自衛隊法、海外警護に穴 首相キーウ訪問に帯同できず

自衛隊法、海外警護に穴 首相キーウ訪問に帯同できず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA240YZ0U3A320C2000000/

『岸田文雄首相は21日のウクライナのキーウ訪問で、第2次世界大戦後の日本の首相として初めて戦闘が続く国・地域に足を踏み入れた。自衛隊は要人警護のみを目的に海外派遣する規定がなく、首相に帯同しなかった。制定時に想定しなかった事態に脆弱な自衛隊法の穴が浮かび上がった。

現地での安全確保はウクライナ頼みだった。松野博一官房長官は22日の参院予算委員会で「警護はウクライナ政府が全面的に責任を負って実施した…

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『自衛隊法は自衛隊の任務や行動、権限などを定める。首相に関し「自衛隊の最高の指揮監督権を有する」と記すものの、同法が規定する「自衛隊」に首相は含まない。首相が戦地にあたるウクライナを訪れることも法的に制約しない。

自衛隊法は自衛隊が「できること」を示す「ポジティブ・リスト」方式だ。明示されていないことへの対処は難しい。6章は防衛出動や弾道ミサイルへの破壊措置といった自衛隊がとれる行動、7章は武器使用などそれぞれの行動時の権限を挙げる。

海外で首相を守る任務は書かれていない。戦地に要人が赴く事態を考慮していなかったといえる。浜田靖一防衛相は首相のウクライナ訪問で輸送や警護、外国軍への協力依頼に防衛省・自衛隊は関与していないと説明した。

首相は同行者を木原誠二官房副長官や秋葉剛男国家安全保障局長、外務省幹部ら政府高官やSP(警護官)の少人数にとどめた。在ウクライナ日本大使館の大使や防衛駐在官も合流した。防衛駐在官は外務省に出向中の自衛官で、護衛要員にあたらない。

今回のようにロシアの侵攻が続き自衛隊も駐留していない場所に首相が行くのは異例だ。
米欧首脳もウクライナ訪問時に表立って自国軍を動員したわけでない。

米国のバイデン大統領は2月、側近やシークレットサービス(大統領警護隊)ら少人数で入ったが、米軍が隣国ポーランドの領空から偵察機などで情報収集していたとされる。カナダのトルドー首相にはカナダ軍の特殊部隊が同行したとの報道もある。

日本では過去にイラク戦争に関連し、2004年に大野功統、05年に額賀福志郎両防衛庁長官がそれぞれイラクのサマワを視察した。

サマワはイラク復興支援特別措置法に基づいて自衛隊を派遣している地域だった。同法は自衛隊の活動を「非戦闘地域」に限定した。当時のサマワの治安状況が非戦闘地域と言えるかどうかを巡り国会で論争になった。

想定外の事態が制度の穴を突いたのは2月に浮上した気球問題も同じだった。防衛省は米軍による中国の偵察気球の撃墜を機に、気球を含む無人機による領空侵犯での武器使用基準の緩和を迫られた。

これまでは有人機への対処が基本で、武器を使うのは「正当防衛」と「緊急避難」に限る抑制的な運用だった。人命に関わらない無人機は念頭になかった。

「自衛隊法はできることが列挙してあるが、基本的に軍隊の法制はネガティブ・リストで『やってはいけない』ことが書いてあってそれ以外はやってもいい。そういう問題もある」。03年に当時の石破茂防衛庁長官はこう提起した。

平和・安全保障研究所も22年7月公表の政策提言で「ポジティブ・リスト方式を改め、可能な限りネガティブ・リスト方式を追求する」よう主張した。徳地秀士元防衛審議官や河野克俊前統合幕僚長らがまとめた。

決められた「やってはいけない」こと以外は実行できるネガティブ・リスト方式なら柔軟な運用も可能となる。

自衛隊の発足時は戦前の反省から、国民の権利を極力阻害しないよう原則禁止を前提にした。日本を取り巻く国際情勢は変化し技術の進展によって脅威の質も異なってきた。装備や人員だけでなく法制面からも自衛隊の対処能力を再点検する必要がある。

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察 自衛隊法を「ポジティブ・リスト」から「ネガティブ・リスト」に変えていくべきだという意見は、専門家の間では長年の懸案でした。

しかし自衛隊の「ネガティブ・リスト」に反対する声として、国会によるシビリアンコントロールの担保を上げる声があります。

しかし民主主義国家の健全なシビル・ミリタリー(政軍)関係は、法律で自衛隊の手足を縛るような関係からは生まれません。

政治(国会)側も自衛隊側も安全保障の目標を共有して対処すべきミッションを遂行する中で生まれます。戦前のような「軍隊の暴走」を防ごうと考えて自衛隊法を「ポジティブ・リスト」のままにすべきと考えているのでしたら、それは誤ったシビリアンコントロールです。

2023年3月26日 6:48』