「2つのインド」と日本 グローバルサウス両雄の打算
風見鶏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM024RT0S3A600C2000000/
『先の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)はアジアの新興・途上国で「両雄」と目されるインドとインドネシアの首脳も参加した。中国という共通の脅威をにらんで協調する両国は同じ地域大国として緊張もはらむ。そこには日本の役割を見いだす余地がある。
5月下旬、インドがパキスタンと領有権を争うカシミール地方で開いた20カ国・地域(G20)観光作業部会は象徴的な会議だった。
G20メンバーでありながらサウジア…
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『G20メンバーでありながらサウジアラビアやトルコは政府代表を派遣しなかった。理由は「同じイスラム教国のパキスタンに配慮したから」だとされる。
世界最大のムスリム人口を誇るインドネシアが代表を派遣したのはなぜか。「インドには恩がある」。インドネシアの外交当局者は理由をこう説明する。
インドネシアが議長を務めた22年のG20サミットはウクライナ侵攻を巡る対立で合意形成が困難を極めた。閣僚級の会議でまとめられなかった共同文書を首脳間で採択できたのはインドの協力のおかげだった。
シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所が2月に発表した東南アジア諸国連合(ASEAN)各国への世論調査はインドとインドネシアの接近を裏付けた。
「米中対立下で第三のパートナーに選ぶべき国・地域はどこか」との問いにインドネシアは9.9%がインドと答えた。6つの選択肢のなかで22年の最下位から3位へ順位を上げた。
両国の交流は古い。インドネシアは「インドの島々」を意味する。有史以来、インド由来のヒンズー教の王国が興亡を繰り返した。ともに植民地支配を経て、独立後は米ソ冷戦下で「非同盟運動」を主導した。
21世紀の国際政治にインドとインドネシアが与える影響はより大きい。アジアの民主主義国で人口は1、2位につけ、米金融大手ゴールドマン・サックスは国内総生産(GDP)でも50年に中国、米国に次ぎ3位、4位になると予測する。
両国が近づく背景には中国をにらんだ打算がある。ともに中国が最大の輸入相手国でありながら、国境紛争や海洋資源を巡る対立も抱える。中国との経済関係を考慮すると米国へ傾斜するのは得策ではない。同じような立場からお互いをパートナーとみなす。
この関係は将来も続くのか。アジアの国際政治に詳しい大庭三枝神奈川大教授は「似た志向を持つ地域大国は競合関係を内包している」と指摘する。両国は南半球を中心とする新興・途上国の総称「グローバルサウス」の代表格だ。ともにリーダーを狙えば、両雄並び立たずの状態に陥る。
橋渡し役に浮上するのは日本だ。経済協力開発機構(OECD)によると直近の両国への政府開発援助(ODA)拠出額は2位のドイツを抑えてトップ。外務省の世論調査で両国とも9割以上が「日本は信頼できる」と答えており、米欧より近い関係にある。
日本が中国抑止を念頭に提唱した「自由で開かれたインド太平洋」の概念を両国とも受け入れている。インドとは米国、オーストラリアとともに「クアッド」の枠組みでも協力する。
自衛隊と海上保安庁は東シナ海で衝突を避けながら中国と対峙してきた経験がある。大庭氏は「対中国の海洋安全保障で両国が協力を強めるときに日本が果たせる役割がある」とみる。
「2つのインド」の緊密さは日本が双方と関与を深めるうえでも好機だ。旧宗主国への複雑な感情が交じるアジアは米欧が入り込みにくい。そこで新たな3カ国の枠組みを主導して地域の安定に貢献するのは日本の責務であり、日本にしかできないことでもある。(ジャカルタ=地曳航也)』