第4章国家機構法(憲法2)(※ 韓国憲法の話し)

第4章国家機構法(憲法2)(※ 韓国憲法の話し)
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『 1.一般的機構

(1)韓日憲法の統治構造比較

韓国憲法が、その構造上基本権に続いて統治構造を規定している点も、日本国憲法と同
様である。また、統治構造上代表民主主義と権力分立主義を採択する点で、基本的に両国
憲法は共通しているが、韓国憲法は大統領制、日本国憲法は議院内閣制である点は異なっ
ている。大統領制では、議会と大統領がそれぞれ選挙に際して相互独立関係に立ち、大統
領は議会に対して責任を負わない。これに対して議院内閣制では、行政機関である内閣が
議会に対して連帯責任を負う。このような基本的な区分に基づいて、両国憲法の統治構造
をそれぞれ大統領制と議院内閣制によって特徴付けることができる。

しかし韓国の大統領制は、大統領制の典型である米国の場合とは異なり、以下に見られ
るような特徴がある。まず、大統領に強大な権力が附与される反面、議院内閣制の首相に
あたる国務総理をおく等、議院内閣制の要素も混在している。そこで、韓国では、韓国大
統領制を議院内閣制の要素をも含む折衷的な制度とみる見解もあるが(金哲y朱p.662)、こ
の見方は韓国大統領制の有する独裁的要素を隠蔽する可能性があり、適切ではない。これ
に対して、日本の議院内閣制は、内閣が解散権を持つという点で、他の議院内閣制諸国の
制度とは区分される。要するに、日本はおおむね純粋な議院内閣制であるが、韓国は変形
した独裁的大統領制ということができる。

憲法上、基本権に続いて国会が規定されている点も、韓国憲法(第3章・26ヶ条)と日本
国憲法(第4章・24個条項)の共通点である。

しかし、韓国の国会は日本と違い単院制(上
院は1960年の第二共和国で設けられていた。両院制は身分社会や連邦国家で採択されてき
たが、最近は減少傾向である)であり、国会に国政監査権(第61条)が認められている点
では異なるが、国政調査権については同一である。同じ大統領制の米国憲法と異なり、韓
国の場合は政府にも法律案提出権が認められ、大統領に法律案拒否権が認められる。

国会に続いて政府(韓国憲法第4章)と内閣(日本国憲法第5章)が規定されている点も
両国憲法で共通しているが、日本国憲法の規定が11ヶ条に留まるのに対して、韓国憲法の
規定は35ヶ条であり、はるか条文が多く、その内容も日本国憲法とは異なっており、さら
に、政府に関する規定が大統領と行政府(国務総理と閣僚、閣僚会議、行政各部、監査院)
に細分化されている点が異なっている。

国会に引き続いて司法が規定される点でも両国憲法は共通する。しかし、日本国憲法に
は米国式の違憲法律審査制が認められるが、韓国憲法にはドイツ式憲法裁判所が第5章(裁
判所)および第6章に規定されている点で異なっている。この点、韓国の法官任命手続(韓
国憲法104条)が日本のものより民主的だとする見解もあるが(尹龍澤p.241)、これは複
雑な手続を規定した法条文を比較するだけの表面的な見方に留まっている。実際、韓国で
は、最高裁判所長および最高裁判事は大統領によって任命されている。

司法に続いて、韓国憲法には選挙管理(第7章)が規定されているが、日本国憲法にはこ
れに対応する規定がない。もっとも、これに続いて地方自治が規定されている点では両国
憲法が共通している。

(2)国会

①国会の地位と直接民主制

まず、韓国憲法第41条および日本国憲法第43条は、国会は国民により選出されると規定
しており、国会を全国民の代表機関とする点で両国憲法は共通している。しかし、その代
表性は実際には政治的宣言にすぎない。代表性の不十分を補うためには、直接民主制の要
素を加味することが必要である。

日本国憲法では公務員選定および罷免権(第15条1項)、
住民投票(第95条)、憲法改正時の国民投票(第96条1項)などがその例である。

しかし、
韓国憲法には憲法改正時の国民投票(第130条2項)だけが認められている。

第二に、日本国憲法第41条は国会を「国権の最高機関」と規定するが、韓国憲法にはそ
のような規定がない。国会の「国権の最高機関」性は、国民が選出する国会が憲法改正発
議権など重要な権限を有しており、国会が制定する法律に政府と司法府が従わねばならず、
国会が閣総理大臣を指名するという点から説明される。

