ウクライナ軍がアウディーイウカで苦戦する理由、陣地を守る兵士がいない
https://grandfleet.info/war-situation-in-ukraine/the-reason-why-the-ukrainian-army-is-having-a-difficult-time-in-audiivka-there-are-no-soldiers-to-protect-the-position/
『2023.12.22
アウディーイウカで戦う大統領旅団の司令官は「ロシア軍に防衛ラインを突破されたのは兵士不足が原因」「1個大隊が守る防衛ラインを3個旅団で攻撃してきた」「通信兵や砲兵を歩兵として塹壕に送ることもある」と現地メディアに明かし、動員から逃げる人々に「覚悟を決めろ」と訴えた。
参考:Комбат Игорь Губаренко: Коксохим – это кратчайший путь, которым россияне могут обрезать Авдеевку
キーウ、ジトーミル、チェルニウツィー、ザカルパッチャのどれなら自身の戦争と捉え、守るための覚悟が決まるのか?
ウクライナ軍は他の戦闘地域と同様にアウディーイウカへのジャーナリスト立ち入りを禁止しているが、Ukrainska Pravda紙は同地で1年近く戦う大統領旅団(第2機械化大隊)のイーゴリ・グバレンコ司令官に「どうしてクラスノホリフカ方向の防衛ラインが破られたのか」といった質問をぶつけ、中々興味深い回答を引き出している。
非常に長いインタビュー記事の内容を要約すると以下のようになる。
出典:管理人作成(クリックで拡大可能)
Ukrainska Pravda:あなたの大隊がアウディーイウカで任務についたのはいつ?
司令官:2023年の2月下旬から3月上旬だ。敵の活発な作戦がクラスノホリフカ方向で開始された時、我々は主にステポヴェ方向で敵が侵入するのを防ぐため特定の防衛ラインを維持するよう命令を受けた。
Ukrainska Pravda:ロシア軍は2023年2月から3月にアウディーイウカ周辺のクラスノホリフカ、ベゼル、オプトネ、ヴォーダインをどうやって攻略したのか?
司令官:動員された兵士によって突破された。もっと正確に言うと動員兵は肉壁となって将校を保護しながら訓練を行なう。彼ら(正規の将校で構成された部隊のこと)は重要なラインを自ら維持し、動員兵を訓練し、戦力と物資を集積し、予備戦力を集めて突破口を開いのだ。
Ukrainska Pravda:ロシア軍は歩兵主体で攻めて来たのか?
司令官:そうだ。事前に敵兵の戦力の侵攻ルートと計算して向かってきた敵兵を全て倒したが、、、事態は予想を超えていた。一般的な教範によると1人の守備兵を攻撃するには5人の歩兵が必要だが、ロシア軍は3個旅団で1個大隊を攻撃してきたんだ。
出典:Минобороны России
Ukrainska Pravda:500人を1万~1.5万人で攻めたと? つまり1人の歩兵に対して30人の敵兵が攻撃してきたと?
司令官:我々は指示された防衛ラインを長いあいだ維持したものの損失が発生し、すり減った体力を回復する暇も、補給を受けて損失を補充する時間もなく、膨大な戦力による1点への集中攻撃に圧倒されてしまった。
Ukrainska Pravda:司令官は敵兵が侵攻してくるルートを計算したと語ったが、事前にアウディーイウカの北部と南部に防衛ラインを準備したのか?
司令官:もちろん。
Ukrainska Pravda:準備した防衛ラインは1本、2本、3本?
司令官:第1線と第2線は間違いなくあった。なぜなら我々がその両方を保持していたからだ。ただ500人で守る防衛ラインに5,000人が攻めて来るとしたら損失は避けられない。しかもロシア軍は5,000人を分割して毎日攻めてくるため、我々の500人はどんどん減っていって疲労が蓄積し、増援もやってきたものの敵の前進を止められるほどの量ではなかった。
出典:Сухопутні війська ЗС України
Ukrainska Pravda:貴方の大隊はアウディーイウカでの戦いでどの程度の補給を受けられたのか?
大隊の参謀長:アウディーイウカで大隊は4回も再編を行った。
司令官:攻撃の矢面に立たされる歩兵部隊では戦死者だけでなく負傷者や行方不明も多く、年齢や健康状況、さらに家庭の事情などで部隊から抜けた者も多い。これをカバーするため旅団やリクルートセンターは新しい補充兵を供給してくれる。中には友人を引っ張って来た人もいた。
Ukrainska Pravda:防衛ラインの話に戻るが、ロシア軍がアウディーイウカでウクライナ軍を圧倒し、側面から迂回できたのは適切な防衛ラインの欠如が原因だと考えられている。貴方は第1線と第2線が準備されていたと話したが、これがどんなものだったか說明可能か?
