デジタル通貨で国際決済 即時送金、日米欧中銀が実験https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0323R0T00C24A4000000/
『2024年4月3日 23:01
【この記事のポイント】
・日銀やニューヨーク連銀など中央銀行7行が国際決済の実証実験に参加 ・三菱UFJフィナンシャル・グループも参加を「前向きに検討」 ・将来実用化されれば越境決済の仕組みを塗り替える可能性
日米欧など中央銀行7行や民間銀行がデジタル通貨を使った国際決済の実証実験に乗り出す。貿易代金のやり取りなどを低コストで即時に決済できるようにする狙いだ。実証実験の成果を基に、中央銀行デジタル通貨(…
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『国際決済銀行(BIS)が3日夜、CBDCを使った実証実験の実施を発表した。日銀のほか、ニューヨーク連銀やイングランド銀行、フランス銀行、スイス国立銀行、韓国銀行、メキシコ銀行が参加する。国際金融協会(IIF)が呼びかけ各国の主要な民間銀行も加わる見通しで、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は「前向きに検討している」とコメントした。三井住友FGやみずほFGも「詳細を確認した上で、参加の是非を検討する」としており、米国ではシティグループなどが候補に上がっているようだ。
中国は既に一般人も対象としたCBDCの実証実験を広範囲で実施している。金融関係者は「今回の実証実験はアジア、米欧と地域構成のバランスを取った形となる。中国に対抗するという位置づけにもなる」と話しており、CBDCを巡る世界の主導権争いは激しさを増している。
現在の越境決済は国際的な送金インフラ「Swift(国際銀行間通信協会、スイフト)」を使う方式が主流だ。「コルレス銀行」と呼ばれる銀行を中継して送金元から送金先の銀行に届けるため、長ければ数日から1週間程度かかる。中継や送金の手数料が発生することから、日銀の分析によると、銀行経由で200ドル(約3万200円)を海外に送金する際にかかるコストは2013〜19年の平均で2割弱に及んだ。
世界の年間貿易額は30兆ドルを超える規模だが、代金のやり取りの時間とコストがかさむことがモノの貿易をさらに振興していく上でのボトルネックとなっていた。
今回の実験プロジェクトは中央銀行が提供するデジタル通貨を金融機関による越境決済に利用することを想定する。スイフトとコルレス銀行がそれぞれ担ってきた機能をBISが一括で提供する新たなプラットフォームで代替することを目指す。時期や具体的な仕組みなどの詳細は今後詰めるが、「ブロックチェーン(分散型台帳)を使う可能性もある」(関係者)。
ブロックチェーン技術などによって一件一件の送金と送信元の情報がひも付き、資金も即時に送られることになれば、企業や銀行はお金と情報の一元管理が容易になる。資金を受け取るまでに、海外の取引先が破綻し、資金回収が困難になるといったリスクも減らせる。BISは3日の記者会見で「(既存の決済網が抱える)解決困難な問題を解決するゲームチェンジャーになりうる」と強調した。
BISはこれまでも中銀デジタル通貨に関連する複数の実験プロジェクトを進めてきた。香港やタイの中央銀行が参加した実験では、通常は数日かかる越境決済が数秒に短縮できたという。今回の実証実験でも、貿易代金などの大口資金を24時間365日、即時に決済することを目指しているもようだ。
中銀によるデジタル通貨はマネーロンダリング(資金洗浄)対策を強化する上でも有効な手段になりうる。現金や民間のデジタル通貨は犯罪の温床になっているとの指摘があり、BISは官民連携によるデジタル通貨の有用性を検証していく。
今回は日米欧の主要中銀が参加する点も特徴だ。日銀がこうした多国間の実証実験に参加するのは初めてとなる。金融機関同士の資金移動で利用するCBDCは、個人が利用するものよりも実現性が高い。日銀には「国際協調の枠組みに加わり情報を得ておく」(関係者)狙いがある。
ただ、日銀は今回のプロジェクト参加と、デジタル円の発行とは一線を画す。植田和男総裁はデジタル円について「国民的な議論を経て決まるべきもの」との認識を示す。デジタル通貨の導入を決めていないものの、将来必要になった場合に備えているというスタンスだ。
BISが進めてきたデジタル通貨を使う国際決済網づくりは、従来の決済基盤であるスイフトに頼らない新しい決済システムの構築をめざす動きといえる。
スイフトは約200カ国・地域から1万1千超の金融機関などが参加し、その決済額は1日平均5兆ドルに上るとされる。今回の実証実験の成果を基に、CBDCを使った国際決済が将来、普及していけば、国際送金にかかるコストや時間が劇的に抑えられるようになる可能性がある。