韓国でも、国会に憲法改正発議権
が認められているが、この権限は大統領にも同様に認められており、さらに、大統領の緊
急措置権が認められている点や、大統領が国民によって選出されるという点で、日本の場
合に比べて国会の位置づけは相対的に低くなっている。

韓国憲法第66条は大統領が国家の
元首であることを明示している。

だが、韓国の国会にも国政統制機関としての地位は認め
られている。特に、議院内閣制が導入されていることから、国務総理任命時の国会同意、
総理および閣僚に対する国会の解任建議権(第63条)などが認められている。しかし、国
会の政府牽制権限は制限されている。とりわけ、国家情報院予算および国防予算について
国会の権限が制限されている。

第三に、韓国憲法第40条および日本国憲法第41条は、それぞれ国会を唯一の立法機関と
定めており、両国憲法はこの点で共通しているが、その内容は異なっている。

日本では、
憲法の規定上国会が単独で立法権を行使することになっているが、韓国では、政府の法律
案提出権(第52条)、大統領の法律案公布権および拒否権(第53条)が認められ、その他緊
急命令権などが広範に認められている。実際には、日本でも内閣の法律案提出は憲法第72
条の議案提出権に含まれると解釈され、さらに内閣法第5条により認められている。その結
果、立法を行政府が主導することになり、実質的に韓国と類似の国会弱体化現象が見られ
る。

第四に、韓国では国会議員の地位の終了は任期満了によるが、日本国憲法では議員の任
期満了前に内閣により衆議院が解散できる(第69条)。

②国会の権能

まず、両国とも国会の最も基本的な権能は立法権である。議員の議案発議権については、
韓国国会および日本の衆議院は20人以上を要件としている。ただし、日本の参議院では10
人以上で発議でき、また予算が伴う場合は衆議院50人以上、参議院20人以上で発議できる。
審議は両国とも常任委員会が中心となり、本会議審議は形式的である。議決は韓国では本
会議で在籍議員過半数の出席と出席議員過半数の賛成を要するが、日本では両院が一致し
た議決をしなければならないとされ、両院の議決が異なる場合には、両者の調整を図るた
めに両院協議会が設けられる。もっとも、以上の原則については、衆議院の再議決、参議
院の緊急集会、地方自治特別法の場合の住民投票による過半数同意等の例外が認められる。
前二者は日本特有のものであるが、地方自治特別法の規定は韓国にもあり、直接民主政的
性格を有する制度とされている。

第二に、韓国憲法第54条および日本国憲法第60条は予算案の審議と議決について規定し
ている。

第三に、憲法改正については、韓国憲法においては、大統領の発議または国会議員過半
数による発議および在籍議員3分の2以上の賛成とともに、国民投票で過半数の投票と投票
者過半数の賛成を必要とする(第128条、第130条)。これに対して、日本国憲法では、各議
院3分の2以上の賛成による国民投票の発議と国民投票での過半数の賛成が必要である(第9
6条)。憲法改正の限界については両国憲法とも規定がない。

第四に、韓国憲法第60条1項、日本国憲法第73条は、それぞれ条約の承認を規定する点で
共通している。

第五に、韓国憲法では、国務総理任命時の国会の同意、総理および閣僚に対する国会の
解任建議権(63条)などが認められるが、日本国憲法では、内閣総理大臣の指名権と内閣
不信任決議権が認められる。日本国憲法の内閣総理大臣指名権と内閣不信任決議権は議院
内閣制の基本的要素であり、韓国のものと比較されうるものではない。

第六に、韓国憲法では、大統領をはじめとする高位公職者に対する弾劾訴追議決権が国
会に認められているが(第65条)、日本国憲法では、裁判官の弾劾訴追をする弾劾裁判所を
設置する権限が国会に認められている(第64条)。なお韓国の弾劾訴追の審判権は憲法裁判
所にある。

