
























合理的で優秀、なのに「伸びしろ無し」と判断される就活生
損得勘定がうまいことのメリット、デメリット
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00077/092800021/?P=1















『新型コロナで大波乱となった2020年の就活も、多くの企業で内定式が行われる日を迎えました。
就活支援の特別編として、「保全性」「拡散性」「受容性」の高い学生の方々に対して就活のアドバイスをしてきました。今回は「弁別性」を取り上げます。来年以降も活用できる内容と自負しておりますので、就活継続中の方も、来年就活の方も、ぜひ引き続きご覧ください。
「弁別性」の高い人は、何らかの根拠(データ、経験)を基に「必要」か「必要ではない」かを常に考え、「必要」と判断したものを直ちに選択します。
合理性や投資・費用対効果を重んじ、効率的に物事を進めようとします。
こう言うと、よくいる「コスパ」指向の人のようですが、「弁別性」が高い人は、それとはひと味違う凄みを感じさせます。
「それって意味あるの?」が彼らの口癖です。
そう問われた相手が、「まだ分からないけど、やってみたい」と答えようものなら、「意味のないことはやらない」とバッサリと切り捨てることも。
「白か黒か」の線引きが明確で、幅というか、“アソビ”がないのです。
また、自分の部屋には、機能性重視で必要なものしか置きません。最近流行のミニマリスト的な面もあります。
自分自身に、こうした思考・行動特性を感じる方は、FFS理論(※)でいえば「弁別性」が高い人、と言えます。
※5つの因子とストレス状態から、その人が持つ潜在的な強みを客観的に把握することができる理論(開発者:小林 惠智博士)。詳しく知りたい方は書籍『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み【自己診断ID付き】』か、こちら。
合理性を重視する「弁別性」の特性は、ビジネスの世界ではたいていの場合有利に働きます。
「弁別性」の高い人は、好き嫌いといった感情に左右されにくく、根拠に基づき最適解を求めようとします。物事を客観的に判断し、ゴールに最短距離で到達する方法を選べる人は、組織でも高く評価されることが多いでしょう。
ところで、「合理的」とよく似た言葉に、「論理的」があります。
合理的思考と論理的思考。どちらもビジネスパーソンには必要な思考です。よく似た意味なので混同しやすいのですが、FFS理論ではこの2つを明確に区別しています。
まず、2つの言葉の意味を辞書で確認してみます。
論理的=1:論理の法則にかなっているさま
合理的=1:道理や論理にかなっているさま
2:物事の進め方に無駄がなく能率的であるさま
どちらの言葉も、「1:論理の法則にかなう」という意味は共通していますが、「合理的」にはさらに「2:無駄なく、能率的である」という意味があります。
1と2の大きな違いは、1の論理的な思考は、基本的に訓練によって身につけることができるのに対し、2の合理的な思考は、訓練では身につけることができない、ということです。
FFS理論が定義する「合理的」とは、意図せずとも「ムダなく、能率的にしてしまう」状態のことを指します。無意識のうちに、ムダを省いてしまうのです。つまり、合理的思考は、訓練で身につく能力というよりも、「弁別性」という個性に起因する能力と考えるのです。
さらに言えば、合理的思考を備えた「弁別性」の高い人は、論理的思考とも相性がいい。つまり、他の因子が高い人よりも、訓練によって論理的思考を身につけやすいのです。論理的思考は、仮説・検証を繰り返して方針を導いたり、物事を構造的に捉えて全体像を客観的に捉えたりするうえで必要な能力です。
さて、今回のテーマである就活に話を戻すと、「弁別性」の高い学生は、就活でも論理的・合理的思考を披露できるため、一次面接くらいまでは難なくクリアしていきます。
ところが、それより先になると、内定まで進む学生と、苦戦する学生とに分かれます。
面接官に好印象を与えるはずの論理的・合理的思考を備えながら、就活に苦戦する学生がいるのはなぜでしょうか。
それは、弁別性の「合理的である」という特性が、うまく活かせば強みとなる一方で、それが裏目に出ると、機械的で冷たい印象を与えたり、「損得勘定で動く、自己都合な人」と思われたりするからです。特に、未熟な人の場合、「弁別性」の特性がネガティブに出ることがあります。
志望動機に熱い思いが感じられない
内定が決まらず、就活に苦労したTさん。面接ではこんなやり取りがありました。
面接官:「なぜうちの会社に興味があるの?」
Tさん:「御社は業界トップで、知名度があるので、もし自分が営業に配属されたとしても、楽に働けそうだと感じました。また、育成環境が整っていることも安心です。有給消化率、離職者の少なさ、報酬額とその伸び率も魅力的に感じました」
あなたが面接官だったとしたら、この志望動機を聞いて、どんな印象を受けるでしょうか。
Tさんは、その会社の魅力を伝えたつもりかもしれませんが、面接官にしてみれば、「Tさんにとってこの会社が、いかに都合がいいかを並べただけ」に聞こえたでしょう。
合理性を重んじる「弁別性」の高い人は、「何をやりたいか」よりも、「いかに楽に稼げるか」で会社を選ぶ傾向があります。投入する時間と労力が、効率よく換金される組織、というわけですね。
ですので、会社を選ぶ基準は、勤務体系や教育、福利厚生など、仕事というよりも労働条件になりがちです。
労働条件が変われば、「白(行きたい会社)」が「黒(行きたくない会社)」に変わることもあるので、会社を絞り切れないことも多いのです。
Tさんの志望動機には、もしかしたら会社や将来の仕事に対する熱い思いがあったのかもしれません。しかし、そこを打ち出さなかったため、内定獲得に至らなかったと考えられます。
自分に必要ない人間とは付き合わない
合理性を重視する(してしまう)「弁別性」が高い人は、面倒な人間関係を避けようとする傾向があります。
「役に立たない」と判断した相手とは、たとえ同じサークルの仲間でも、わざわざ関係を構築しようとはしません。人間関係も白か黒かに分けるので、自分に必要ない相手と思えば、バッサリと切り捨ててしまうこともあります。
誤解してほしくないのですが、このタイプの特性が「悪い」というわけでは決してありません。それは個人の生き方の選択肢の1つとして、十分納得できるものです。
ただし、すべてを自己都合で切り捨てていると、本人の気づかぬうちにチャンスを逃して、よりよい結果につながらなかったりします。
経験豊富な面接官には、そうしたこともお見通しです。「この学生は、社内の人間関係や仕事先との付き合いを「合理的」にやりすぎてしまいそうだな……」と見抜いて、「これまで人間関係を避けてきたみたいですね」と、切り込んでみたりします。
学生側は図星を突かれて、「え?」と一瞬口ごもりますが、嘘をぱっとつける個性ではないため、「そんなに人間関係って大事ですか?」「どんな人でも、必要であれば、仲良くなることができますよ」と、言わなくてもいいことを口走ってしまうのです。
情報を基に物事を判断する「弁別性」の高い人にとって、条件の提示は自然かつ当然の行為です。ところが、「人間関係も条件次第で判断する」ところを面接官に暴露してしまえば、「この学生は機械的で冷たい」という印象を与えかねません。
そもそも「弁別性」の高い人が人間関係を避けたがるのはなぜでしょうか。 人間関係につきものの「感情」を煩わしく思うからです。好き嫌いといった感情が絡めば、客観的な判断がしにくくなります。
例えば、仲間と旅行に出かけるとします。
「弁別性」の高い人は、「最短・最速でムダのない方法で行きたい」と考えます。乗り継ぎや徒歩での移動手段、宿泊施設も含めてあらゆる情報を集めて、その中から一番合理的な行き方を選択しようとします。
一緒に旅行する仲間が皆、同じようなタイプなら問題はありませんが、中には“鉄オタ”がいて、「ローカル線でゆっくり旅したい」と言い出すかもしれません。あるいは「僕はホテルとか決めてからの旅行って全然したくないんですよ」という人もいるでしょう(例えばこの方。「『自分を嫌いな上司』の真実が分かる本」)。
ところが、「弁別性」の高い人は、「ローカル線の旅なんて時間のムダ」と考えて、仲間の気持ちに思いを寄せることなく、仲間の意見を却下しがちです。
ビンセントは、良くも悪くも他人に容赦がない(10巻#94「いつも心に万歩計を」)
人と交流しなくて済むように、学生時代は部活には参加せず、帰宅部を選択する人も多いでしょう。家で誰にも邪魔されず、読書三昧で過ごすこともしばしばです。
アルバイトも、面倒な人間関係を避けて、効率重視で選びます。例えば、システム開発のアルバイトのように、自宅で一人でできて、時給の高いアルバイトを好みます。
私の学生時代の知り合いは、「ハッカー的な仕事」を請け負っていましたが、彼も「弁別性」の高いタイプでした。時間や場所を自由に選択できて、時給も相当高いので、彼にとっては最適なアルバイトだったはずです。
また、そのために必要と判断すれば、高度なスキルの獲得も厭いません。
「できる。でも、伸びしろがない」と思われる
無難に何でもこなす「弁別性」の高い人は、就活でも「優秀」と評価されます。
とはいえ、「いま優秀」なだけでは即採用、とはなかなかなりません。
面接官が採用したいと思うのは、「地頭の良さ」は当然ですが、潜在的な可能性、すなわち「伸びしろ」のある人です。
伸びしろとは具体的に何なのかといえば、入社後の新しい環境における対応力、つまり「素直さ」や「感受性の豊かさ」です。採用においては、これらの要素が重要視されるのです。
ところが、最短・最速で生きて来た証としての「ムダのなさ」には、その辺りの要素があまり感じられません。
そこが、面接官への印象を悪くしてしまうことがあります。「そこそこ優秀だけど、入っても伸びしろがないな」と思われるわけです。
また、感情を持つ人間の営みであるビジネスには、理不尽さがつきまといます。
誰もがスパッと物事を割り切って、投資対効果を最大化できる最適解を選んでいるわけではありません。
例えば、一緒に働く仲間の気持ちをくみ取ったり、悩んでいる相手に寄り添い、飲みながら愚痴を聞いたりすることも時には大切です。「弁別性」の高い人には、ムダに思えるかもしれませんが、「人としての余裕」を感じられるかどうかも、採用面接では問われるのです。
ムダを嫌い、合理性を重んじるのは正しい。けれど
就活中の「弁別性」の高い学生の方へのアドバイスとしては、まず、そんな自分を「理解」していただきたいと思います。