司令官:対戦車壕、塹壕、地雷、防壁などで構成されている。理解して欲しいのはアウディーイウカの北(クラスノホリフカとステポヴェの間の地域)で破壊された敵装備の80%は事前に準備されたエンジニアリング・バリアのお陰で、夜になると兵士達は塹壕から這い出してルートを封鎖し、防壁を築き、地雷を設置し、翌日やってきたロシア軍の装備を破壊するんだ。地雷や障害物は通行できるか怪しい細いルートにも設置され、そのお陰で10以上の装備を破壊することが出来た。
ただ戦い状況は静的なものではなく動的なものだ。侵攻が始まった2月24日時点の本格的な防衛ラインはヴェルクンオトレスキーにあったが、そこはロシア軍に破られてしまい、歩兵部隊は敵を食い止めることが出来た他の戦線に集結した。
時間があれば新たな防衛ラインを準備できるし、アウディーイウカの第1線は完全に準備が整っていたからこそ、ここまで長く持ちこたえられているのだ。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
Ukrainska Pravda:第1線はアウディーイウカの北側、つまりクラスノホリフカと線路の間のことか?
司令官:そうだ。線路に沿った第2線も我々が掘って準備したが、問題はここを守るための人的要因だ。部隊が陣地から離脱したり、陣地を確保出来なかったり、予備戦力が送られてこなければ防衛ラインをどれだけ準備しても、、、塹壕に兵士がいなければ維持できない。
Ukrainska Pravda:議員が命令に従わなかったり、戦場から逃亡した場合の刑事責任を強化する刑法改正を最高議会に提出している。
司令官:これは何の効果も生んでいない。そもそも命令を無視した兵士が刑事責任を問われるまでどれくらい時間がかかるか知っているか? 早くて2週間から1ヶ月ほどの時間が必要で、その間に指揮官達は沢山の書類を用意し、幾つものビデオも撮影しなければならない。更に刑事責任を問うには私の報告書だけでは不十分で60ページに及ぶ関係書類も集めなければならず、そんな時間はどこにも存在しない。事実上、我が国の刑法は命令を無視した兵士に刑事責任を問える体制ではなく、それを知っている兵士が法の抜け穴として利用しているのだ。
Ukrainska Pravda:このような書類を作成して罪に問われているケースはどれぐらいあるのか?
司令官:実際に判決が下された例は20件ほどで、残りは手続き過程にある。
出典:管理人作成(クリックで拡大可能)
Ukrainska Pravda:現在は12月18日で、アウディーイウカの北側の前線はどの辺りにあるのか?
司令官:線路沿いだ。
Ukrainska Pravda:我々の認識ではロシア軍が線路沿いを超えている。ステポヴェは奪取されたのか?
司令官:まだステポヴェは失われていない。しかしロシア軍は諦めておらず攻撃を続けている。
Ukrainska Pravda:貴方の大隊が維持しているコークス工場にロシア軍は侵入しているのか?
司令官:侵入を試みたが成功していない。ここに侵入されるとロシア軍は歩兵による新たな前進が可能になり、双方とも味方が存在する工場群を砲撃できなくなる。コークス工場への侵入はアウディーイウカを(後方地域から)切り離す最短ルートで、ロシア軍が工場の一部を奪えば街へのアクセスを完全に支配できるようになるだろう。敵は工場を囲むフェンスを突破するためあらゆる努力を試みているものの現段階では全て失敗している。
出典:АВДІЇВСЬКИЙ КОКСОХІМІЧНИЙ ЗАВОД アウディーイウカ・コークス工場
Ukrainska Pravda:アウディーイウカの南側にある工場地区は貴方の担当戦線ではない。しかし2022年以前からドンバス地域で戦っているため「アウディーイウカ要塞」とも呼ばれる工場地区のことを說明できるのか?
司令官:ここはアウディーイウカ郊外にある良好な防衛陣地で、戦術的に有利な高台、コンクリート製のシェルター、掩体壕、安全にアクセスするためのルートなど守るために必要な全てが揃っている。
Ukrainska Pravda:工場地区のどこをロシア軍に奪われたのか?
司令官:一部の地域のみ。
Ukrainska Pravda:なぜ工場地区の一部を奪われてしまったのか?
司令官:守る兵士が足りなかった。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
Ukrainska Pravda:これは軍内部の資源配分に問題があるのか、それとも外部からの資源供給が不足しているのか?
司令官:前線で戦っている人数は100万人中30万人ほどだが動員のリソースが不足している。前線では損失が補充を上回ることも珍しくなく、補充として20人を与えられても当日の戦闘で36人を失ったこともあった。時間さえばあれば戦力を補充できるが、戦闘の激しさは補充能力を完全に圧倒している。
Ukrainska Pravda:運転手やコックを歩兵として陣地に送ったことは?
司令官:通信兵や砲兵も同じ歩兵ではないのか? 彼らも皆と同じように戦っているし、誰もがそうしなければならない状況だ。部隊の指揮官達は利用可能な手段を総動員して指定された防衛ラインを維持し続けなければならない。この状況を改善するには国民の戦いに参加する意欲を高めるだけでなく、命令不履行に対する重い刑事罰が必要で司法が動けば必ず結果が出るだろう。
Ukrainska Pravda:アウディーイウカの今後の状況はどうなると思うか? 新年まで維持することは可能だと思うか?