第七に、韓国憲法第61条と日本国憲法第62条はそれぞれ国政調査権を定めているが、韓
国憲法では国政監査権も認められている。

その他、規則制定権、身分・組織•議事・秩序などの議院自律権に関する規定がある点
で両国憲法は共通している。

③国会議員

韓国憲法第41条は、普通選挙•平等選挙•直接選挙•秘密選挙により国会議員を選出す
ると規定し、議員数を200人以上(現在299人)と定めているが、日本国憲法では国会議員
の選出は憲法第14条等で公務員一般と共に規定されており、議員数も公職選挙法により衆
議院480人、参議院252人と規定されている(2007年1月26日現在)。韓国国会と日本の衆議
院の選挙制度は小選挙区制と比例代表制の混合方式を採用している点で基本的に同一だが、
韓国では比例代表制が全国単位でひとつ(地方区253人、全国区46人)であるのに対して、
日本は11ブロックを単位とする点で異なっている。両国とも、公職選挙法がこれを具体的
に規定している。

韓国憲法第44条と日本国憲法第50条は、それぞれ国会議員の不逮捕特権を規定している。
しかし、両国ともこの規定は犯罪を行なった議員の不当な保護など、濫用の問題が指摘さ
れている。また、韓国憲法第45条と日本国憲法第51条は、それぞれ国会議員の免責特権を
規定しているが、これについても不逮捕特権と同様の問題がある。

韓国憲法第47条、日本国憲法第53条は在籍議員4分の1以上による臨時会招集要求権をそ
れぞれ規定する。また、議員発議権の規定も前述のように両国憲法に共通しており、質問
質疑権、討議表決権が認められことも共通する。
④議会手続
韓国と日本の議会は会期制に基づいて運営されるという点で共通しているが、韓国国会
は会期継続の原則を採用しているのに対して、日本は会期不継続の原則を採用している点
で異なっている。両国とも、会議公開の原則と一事不再議の原則を採用している点でも共
通している。ただし、韓国の場合、会議非公開が出席議員過半数の賛成または議長の認め
る国家安全保障上の必要により認められるが(第50条)、日本の場合には出席議員3分の2以
上の賛成を必要とする点(第57条)においてより一層厳格である。他方、委員会審議につ
いては、韓国では情報委員会のみ非公開であるのに対して、日本の場合にはあらゆる委員
会が非公開を原則としている点は、韓国に比べて閉鎖的と評価できよう。

会期については、韓国憲法の場合には、定期会と臨時会に区分されるが(憲法第47条)、
日本国憲法の場合には、常会、臨時会のほかに特別会があるという点で異なっている。ま
た、韓国では定期会(常会)は100日未満であるが、日本は150日である点で異なっている。
国会の定足数は、韓国の場合には原則として在籍議員5分の1以上によるとされるのに対
して、日本の場合には総議員の3分の1以上とされ、より一層制限的である(憲法第56条)。
表決数についてもまた、韓国憲法第49条が原則として在籍議員過半数出席と出席議員過半
数の賛成によるとしているのに対して、日本国憲法第56条は在籍議員過半数を要求してい
る点で、より一層厳格である。他方、可否同数の場合について、韓国憲法は否決と規定す
るが、日本国憲法は議長が決定するように規定している点も異なっている。

