線」で小銃を床に置き、弾薬置き場で実弾と弾倉を受け取る。待機中は小銃と弾倉は別々に持ち、銃口を常に下方もしくは的の方に向けたままにするよう指導される。
銃に装塡するのは、「射座」と呼ばれる射撃位置に移動し「弾倉を取れ」などと指示を受けてから。それまで誤射しないよう指は引き金にかけない。射撃の体勢を取り、「撃て」の号令で発砲する。

今回の射撃訓練には候補生約70人に対し、約50人の教育部隊の隊員が配置されていた。

関係者によると、殺人容疑で送検された候補生の男は準備線の付近で待機している間に無断で小銃に装塡し、発砲に至ったとされる。渡部氏は「射撃位置に着く前に弾薬を装塡して発射するのは、適切にルールを守っていればとても考えられない」と話す。

陸自関係者も「号令に基づかない行動をすれば、指導役の隊員だけでなく、他の候補生も制止するよう教育を受ける」と説明する。実際、隊員は止めに入って発砲を受けたとみられている。

事件当時、どんな手順や配置で訓練が実施されたのか。監視の目は届いていたのか。陸自警務隊などが捜査を進めている。

陸自日野基本射撃場前に手向けられた花束と手紙(16日、岐阜市)=共同
弾薬を渡す係や安全係、射撃場の指揮官など多くの隊員がその場に居合わせていた。元陸上自衛隊中部方面総監で千葉科学大の山下裕貴・客員教授は「規則に沿った指導が徹底できていたのかはもちろん、隊員の心理状態の把握を含めた詳細な分析が求められる」と指摘する。

候補生の男は15日に送検された後、岐阜拘置支所(岐阜市)に勾留された。捜査関係者によると、落ち着いた様子で取り調べに応じているが反省の言葉は口にしていないという。』