就活ではよく「自己理解」という言葉が使われますが、自分の「ムダが嫌い」「コスパを意識する」ところで止めていないでしょうか。さらに奥に入って、「(他人がちょっと引くくらい)合理性を重視する」ところまで、見つめてほしいのです。
それが、おそらくあなたが常にうっすら感じている、周囲との違和感の原因です。
(これは「拡散性」「凝縮性」が高い方にも当てはまります。「受容性」「保全性」が高い人が多数派の日本社会では、その他の3因子が高い人は、どうもうまくかみ合わないことがある、と感じがちなはずです)
「自分は周りの人とは違う」という感覚はあっても、その違和感の原因が何なのか、はっきりと把握している人は少ないのではないでしょうか。そこを言語化できることこそが本当の「自己理解」です。
「弁別性」の高い人は、とにかくムダを嫌い、合理性を重んじます。
しかし、世の中は皆、そんなに合理的に動いているわけではありません。まずは、そのことを認識する必要があります。
自己理解を深めるためにおすすめしたいのは、「他者理解」です。他者との違いを相対的に理解することで、一層の自己理解につながっていきます。
例えば、「拡散性」の高い人は興味関心が最大のモチベーションになり、自分が「面白い」と思うことにはテンションが上がります。
「保全性」の高い人は、効率や合理性よりも、仲間と一緒であることを好みます。
「受容性」の高い人は、相手の幸せが自分の幸せと感じます。周りの人たちの気持ちをおもんぱかるため、周りの人たちの気持ちに影響されて、一喜一憂しやすいのです。
以上、合理性を好む「弁別性」とは対照的な因子を紹介しましたが、このように見てみるだけでも、人の個性はそれぞれ違うことが分かります。違うということは、個性の異なる相手とは誤解も生じやすいということです。
「合理的である」という弁別性の特性は、それがネガティブに出た場合、「機械的で冷たい」という印象を相手に与える恐れがあります。面接ではそのことに留意しながら、自分の特性をポジティブに表現できるように心がけてみましょう。
つまり、データに基づいて先を読める先見性と、何事にも合理的に対応できる能力。これが「弁別性」の高いあなたの武器なのです。
割り切れない人間関係にも学ぶべきことはある
就活までにまだ余裕がある1、2年生の方々には、ぜひ、矛盾をはらんだ「人」という存在との密な関係を体験していただきたいと思います。
未熟なうちは、自分の損得だけで計算して、最適解を見つけようとします。しかし、経験の浅い自分だけの判断基準で割り切っても、いい結果が得られるとは限りません。しょせん、そこそこのレベルで終わってしまいます。
「弁別性」の高い人が成長するには、社会で揉まれる中で、合理性だけで割り切れないことがあることを学びつつ、一見すると「役に立たない」と思うことを大切にすることで、長期的には成功に近づくことを理解する必要があります。
そんな曖昧で割り切れないものを受け入れるのは、非合理的だと思うかもしれません。しかし、「弁別性」が高く「優秀だ」と他人から評価されている人は、自分の下手な計算よりも、計算を超えた人との縁や人間関係によって結果が最大化することを、実証により知っています。
ですから、何事にも都合を考えず、誘われるままに体験してみることも大切なのです。しかも、できるだけ密に関わって、泥臭い体験にあえて飛び込んでみることです。
割り切れない状況を理不尽だと感じたり、やっている意味が分からないと悩むこともあるでしょう。
そのようなときは、自分で納得のいく新たな判断基準で線引きすれば、理不尽さを解消できます。つまり、曖昧模糊とした状況や関係にも、「何らかの意味はある」と割り切ればいいのです。
理不尽と感じるのは、自分が決めた判断基準に合わないからです。だったら、理不尽のラインを少しずらして、「理不尽に見えるが、意味はあるはず」という認識に変えればいい。
なんだかムチャクチャを言っているようですが、実は、合理性がないと行動するのが辛い「弁別性」の高い人は、何か「理由がある」と思えさえすれば納得でき、力を発揮する、という強みも持っているのです。
無人のはずの月基地に人影が……
「理不尽なことにも意味がある」と認識する。これは具体的にどういうことでしょうか。
これを教えてくれるのは、人気漫画『宇宙兄弟』に登場するNASA宇宙飛行士のビンセント・ボールドです。彼の登場シーンから、「弁別性」の高い学生が参考にすべき振る舞いを紹介しましょう。
ビンセントはムダなことが大嫌い。「弁別性」が高いタイプです。(ビンセントの「弁別性」の高さを解説した過去記事はこちら→「褒めてくれない“冷たい上司”とストレスなく付き合うには」)。
前回、「リモートワークのストレス」について解説した際にも書きましたが、『宇宙兄弟』の最新刊(38巻)では、主人公の宇宙飛行士・南波六太(ムッタ)と同僚のフィリップ・ルイスが、他の仲間が地球へ帰還した後も、2人だけで月面残留を余儀なくされています。いわゆる「リモートワーク」の状態です。
しかも、彼らが取り組む月面プロジェクトは非常に難易度が高く、2人はかなりのストレス状態に追い込まれています。
ムッタとフィリップが、滞在中のムーンベースから、少し離れた小型基地へと移動したときのこと。2人が建物に足を踏み入れると、無人のはずの基地内に、人影がありました。
「誰かがいる」と思った相手の正体は、管理用ロボットでした。2年前、この基地の建設に関わった日本人宇宙飛行士の紫三世が、後からやってくる宇宙飛行士を驚かそうと仕込んだイタズラだったのです。
“アソビ”を受け入れたビンセント
ビンセントは、かつてムッタがアスキャン(宇宙飛行士訓練生)時代の指導教官だった人物です。ムッタが知るビンセントは、ムダをトコトン嫌い、自分にも相手にも厳しい合理主義者でした(ただし、見込んだ相手には手を差し伸べる優しさがあります)。
普段のビンセントなら、「イタズラなど時間のムダ」と一蹴しそうです。それなのに、紫のイタズラを容認したことに、ムッタは驚いたのです。
合理主義者のビンセントが、紫の“アソビ”を受け入れたのはなぜでしょうか。
ムッタとフィリップがストレス状態にあることは、ビンセントも気づいていました。今後の作業を成功させるためには、「何かガス抜きになるようなことが必要かもしれない」と思っていたところに、紫が2年前に仕掛けたイタズラの話を聞いたのでしょう。「これは2人にとって気分転換になる」と明確に判断したのだと推察します。
イタズラを「馬鹿らしい」と切り捨てるのではなく、ムッタとフィリップには「意味のあるイタズラ」として、受け入れる合理に到達したのです。
「弁別性」が「素直さ」を持てば鬼に金棒
現実の世界でも、実際に超アナログなサービス業に身を置き、「泥臭いことを受け入れることの合理」に行き着いた「弁別性」の高い人物を2人ほど知っています。
彼らは、普段はドライな面は一切見せません。どちらかと言えば、ニコニコしています。
相手が話しやすいよう、笑顔でうなづいたり、自ら盛り上げ役を買って出たりして、和気あいあいとした雰囲気を作っていきます。その結果、短期間に親密な人間関係を構築することができているのです。
彼らも若い頃は、ドライな個性ゆえに損をした経験がありました。自己都合で人間関係を割り切っていては誰もついてこないことを学び、「仲間を作る合理」にたどり着いたのです。
仲間と親密な人間関係を築くことで、仕事をスムーズに進めることができ、その結果として「最短を実現している」、ということです。
この原稿の中ほどで、面接官が学生の皆さんに期待しているのは将来的な伸びしろであり、それは新しい環境に対応できる「素直さ」や「感受性の豊かさ」である、と書きました。
「素直さ」や「感受性の豊かさ」と聞いて、「自分は何事にも白黒つけたい性質だから、自分には無理だ」と思う人もいるかもしれませんが、それは違います。
私がお伝えしたいのは、自分の個性を活かすための素直さを持っていただきたい、ということです。
何事にも合理的に対応できる能力は、ビジネスの世界では強みです。
その合理性を、自分の損得勘定だけに使うのではなく、一緒に働く仲間や顧客の幸せのために使うことを学びましょう。割り切れない他者との関係にも意義を見出し、ある程度の理不尽も飲み込む合理にたどり着いたとき、大きく成長できるはずです。
自己都合の割り切りをしている限り、「弁別性」の強みは発揮されません。状況に合わせて条件を変え、必要であれば曖昧さや理不尽さも受け入れられるよう視座を高めていく。これが「弁別性」の素直さだと私は考えます。
© Chuya Koyama/Kodansha
(構成:前田 はるみ)
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https://style.nikkei.com/article/DGXMZO64211970U0A920C2000000?channel=DF120320205956



『意思決定はジレンマとの戦い
私が経営スタッフだった頃、役員会にかける提案の資料づくりをよくやらされました。どこから突っつかれても説明できるよう、膨大なデータと分析を要求されたものです。何度上司に持っていっても、「○○が足りない」「△△も用意しておいてくれ」と言われ、キリがありません。
揚げ句の果てに、「これじゃあ分からん。誰が見ても判断できるような資料を用意しろ」と言われる始末。「だったら小学生に役員をやらせたら?」と思わず言いそうになりました。
もちろん、必要な情報がないと判断はできません。しかしながら、すべての情報を集めて判断することはできず、それをやっていたら機を逸してしまいます。合理性に限界がある「限定合理性」の中で意思決定をするのがリーダーの仕事です。
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それに、多くの場合、意思決定にはジレンマを伴います。感染症の拡大を防止しようとすると、経済にダメージを与えてしまう、といったように。健康と経済のどちらを優先するか、まさに決断が求められます。
方策を考えるときも同じです。打ち手をいろいろ考えても、全部できるわけではありません。総花的にやるよりは、効果的な策に集中したほうが、得られるものが多くなります。
そのために必要となるのが「重点思考」です。「今何が重要か?」「中でもどれが大事か?」と、優先順位をつけて考えるのです。そうやって、大胆にメリハリをつけ、要領よく進めていかないと仕事は回りません。
多面思考と重点思考をセットで使う
先回は「多面思考」を取り上げ、いろんな視点・視野・視座から考えること重要性をお話ししました。ところが、多面思考をやればやるほど、考えがまとまらなくなる恐れがあります。