(3)政府と内閣

① 日韓政府の比較

韓国憲法では、行政権担当部署を「政府」というが、日本では「内閣」という。前者は
大統領と行政府という二元的構造となっている点に特徴がある。これは、米国式大統領制
が一元的制度であるのとは異なり、政治的執行権能は大統領が担い、行政権能は国務総理
を首班とする行政府に委ねられるとする制度である。大統領が何の権限もない国務総理を
盾に聖域に安住することを認めるこのような非民主的大統領制は、韓国憲法の有する最も
深刻な問題点であり、制憲憲法以後ずっと継続している悪弊である。国務総理制は廃止し、
大統領が行政各部を直接に指揮し、各部長官と共に政策審議にあたるのが正しいあり方で
あろう。議院内閣制のもとでも大統領が置かれる場合はあるが、日本にはない。議院内閣
制のもとでの大統領は、国家統合の象徴として形式的で儀礼的な機能を担当するのが通常
であることを考えれば、日本の天皇がそのような役割を果たしていると見ることもできる。
日本国憲法における「内閣」とは、内閣総理大臣と国務大臣とで構成される合議体をい
う(第66条)。この点、韓国行政府の「閣僚会議」(国務会議)がこれに対応すると見るこ
ともできるが、閣僚会議はあくまでも大統領に対する補佐的審議機関にすぎない。韓国の
閣僚会議は、米国式大統領制では見られない、韓国独自の変形大統領制に特有な制度であ
る。いずれにしろ日本の内閣が有する権限は、韓国の場合には大統領に集中されるのであ
り、韓国大統領の権限は日本の内閣よりもはるかに強大である。
しばしば日本国憲法の国家体制は立法国家(第41条)ないし司法国家(第81条)である
と言われるが、実際には行政権の肥大化現象が見られる点で韓国と類似の傾向を有してい
るといえる。特に、立法の大部分が行政府によって行われ、国会が機能不全に陥っている
点や、行政による裁量的政策決定の増大、司法府による行政統制のマヒ現象などは共通の
問題であると言うことができる。

② 大統領

(a)地位

韓国憲法における大統領は、少なくとも憲法形式上は、内閣総理大臣に比較できる地位
にあると言える。韓国憲法上、大統領は第66条により国家元首かつ国政の最高責任者であ
り、また行政首班であり、国民の直選による代表機関である。さらに、実際には与党の党
首でもある。これに対して、日本国憲法第66条によれば、内閣総理大臣は行政府の首班に
すぎない。

韓国改憲史は大統領選挙方式の改正史ともいえることは既に述べた。現在は国民の直選
による5年単任制であるが、これは同じ大統領制を行なう米国が4年重任、フランスは7年重
任、オーストリアは6年重任であるのと異なっている。

しかし、単任制は国民による審判自
体を遮断するものであり、実際上非民主的である。また、単任制の場合、任期の終期に生
ずるレイムダック現象が深刻になりがちである。このようなことから、単任制を採用する
大統領制国家は韓国の他にはメキシコしかない。

大統領の選挙方法についても、相対多数得票者が当選するとされるので、得票数が選挙
権者の過半数にも達しない当選者が出てくるという点が問題になる。実際、現行憲法のも
とで盧泰愚は37%、金泳三は42%の支持で当選している。

フランス、オーストリア、ロシ
ア、ポーランドの現行憲法はいずれも絶対多数選挙制を採択している。

また、大統領の欠位時に副大統領がその地位を継承するというのが、米国をはじめとす
る大部分の大統領制で採用されている原則であるが、韓国憲法は国務総理などが臨時に権
限を代行して、60日内に大統領を選出するとしている点(第68条)も問題である。これは
日本国憲法の総理大臣に関する規定(日本国憲法第70条、第71条)と類似する規定である。
このようなやり方は、議院内閣制の場合には比較的に問題は少ないが、大統領が国民に直
接に責任を負う直選大統領制の場合には問題が大きい。

韓国憲法第84条は、大統領の在職中の刑事上の不訴追特権を認め、第85条により任期後
にも特別な待遇を受けるとされている。

(b)権限

韓国憲法上大統領の権限は次の通りである。

まず、韓国憲法第73条は大統領に外交的権限を認める。これに対して、日本国憲法第73
条はこれを内閣の権限としている。

第二に、大統領の統治的権限として、韓国憲法第72条は国民投票付議権、第128条は憲法
改正発議権、第76条および第77条は国家緊急権を認めている。この点、国民投票付議権は
直接民主的な要素を導入したものと見ることもできるが、実際にはこの権限は繰り返し悪
用されてきた。権限の悪用について言えば、悪用の危険性が最も高いのは国家緊急権であ
る。悪用の弊害を除去すべく、かつての非常大権は縮小され、今日では緊急財政経済処分
権および命令権(76条1項)、緊急命令権(同2項)のみ認められるとされ、これについて事
後に国会承認を要すると改正されたが、依然として問題は残っている。

第三に、組織的権限としては次のものが認められている。すなわち、国務総理と閣僚任
命権(第86条、第87条)、最高裁判所長と最高裁判事任命権(第104条)、憲法裁判所長と裁
判官任命権(第111条)などである。

