https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB234FM0T21C20A2000000
『【上海=松田直樹】中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は2021年にも独占禁止法を改正する方針を固めた。法改正で大手ネット企業の独占行為などの取り締まりを強化する。市場での影響力を高めているアリババ集団や騰訊控股(テンセント)などのネット大手をけん制する狙いもあるとみられ、中国経済の成長を引っ張ってきたネット企業の競争力に響き、イノベーション(技術革新)を阻む恐れもある。
全人代常務委員会…』
・全人代常務委員会の法制工作委員会の報道官は21日に開いた記者会見で、21年に法改正を審議する重点法案の中に独禁法を挙げた。法曹関係者によると、08年に施行された独禁法が改正されるのは初めてとの見方もある。
・独禁法を管轄する国家市場監督管理総局はこうした動きに先行し、20年1月に独禁法の改正案を公表してパブリックコメント(意見公募)にかけていた。21年に予定する法改正はその改正案を深掘りする方向で進むとみられる。
・改正案ではネット企業への独禁法の執行を強化するための布石とみられる文言が新たに盛り込まれている。「インターネット分野における企業の市場での優越的地位を認定するにあたり、(企業の)経済規模やデータ収集などの要素を考慮する」と条文に追加した。
・プラットフォーマーの定義を法律上も明確にし、市場での独占行為やビッグデータの運用などの取り締まりを強化することが念頭にあるとみられる。
・罰則規定の強化も新たに盛り込んだ。違反した場合の罰金額を従来の50万元(約800万円)から5000万元に引き上げた。さらに、独禁法違反の疑いがあれば管轄当局だけでなく、新たに公安当局も調査に参加できるとしている。
【関連記事】
アリババ創業者、共産党と根深い対立
「無秩序な資本」アリババも標的 習近平氏が急旋回
アリババに迫る国家包囲網 党や政府が企業を支配下に
・11月にはアリババ傘下の金融会社アント・グループが当局の監督方針の変更で大型上場を延期した。その後も規制当局がアリババなど巨大ネット企業を念頭に独占的な行為を規制する新たな指針の草案を公表するなどネット企業への包囲網を強化している。
・独禁法改正に向けて、こうした足元の動きを反映したさらなる改正案を追加で公表する可能性もある。
・中国がこのタイミングで法改正にかじを切った背景にはネット大手の影響力が高まっていることがある。18日に終了した21年の経済運営方針を決める「中央経済工作会議」では重点課題の一つとして「独占禁止と資本の無秩序な拡大の防止を強化する」と盛り込んだ。
・ネット通販市場で5割超のシェアを占めるアリババは価格の決定権などで大きな影響力を持つ。急成長したネット企業が市場で大きなシェアを握り、中小零細企業が利益を圧迫されたり、淘汰されたりする構図がここ数年で鮮明となっている。
・中国政府は民間企業であるネット大手が市場で強大な力を持つことに警戒を強め、この数カ月で立て続けに規制案を公表して包囲網を築いている。
・西村あさひ法律事務所で上海に駐在し、中国企業の事情に詳しい野村高志弁護士は「中国当局はネット企業の成長を支援するため、これまでは独占行為に対して目をつぶっていた側面もあった。法改正に動き始めたことで、今後は法律を厳格に運用するという姿勢を示した」と指摘する。
・14日にはアリババやテンセント子会社などに過去のM&A(合併・買収)に問題があったとして、当局が独禁法違反で罰金処分を公表した。アント・グループなどは21日までに、当局が問題視したスマートフォンを通じて銀行預金を仲介するサービスを取りやめるなど事業への影響も出始めている。