そんなときは、「どの視点・視野・視座を優先させるか?」を決めないといけません。つまり、多面思考は重点思考とセットにして使わないと、実際にはうまくいかないのです。
たとえば、「〇〇すればもっと売り上げが伸びる」と主張する人がいたとしましょう。その考えが浅いと思ったら、多面思考で考えを広げることを促すようにします。
「売り上げだけでいいの? 利益は考えなくてもいい?」(視点)、「短期的にそれでよくても長期的には?」(視野)、「自社によくても競合はどう出るだろうか?」(視座)といったように。あるいは「他に?」だけでもよいかもしれません。
そうやって、いろんな観点で考えられたら、次は重点思考の出番です。「なかでも、どの視点が重要?」「どのアイデアが最も望ましい?」と問いかけて、考えを絞り込んでいきます。
ここで大切なのが、2つの思考をきっちりと分けることです。両者を混ぜて使うと、それぞれの良さを台無しにしてしまいます。多面思考をやっていうちに、「分かった。△△すればいいんだ」と早合点をしてしまう「飛びつき病」が悪い例の典型です。
特に大人数で議論しているとそうなりがちです。「意見を発散する(広げる)ステージと収束する(絞り込む)ステージを混ぜない」という会議の原則を忘れないようにしましょう。
重要なことに資源を集中する
重点思考を進める上で大事なのが、重要なものを見極めることです。
重要とは、物事の本質や根本に大きく関わる、価値の極めて高いことです。大げさに言えば、それによって自分たちの行く末が決まるようなものです。
ビジネスに当てはめると、目的の達成に大きく貢献したり、その成否に多大な影響を与えたりすることが、重要なものに他なりません。つまり、目的をはっきりさせることが、重要なものを見極めるための一番のポイントとなるわけです。
ビジネスでは、重要な20%によって結果の80%が生み出されているという「パレートの法則」が働くことがよくあります。上位20%の顧客(商品)が売り上げの80%を占めている、20%のセールスパーソンが全体の80%の販売を担っている、重要な20%の業務が仕事の80%の成果を生み出している、といったように。
だったら、重要なものに資源を集中するのが効率的です。残りは完成度を少し落としたり、アウトソーシングをしたり、もっと効率的なやり方に切り替えることを考えます。
そもそも、人はマルチタスクができるようにデザインされていません。多くの人は、シングルタスクで一点集中するほうが仕事の効率も高まります。
マネジャーの一番大切な仕事とは?
この考えを組織全体で進めていくのは大変です。目的を理解していない人がいたり、瑣末(さまつ)なことにとらわれる人がいたりして、「何が重要か?」のベクトルがそろわないのです。
そこで大切になってくるのがマネジャーです。
マネジメントを日本語で「管理」と訳したために、マネジャーの役割を勘違いしている人がいるかもしれません。部下に仕事を割りつけて進捗をチェックするのが本務ではありません。それはコントロールであってマネジメントではありません。
動詞のmanageは「どうにかする」「何とかする」というのが原意です。たとえば、海外から来たお客様に今夜の接待を申し出たとこと、I can manage by myself(自分でどうにかしますから)と辞退されることがあります。Manageとはそんなときに使う言葉です。
一番しっくりくる日本語は「やりくり」だと思います。与えられた資源(ヒト・モノ・カネ)をやりくりして、どうにか組織の目標を達成する。それがマネジャーの本務です。
そのためには、「何を目指しているのか?」「今何をすべきか?」が共有できていないと始まりません。つまり、マネジャーの一番大切な仕事は、「何が重要か?」、言い換えると仕事の優先順位をブレずに全員に徹底させることです。重点思考の旗振り役に他ならないのです。
平時はもちろんのこと、非常事態になればますますそうなります。右往左往する現場に的確に方向性を示せないと、組織の力がひとつになりません。不透明で不確実な時代に生きるからこそ、重点思考が私たちに求められているわけです。』
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第14回 多面思考
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO63676370Q0A910C2000000?channel=DF120320205956



『視点・視野・視座の違いとは?
思考力を鍛える研修で、私がよく尋ねる質問があります。「視点・視野・視座は、それぞれ何を意味していて、どこが違うのでしょうか?」というものです。できれば、読者の皆さんも、少し考えてから先を読んでみてください。
何も思い浮かばない人には、ヒントを差し上げます。「視点が新しい」「視野が広い」「視座が高い」とは言いますが、「視点が広い」「視野が高い」「視座が新しい」といった言い方はあまりしません。そこに3つの違いが現れているはずです。
会社の業績の話を例に解説するとこうなります。視点とは、業績や会社の「どこを見るのか?」です。売り上げ、利益、商品、業務、組織など、経営を見る視点はたくさんあります。
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2つ目の視野は「どんな範囲で見るか?」です。今期だけを見るのか長期的に見るのか、国内だけを見るのかグローバルに考えるのか、販売だけを見るのか経営全体を見るのか……。時間、空間、人間、システムの広がりを指すのが視野です。第6回の分析思考を思い出してください。
そして、「どこから見るのか?」が視座です。同じものを見ても、見る立場やポジションによって見えるものが違ってきます。現場の人間は細部がよく見えるのに対して、経営者は全体を俯瞰(ふかん)的に見ます。年齢、性別、国籍などによっても視座が変わってきます。
視点、視野、視座を変えて、いろんな方向や角度から考えるのが「多面思考」です。そうすることで、深く、柔らかく、緻密に物事を検討することができます。
対義語を活用して多面思考を実践する
日常生活では、3つの違いはそれほど意識する必要はありません。要は、いろんな観点から考えればよいだけです。一番お手軽なのが、相反する2つの観点で見ることです。
アイデアの採否を検討するときに使う「プロコン表」が、まさにこれに当たります。
ホワイトボードや紙の真ん中の線を書き、左のスペースに賛成の理由(Pros:良い点やメリット)を、右に反対する理由(Cons:悪い点やデメリット)を挙げていきます。左右を見比べて、トータルでどちらが優勢かを判断します。
賛成と反対をあわせて賛否といいます。メリットとデメリットは損得です。このように熟語の中には、意味が正反対の言葉をセットにしたものがたくさんあります。対義語と呼びます。
他にも、男女、長短、善悪、新旧、利害、公私、自他、入出、遠近、内外、主従、難易、増減、需給、動静、因果、攻守など、数え上げればキリがありません。
観点を3つにすれば、衣食住、心技体、人物金、知情意、守破離、報連相、正反合、走攻守、大中小などがあります。4つでは、起承転結、老若男女、加減乗除、喜怒哀楽、冠婚葬祭などがあり、時間のある方は調べてみてください。
これらはすべて多面思考の切り口として使えます。新しい事業を立ち上げるなら、人物金の3つの観点で考える、といったように。日本語は多面思考を実践するのに便利な言葉なのです。
ビジネス・フレームワークを活用する
熟語にある切り口はテーマを選ばず、一般的に使えるものばかりです。それに対して、ビジネスに特化した切り口があります。「ビジネス・フレームワーク」と呼ばれているものです。
経営学の理論や経営コンサルタントのノウハウを凝縮したもので、労せずして多面思考ができるのがありがたいです。今やビジネスには欠かせないツールと言っても過言ではありません。
フレームワークに関しては、以前の連載「フレームワークで働き方改革!」で詳しく解説をしました。そのとき取り上げなかったものをひとつだけ、多面思考の例として紹介したいと思います。
多くの企業では、これからどのようにビジネスを継続していくか、根本的な見直しをせまられています。そのためには、企業を取り巻くマクロな環境を分析することが欠かせません。
そのためには、政治、経済、社会、技術の4つの側面から多面的な分析が必要です。英語の頭文字をあわせて「PEST」と呼びます。
まずは政治(Politics)、すなわち政府の方針、政策、法改正、規制強化(緩和)などの変化やその兆しを洗い出します。次に、経済(Economics)で、成長率や失業率などの各種の経済指標が分析の手がかりとなります。
3つ目に社会(Society社会)です。ここには、人口、文化、暮らしなど社会情勢に関わる幅広いものが入ります。そして最後に、新しい技術開発や投資動向を見る技術(Technology)です。
もちろん、これ以外の要因もありますが、この4つを押さえておけば、ほぼ全体がカバーできます。大きく世の中の動きを見誤ることはないでしょう。
選択肢を多面的に考えてベストを選ぶ
ここまで述べた話とは別に、多面思考にはもうひとつ違った使い方があります。
皆さんは物事を決めるときに、どうやって決定をしますか。日々の買い物とパートナーの選択とでは大きく違ってくるとは思いますが、おおむねA・Bどちらのやり方が多いでしょうか。
A あれこれ調べたりせず、自分にピッタリなものを見つけたら、「これだ!」と決め打ちする。
B 候補を複数洗い出して、いろんな観点から比較をして、そのなかで最善のものを選ぶ。
もうお分かりのようにBが多面思考です。別にAがダメなわけではありません。私の知人に数千万円の中古マンションを、情報誌を見るなり実物も見ずに購入したツワモノもいます(しかも家族に一切相談なし!)。今も気に入って住んでいますから、よほどビビッと来たんでしょう。
ところが、ビジネスの場合、Bのほうが意思決定の質が高まることが、海外の研究で明らかになっています。Aだと確証バイアス(自分の意見に都合のよい情報ばかり集めてしまう癖)が働きやすくなり、比較する選択肢がないと検討のヌケモレが発生しやすいからです。
もし、皆さんの部下で、Aの決め方をする人がいたら、柔らかく指導をしてあげてください。
たとえば、「我が社は○○をすべきです」と言ってきたら、「それはいいけど、他にどんな手を考えた?」と尋ねるのです。相手がけげんな顔をしていたら、「それしか考えないで、なぜこれがベストと言えるの?」と二の矢を放ちましょう。しつこく繰り返せば多面思考が身につくはずです。』



『御社の本当の問題は何ですか?
