https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63515400X00C20A9000000/
『それぞれの大統領候補を指名した民主・共和両党の党大会や、警官による黒人男性の銃撃事件が発生した中西部ウィスコンシン州ケノーシャでの激しい抗議活動などを経て、大統領選挙の結果を左右すると見られる激戦州で、共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領の両候補の支持率の差が詰まりつつあるというデータが出ている。
世論調査ではバイデン氏(左)が支持率でトランプ氏をリードしているが、両者の差は縮まっている=AP
米モンマス大学が先ごろ発表した世論調査結果では、勝敗の鍵を握る州の一つであるペンシルベニア州で、登録有権者の支持率がバイデン氏の方が4ポイント高かった。7月中旬に行われた同じ調査では、この差は13ポイントあった。ウィスコンシンやアリゾナなどその他の激戦州では、バイデン氏のリードはもっと大きい。
いくつかの州での調査は接戦を予想させる結果が出ているが、トランプ大統領がリードしている州はほとんどない。しかし党大会以降、賭けサイトや賭け業者の予想は「トランプ大統領有利」へと大きく変わった。今やトランプ氏の再選確率は50%になっている。
有権者も自信が持てないでいるようだ。米ピュー・リサーチ・センターの最新の世論調査では、支持率でバイデン氏が8ポイント上回ったが、支持者のうちバイデン氏が実際に勝利すると考えているのは82%にすぎなかった。逆にトランプ大統領の支持者は10人中9人が大統領の再選を予想している。
■実際はそれほど接戦ではない?
バイデン氏がはっきり優勢と出る全国世論調査の結果と、有権者の認識や賭けサイトなどが示す予想結果とがこれほど乖離(かいり)している理由はなんだろうか。
一つには、世論調査で優勢でも、選挙人団による実際の選挙での勝利には必ずしもつながらないということがある。2016年の大統領選は、ヒラリー・クリントン氏が総得票数ではトランプ氏を上回ったが、選挙では敗れた。同じ事が民主党のアル・ゴア氏が共和党のジョージ・W・ブッシュ氏に敗れた00年の選挙でも起きた。
そこで政治評論家の中には、州ごとの世論調査の平均値に注目する向きもある。こうした数字では、現時点でのバイデン氏のリードは、16年の同時期にクリントン氏が保っていたリードより小さい。特にトランプ氏の勝利の鍵となった諸州ではそれがいえる。
しかし20年の各州の世論調査の結果を16年の数字と単純に比較するのは、現状認識を誤らせる可能性がある。現実にはそこまで接戦にはなっていないかもしれないからだ。主な理由は2つある。
1つ目は前回調査ではトランプ支持が実際より低く、調査機関が精度向上に努めていることだ。
16年の全国調査はほぼ正確だったが、州ごとの調査では特に激戦州で、トランプ氏への支持が実態より低く出る傾向にあった。トランプ氏の支持率はウィスコンシン州では選挙結果よりも6.5ポイント、ペンシルべニアおよびミシガン両州でも4~5ポイントそれぞれ低かった。
■学歴が最大の要因だった
アメリカ世論調査協会(AAPOR)の分析によると、主因の一つは州の調査機関の多くが、調査対象を教育水準によって調整しなかったことだ。つまり、回答者に占める高等教育を受けた人の割合が高くなりすぎた。
これは16年以前の選挙では、それほど問題にならなかった。12年の大統領選では、有権者の学歴と支持する候補の間の相関はそれほど高くなかった。だが16年の選挙では、教育水準が恐らく有権者(特に白人)の選択に最大の影響を及ぼしたと考えられる。
州の世論調査機関の多くは調査対象を年齢、性別、人種など従来の統計的要因と同様、教育水準についても調整することでこの問題を解決しようとしている。
この統計的処理が結果にどの程度、影響を与えるかを知るために、3つの州の世論調査機関にそれぞれの最新調査について、学歴による調整を除いた結果を出してもらった。するとどの調査でも程度の差こそあれ、バイデン氏のリードがより大きく示された。中でもノースフロリダ大学によるフロリダ州の調査では、同氏のリードは6ポイントから11ポイントへと跳ね上がった。
■最終週にトランプ氏への投票決める
もう一つの理由は前回より無党派層が少なく、彼らはバイデン支持に傾いていることだ。
学歴による調整の問題だけが16年の世論調査と選挙結果の違いの要因ではない。マーケット大学ロースクールによるウィスコンシン州の世論調査は、16年に学歴調整をした数少ない調査の1つだったが、それでも実際の結果とは6ポイントの誤差があった。
同調査を監修したチャールズ・フランクリン氏は、この誤差を「選挙直前の世論の動き」によるものだと説明する。どちらの候補にも好感を持てずに態度を決めかねていた有権者が多くいたのだが、そうした人々は選挙前の最終週にトランプ氏への投票を決めたという。
選挙戦の終盤になって態度を決め、それが結果を左右することになる有権者の動向については、世論調査機関もお手上げだ。AAPORの報告書はこうした人々は、16年にはウィスコンシン、フロリダ、ペンシルベニアの3州で有権者の13%を占めていたと指摘している。
さらにトランプ氏を支持していても公言しない「隠れトランプ支持者」が多くいたという説もある。もっともAAPORの報告書やその後の調査ではそれを裏付けるような証拠はほとんど出ていない。
■今回はバイデン氏を選ぶか
今回は終盤に態度を決める有権者が選挙結果を左右する可能性は小さい。例えば、マーケット大によるウィスコンシン州の世論調査では、投票に行くと思われる有権者の間でのバイデン氏の支持率は50%で、トランプ氏が46%だった。まだ決めていない、あるいは両候補以外に投票すると回答した有権者は4%にすぎないことになる。
これに対し、マーケット大の16年の最終調査では、クリントン氏の支持率は46%でトランプ氏が40%だった。つまり14%は未定または第3の候補の支持者だった。バイデン氏の現在のリードは当時のクリントン氏の数字より小さいが、バイデン氏の方がほぼ間違いなく有利な状況だといえる。
さらに、まだ態度を決めていない有権者は、どちらかといえばバイデン氏を選ぶ可能性が高いことを示すデータがある。フランクリン氏によると、8月にマーケット大が行ったウィスコンシン州の世論調査では、どちらの候補も嫌いな有権者の58%がバイデン氏に投票するだろうと回答した。
とはいえ、投票日までまだ2カ月あり、何らかの外的要因が選挙戦の流れを大きく変える可能性も残されている。
■予算不足に悩む世論調査機関
米国民の多くはトランプ氏の新型コロナウイルス対応に不満を持っている。ところが、このことがトランプ大統領にとって11月の選挙でどの程度のマイナスになるのか、さらに大統領の「法と秩序」というメッセージが選挙結果にどういう影響を与えるのかははっきりしない。投票率がどうなるかも不確定要因だ。
最後に、16年の世論調査に影響を与えた問題の多くが未解決のままだ。鍵を握る州の信頼度の高い世論調査機関は、予算不足と高コストに悩まされている。質の高い州単位の世論調査は1万ドルから2万ドル強の費用がかかるため、ほとんど実施されていない。
「16年に世論調査が直面していた構造的な問題は現在も残されたままだ」。ピュー・リサーチ・センターで世論調査の責任者を務めるコートニー・ケネディ氏はこう指摘している。
By Christine Zhang
(2020年9月4日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)』