第四に、政策的権限が認められるが、これはさらに行政権(公務員任免権、国軍統帥権、
財政権、栄典授与権)、立法権(法律案提出公布拒否等関与権、行政立法権)、司法権(違
憲政党解散提訴権、赦免、減刑、復権)等に分けられる。

以上の大統領権限は、日本国憲法の内閣総理大臣の権限とは大きく異なっており、比較
は困難である。内閣総理大臣の有する権限は、大臣任免権(第68条)、議案提出権(第72条)、
内閣主宰権などの権限にとどまっている。日本国憲法上、大統領権限に相当する権限は内
閣に帰属している。すなわち、憲法第73条による外交、条約、管理、予算作成、政令制定、
恩赦決定などの権限、その他、最高裁判所長官の指名と同裁判官の任命、下級裁判所裁判
官の任命、国会臨時会招集決定、参議院緊急集会の請求、衆議院解散決定、財政、法律案
提出などがそうである。

③ 行政府

まず、韓国の行政府を概観しよう。韓国憲法上、国務総理は大統領の補佐機関として国
会の同意を得て大統領が任命する(第86条1項)。閣僚(国務委員)は国務総理の提請に基
づいて大統領が任命する(第87条)。国務総理と国務委員は、大統領の権限代行権、国政審
議権、副署権、議政関与権などを持つ。しかし実際には、国務総理は無権限者の世論宥和
手段として起用されるのが普通である。

閣僚会議は、大統領を議長とし、国務総理および委員で構成される審議機関であるにも
拘わらず、その議決は大統領を拘束できない。大統領は、国務総理の提請に基づいて閣僚
中から行政各部の長を任命する(第94条)。長官(行政部の長)は、業務統括指揮権と部令
制定権および政策財政人事権を持つ。現在、政府組織法によれば、大統領直属機関である
国家情報院、国務総理所属の2院5処、14部から政府が構成されている。その他、憲法機関
として大統領所属の監査院(第97〜第100条)、各種大統領諮問機関があり、独立機関とし
て選挙管理委員会(第114〜第116条)がある。

韓国の行政府と比較すれば、日本の行政府は固有の行政機能に留まるものである。

④ 司法

(a) 日韓司法の比較

韓国の司法府も政府の場合と同様に二元的に規定されている。

すなわち、韓国では、裁
判所(韓国憲法第101〜第110条)と憲法裁判所(同第111〜第113条)は別個に規定されて
いる。

これに対して、日本国憲法は司法だけを規定する(日本国憲法第76〜第82条)。

これ
は、韓国の場合には違憲決定権が憲法裁判所(第111条)にあるのに対して、日本の場合に
違憲法令審査権が裁判所にある(第81条)ためである。

韓国では、該当する法律の違憲審
判が裁判を行う前提問題となった場合には、裁判所は、職権または当事者の申請により違
憲可否を審査し、違憲と判断した場合、裁判を停止し、憲法裁判所に違憲審判を提請し、
その審判に基づいて裁判する(第107条)。

韓国憲法は特別裁判所として軍事裁判を設けることができると規定しているが(第110
条)、日本では司法権の独立を害するという理由で廃止された。

日本の場合には、明治憲法
の下では軍事裁判所と行政裁判所が設けられていたが、日本国憲法はアメリカ型の司法制
度を導入し、系列を異にする特別裁判所は認められなくなった。

他方、韓国では、裁判所
組織法により行政裁判所が設置されている。

もっとも、韓国の行政裁判所は最高裁判所に
属するものであり、かつての日本の場合のように行政機関の所轄によるものではない。


の他にも韓国には日本には見られない特許裁判所が設置されている。家庭裁判所は両国に
共通するものだが、簡易裁判所は日本にしかない。

(b) 司法権の独立と公開

司法権の独立は他の国家機関との関係での対外的独立と裁判官の独立とがある。

まず、
対外的独立について検討する。韓日両国憲法はともに司法権の独立を認めている。

もっと
も、前述のように日本と異なり韓国では特別裁判所が存在している。韓国では、法官(裁
判官)の任命について、大統領の最rW!裁判所長および最rW!裁判事任命権、およびそれに対
する国会の同意権が認められている。