会議の生産性を高めたいので、ファシリテーションのスキルを身につけさせたい。私のところに舞い込む研修の依頼の典型です。研修担当者は、会議の生産性が低いことや議事進行が下手なのが問題だと思っているのです。スキルを習得すれば解決できるのではないかと。
そう言われたら、依頼通りに研修をやればお金はいただけます。ところが、そんなことをすると、後で面倒がおきないとも限りません。大抵は問題を見誤っているからです。
先日も同様の依頼があり、会って事情を聞くことにしました。待ち合わせの喫茶店に行ってビックリ、連絡をくれた担当者やその上司を含め5人も打ち合わせに現れたのです。しかも、挨拶もソコソコに、フルカラーの分厚い資料を渡され、なぜこの研修をやることにしたのか、背景やストーリーを説明し出します。ひとりずつ順番に自分が担当するパートを。
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ところが、「ここにある〇〇とは何ですか?」「なぜ△△なのですか?」と素朴な質問をするとしどろもどろに。いちいち5人でコソコソと相談が始まります。要は、カタチだけ立派で中身がまったくつめられていない。私は、こういう仕事の仕方を“会社ごっこ”と呼ぶことにしています。
もうお分かりのように、会議で分かりやすく症状が出ているだけで、組織や仕事のやり方そのものに問題があるのです。1回の研修をやったからといって、変わる話ではありません。
結局、それを指摘してしまったために、この話は流れることになりました。早い話、コーヒー代650円で会社の大元の問題を気づかせてあげたというわけです。相手は「さすが先生、とても勉強になりました」と喜んでいましたが……。
事実を元にして適切な論点を見いだす
問題を解決する上で一番大切なことは、真の原因を見つけることでも、優れた解決策を考えることではありません。「何が問題か?」を正しくとらえることです。そこを間違ってしまっては、すべての努力が水泡に帰してしまいます。
物事を考えるに際のテーマ(お題)を「論点」(イシュー)と呼びます。まずは論点が何かをしっかりと吟味して、最善の論点を見いだすのが「論点思考」の考え方です。
論点は問い(質問文)で表すと分かりやすくなります。「どうやったら会議の生産性が上がるか?」「わが社の一番の問題は何なのか?」といった具合に。論点を設定することは、問いを立てることに他なりません。ちょっとやってみましょう。
仮に、「今月の売り上げが前年比50%ダウンした」とします。皆さんは、どのような論点を設定して問題解決を図りますか。言い方を変えると、この会社が解決すべき問題は何でしょうか。
多くの方は、「どうやったら売り上げが回復するか?」を考えると思います。ダメだとはいいませんが、事実の裏返しが必ずしも論点ではなく、他に考えられないでしょうか。
たとえば、「さらなる売り上げ低下を防ぐには?」という論点も設定できます。あるいは、「低成長下で収益体質をつくるには?」「落ち込む分をカバーする新たな事業とは?」でも構いません。いろんな問いが立てられます。果たして、どれが望ましい論点なのでしょうか。
優れた論点を選ぶ3つの条件
残念ながら、適切な論点を導くためのシステマティックな手法はありません。本稿で紹介しているすべての思考法は、論点が定まったあとで活躍するものです。「どう考えるか?」(How)の技法は山ほどあっても、「何を考えるか?」(What)は自分で見いだすしかありません。
センスを磨くための方法はあります。情報収集に努める、幅広い教養を身につける、現場感覚を持つ、いろんなことに疑問を抱くようにするなどなど。だからといって目の覚めるような問いが立てられる保証はなく、試行錯誤を繰り返すしかありません。
とはいえ、立てた問いを評価することはできます。良い問いの1つ目の条件は、論点が本質をついており、「考えるだけの価値があるか?」です。売り上げ低下の話で言えば、それが一過性でないのなら、事業構造の変革そのものを論点にするほうが賢明です。
2つ目に、「新しい視点で物事を問い直しているか?」です。論点がありきたりだと、結論もありきたりになります。マンネリ化した論点だと、取り組むファイトがわいてきません。みんなを「え!」と驚かせた上で、「ナルホド」とうならせる斬新な視点がほしいところです。
3つ目に、「自分事としてかじ取りできる論点になっているか?」です。新型ウイルスのまん延や世界の景気の落ち込みは、個人や一企業がどうこうできる話ではありません。「それらにどう対処していくか?」「苦境を逆手にとった新しい事業とは?」であれば自分事になり、コントロール可能です。たとえ難しくても、自分事として解決できる論点を設定するようにしましょう。
論点が持つパワーを高めるには?
だからといって、3つの条件を兼ね備えた論点が一発で出てくるわけではありません。まずは、思いつく論点を付箋などに書き出して、数を増やすことに専念します。視点を替えたり、抽象度を替えたり、前提を疑ったりしながら。この作業を「クエスチョン・ストーミング」と呼びます。
そうやって100個くらい論点がたまったら、先ほどの基準でふるいにかけていきます。10個くらいまで絞り込めればOK。残ったものをブラッシュアップしていきましょう。問いの文章を洗練させることで、論点が持つパワーが大きく違ってきます。
たとえば、「売り上げが回復できるか?」といったクローズド質問(Yes/No型)と、「何が回復につながるか?」といったオープン質問(5W1H型)を相互に転換する手があります。
文頭に、「我々は」「あなたは」と主体を加えると、考える人の当事者意識を高める効果があります。文末の「できるか?」(Can)「したいか?」(Will)「べきか?」(Should)「ねばならないか?」(must)によっても、問いの意味が大きく変わってきます。
あるいは、「もし(仮に)……」「あえて……」と仮定法を使うと、思考の制約を打ち破ることができます。さらに、「最高の」「究極の」「本当に」「圧倒的な」といったパワーワードを加えると、問いの力が大いに高まります。そうやって、考える意義が最も高く、みんなが心から取り組みたい思える論点をつくることが、優れた問題解決の出発点となります。』
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2009/16/news001.html




『「娘にいい教育環境を与えたいし、家の購入も考えている。大好きな車も欲しい。今後のことを考えたら年収を200万~300万円ほどアップしたい」──東京都内在住の田端拓也さん(仮名、30代)はそう思い、2年ほど前に副業を始めた。新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界中が今のような状況になるなど、考えつきもしなかった頃の話だ。
本業は、都内の小売企業でデジタルマーケティング業務を行っている。本業とのバランスを考えながらリモートでできる副業先の企業を1つずつ増やし、現在は本業以外に3社の仕事を掛け持ちし、毎月30万円超を副業で稼ぐまでになった。当初の目標を優に超える金額を達成したことになる。
本業を続けながら、これほど早く達成できたのは、コロナの影響も大きい。在宅勤務が増え、通勤時間や会食機会などが減り、以前と比べると月に30~40時間以上の時間が生まれたからだ。
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写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)
オンライン副業の内容は? 田端さんの1週間
田端さんの“オンライン副業先”の1つ、長野県にある社員20人ほどの生薬製剤メーカーでの1週間の「EC(ネット通販)の改善」業務を見てみよう。
木曜日の夜か金曜日の朝(1時間程度)、ネット通販のリピート購入率やターゲットとしているキーワードでの検索順位などのデータ(KPI)を収集し、スプレッドシートに入力。チャットツールを使って、定例Web会議の参加メンバーとスプレッドシートを事前に共有しておく。
金曜日(1~2時間程度)午後3時から、生薬製剤メーカーの社長、EC担当者、外部Web制作会社の担当者が参加する定例Web会議に出席。数値目標として立てた予算と実績を比較し、達成状況を分析。今後1週間で実行する施策を話し合う。
参加メンバーからいくつかの案が出た場合は、デジタルマーケティング業務を専門に行ってきた過去の経験を生かし、積極的に会議をリードし「まず今週はこちらからやる必要がある」と発言することもあるという。田端さんの発言を受け、社長がその場でやることを決める。
土曜日~水曜日(4~6時間)には、会議で決まった今後1週間の施策(例えば「ランディングページの改善」)で、肝となる文字要素の作成を行う。社内確認や最終チェックは社員担当者にチャットで依頼。社内確認と最終チェック終了後、外部のWeb制作会社へ該当のWebページのデザインや制作を依頼、詳細を指示する。こちらもチャットと電話で実施。「木曜日の夜か金曜日の朝」の業務に戻る。
この生薬製剤メーカーによると、こうした作業を繰り返した結果、4週間を過ぎたあたりからリピート購入率などの数値が向上。売り上げも前年比130%と成果が出始めたという。
田端さんの1週間を見ても分かるようにオンライン副業の中身は地味な作業が中心だ。特に地方の中小企業がオンライン副業人材を活用して成果を出すための1つのポイントはここにある。必要なのは「MBAを持っているグローバルエリート」や「派手なスーパーカリスマ経営者」などではなく、検証、施策検討、決定、実行という「地道なPDCA改善」を行える副業人材だということだ。
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写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)
