「失われた30年」防衛費も順位陥落 豊かさ低調と裏表
安全保障とeconomy
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA01CZI0R00C24A5000000/
『2024年6月10日 5:00 (2024年6月10日 9:01更新)
バブル崩壊後の日本経済の低迷期「失われた30年」は安全保障にも影を落とす。
日本は防衛費を長らく国内総生産(GDP)比で原則1%以内にとどめてきた。暮らしの豊かさを象徴するGDP成長率が低調なら防衛費も伸びない関係にある。かつて世界2位だった支出額は10位まで陥落した。
岸田文雄首相は2023年末の講演で「この30年を『失われた30年』と呼ぶ向きもあるが『移りゆく30年』と呼ぶべきではないか」と提…
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『岸田文雄首相は2023年末の講演で「この30年を『失われた30年』と呼ぶ向きもあるが『移りゆく30年』と呼ぶべきではないか」と提起した。
経済・社会構造の移行にはひとつの世代の区切りに当たる30年程度が必要だと説明した。
この間、IT(情報技術)の普及やAI(人工知能)といった科学技術の台頭で世界の経済・社会構造は様変わりした。
冷戦終結に伴い安保環境も変化し、ロシアに変わって中国の軍事力が増大した。一方で米国は「世界の警察官」の役割から退きつつある。
日本の総人口は05年に戦後初めて前年を下回り、減少傾向に転じた。
15年に安全保障関連法を整備し、22年12月に防衛費をGDP比2%に増やす方向へカジを切った。防衛装備品の輸出拡大に道を開き、確かに日本は大きな移行を果たした。
それでも長い低迷は世界の安保における日本の位置づけを後退させた。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が4月に公表した23年の各国の軍事支出額は、1988年の統計開始以降で最大規模の2兆4430億ドル(約380兆円)に達した。支出額トップは米国で中国、ロシア、インド、サウジアラビアと続いた。日本は10位だった。
世界銀行の統計でも日本の防衛費は22年に10位に落ちた。
バブル崩壊から間もない1995年の日本の順位は米国に次ぐ2位だった。
国際通貨基金(IMF)によると95年の日本の名目GDPは5兆5千億ドルで世界の18%を占め、こちらも米国に次ぐ2位だった。
当時の日本の防衛費はGDP比1%枠におさまる4.7兆円で24年度予算の7.7兆円の6割程度にすぎないのに、世界全体の7%ほどを占めた。
防衛費がGDP比で2.5%だったフランス、2.9%を充てた英国の額を上回っていた。現在上位につける中国とインドはこの時期、ともに10位以内に入っていなかった。
日本のGDP規模は10年に中国に抜かれて3位となり、IMFによる23年の見通しベースでは4兆2308億ドルとドイツよりも少なくなった。
株価は史上最高値を付けるなど好材料もあるが、1人当たりGDPは主要7カ国(G7)の中で最も低い。
中国をみると経済成長と軍事力増強の関係がわかりやすい。中国は30年の間に名目GDPは35倍以上になり、国防費も同様に膨らんだ。
日本が27年度までに防衛費をGDP比2%まで増やせば、日本の順位は短期的には上がる見込みだ。
低成長からの脱却を促す意味でも、防衛は技術革新の中核分野として期待が高い。防衛を単に防衛ととらえるのではなく、技術革新による経済成長のけん引役として位置付ける意識改革が欠かせない。
防衛研究所の小野圭司主任研究官は「いまは経済的に苦しんでいる中国も少しずつ米国との軍事力の差を縮めていく。日本にとっては経済、安保環境ともに厳しい状況が続くだろう」と分析する。
【安全保障とeconomy】
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