中国EV関税決めた米欧、日本は慎重 過剰生産をG7警戒

中国EV関税決めた米欧、日本は慎重 過剰生産をG7警戒
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA13DE30T10C24A6000000/

『2024年6月14日 16:01

【ファサーノ(イタリア南部)=牛込俊介】中国製の電気自動車(EV)に米欧が厳しい目を向けている。中国政府の補助金を支えに不当な安値で販売していると判断し、輸入関税の引き上げを決めた。

中国は反発し、報復措置に言及した。

日本は米欧の姿勢と距離を置きつつも、先端エネルギー分野で特定国に依存しない道を探る。

「重要分野の世界的な過剰生産能力に対処するために、これまで以上に協力することを約束する」。主要7…

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『「重要分野の世界的な過剰生産能力に対処するために、これまで以上に協力することを約束する」。主要7カ国首脳会議(G7サミット)は14日にも採択する首脳宣言で、中国を念頭に過剰生産への対応を明記する。

直接の言及を避けたものの、不透明な補助金や税優遇による中国製品の過剰生産が市場競争をゆがめていることに警戒感をあらわにする。

サミット開催前の12日、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は中国製EVに最大38.1%の追加関税を7月から課すと発表した。欧州委は2023年から安値販売の背景にある補助金の調査を実施し、中国が供給網全体で不当な支援をしていると結論づけた。

中国製EVを巡っては、バイデン米政権も8月から関税を現行水準の4倍の100%に引き上げる案を公表した。EVに限らず、太陽光パネルや半導体、鉄鋼・アルミニウムといった物資にまで引き上げは及ぶ。

バイデン政権はかねて中国の過剰生産を問題視してきた。今回の関税引き上げはトランプ前政権時代に措置した「通商法301条」に基づく。

米国は11月の大統領選を前にバイデン、トランプ両陣営が保護主義的な政策を競い合う。中国製品の流入に不安を持つ労働者らの票獲得を狙う。欧州でも6月9日までの欧州議会選で極右や右派のEU懐疑派が躍進し、自国優先の内向き志向が強まっている。

米欧の対応に中国は反発している。中国商務省はEUの関税引き上げに関して「世界貿易機関(WTO)規則を無視しており、断固として反対する」との報道官談話を出した。13日には同省の報道官が欧州産の乳製品などの補助金調査の実施に言及した。

日本は中国製EVに厳しい姿勢で臨む米欧とは異なる立ち位置にある。国内の新車販売に占めるEV比率は2%ほどにとどまり、経済産業省幹部は「自国産業の損害を訴えるほどの状況にはない」と語る。

地理的に近い日中両国は大企業から中小まで双方の取引が多い。貿易相手として無視できず、関税のような貿易措置はとりにくい。PwCコンサルティングの薗田直孝シニアエコノミストは「関税の引き上げは相手国の報復を招いてエスカレートしがちだ。日本の産業を守るために引き上げが正解なのかは疑問だ」と話す。

そんな日本も「中国の過剰生産を見過ごすことはできない」(別の経産省幹部)。脱炭素に欠かせない太陽光や風力といった再生可能エネルギーの分野で問題をかかえる可能性がある。

中国はEV、リチウムイオン電池、太陽光発電の関連製品を「新・三種の神器(新三様)」と位置づけ、支援を強めている。輸出額は直近3年間で4倍近くまで増えた。日本も電池や発電機器を中国に依存する。

これから普及が見込まれる薄型の次世代型太陽電池や洋上風力発電の分野では国内メーカーの生産強化に取り組むものの、中国企業の追い上げを警戒する。

日本は交渉再開で合意した日中韓自由貿易協定(FTA)やWTOといった国際的な経済枠組みを通じ、不公正な動きを改めるよう中国側に働きかける。

G7首脳は重要物資を巡り、価格面だけでなく供給の持続性や信頼性を重視した補助金や政府調達の共通ルールづくりに取り組むことで合意する。戦略分野で公正なルールを重視して自国の産業を育成し、有志国間の供給網の結びつきを強める狙いだ。

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・EU、中国製EVに最大38%の追加関税 7月から
・中国、EU産乳製品へ補助金調査を示唆 関税措置に対抗 』

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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説 「日本国内の新車販売に占めるEV比率は2%ほど」がポイント。

欧州主要国は軒並み15%以上、アメリカは8%程度。

ただ、今後を考えると日本にとっても中国の過剰生産は遠くないタイミングで喫緊の問題になると思います。

2024年6月14日 22:29』