地方の中小企業には、顕在化した労働人口不足の減少により慢性的に人手不足な企業が多く、社員のほとんどは日々の現業を回すことで精いっぱいだ。地道なPDCA業務に取り組みたくても、時間を割ける人材がいない。専門の人材を正社員として採用しようにも、社員として働いてもらうほどの業務量がなかったり、年収や居住地の面で人材側と企業側の条件が合わなかったり難しい状況にある。
そうした課題に対し、都市部在住のオンライン副業人材がうまくはまり、成果が出始めている。
商社や大手広告代理店への転職も考えたが……
田端さんは、コロナ禍でリモートワークが当たり前となった昨今、背中を押されるようにしてオンライン副業の仕事を拡大させた。だが「今後を考えて年収をアップしたい」と考えた時点では副業ではなく、「今以上に稼げる商社など業界を変えて働くか、現在の業務を生かせる大手広告代理店への転職も考えた」(田端さん)。
転職ではなく、今働いている会社で働き続けながら副業で稼ぐことを選んだのは、「今は給料がいい大企業も10年後どうなっているかは分からない。デジタルマーケティング業務も好きだから続けたい」と思ったからだという。コロナ禍の今、10年後どころか来年、再来年すら、大企業だから安心とは感じられなくなった。
筆者が代表を務めている、都市部と地方をつなぐ副業人材サービス「JOINS」では、人材登録者数が昨年の約3.5倍に急伸した。そういった都市部で働く人々の意識の変化を実感している。
JOINSに登録しているオンライン副業人材の多くは、毎週平日に定例Web会議を1.5~2時間程度行い、平日毎日1時間程度、週末に2時間程度作業、合計で週8時間程度を副業の業務時間としている。現地への訪問は、業務始めや工場や商品の確認、社内スタッフとの交流などのために1~2カ月に1回程度で、それ以外は全てリモートワークということになる。時間給の平均は約3500円のため、副業による月の稼ぎは、平均約10万円だ。
ネット通販の改善、製造業のデジタル化や人事、首都圏・海外営業などの業務は今、オンライン副業のニーズが高まっている。「地道なPDCA」が得意分野だという人には、絶好のチャンスが訪れている。』

















『「明確に変わったのはお客さんが来店しなくなったということ。今までは店舗を軸にビジネスを設計していた人たちが、強制的にデジタルに商流を移さないといけない状況になりました」
食品流通市場のデジタルシフトを推進する10Xで代表取締役を務める矢本真丈氏は、コロナ禍において業界が直面した課題についてそのように話す。
同社では開発不要でネットスーパーを立ち上げられるサービス「Stailer(ステイラー)」を今年5月にローンチ。翌月には最初のパートナーであるイトーヨーカ堂と「イトーヨーカドー ネットスーパーアプリ」の運用をスタートしたことを発表し、話題を呼んだ。
日本のスーパーはBtoCビジネスの中でも特にデジタル化が進んでいない領域の1つだ。ネットスーパーを導入する店舗は全体の約3.7%。流通額の規模ではわずか1%に留まる。
多くの事業者が店舗での体験向上に注力してきた一方で、オンラインのサプライチェーンマネジメント(SCM)やアプリのUXにまで十分な投資ができている企業はごく一部。ただでさえネットスーパーは特殊なUXや膨大なSKU(商品群)を管理する仕組み、ピッキングや配送のオペレーションなど複雑な要素が絡み合うため、良質な体験を実現するのは簡単なことではない。
結果としてネットスーパーに取り組んでいるところでも、実店舗のようなスムーズな買い物体験をオンライン上で提供できず、ユーザー獲得に苦戦するケースが多かった。新型コロナウイルスの影響もありネットスーパーの需要は高まりつつあるも、まだまだ供給側の準備が追いついていない状況だ。
10Xではそんなスーパーのデジタル化における課題をワンストップで解決できる仕組みを通じて、食品流通市場を大きく変えようとしている。
“ノーコード”でネットスーパーを立ち上げ
10Xが開発する「Stailer」 画像提供:10X
Stailerは小売・流通事業者がノーコードでネットスーパーを立ち上げられるサービスだ。
事業者側で必要なのは既存の商品データを連携させるだけ。基盤となるEC基幹システム、数万単位のSKUを日替わりで管理できる商品・在庫マスタシステム、ユーザーに快適な買い物体験を提供するモバイルアプリ、効率的なピッキング・配送を実現するオペレーションシステムなど、ネットスーパーの運営に必要な機能はすべてStailerに搭載されている。ユーザーからの問い合わせ対応や、データ分析用のダッシュボードの提供も含めてだ。
ネットスーパーと実店舗では必要なシステムが全く異なるので、ネットスーパーを作るには専用のシステムとサプライチェーンを構築しなければならない。従来はそれを作り上げるのに複数のシステムベンダーが関与し、構造が複雑化してしまうケースが多かった。
結果として初期費用がかさむだけでなく、システム設計自体も複雑になり運用コストも膨れ上がる。何か1つを改善するにしても半年・数千万円単位の時間とコストがかかり、身動きも取りづらい。この「アジリティ(敏捷性、スピード感)の低さ」こそが大きな課題になってきたと矢本氏は話す。
従来型のネットスーパーは多数のシステムを導入するために複数のベンダーに依頼をすることが多い。結果的にシステム設計が複雑化してしまうという 画像提供:10X
Stailerの場合は必要な機能をフルセットで提供するため、柔軟かつ高速でアップデートできるのが特徴。初期費用をなくし、月額利用料と売上に連動した従量課金制を採用することで利用のハードルも下げた。また表側のモバイルアプリやそれを支えるECシステムだけでなく、事業者のボトルネックになりうる「物流」も含めて効率的に運用できる仕組みを整えた。
具体的にはラストワンマイル配送事業を手掛けるココネットと提携。最も配送効率の良い配送員が店舗で商品のピッキング・パッキングを行った後、ユーザーの自宅まで配送するモデルを開発した。配送員の選定や配送ルートの作成は、全て自動で最適化される。
Stailerではネットスーパーの立ち上げから実運用に至るまでに必要となる機能を網羅しているのが特徴 画像提供:10X
「単月利益1000万ドル」の会社も生まれるスーパーのDX市場
海外を見ると、スーパーのオンライン化が進むイギリスや韓国、そしてコロナ禍でこの流れが一気に加速したアメリカなどはSCMや配送の部分に関して日本の先を行く。
食品・飲料のEC化率が7%のイギリスは、大手小売事業者が積極的にオンラインのSCMに投資をしてきた歴史がある。テスコやセインズベリーズのようなビッグプレイヤーに加え、昨年イオンと提携を結んだオカドのようにオンライン特化で大きく事業を伸ばす企業も生まれた。
特にネットスーパー専業のオカド(Ocado)は急ピッチで成長を続けている 画像提供:10X
韓国やアメリカでは「ギグワーカー」が配送面で重要な役割を担い、事業拡大に貢献している事例も目立つ。代表例はアメリカのユニコーン企業・インスタカートだ。同社は4月上旬だけで前年比500%増となる7億ドルの売上を叩き出し、単月で約1000万ドルの純利益を記録した。これはラストワンマイル配送をギグワーカーが担うことで、強烈な需要の拡大に耐えられうる配送網を構築できていたのが大きい。
冒頭で触れたように日本でもコロナ禍において、小売事業者が商流をオンラインに移行させたいというニーズが急増したが、このような取り組みを各スーパーが自力で実施するのには限界がある。そこに必要な基盤を備えたStailerのようなサービスが出てきたので、小売事業者からも注目を集めたわけだ。
実は革新的だったタベリーの「オンライン注文機能」
今でこそ10XはtoB向けのStailerに注力しているが、もともとはtoC向けのアプリからスタートしている。2017年に会社を創業し、同年12月に献立・買い物アプリ「タベリー」をローンチ。それからしばらくは“タベリーの会社”だった。
自分にピッタリの献立が簡単に作れる「タベリー」 画像提供:10X
同サービスは矢本氏自身が育休中に家事をする中で感じた「1週間分の献立を考えたり、それに必要な材料を計算して買い物リストを作ったりする際の大変さ」を解消する目的で開発したもの。10秒で自分にピッタリの献立ができ、そこからワンタップで献立に必要な買い物リストが生成されるのが特徴だ。
「生鮮食品の領域は全くEC化が進んでおらず、マーケットの規模も(テクノロジーを活用することで)変革できる余地も大きいのに、目立ったプレイヤーがいませんでした。この領域でキラープロダクトを作ることができれば、献立の作成や買い物の体験も圧倒的に良くなり、売上もどんどん拡大するに違いない。そう考えていました」(矢本氏)
まずは自身が明確にペインを感じていた「献立の作成から買い物リストの生成」までの工程にフォーカスする形でタベリーを開発。事業者からネットスーパーに繋ぐためのAPIを提供してもらえれば、ゆくゆくは食材の購入までタベリー上でスムーズに完結する構想だった。
ただ、矢本氏の思い描いた通りには進まなかった。そもそもそんなAPIなど存在しなかったからだ。
当時、大手ネットスーパーの開発責任者が知り合いだったため、話を聞きに行ったところ「外部のチャネルを連携するようなAPIはなく、社内でも商品データの管理はPOSからバッチ処理で引いてきている」ことを知った。
「(IT企業の)メルカリを退職した直後だったので、『そんなレガシーなことがあるのか』と面食らいました」と矢本氏は当時の心境を振り返る。
既存のネットスーパーとAPIで繋いでシームレスな買い物体験を実現する。どうやらそのアイデアを形にするのは難しそうだが、圧倒的に便利なユーザー体験を実現し、大きなインパクトを与えうるプロダクトを作るにはネットスーパーとの連携は不可欠だった。
