米国、中国製鉄鋼の迂回輸入に対抗策 中南米は関税上げ

米国、中国製鉄鋼の迂回輸入に対抗策 中南米は関税上げ
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『2024年7月10日 22:00

【サンパウロ=水口二季、ワシントン=八十島綾平】中国が過剰生産した廉価の鉄鋼製品を巡り、各国が自国市場への流入を防ぐ施策を強化している。米国はメキシコからの迂回輸入への対抗策を導入。米国市場からはじかれる中国製品が入らないよう、中南米諸国も関税引き上げで「防壁」をつくっている。

米政府は10日、中国産の鉄鋼製品がメキシコ経由で米国に迂回輸入されることを防ぐ措置を同日から取ると発表した。追加関税の…

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『追加関税の負担なしで輸入するには、米国・メキシコ・カナダのいずれかでつくられたことを証明するよう輸入者に求める。

新たな対策はメキシコと連携して実施する。米通商代表部(USTR)のタイ代表は「中国の過剰生産能力から、米国の労働者と企業を守る措置を強化する」と述べた。メキシコ政府も4月、鉄鋼などへの関税引き上げを公表している。

米国は通商拡大法232条に基づき鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の追加関税を課している。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を結んでいるメキシコとカナダの鉄鋼製品は、追加関税の適用対象外になっている。

米政府はメキシコからの輸入品について今後、鉄鋼製品では協定を結んだ3カ国で原料を溶かして鋳造したことの証明を求める。アルミ製品では中国・ロシア・イラン・ベラルーシでつくられた材料を含まないことの証明を求める。

米政府高官によると、2023年にメキシコから米国に輸入された鉄鋼は約380万トンあった。このうち87%は米・メキシコ・カナダ内でつくられていたが、残り13%は中国などでつくられたものだった。アルミ製品では、6%が3カ国以外でつくられていた。

バイデン米政権は通商法301条に基づく制裁関税についても、中国から輸入される鉄鋼や電気自動車(EV)などへの税率を8月から大幅に引き上げる。

規制強化で米国へ輸出できなかった中国製品を巡り、自国への流入を警戒する動きも広がる。中南米諸国では関税の引き上げに動き出している。ブラジル政府は6月から一部の鉄鋼製品を対象に関税を9〜12.6%から25%に引き上げた。建材などに使われる熱延コイル線材などが対象で、国ごとに規定された輸入枠を超えた際に適用される。

ジェラルド・アルキミン開発・工業・貿易相は「国内の雇用を守り、産業の高度化に向けた新規投資を推し進めるため」と強調した。

中国は中南米との経済的な結びつきを強めており、過剰生産された鉄鋼製品などの格好の輸出先になってきた。

中国税関総署によると、23年に中国からブラジルへ輸出された鉄鋼は、世界的な物流混乱のあった22年に比べ8割増の約270万トンだった。新型コロナウイルス禍前の19年に比べると3.2倍の水準だ。

23年のメキシコ向け輸出は前年比で2割、チリ向けは1割増えた。ラテンアメリカ鉄鋼協会によると、中国からブラジルへの輸出は24年1〜3月も前年同期を44%上回った。

中国からの輸入は、ブラジルで国内生産される鉄鋼製品量の約1割に相当する。輸入急増により中南米各国では生産調整を迫られる。

世界鉄鋼協会によると、ブラジルの23年の粗鋼生産量は前年比6.5%減の3187万トンに減少した。エクアドル(同11.6%減)やパラグアイ(同10.4%減)などでも影響は大きい。

鉄鋼業界の経営環境は急激に悪化する。ブラジル鉄鋼大手ゲルダウは23年の純利益が前年比4割減に落ち込んだ。グスタボ・ウェルネック最高経営責任者(CEO)は「余った中国製品が流入し、各地で悪影響を及ぼしている」と訴える。サンパウロ州の工場では従業員との契約を一時停止した。別の国内工場でも解雇や雇用調整を余儀なくされている。

チリも一部の鉄鋼製品に約25〜33%の高関税を設定した。同国では鉄鋼大手のCAPが同国最大のウアチパト製鉄所を無期限で操業停止にするなど、中国製鉄鋼による影響が広がっていた。同社は政府の関税引き上げ方針を受けて工場を再開すると表明しており、業界には歓迎ムードが漂う。

もっとも、中南米諸国では経済や貿易面での対中依存度が高く、同国からの対抗措置への懸念は強い。ブラジルは輸出全体の3割を中国に依存し、対中貿易では黒字が続いている。チリも鉱物や食品などの輸出で大きな利益を得ている。対中関税引き上げなどの強硬策を今後どこまで維持できるか、不透明な部分は残る。

経済協力開発機構(OECD)の鉄鋼委員会が1月に公表したリポートでは、世界の鉄鋼生産能力が、前回過剰生産が大きな問題となった14年ごろと同じ水準に達しつつあると指摘した。

OECDは中国が東南アジアをはじめとした海外生産拠点での能力拡張を進めていることにも懸念を示す。過剰生産に端を発した問題は、北米や中南米のみならず、世界各地で波紋を広げている。

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