日本の場合も、最高裁判所裁判官の任命権および下
級裁判所裁判官の任命権は内閣に属している。

さらに、韓国では赦免権が大統領に、日本
では内閣に認められている。これらの規定は司法権の独立に対する制限とみることもでき
るが、三権分立の抑制均衡原理のもとで肯定される。それでもなお、日本憲法が下級裁判
所裁判官任命権を内閣に与えていることは問題である。

第二に、裁判官の独立について検討する。韓国憲法第103条、日本国憲法第76条はそれぞ
れ裁判官の独立を規定しており、その他身分規定を設けている。最高裁判所裁判官は両国
とも40歳以上と規定されるが、韓国の場合には最高裁判所裁判官全員に15年以上の法曹経
歴が要求される。

日本の場合には最高裁判所裁判官に必ずしも法曹経歴が求められず、15
人中10人にのみ10年以上の特定の法曹経歴が要求される等の点で異なっている。

2007年時
点で、日本の最高裁裁判官のうち2人が行政官出身であり、1人が学者出身である。それに
も拘わらず、日本では最高裁判所裁判官の構成の同質化による官僚化が指摘されている。
他方、韓国の場合には、最高裁判所裁判官は法的に完全に官僚化されている。韓国では、
下級裁判所裁判官も司法試験合格者に資格が限定されるが、日本の場合には法学教授等に
も資格が認められる点が異なっている(もっとも司法制度改革後この特例は廃止されてい
る)。

とはいえ、韓日両国いずれの場合にも、大部分の裁判官は司法修習生段階から裁判官
を志望してその経歴を歩むのが一般的であり、しばしば世間的常識からの乖離が問題にな
っている。そこで、司法の民主化を実現するために陪審制および参審制導入が検討され、
日本では裁判員制度の導入が決まっている。

韓国では、裁判所改革の一環として、1997年から予備判事制度が導入されている。これ
は、日本の判事補制度と同様な制度であるが、予備判事に裁判官の資格を認めない点で異
なっている。予備判事制度の本来の趣旨は裁判の専門性と正当性を高めるために、弁護士、
検事など、法律家としてio年ほどの専門経歴を持つ者を裁判官として任命しようとするも
のであったが、事実上、裁判官任命に先立つ2年間の経歴が要求されるに留まり、かえって
裁判所の官僚化を強化する結果となっている。

日本の場合、最高裁判所裁判官に対する国民審査制があるが、韓国にはそのような制度
はない。

韓国では、その代わりに、2000年に最高裁および憲法裁判所判事の任命に国会同
意手続として人事聴聞会が開かれることになった。

日本では最高裁判所裁判官の任期が規
定されていないが、韓国の場合には6年と定められ、再任が可能である。

第三に、裁判の公開について検討する。韓国憲法第109条、日本国憲法第82条は、それぞ
れ民主主義の下、裁判は当然に公開されるべきだという原則を規定している。それにも拘
わらず、両国とも、傍聴の自由に対する例外を裁判官の裁量で認めている。特に韓国では、
刑法の法廷侮辱罪によって3年以下の懲役刑が課され、また裁判所組織法には法廷騒乱によ
り20日以内の監置処分もしくは100万ウォン以下の過料に処することが定められ、身体の自
由拘束と金銭上の不利益を招いている(なお日本の場合にも「法廷等の秩序維持に関する
法律」第2条に同様の規定がある)。

(c) 裁判所の構成と権能

まず、最高裁判所(韓国の大法院)は、終審裁判所とされ、韓国では14人、日本では15
人の裁判官で構成される。裁判所の規則制定権と司法行政権は両国憲法で同様に規定され
ている。

この点、両国いずれの場合にも、司法行政権は本来期待されているように司法権
の独立を保障するのではなく、裁判官の職務遂行に影響を及ぼし、司法の官僚化を招いて
きたことが問題になってきた。

他方、下級裁判所は、韓国の場合には、高等法院、特許法院、地方法院、家庭法院、行
政法院の5つからなるが、日本の場合には、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁
判所の4つからなる。

(d) 違憲立法審査

前述のように、違憲立法審査は、韓国の場合にはドイツ式の憲法裁判所によるが、日本
の場合には米国式の最高裁判所による。だが、韓国の憲法裁判所はドイツと異なり司法府
に属しない。