それならばAPI連携によって実現しようとしていた仕組みを、自分たちで開発してしまうしかない。そんな“無茶ぶり”に近いようなアイデアから、革新的な「オンライン注文機能」が生まれる。
「オンライン注文機能」構想時の資料 画像提供:10X
同機能は端的に説明すると、タベリーで作った買い物リストの食材を数タップでオンライン注文(対応するネットスーパーで注文)できてしまうというもの。ユーザーからは非常にシンプルに見えるが、実は裏側ではかなり複雑なシステムが作り込まれている。
まずネットスーパー全拠点の商品データをクローリングして自社のデータベース(DB)にマッピングした上で、店舗ごとに異なる商品の表記や単位を統一化する処理を施す。たとえば「にんじん」1つとってもひらがな、カタカナ、漢字があるので共通の「にんじん」というラベルを貼る。同じように単位も1本、1袋、100gなど店舗によって異なるので、全てをグラムに統一する。そんな作業をSKUごとに行うイメージだ。
そこから各ユーザーの献立に応じて「どの商品をマッチングさせるのが適切か」を自動で判別し、タベリー上から商品をショッピングカートに入れて決済ができる仕組みを作った。いわば自力で「ネットスーパーDB/API」を作り上げたわけだ。
2018年9月に開発を始めて、この機能が実際にiOSアプリに搭載されたのは翌年の5月。実に約8カ月がかりの一大プロジェクトになったが、その分だけ手応えも大きく矢本氏も「これは勝ったなと本気で思った」という。
タベリーだけをやっていても、理想には一生到達できない
オンライン注文機能では「タベリー」で作成した献立に必要な買い物リストの食材を、数タップで注文することができるのが特徴だった
オンライン注文機能のイメージ。「タベリー」で作成した献立に必要な買い物リストの食材を、数タップで注文することができるのが特徴だった 画像提供:10X
期待を込めてリリースしたオンライン注文機能ではあったものの、ローンチ後の反響は必ずしも想像した通りではなかった。実際に使ってくれた人には明確に刺さり、リピート利用にも繋がったがそれはあくまで一部のユーザーのみ。ほとんどのユーザーには使われずじまいだった。
オンライン注文機能を使って買い物をするにはネットスーパー側の会員登録が必要になるが、そのフォームが煩雑でユーザーが離脱してしまう。さらに希望の配送時間帯がすぐに埋まってしまい、使いたくても使えないのだ。
そこを何とか潜り抜けて注文までたどり着いても、今度は欲しい商品が欠品状態。つまりタベリーをいくら磨いたところで、自分たちでは直接コントロールできない部分にこそ根本的な課題があったのだ。
「本気でユーザーの体験を10倍良くすることを目指すとなると、タベリーだけをやっているのではそこに一生到達できないということに気づきました。そもそも小売事業者側が抱える問題を解決しないことには本質的には変わらない。この事実はタベリーをやったからこそ発見できたものであり、今振り返ると自分たちにとって非常に大きな出来事だったと思っています」(矢本氏)
もう1つ、オンライン注文機能が小売企業から軒並み高評価を得られたことも、その後の10Xに大きな影響を与えた。
同機能をリリースする1〜2週間前、矢本氏たちはAPIを開発した小売企業に話をしに向かった。この機能を実装することが問題ないか最終確認をとるためだ。
一通り基盤やUXについて説明をし終わった後、セキュリティ面について細かいすり合わせを行い、最後に10Xが目指しているビジョンを話した。一連のやりとりを終えると、事業者側からは「まさに自分たちが過去何年にも渡ってずっと作りたいと思っていたけど、できなかったもの」という反応が毎回のように返ってきたという。
こうして何事もなくオンライン注文機能はローンチを迎えたが、それ以降も小売企業との関係性は途絶えなかった。提携していない企業からも問い合わせが来るようになり、何度もディスカッションを重ねるうちに業界が抱える課題への解像度が高まり、信頼関係も強まっていった。
少し先の話にはなるが、特に関係性の強かったイトーヨーカ堂からは最終的に「自社のアプリを作って欲しい」と言われるまでになったという。
失敗に終わった自前でのネットスーパー立ち上げ
ここで少しだけ時間を戻そう。オンライン注文機能をローンチしてから数カ月が経った2019年の夏。まさに小売企業と話をする機会が増え始めていたその頃、10Xの内部ではある1つのプロジェクトが進んでいた。
開発していたプロダクトの名前は「タベクル」。オンライン注文機能での学びから自分たちで全ての問題をコントロールするにはどうしたらいいかを模索した結果、「自分たち自身がフルスクラッチでネットスーパー事業を立ち上げてみてはどうか」と考えて開発したものだ。
同サービスでは一般的なネットスーパーとは異なり、置き配かつ早朝便専用に絞った。23時までに注文した食材が、翌朝の7時に置き配形式で自宅に届くようなモデルだ。
置き配にすることでデリバリー時の最後の受け渡しの手間と時間を削減。都市部の中心エリアに限定して展開する計画だったため、タワーマンションなどのエレベーターが込み合わない早朝に配送することで、配送効率アップを狙った。
矢本氏によると、このアイデアは韓国で事業を急拡大する「Market Kurly(マーケットカーリー)」を参考にしたものなのだそう。生協やネットスーパーともバッティングしないため、その点でも最適な仕組みだと考えた。
10Xがステルスで進めていたプロジェクト「タベクル」 画像提供:10X
約3カ月をかけてプロダクトを準備した後、いよいよサービスを開始。牛乳配達屋と交渉して冷蔵庫のスペースを空けてもらうなど、地道な取り組みを進めてようやくスタートしたものの、矢本氏はわずか1カ月でクローズを決断することになる。ユーザーをほとんど獲得できなかったからだ。
「掘り下げていくと、結局のところ自分たちに信頼がなかったことが1番の原因でした。普段自分が口に入れるものをどこで買っているか考えてみると、基本的に知っている会社からしか買っていない。どこの誰かも知らない企業から食品を数十点も買うのかというと、答えは明確にノーでした。信頼がないからどれだけクーポンを配ったところで意味がない。ほとんどの人はそもそもサイトにすら来てくれなかったんです」(矢本氏)
ニーズが掴めない状態でサプライチェーンに投資をするのは難しい。第一、事業の構造的にもグロースを目指すとなると大掛かりな資金調達が必要だ。そもそも自分たちの強みが活きる事業でもなかった。
過去の体験が繋がって生まれたStailer
タベリーのオンライン注文機能、小売事業者とのディスカッション、そしてタベクルの失敗──。数カ月に渡って複数のプロジェクトを同時並行で回し続けた結果、この3つの体験から得られた解として、矢本氏の頭の中で徐々に1つのアイデアが構築されていった。
それこそが現在10Xが注力するStailerだ。小売事業者が必要とするシステムを1つのサービスにまとめて提供する。その中で自分たちはエンドユーザーに良質な体験を届けるためのインフラを作る役割を担う。
「タベリーを始めた頃から、本気でオンライン生鮮事業に挑戦するのであれば、いずれはネットスーパーのアプリを作るべきだとは思っていました。ネットで物を売る際に大事なのはECに直接来てもらうことであり、直接物を売買できる場所を作る必要性を感じていたからです。ただ、タベリーでしっかりとユーザーの課題を解くものが作れれば、その先にいろんなマネタイズ手段があるのではないか。そのような期待から広告や課金などいろいろと試してみたのですが、実際はなかった。少なくともこの方向の延長にあるのは1000億円規模の大きな事業になるものではない。それが自分の中で確信に変わったことも、Stailerに舵を切るきっかけになりました」(矢本氏)
決して最短距離で進んできたわけではなかったからこそ、Stailerの立ち上げ時には過去の学びを通じて「スーパーが抱える課題」「10Xの相対的な優位性」「10Xとしてやらないこと」がすでにクリアになっていた。
当時は8人ほどの小規模なチームではあったものの、ネットスーパーのアプリに求められるUXを実現する技術力やネットスーパーのアーキテクチャーへの理解度、システムの全体像への理解度には圧倒的な自信がある。そのため10Xでは1番レバレッジが効くであろうシステム/プロダクト開発の部分だけに専念し、そこに全てのリソースをつぎ込むことを決めた。
Stailerでは10Xが得意とするシステム/プロダクト開発の領域にフォーカス。他社・他システムとも上手く連携しながらネットスーパーに必要な仕組みを作り上げている 画像提供:10X
一方で店舗を持って在庫を抱える、自社で物流網をゼロから構築する、現場で働くスタッフを雇って教育するといった「今から頑張っても絶対に追いつけないゲーム」には中途半端に参戦せず、得意な会社のリソースを借りることにした。
Stailerの開発にあたっては、機能面はもちろんプライシングにもとことんこだわったという。参考にしたのはNRIがセブンイレブンなどに提供する発注システムや、東芝テックなどが展開するPOSシステムだ。
これらのサービスに共通するのは、発注額や利用額など“顧客の成長に連動して料金が変動する”レベニューシェアモデルを採用していること。顧客の成長に貢献するほどベンダー自身の売上も一緒に伸びていく美しい事業モデルな上に、これらのサービスは一度導入されたらほとんどスイッチングされていない。
小売事業者は長年店舗に投資をしてきていたので、発注システムやPOSを始めとした店舗関連のシステムはすでにベンダーとのレベニューシェアモデルで開発されているものが多かった。ただネットスーパーに限ってはそこがあいまいで、ベンダーと単なる受注・発注の関係になっている。矢本氏はそこに“溝”があったという。