明治大政治経済学部の小早川周司教授は「中銀の参加によって透明性の高い枠組みになることが期待される。CBDCを使った越境決済でどのような枠組みが国際標準になるかはまだ不透明で、日銀がルールづくりに積極的に関わることは重要だ」と指摘する。
米銀などはデジタル通貨を預金や決済に適用して顧客や決済情報の囲い込みを進めている。
日米欧の中銀が実証実験に参加するのは、こうした民間の動きに対抗するという側面もある。大手銀行の関係者は「法定通貨を扱う中銀もデジタル通貨の決済の検討に参加せざるをえない流れになっている」と指摘する。
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・日銀総裁、デジタル円導入は「国民的議論で決まるべき」 ・三菱UFJ信託、デジタル通貨で貿易決済 新興と連携 ・デジタル通貨、導入に備え大枠議論 政府・日銀が初会合 ニュースレター登録
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西村友作のアバター 西村友作 中国対外経済貿易大学国際経済研究院 教授 コメントメニュー
ひとこと解説 中国はCBDC「デジタル人民元」の試験運用を積極的に進めています。
その背景には国内外の要因がありますが、国際要因の一つとして、世界的議論の場での「発言権」を獲得する狙いがあるとみられます。将来的にCBDCの発行が増えると、先進国、新興国を巻き込んだ世界的な議論へと発展していくと考えられます。そこでは、早くから研究開発に着手しより多くの経験を積んだ国が議論をリードすることになると思われます。
なお、国内の試験運用にとどまらず、海外の中央銀行などと共同でCBDCを用いてクロスボーダー決済を行う研究も進められています。 2024年4月4日 7:27いいね 5
福井健策のアバター 福井健策 骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士 コメントメニュー
分析・考察 国際契約・ビジネスの現場では、SWIFT送金は長らく「遅い、高い」の代名詞でした。「今週中に着金しないとまずいが、間に合うのか?」もそうですし、例にあるように3万円の送金でなぜ数千円もの手数料を払うのか、なぜ国際送金はもっと安く安全にできないのか?ですね。改善は、遅すぎたと感じる人も多いでしょう。
さて、スマートコントラクト。要するに自動化された契約取引で、カード番号を入れて購入ボタンを押すと電子書籍がダウンロードされるなども、ざっくり言えばそうです。
これがブロックチェーン技術により途中での改ざんや記録消失がされにくいとされますが、当然ながら課題もあります。さて、期待と注目ですね。 2024年4月4日 7:55 (2024年4月4日 8:04更新) いいね 2
田中道昭のアバター 田中道昭 立教大学ビジネススクール 教授 コメントメニュー
ひとこと解説 「プロジェクト・アゴラ:中央銀行と銀行セクターが国境を越えた決済のトークン化を模索する主要プロジェクトに着手」とのタイトルのプレスリリースをBISが4月3日付けで行いました。
ギリシャ語で市場や広場の意味をもつプロジェクト名にしたのは、本件を中央銀行と民間銀行全体の決済プラットフォームにするという使命を込めたようです。
「通貨システムの機能を強化し、スマートコントラクトとプログラマビリティを使用した新しいソリューションを提供することができる」「スマートコントラクトは、新しい決済方法を可能にする」等としています。
まずは主要国の主要民間銀行がどれだけ参加するかが大きなポイントになると思います。https://www.bis.org/about/bisih/topics/fmis/agora.htm 2024年4月4日 7:38 (2024年4月4日 7:45更新) いいね 6
浅川直輝のアバター 浅川直輝 日経BP 編集委員 コメントメニュー
ひとこと解説 BISが手掛ける今回の実証実験は、プログラムで支払い処理を自動制御できる暗号資産発の技術「スマートコントラクト」に着想を得たものです。
各国の中央銀行が発行するCBDC(中銀デジタル通貨)を準備金に見立て、「トークン」と呼ばれるプログラマブルな請求データをやり取りします。
決済のファイナリティ(完了性)を中銀のデジタル通貨が担うため、より信頼性の高い決済基盤になり得ると主張しています。
国際決済についてはSWIFTも改善を進めており、コルレス銀行を介さずに銀行同士で直接送金できる新システム「SWIFT gpi」を通じて即日着金と取引透明化を進めています。
BISの試みと競合する関係といえそうです。
2024年4月4日 6:38 』