韓国の憲法裁判所は9人の裁判官で構成され、国会、大統領、最高裁判所長が
それぞれ3名ずつ指名する。

その資格と任期は最高裁判所裁判官と同じである。

一方、韓国の憲法裁判には、違憲立法決定に留まらず、弾劾審判、違憲政党解散、権限
争議、憲法訴願等、多様な権限が認められている。

韓国の違憲立法審査に特徴的な制度と
しては、憲法訴願の一類型として、当事者が裁判所に違憲審判を申立し、裁判所がこれを
棄却した場合、憲法訴願が認められる。これは当事者からすれば、二重の手続きをふまな
ければならない点で問題である。

また、ドイツとは異なり、裁判に対する憲法訴願が否定
され、憲法訴願に対して仮処分制度が認められない等、多くの問題点が指摘されている。
なお、ドイツの場合には憲法訴願の相当数が裁判に対するものである。
違憲審査の対象は、韓国の場合には、裁判の前提になった法律に限定されるが、日本の
場合には一切の法律、命令、規則、条例、条約、行政処分、裁判が含まれるという点で韓
国の場合よりも一層幅が広い。

違憲審査の対象についてとりわけ問題になるのは統治行為である。韓国(大判1981年9
月22日、81b1833)と日本(最大判昭35年6月8日)のいずれの場合も、最高裁判所は統治
行為を理由として司法的審査を拒否しているが、最近韓国では統治行為が憲法裁判の対象
になるとする憲法裁判所の決定が下された。

韓国の憲法裁判所の構成と審判手続は最高裁判所と類似するが、韓国の裁判では弁護士
強制主義が採択される点で異なっている。韓国の弁護士強制主義については、平等権およ
び裁判を受ける権利に反するとする憲法訴願が行われたが、憲法裁判所はこれに対して憲
法裁判の効率的運営と裁判官に対する監視牽制の機能、そして国選弁護人制度が設けられ
ていること等を理由として合憲決定を下した(憲裁1990年9月3日、89憲マ120. 212 [併合])。

しかし、国選弁護人制度は極めて制限的に認められるに留まっており、問題は大きい。
1988年から1998年までの10年間、憲法裁判所は総4,437件の事件を受理したが、その中
の3分の2を越える3,443件が憲法訴願事件であり、残りの大部分は違憲法律事件であった。
それにも拘わらず、憲法訴願事件で認容されものは91件しかなく、残りは却下または棄却
であり、違憲法律審判で違憲決定が出されたものは148件に過ぎなかった。

(4)地方自治

① 日韓地方自治の比較

韓国憲法第117、第118条、日本国憲法第92条〜95条は、それぞれ地方自治について規定
している。

韓国憲法の規定は極めて抽象的であり、大部分の内容を法律に委任しているが、
日本国憲法は地方公共団体の長と地方議会議員等の住民選挙(第93条)、地方特別法制定時
の住民投票(第95条)を具体的に規定している。

地方公共団体の長と地方議会議員等の住
民選挙は、韓国でも地方自治法によって最近実施されるに至っているが(団体長選挙は199
5年から)、地方特別法制定時の住民投票は制度自体がなく、1994年に地方公共団体の長に
住民投票付議権が附与された。

地方自治は、日本では、憲法制度上19世紀末に始まり、100年以上の歴史を持つ。これに
対して、韓国の地方自治は紀余曲折を経る。

韓国でも、1952年に地方議会選挙、1956年と
1960年に地方公共団体の長の直接選挙が実施された。

だが、1961年に地方議会が廃止され、
団体長も任命制に変えられた。

その後30余年を経て、1991年に地方議会選挙、1995年団体
長選挙が復活されることになる。

このように、韓国の地方自治の歴史の蓄積は極めて浅い。

さらに、日本では、1990年代に地方分権の推進が一層加速化されており、1995年には地方
分権推進法が制定され、1999年には機関委任事務の廃止などが実現されている。