「10Xは長期に渡って一緒にネットスーパーを伸ばすことにコミットするパートナーだと伝えました。初期費用は全くいらないので、事業の成長に連動したテイクレート(手数料)モデルにさせてくださいと。最初に交渉したイトーヨーカ堂がその条件を受け入れてくれたので、以後も全て同じ形で進めています」(矢本氏)
Stailerを立ち上げる際にはプライシングにもこだわったという矢本氏。売上に連動したレベニューシェアモデルを入れることで、小売企業側の初期費用を抑えつつも、ネットスーパーがグロースすれば10Xもしっかりと収益が得られる仕組みを作った 画像提供:10X
同時に“開発に必要なリスクや調整事項”をすべて10Xで引き受ける代わりに、Stailerの所有権はあくまで10Xにあり、それを事業者側に提供するという構造にした。初期開発費を10Xが負担し、開発したネットスーパーアプリがユーザーに支持されなければ10Xの収益も減る。サービス成長に全力でコミットするため、10Xが責任と権限を持つことにしたわけだ。
これが従来の売り切り型だと、システム側の仕様を理解しているのも開発権限を持っているのもベンダー側だが、最終的な意思決定は事業者側で行っていた。何か改善点が発生した際にはベンダーに逐一連絡して対応してもらうことになるものの、そのためには事業者側で決済など必要なステップを踏まないと改修が一向に進まない「重たい構造」になっていたという。
「ワンストップショッピングのオンライン化」支えるインフラへ
6月からイトーヨーカドー
ネットスーパーアプリの実運用を始めて2カ月強。ウェブ版とアプリ版で細かい仕様や使い勝手が異なるため、当初はユーザーから戸惑いの声も多く届いた。アプリのUXの方が優れていたとしても、ウェブサイトに慣れていたユーザーにとっては馴染みがなかったからだ。
ただ上述したようにカスタマーサポートもアプリのアップデートも全て10Xが受け持っているので、迅速かつ適切な対応を取ることができた。直近ではウェブに比べて購入頻度や顧客単価、翌月の購入継続率が高くなるといったように、ユーザーの満足度向上に貢献できていることが数字としてわかるようにもなってきた。
10Xではその事実を公開しているため、事業へのインパクトを期待して問い合わせに至る企業も多い。Stailerローンチ後、すでに70社以上から連絡があり、イトーヨーカ堂に続く取り組みも水面下で進めている状況だ。
Stailerの仕組みがあれば大手事業者はもちろんのこと、予算やリソースが限られた小規模なスーパーやローカルなスーパーでもネットスーパーにチャレンジできる可能性が広がる。従来はスタートするだけで数億円規模の初期費用が必要だったところがゼロになるわけなので、それだけでエントリーのハードルがグッと下がる。
ネットスーパーに必要な基盤を1つのサービスにまとめあげ、始めやすいプライシングで提供するという意味では、StailerがやろうとしていることはSaaS(Software as a Service)ならぬ「ネットスーパー as a Service」とも言えそうだ。
矢本氏自身、スーパーを頻繁に利用するようになってから「スーパーの価値は数十もの商品を同時にまとめ買いできる、ワンストップショッピングにあること」に改めて気づいた。それを支えているのが膨大なSKUと目的の商品が探しやすい店舗の設計であり、小売事業者はそれを分かっているからこそ、長年に渡ってそこに投資をしてきたという。
「各事業者は店舗体験の設計に対しては膨大な知見を持っています。でも、同じような体験をデジタル上で再現することに関しては誰も満足にはできていません。デジタルで豊富なSKUの中から一度に20〜30点の商品をバスケットに入れて購入するための最適なUXも、それを支えるサプライチェーンやシステムもない。Stailerでは『ワンストップショッピングのオンライン化』のためのインフラを作っていきたいと考えています」(矢本氏)
「ワンストップショッピングのオンライン化」をいかに実現するか。これが従来課題になっていた部分であり、10Xの腕の見せ所だ
画像提供:10X
スーパーが最初のターゲットにはなるが、同じような課題を抱えている事業者は他にもいる。コンビニやドラッグストア、ディスカウントストアなどもまた、店舗でたくさんのSKUを扱う。店舗運用に強みがある一方で、オンライン化が進んでいないのも同様だ。
そういった「スーパー以外」のプレイヤーからも軒並み問い合わせをもらっているそうで、今後様々な企業がStailerを介して商圏をデジタル化していく光景を目にすることになるかもしれない。
「僕自身、東日本大震災で被災して死に直面した経験があり、残りの人生で意味があることに挑戦したいという気持ちが強いんです。そこにテクノロジーの力を掛け合わせることで、自分も含めた周囲の人たちが抱える問題を解決し、その価値を実感できるプロダクトを世に出していきたいと考えています。同時に、人生をかけるのであれば大きなマーケットにアプローチをしたい。ネットスーパーを軸としたワンストップショッピングのオンライン化はこの3つの条件を全て満たすもので、自分の中ではこれ以外にないと思えるほど、そこにかけています」(矢本氏)
ネットスーパーが普及して食品を購入する選択肢が世の中に増えれば、今まではどんな時でも店舗に足を運んで買い物をしていた人々の生活も間違いなく変わっていくはずだ。
「最初からすべて計画通りだったわけではありませんが、たまたま近しい事業からエントリーして、回り回って今この事業にチャレンジしている。将来的な構想もいくつかありますが、一丁目一番地はユーザーにとって本当に使いやすいものを作ることであり、そのためにtoB側のデジタル化を進めていくことに変わりはありません。そんなに簡単なことだとも思っていないので、まずは10年20年かけてしっかりとネットスーパーのインフラを作っていきます」(矢本氏)
編集:岩本有平
撮影:林 直幸
DX リテール 10X ネットスーパー』
https://diamond.jp/articles/-/247986




『秋のインターンシップが本格化している。インターンシップは就活生にとっては企業を知る重要な機会だが、募集人員に限りがあるため、選考を通過することは簡単ではない。そこで、毎年約200人の学生が受講するキャリアデザインスクール、我究館の副館長・藤本健司氏が、インターンシップ選考を通過するためのコツを語る。
連載2回目となる今回は、インターンシップ選考を通過するためのグループディスカッションの対策について話してみたい。
グループディスカッションは
社会人にとっても難度が高い
就職活動で時々耳にする「グルディス」という言葉をご存じだろうか。グループディスカッション(以下、GD)のことだ。難関企業のインターンシップ選考では、このGDが実施されることがある。
※グループディスカッション(GD)とは?
企業側から出されたお題に対して、限られた時間の中で少人数のメンバーと議論すること。今までは対面で行われることが多かったが、22年卒向けのインターンシップ選考でのGDは、オンラインで行われることも多い。
選考におけるGDでは、1日では到底終わらないような議論を、決められた時間内(30分から1時間)で行わなくてはいけない。出されるお題は、例えば以下のようなものだ。
「日本がODAを開始するなら、どの国がいいか」
「コンビニチェーンの売り上げを倍にするには」
社会人がこれらのお題に対して短い時間の中で適切に議論できるかと言われれば、決して簡単ではないはずだ。それほど、GDの難度は高い。
秋のインターンシップの選考に参加してくる就活生は、就職活動を積極的に行っている人だったり、選考対策をしていたりする人たちなので、おのずと議論のレベルが高くなる。故に、何ら対策をしないまま、GD選考を突破することは非常に難しい。応募者の多い人気企業においては、事前対策は必須である。
GDの対策については、インターネットで調べればたくさん出てくるが、今回はGDの実践経験が少なく、苦手意識のある就活生がすぐに実践できるワンポイントアドバイスを紹介したい。
GDで最も大事なことは
まず共通認識を確認すること
GDにおいて大事なこととは何だろうか。結論から述べると、それは「共通認識を確認しながら議論を前に進めること」である。
失敗例から紹介した方がイメージしやすいだろう。よくあるGDの失敗例として、参加者が思い思いのことを話し、議論が紛糾するケースが挙げられる。実際のビジネスのシーンでも、議論をする際に目的意識や前提条件を互いに理解せずに、建設的な議論をすることは難しいだろう。
GDの難しいところは、誰とどんなことを議論するかが、その場に行くまでは分からないところにある。だからこそ、出されたお題を理解し、初めて会った参加者同士が積極的に共通認識を得ようとすることが重要になる。
会議や商談で大事なことは、合意形成である。議論を通じて参加者の意見の一致を図るための、大切なプロセスだ。合意形成のために、参加者の共通認識を確認しながら議論を進めることは重要だ。その合意形成プロセスを「議論を前に進める」という表現として、ここでは使っていきたい。
共通認識を確認する上で何より重要なことは、自分たちが「誰の、何のために議論をしているのか」という点を明確にすることである。議論をする際に自分たちの立ち位置や立場があいまいであったり、認識のズレがあったりすると、議論の進行や結論に大きく影響する。
例えば、先ほど挙げた「コンビニチェーンの売り上げを倍にするには」というお題に対して、どの立場から考えるのか。コンビニの店長なのか、コンビニチェーンの本社社長なのか、コンビニチェーンから依頼を受けたコンサルタントなのか。それぞれの立場によって使えるリソース(材料)が変わってくるので、議論が紛糾したり論点を見失ったりしないよう、まず自分たちの立ち位置や立場の確認が必要になる。
共通認識を確認するために
有効な質問とは?