司令官:ロシア軍の攻勢は間違いなく新年までだ。もし2ヶ月前と同じ数で特定方向に押し寄せてくれば突破口を開くことも可能だが現在のロシア軍には十分な戦力がない。仮に突破口を開いても確保した土地の維持には足場を固め補給ラインを整える必要がある。これらを冬の気象条件下で行なうのは好ましくなく物流の管理は出来ないだろう。
出典:Сухопутні війська ЗС України
Ukrainska Pravda:貴方の大隊の砲兵指揮官は24歳で、迫撃砲指揮官は23歳だが、大隊の平均年齢は?
司令官:現時点では40歳を下回っているが、2022年末から2023年初頭までは43歳~45歳だった。40歳を超える兵士はストレスによる胃潰瘍、関節痛や高血圧といった慢性疾患を発症し、手足を骨折することも多く、こういった理由で特定の任務を回避しようとする。医者から「あの任務から解放しろ」「病気療養のため休暇を与えよ」と指示されると塹壕を守れと命令出来なくなるが、若い兵士が加わって平均年齢が下がると問題が少なくなる。
Ukrainska Pravda:では、動員年齢の引き下げ(27歳→25歳)には賛成の立場か?
司令官:戦争の開始と共に総動員が発令された。彼らは軍人(義務的徴兵を終えたウクライナ人男性は60歳まで予備役軍人として登録されるため)ではないのか? 専門的な訓練を受けた軍人ではないのか? 彼は戦争に参加すべきではないのか?私の大隊では徴兵された兵士が2018年~2021年まで良く戦い、契約を結んで軍に残ったものは今でも戦い続けている。
18歳になればパスポートを(自らの意志で)取得でき、酒を飲み煙草を吸うことが法的に許され、ディスコへ行くことできるのに、なぜ戦いに加わろうとしないのか? 我々の部隊で戦った契約兵士(職業軍人のことで動員対象外の27歳以下も自発に契約を結べばウクライナ軍に加わることは可能)は他の兵士よりも良く戦っている。40歳以上の人々が「なぜ私が行かなければならないのか」「他の誰かが行けないのか」と自問していることを理解してほしい。
Ukrainska Pravda:侵攻後に一定期間、例えば24ヶ月間や36ヶ月間の勤務を行った動員者を復員させるという考えについては?
司令官:素晴らしいアイデアなので是非お願いしたい。しかし復員を実行に移すためには少なくと50万人を新たに動員する必要がある。その準備は恐らく出来ていないだろう。今日50人を失っても明日には50人を確保できるような動員力が必要で、そうなれば年配者は若者に自身の経験を伝えることができローテーションや復員も可能になる。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
Ukrainska Pravda:戦争終結の最も悲観的なシナリオと楽観的なシナリオは?
司令官:最も悲観的なシナリオはロシア軍がドネツク、ザポリージャ、ドニプロペトロウシクの州境に到達して前進を停止し陣地戦に移行した場合だ。我々にとって陣地戦は良い結果をもたらさないだろう。私は来年、クリミア経由の補給路を断ち切り、最低でも2月24日のラインまで到達できると楽観視している。私達は生存を賭けた戦争の真っ最中で、戦いに勝利して真の独立国家となるか、戦いの生き残りがロシア連邦の一部として生きながらえるかのどちらかだ。
Ukrainska Pravda:ザルジニー総司令官は既に陣地戦の様相を呈してきたと指摘している。恐ろしくはないのか?
司令官:陣地戦は資源と人命の浪費なので、今後の戦いは私達が動くか、動かされるかのどちらかになる。
動員から逃げて「これは私の戦争ではない」「ドネツクとルハンシクを守る覚悟が出来ていない」と主張する同胞達に問いたい。キーウ、ジトーミル、チェルニウツィー、ザカルパッチャのどれなら自身の戦争と捉え、守るための覚悟が決まるのか?
出典:Генеральний штаб ЗСУ
以上が興味深い部分の要約で、一般的にウクライナ軍の劣勢は「砲弾不足が原因」と言われているものの、イーゴリ・グバレンコ司令官は「ロシア軍の圧倒的な兵力」「補充を上回る損失」「命令を無視しても罪に問われる可能性が低い刑法の抜け穴」「動員リソースの不足」を挙げており、兵士がいなければ塹壕を維持することは不可能=いくら砲弾があったところで前線を形成できないという意味になる。
兎に角、ウクライナがロシアとの戦いを継続するには「強制的にでも動員から逃げる人々を軍に送り込む(文章にするとグッと来るものがある)」という作業が不可欠で、この点において「社会の合意」が形成できないなら戦争を継続するのは困難だ。
勿論、ロシアとの戦いを支持しても「自身が戦場に行くのはちょっと、、、働いて経済面で戦争を支援するよ」という気持ちも十二分に理解できるが、この考えが多数を占めると肝心の兵士が足りなくなるため、現実的には「誰かの犠牲」が必要で、こんなことは誰もが理解しているものの「犠牲を求められる側」に回った途端「話が違う」となるのかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ
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投稿者: 航空万能論GF管理人 ウクライナ戦況 コメント: 46 』