これと比
較すると、韓国の地方自治はより一層遅れをとっていると言わざるを得ない。

特に、韓国では、日本と異なり、基礎自治団体議会選挙で政党推薦制が排除されており、
また、基礎自治団体が邑面(町村)でなく郡とされている点も問題である。

より一層問題
が大きいのは、地方自治体に対する中央政府の統制と干渉が強化されてきている点である。

国は、地方自治体副団体長(副首長)の身分と任命方法を二元化し国家の干渉を強化して
いる。

② 地方公共団体の組織

韓国の地方自治法では、地方公共団体は二重化されており、広域自治団体としてソウル
特別市、広域市、道が設けられ、基礎自治団体として市、郡、区が設けられている。

1995
年現在、前者が15単位あり、後者が230単位ある。

日本の地方自治法でも、地方公共団体は、
普通地方公共団体として、広域自治体である都道府県、基礎自治体である市町村が規定さ
れている。

同法には、特別地方公共団体として、特別区(東京都の区)、組合(消防、上下
水道、ゴミ処理、福祉、学校、公営競技の運営など、普通地方公共団体および特別区が行
う事務の一部を共同処理するために設けられる法人)、財産区(市町村合併の際に旧市町村
が所有•管理していた土地や財産を新市町村に引き継がずに旧市町村の地域で管理、処分
するために設置される行政組織)、および地方開発事業団(複数の普通地方公共団体で、住
宅、工業用水道、道路、港湾、水道、下水道、公園緑地建設などの事業を行うために設置
される行政組織)が規定されるが、憲法上固有の地方公共団体ではない。

日本では、憲法上、地方公共団体の議会(議員)と団体の長が、住民の直接選挙によつ
て選出されると規定されるが、韓国ではこれを法律で規定している。

また、日本では、議
院内閣制の統治構造と同じく、地方公共団体においても議会と団体の長との抑制均衡が規
定されており、議会には団体の長に対する不信任議決権が認められ、長には議会議決に対
する再議請求権と議会解散権が認められる。

これに対して、韓国では、団体の長に条例拒
否権のみ認められている。

日本では、町・村議会を選挙権者の総会で代替することができるとされるが、この点で
も韓国と異なっている。

両国いずれの地方議会にも自治立法権、自治財政権、行政事務監
査および調査権が認められる点では共通しているが、日本の場合には、その他に出頭・証
言・記録提出請求権などが認められる。

また、団体の長が事務の執行管理などの権限を持
つ点で両国は共通している。

しかし、日本の場合には、職務執行命令訴訟制度があり、さ
らに行政委員会制度が認められる点で、韓国とは異なっている。

③地方公共団体の事務

従来、韓日両国いずれの場合にも、地方公共団体の事務は、自治事務と団体委任事務に
分けられ、さらに国家の委任する機関委任事務があった。機関委任事務は、地方自治の自
主性を害すると指摘され、日本では1999年に廃止された。

これと併せて団体委任事務も自
治事務へと再編成された。

また、両国憲法とも条例制定権は法令の範囲内で認められると
いう原則を定めているが、これは法律の留保を意味するものではなく、国の一般的規定と
地方独自の規定との調整原則であると理解される。

2.特別な統治構造

韓国には日本に見ることのできない特別な国家機構が存在する。

すなわち、大統領直属の
政府組織である大統領秘書室と国家情報院である。

この点、秘書室が置かれていること自
体は日本の総理大臣秘書室の場合と同様であるが、日本のそれは文字通り秘書業務を行う
に留まっている。

他方、韓国の場合には、大統領秘書室は、もうーの閣僚として、事実上
国務総理や行政各部の長官にまさる強大な権力を行使してきた。

国家情報院は、大統領秘書
室以上に強大な権力を有し、同院長は大統領に次ぐ強力な権限を行使してきたが、最近、
その権限はかなり制限されてきている。

権寧星『憲法学院論』、法文社、1994年
許営『韓国憲法論』、改訂版、博英社、1997年
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芦部信喜『憲法学1』、有斐閣、1992年
樋口陽一『憲法』、創文社、1992年
尹龍澤「韓国での憲政史の悲劇と現行憲法の特色に関して」、小島武司•韓相範編
『韓国法の現在(上)』、日本比較法研究所、1993年
二宮周平『事実婚姻の現代的課題』、日本評論社、1990年