では、具体的にどうやって共通認識を確認すればいいのだろうか。そのためには、以下のような質問をメンバーに投げかけてみるのが有効だ。これらの質問をすることで、議論の内容や道筋を確認することができる。GDに参加する際には、ぜひ活用してほしい。
「この議論は今、どこに向かっているか教えてもらえますか?」
「今の議論で大事なことは何でしたっけ?」
「私たちは、どんな結論を想定しているのでしたっけ?」
ただし、質問の仕方には気をつけよう。あくまで分からないことを教えてほしいというスタンスで聞くこと。GDでは、選考ということもあり、自分がより高い評価を得るためにほかのメンバーに対して否定的だったり、攻撃的だったり、高圧的だったりする就活生がいる。
しかし、冷静に考えてみてほしい。採用の本質である「一緒に働きたい人を探す」という目的からすれば、このような人たちが積極的に採用されるとは考えにくい。
最初からGDにうまく対応できる人は少ない。故に、まずは分からないことは「分からない」と言う勇気を出そう。そこから、共通認識を得るための質問を投げかけ、議論を前に進めることに貢献する。ここから始めてみることをお勧めしたい。
先に述べたように、GDは基本的にやっていること自体の難度が高いため、対策を立てるのが難しい。その難しい選考で評価されるためには、事前準備が必要である。
GDに対してまだ経験が乏しく不安が多い就活生には、まずは何をどう話すかよりも、話の聞き方や質問の仕方に注意しながら、議論の論点を確認する役に挑戦してもらいたい。分からないことを素直に聞く姿勢から始め、少しずつ議論を引っ張れるように確実に成長していこう。
そこから選考突破できるよう、頑張ってほしい。
(我究館副館長 藤本健司)』
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2009/15/news059.html




『デジタルマーケティングの支援を行うアンダーワークス(東京都港区)は9月15日、国内の主要マーケティングテクノロジーを分類してまとめた「マーケティングテクノロジーカオスマップ JAPAN 2020」を公開した。コロナ禍を受けて、マーケティングや営業の手法が対面からオンラインに急速にシフトしてきており、関連のサービスが大きく伸びた。
国内で利用できる1234種類のマーケティングテクノロジーを、16分野に分けてまとめたカオスマップ
今回のカオスマップでは、国内で利用できる1234種類のマーケティングテクノロジーを、16分野に分けて掲載。数は昨年の931種類から33%増加した。
「2020年のマーケティングテクノロジーのキーワードは、3つの“O”だ」と、アンダーワークスの田島学代表は解説。データの統合と可視化、分析を行う「オーケストレーション」、リアルタイムの「ワン・トゥ・ワン最適化」、オムニチャネルの概念を一歩進めオンラインが主でオフラインがサブという「オンライン・マージズ・オフライン」を挙げた。
背景にはコロナの影響がある。「営業がオンラインから始まり、イベントもオンラインになってきている。マーケティングはプレセールスという感覚だったが、既存顧客との接点をオンラインで管理して、LTV(生涯顧客価値)を伸ばすためのテクノロジーが非常に増えている」(田島氏)
データの加工、分析。そしてABM関連が増加
数が大きく増加したのは、下記の領域のテクノロジーだった。
・データ整形やクレンジングを行う「ETL」:56%増
・B2Bで外部からデータを購入する「企業データ」:57%増
・「チャットボット/チャットシステム」:47%増
・データを可視化、分析する「BI/ダッシュボード」:39%増
・Webサイトを分析する「アクセス解析」:39%増
・「オンライン商談」:25%増
B2B企業がデータマーケティングに取り組むことが増えてきており、外部から企業情報などのデータを購入することが増えてきたと田島氏。「ABM(アカウントベースドマーケティング)をプラットフォームとして行えるテクノロジーは限られているが、来年は増えてくるだろう」
またアクセス解析領域では、グーグルの「Google Analytics」とアドビの「Adobe Analytics」が大きなシェアを持つが、「汎用的なツールではなく、ニッチな機能を持つツールが増えてきている」(田島氏)。
データ管理領域の動向
成熟してきたMA
一方で、増加が一段落し成熟が進んできた分野もある。顧客管理や分析、メール配信などを自動化するマーケティングオートメーション(MA)分野は、10%の減少となった。「5年前はバズワードだったが、減ってきていて、成長市場から成熟市場へ変わってきている」(田島氏)
また、自社以外の企業が集めたユーザーデータを使った「3rd Party DMP」は、個人情報の取り扱いに関する懸念などから数が減った。一方で、「プライバシー」関連のテクノロジーは20%増加している。「GDPRやカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)、改正個人情報保護があり、個人情報の取り扱いに関心が増えている」(田島氏)』
新人の5月病どう防ぐ 「けちなのみや」でチェック
産業医・精神科専門医 植田尚樹氏
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO44763390U9A510C1000000?channel=DF120320194898&nra





『社員がいきいきと働き、高いパフォーマンスを発揮する職場をつくるには何が必要か。産業医として多くの企業で社員の健康管理をアドバイスしてきた茗荷谷駅前医院院長で、みんなの健康管理室代表の植田尚樹医師に、具体的な事例に沿って「処方箋」を紹介してもらいます。
<< 仕事でクルマ、潜む危険 タクシーにも労災リスク
怠けていると思わないで 職場が誤解しがちな女性の病 >>
ゴールデンウイーク(GW)明け、何となく気分が晴れないという人もいるかもしれません。いわゆる「五月病」はこの時期、心身の不調、倦怠(けんたい)感にさいなまれる状態を指します。正式な病名ではありませんが、大型連休明けにこうした症状を示す新人社員や新入生が見うけられることから、こう名付けられたようです。
その多くは新しい環境に適応できないことに起因するものと考えられます。希望に胸を膨らませて入社したものの、やりたい仕事に就けなかったり、上司や先輩との関係に気を使ったり、悩みは尽きません。ようやく自分の時間を持てた大型連休に、改めて思い悩んだ結果、働く意欲が減退し、ひどい場合には会社へ行けなくなり、ついには離職に至るケースもあります。
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パワハラは被害者が言い出せず問題が長引きやすい。写真はイメージ=PIXTA
パワハラ対応、被害者守るのが第一 自覚ない上司多く
ある大手企業の男性新入社員の事例です。5月の連休明けから落ち込む症状が続き、仕事にも集中できないと人事部門に訴え、産業医と面談することになりました。大学時代は体育会に所属するなど活発なタイプ。営業部門を志望していたところ事務部門に配属されたそうです。
五月病は5月だけではない
思い描いていた仕事とは異なるうえ、指導役の先輩社員が突如異動となり、1人取り残されてしまいました。不安が高まるにつれて、「何となく自己嫌悪になってしまった」というのです。
このような症状が表れたときには、職場の上司や同僚、産業医に相談してください。仕事ばかりの生活スタイルにならないように、趣味や勉強などに力を入れるのもいいかもしれません。ただし、落ち込みや不眠などの症状が続く場合は精神科の受診を勧めます。前述の新人も現在は精神科でカウンセリングを受けています。
こうしたケースは何も5月に限られたものではなく、むしろ1年を通じてみられるようになっています。このため最近では、「五月病」とは呼ばなくなってきています。
せっかく採用した人材の離職は会社にとってのリスクです。ただ、離職を防ぐための対策は極めて難しいのが実情です。
ある食品メーカーは離職防止の観点から「新人にはゆっくりしっかり仕事に慣れてもらおう」と、前年まで3カ月だった新人研修を延長。1年をかけて製造から販売まで、あらゆる職場で研修を重ねてもらったそうです。ところが結果は意に反したもので、離職率が高まってしまったというのです。どうやら新人たちは早く現場に出て、仕事を任せてもらいたかったようです。
活用したい「仕事のストレス判定図」
こうした離職を防ぐうえで、もっと活用されるべきだと私が考えているのが「仕事のストレス判定図」です。
2015年に労働者50人以上の事業所に対して、社員の心理的負担を検査する「ストレスチェック」が義務化されました。判定図は厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」による個々の調査結果を職場ごとに集団分析してグラフ化したものです。
グラフは2種類あり、ひとつは「仕事のコントロール(裁量や自由度)」と「仕事の量的負担」、もう一つは「同僚の支援」と「上司の支援」をそれぞれ縦軸と横軸にとったものです。
これをみると、裁量が低く量的負担が大きいほどストレスは高く、同僚や上司の支援が少なければ少ないほど、ストレスは高まることが一目瞭然です。
逆にいえば、仕事の量が増えたのなら裁量を広げることでストレスは軽減されるというものです。あるいは、上司や同僚の支援を増やしてやることで負担を軽くできることを示しています。
グラフ中の数値は「健康リスク」。数値が高いほどリスクが高いことを示す。グラフではリスクの高低を赤から白へのグラデーションで示している。(出典:厚生労働省資料)
まずはあいさつから始めよう
判定図が示しているように、上司や同僚との関係が職場の環境を大きく左右します。
ある製造業の事例です。事業所を訪れてみると何となく暗い雰囲気で、あいさつの声も聞こえません。ストレスチェックで集団分析をしてみると、かなり危機的な判定結果となりました。総務部門の担当者から「どこを直したらいいですか」と尋ねられたので、「職場の雰囲気づくりが大切です。まずはあいさつから始めましょう」と助言しました。ところがです。翌年「今年もストレスチェックをやりますか」と問い合わせたところ、その担当者はすでに退社していました。
ただ、こうした職場の雰囲気は決意次第で変えることができます。
あるメーカーの工場では、集団分析で非常に悪い結果が出ました。そこで職場の責任者が一念発起。部下たちに意識して声がけしたり、気軽に相談に乗ったりしたところ、わずか1年で判定が劇的に好転したそうです。ストレスチェックとは異なり集団分析は義務ではありませんが、その意義を十分に理解して、活用すれば大きな効果が期待できるはずです。
メンタル不調の問題のひとつに、本人が自身の症状になかなか気づかないという点があります。まず気をつけてほしいのが不眠です。次に仕事でミスが増えていないか、人の話を聞いて頭に入ってくるか。こうした症状がある場合は放置してはいけません。周囲に相談したり、医師に診てもらったりしてください。
けちなのみや
周囲が早くから兆候をキャッチしてあげることも大切です。同僚の不調を捉えるための標語「けちなのみや」をご存じでしょうか。
「欠勤が多い」「遅刻が多い」「泣き言をいう」「能率が悪い」「ミスが多い」「辞めたいと言い出す」――の頭文字をとったものです。
この6つのポイントに注意を払えば、比較的早期に対応することができるでしょう。ただ、最近はフレックス制や裁量労働制の採用が増えているので、以前とは異なり勤務実態が把握しづらいという問題もあります。
最後に部下や同僚の相談に乗るときの注意点です。
まず相談に応じるのは、自身が十分な時間を確保できるときにしてください。相談時間が短かったり、不十分であったりすると、「取りあえず、お座なりに処理された」と受け止められかねず、不信を招く恐れがあります。十分に時間をとり、ゆっくり話を聞いてあげることが必要です。
「でもね」「だけどさあ」は厳禁
相談の際は自らの主観を挟まぬように注意してください。「でもね」「だけどさあ」などと口にしてはいけません。相手が何が言いたいのか、何を伝えたいのか、耳を傾けてください。相談を持ちかけられた人間が主張する場ではないのですから、「傾聴」する姿勢を忘れないでください。
相談の結果、結論や解決につながらなくても、不安や悩みを言葉にすることで考えが整理され、不安が軽減される「カタルシス効果」も期待されます。
いずれにせよ、必要とされるのは上司、同僚、部下と気軽にコミュニケーションがとれ、困ったときには互いに協力し合える職場づくりです。まず第一歩として、声をかけあい、あいさつをすることから始めてはいかがしょうか。そうすることで、一体感や安心感が増すなどして、職場の雰囲気も変わってくるはずです。
※紹介したケースは個人が特定できないよう、一部を変更しています。』