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『【ジャカルタ=安部大至】菅義偉首相は20日、2カ国目の訪問先インドネシアでジョコ大統領と会談した。新型コロナウイルスでの経済的な打撃を踏まえ、500億円の円借款供与を表明した。人の往来再開も議題に取り上げ、経済再開への意欲を前面に示した。
首相はインドネシア経済の立て直しを支援する考えを伝えた。医療研究機関に物資や機材を提供するとも明らかにした。
両首脳は経済連携協定(EPA)に基づき看護師や介護福祉士の候補者受け入れに向けて協議する方針を確認した。ビジネス目的の短期滞在者も早期の行き来を実現するため外相間で調整すると申し合わせた。
インドネシアは人口2億7千万人を抱える東南アジア諸国連合(ASEAN)最大の国である。国内総生産(GDP)もASEANの4割を占める。
新型コロナ感染者数は1日あたり4千人を超える日もある。感染拡大に歯止めがかからず、死者も1万人を突破した。ベトナムのようにビジネス客を受け入れる対応は難しいものの収束を見据えて布石を打った。
首相は内閣発足直後から「新型コロナ対策と経済を両立させなければ国そのものが立ちゆかなくなる」と経済活動の再開に力を入れてきた。東南アジア訪問では自ら提起した。
インフラ開発での協力にも力を入れた。ジョコ氏との首脳会談で、ジャカルタ近郊の都市高速鉄道や港湾、離島の開発支援で協力すると確認した。ベトナムでも火力発電所の投資開発に関する覚書などを交わした。
両国を含む新興国へのインフラ輸出は首相が官房長官時代から重視してきた。今回の東南アジア訪問は安倍前政権でもインフラ輸出の交渉を担った和泉洋人首相補佐官が同行した。
安全保障分野では、首脳会談で「自由で開かれたインド太平洋」を推進すると訴えた。外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)の早期開催をめざす方針で一致した。
インドネシアは東南アジアで唯一、日本と2プラス2を実施する。前回2015年は中国の活動が活発な南シナ海情勢を巡り海洋安全保障の連携で合意した。今回の首脳会談では防衛装備品の移転に向けた協議の加速、海上保安当局の人材育成で協力すると確認した。
最近の同国は中国に厳しい姿勢を示す。南シナ海南方のナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)で中国漁船が公船を伴って活動するのが背景にある。
5月には中国が独自に主張する境界線である「九段線」を否定する書簡を国連本部に送った。首相の訪問は対中連携を深める好機とみる。ジョコ氏は会談で「世界の大国同士の競争により多国間協力が脅かされている」と協力を呼びかけた。
首相が初の外国訪問で成果を急ぐのは新型コロナ対応で対面外交が難しい事情もある。
例年、秋は9月下旬のニューヨークでの国連総会や、ASEAN関連首脳会議が相次ぎ、首脳外交が活発になる。今年は新型コロナの影響で停滞を強いられている。
11月中旬に開くASEAN関連首脳会議は対面形式で開けるか明らかになっていない。同月21~22日に予定する20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は議長国のサウジアラビアがオンラインでの開催を決めた。
帰国後は初の国会対応がある。26日召集の臨時国会で所信表明演説に臨む。会期は12月5日までとなる。閉会後も21年度予算案の編成や税制改正作業が大詰めを迎える。政治日程をみても対面外交の機会は限られる。』